赤字・経営不振のクリニックでも売却できる?買い手が見つからない原因と改善策
目次
医療法人が運営する診療所のうち、赤字の施設は令和6年度で37.4%にのぼりました。そこで「赤字のクリニックでも売却できるのだろうか」と不安に思う先生も多いことでしょう。
買い手側が見るのは今期の損益だけではないので、赤字のクリニックでも売却は可能です。
本記事では、赤字クリニックが買い手に見られているポイントから売却価格の決まり方、実際の成約事例、売る前の準備まで解説します。
赤字のままでも医院継承の道は残っています。自院に買い手がつくかどうか、この記事で確かめてみましょう。
赤字クリニックでも売却は可能
買い手側は引き継ぐ経営資源と承継後の黒字化の見込みで判断するため、赤字のクリニックでも売却は可能です。
いまや診療所の赤字は、一部の医院だけの話ではありません。医療法人が運営する一般診療所の経営指標は、次のように推移しました。

出典:第25回中医協医療経済実態調査(医療機関等調査)結果報告に対する見解|中央社会保険医療協議会
わずか1年で赤字施設が約10%も増えて、4割近くに達しています。そのためM&Aの市場でも、赤字のクリニックは珍しくありません。
次章から、買い手にとってのメリットとリスクを見ていきましょう。
関連記事:病院における赤字経営の実態と黒字化させる対策・改善事例
買い手にとって赤字クリニックを承継するメリット
赤字のクリニックには、黒字のクリニックにはない魅力もあります。売り手側の「自院の価値」を正しく伝えるためにも、買い手側にとって赤字クリニックを承継するメリットを知っておきましょう。
赤字の繰越と将来の黒字を相殺できる
買い手にとって最大の魅力は、承継後の税負担の軽さです。
赤字の医療法人には、過去の赤字を将来の黒字から差し引ける「繰越欠損金」が残っています。青色申告書を提出していれば、その年の赤字を10年間くり越して所得から差し引けます。
繰越欠損金が残っている間は、承継後に黒字になっても課税所得を抑えられるのが魅力です。売り手側の赤字が、そのまま買い手側の手残りを増やすわけです。
患者・スタッフ・医療設備・許認可をそのまま引き継げる
買い手側は、稼働中の経営資源をまとめて手に入れる点もメリットです。
赤字クリニックでも、次の4つがそろった状態で承継開業できます。
- 患者:開業初日から来院がある
- スタッフ:採用と教育を終えた人員が残る
- 医療設備:買い替えなしで診療を始められる
- 許認可:医療法人の承継なら保険医療機関の指定も続く
買い手側が赤字のクリニックでも前向きに検討するのは、ここに価値があるためです。
新規開業より初期投資や準備期間を抑えられる
開業にかかるお金と時間は、承継のほうが大きく抑えられます。新規開業でかかる費用は、物件取得費・内装工事費・医療機器購入費・広告宣伝費・運転資金で5,000万〜1億円です。承継なら内装や医療機器をそのまま引き継げるため、この費用を大きく減らせます。
また新規開業の場合、物件探しから設計・施工・スタッフ採用まですべてゼロからやらなくてはなりませんが、承継なら稼働中の体制をそのまま引き継ぐので準備期間も少なくて済みます。
関連記事:クリニックの開業資金はいくら必要?診療科目別でわかる費用や調達方法を紹介
既存医院とのシナジー効果が期待できる
シナジー効果とは、1院ずつ運営するより大きな成果が出る状態のことです。すでに複数のクリニックや事業を持っている医療法人の場合、拠点の追加そのものが利益になる、つまりシナジー効果が期待できます。
たとえば医薬品や医療材料の共同購入で仕入単価が下がり、医師や看護師の拠点間の融通で急な欠員にも対応できます。診療科が違えば、拠点どうしの患者の紹介も可能です。
とくに訪問診療を手がける法人には、拠点の位置そのものが価値になります。自法人がカバーできていないエリアに医院があれば、収益性が低くても有力な候補になるわけです。
買い手が赤字クリニックの承継で警戒する3つのリスク
買い手は魅力とリスクの両方を見ています。この3つのリスクを抑えられるかどうかが、承継を判断する分かれ目です。
交渉を円滑に進めるためにも、買い手が警戒する点も把握しておきましょう。
繰越欠損金の引き継ぎに税制上の制限がかかることがある
繰越欠損金の扱いは、医療法人と個人立で異なります。
| クリニックの形態 | 制限のかかり方 |
|---|---|
| 持分あり医療法人の持分譲渡 | 制限なし。法人がそのまま存続するため、自社の欠損金として使える |
| 持分なし医療法人の承継 | 制限なし。売買の対象は経営権のみで、法人は存続する |
| 個人立の事業譲渡 | 純損失の繰越控除は他人へ引き継げず、節税にはならない |
医療法人なら、欠損金は法人のものです。理事長が代わっても法人格は残るため、買い手側はその欠損金をそのまま使えます。
一方で個人立の場合、赤字は院長個人のものです。事業譲渡で設備や契約を引き継いでも、赤字は前院長の手元に残ります。
買い手側は別の納税者にあたるため、節税には使えません。
簿外債務や偶発債務を引き継ぐことがある
買い手側がもっとも神経を使うのは、決算書に載っていないリスクです。帳簿に載っていない借金を「簿外債務」、将来払うかもしれない負担を「偶発債務」と呼びます。
医院で問題になりやすいのは、未払いの残業代・退職金の未計上分・医療過誤の訴訟リスクの3つです。
なかでも金額が読みにくいのが未払いの残業代です。賃金の請求権の時効は5年(当分の間は3年※)で、3年分をまとめて請求される可能性があります。
※出典:未払賃金が請求できる期間などが延長されています|厚生労働省
割増賃金の未払いなら、労働者の請求によって裁判所から同額の「付加金」の支払いを命じられます。争いになれば支出は2倍になる計算です。
こうした負担は、買い手が行う事前調査(デューデリジェンス)で洗い出されます。
関連記事:医院継承のDD(デューデリジェンス)とは?種類や調査内容、費用をわかりやすく解説
想定していたシナジー効果が出ないことがある
買い手が承継前に見込んでいたシナジー効果は、実際に承継してみると得られない場合もあります。シナジー効果は、患者とスタッフがそのまま残っていることが前提だからです。
たとえば看護師や医療事務が新しい院長の方針になじめず辞めると、診療体制そのものが揺らぎます。患者も全員そのまま通い続けてくれたら嬉しいですが、現実は多少なりとも他院へ移るものです。
シナジー効果を織り込んだ買収ほど、人と患者の流出は痛手になります。買い手が承継前に慎重になるのは、この不確実さがあるためです。
買い手が見つからない赤字クリニックの特徴5選
買い手が見つからない赤字クリニックには、5つの特徴があります。どれも売り手側の準備しだいで防げるものです。
自院に当てはまるものがないか確かめてみましょう。
赤字の理由を数値で説明できていない
赤字の中身を説明できないクリニックは、リスクとして敬遠されます。買い手にとって「一時的な赤字」と「構造的な赤字」はまったくの別物だからです。
たとえば院長の体調不良による患者減なら、承継後の回復も見込めますが、近隣の競合による患者流出なら、承継後も同じリスクが続きます。
少なくとも「月次の患者数の推移・診療単価・費用の内訳・人件費率」は「人件費率」は揃えておく必要があります。
赤字クリニックを承継するのなら、赤字の起点と原因を数字で示せる状態にしておくことが重要です。
簿外債務や未払い残業代のリスクが残っている
承継を早く決めたいがあまり、負債があることを隠したまま商談を進めていくと、必ずと言っていいほど交渉は破談に向かいます。
問題になるのは負債の存在そのものではなく売り手の信用です。信頼が崩れれば、金額の調整では収まりません。
簿外債務は隠していても「デューデリジェンス」によってバレるので、最初から誠実に申告しておくことが大切です。
集患に関して院長個人への依存度が高い
患者が院長個人についている医院ほど、買い手は慎重になります。院長が退いたあと、患者がほかのクリニックへ移ってしまうためです。
患者離れの対策方法として、医院継承では「クッション期間」を置く方法があります。承継前に後継者が非常勤として診療に入り、承継後も前院長が一定期間サポートに残る形です。
患者が新しい院長の人柄や診察の様子を知ってから交代するため、患者離れを抑えられます。
関連記事:クリニックの承継(医院継承)とは?手続きの流れと失敗しないためのポイントを徹底解説
財務データと患者数が一致していない
財務の数字と診療の記録が食い違うと、買い手は決算書そのものを疑います。医院継承の手続きでは、デューデリジェンス時に下記の資料を確認します。
| 調査 | 確認する資料 |
|---|---|
| 財務DD | 財務諸表・総勘定元帳・試算表・固定資産台帳 |
| 事業DD | レセプト・患者カルテ・診療行為別集計表 |
上記を照らし合わせれば、数字の食い違いが明らかになります。ヒューマンエラーによって、固定資産台帳の更新漏れやリース契約の記載漏れなどが発生する場合もあるでしょう。
ただし買い手から見れば、記帳漏れも隠ぺいも同じ「説明のつかない数字」です。ひとつ合わなければ、簿外債務や未払い残業代など、まだ見えていない負担を疑い始めます。
リスクの全体像が読めない案件に、買い手側は投資できません。
関連記事:医業承継(医院継承)における買収監査(デューデリジェンス)について
希望売却価格が実態から離れている
資産と収益の実態からかけ離れた希望価格は、交渉の入り口で敬遠されます。長年経営してきたクリニックは、院長にとって医師人生の集大成です。価値を低く見積もられたくない気持ちも当然のことです。
しかし買い手側は「投資」として判断するため、回収の見込みを立てない案件には手が出せません。
価格の目線が合わなければ、面談まで進んでも成約につながりにくいため、次章で価格の算出方法を確認しておきましょう。
赤字クリニックの売却価格の算出方法
赤字のクリニックでも、資産が残っていれば値段はつきます。クリニックの譲渡価格は基本的に「時価純資産額+営業権」で決まります。
しかし赤字クリニックは「営業権」がほぼつきません。なぜなら営業権は「将来の利益への期待値」だからです。
つまり利益の出ていない赤字クリニックの場合、売却価格は実質的に「時価純資産額(資産の価値)」だけで決まります。
クリニックの売却価格を算出する方法には3つのアプローチがあり、赤字クリニックでは使えるものと使えないものがはっきり分かれます。
| 算出方法 | 内容 | 赤字クリニックとの相性 | 理由 |
|---|---|---|---|
| インカムアプローチ | 将来の利益やキャッシュフローから算出(DCF法・収益還元法) | ✕ | 将来の利益予測の土台がないため |
| マーケットアプローチ | 同業他社や類似の取引事例と比較して算出(マルチプル法など) | △ | 収益性の低さがそのまま比較され、評価額がマイナスに出るおそれがある |
| コストアプローチ | 貸借対照表の純資産に着目して算出(時価純資産法など) | ◯ | 利益と無関係に、保有資産だけで評価額を出せる |
算出額は、あくまで交渉の出発点にすぎません。立地や訪問診療の拠点としての価値など、計算式に表れない要素が価格を押し上げる場面もあります。
関連記事:医院・クリニックの売却相場|価格の考え方や計算方法を解説
赤字クリニックの売却事例
クリニックが赤字だったり休診していたりしていても、買い手のニーズと合えば売却は可能です。
私たち「エムステージマネジメントソリューションズ」でも、実際に赤字クリニックの医院継承を幾度となくサポートしてきました。
その実績のなかから、3件紹介します。
休診中のクリニックが再開後に成約した事例
東京都台東区の泌尿器科クリニックを経営していた院長は70代で体調を崩し、私たちに相談をされる2か月ほど前から完全休診に入っていました。
休診中は患者が離れているぶん、評価が下がります。院長は希望価格での譲渡を望んでいたため、評価を上げる方法をいくつか提案したところ「診療の再開」を選択されました。
診療を再開すると、すぐに患者が戻ってきて休診前と変わらない経営状況にまで回復。この状態で買い手を探したところ、わずか1か月で個人の医師と成約が決まりました。
譲渡対価は2,500〜3,000万円程度で、諸費用と運転資金を含めた総額でも4,000万円以内です。
出典:【首都圏×泌尿器内科】休診中のクリニックが希望価格で医院継承できた理由|エムステージ
業績不振のクリニックが訪問診療拠点として成約した事例
中部圏で内科クリニックを経営していた院長は、開業から20年のうち後半の5年ほどで、患者数の大きな減少に直面していました。
インターネットが苦手のようでホームページや広告もなく、Googleマップに悪い口コミが掲載されても対応しないままの状態でした。そうこうしている間に近隣で競合クリニックも増え、年間収益は1,000万円を下回るまで落ち込んでいたのです。
院長の譲渡条件は2つありました。
- クリニックの土地・建物は個人所有のまま
- 買い手に賃貸をして家賃収入を得る
買い手は、同じ県内でクリニックを3か所運営する医療法人でした。すでに訪問診療にも取り組んでおり、対応できる拠点を増やして県内全域をカバーする計画を立てていました。
そこで今回承継を検討しているクリニックが、ちょうど買い手の訪問診療エリアから外れた空白地帯だったわけです。建物の広さも訪問診療のスペースを十分確保できるため、面談で即決になりました。
収益性の低さから譲渡額は1,000万円を下回る金額でしたが、金額が小さいぶん買い手にとっては投資しやすい水準になり、それが即決の後押しにもなりました。
出典:【中部×内科】収益が悪化したクリニックを訪問診療の拠点として活用した医院継承事例
毎月100万円の赤字を抱えたクリニックが再建後に譲渡できた事例
首都圏で内科クリニックを経営していた理事長は、診療を別の医師に任せており、目立たない高層階の立地だったこともあって経営が徐々に悪化していました。毎月100万円の赤字と約1億円の負債を抱え、診療科を内科から美容皮膚科へ転換して約10年かけて完済しています。
完済後、理事長は在宅医療にやりがいを見出し、医院継承による売却を決意しました。ただし立地は、ビルの上層階・3フロアに分かれた導線・高めの賃料と、集患の面で決して有利ではありません。
買い手となったのは、すでに美容クリニックを1件運営し、医師紹介や産業保健の事業も手がける医療法人の理事長です。都心で健診・美容分野の拠点を探しており、開業実績とマーケティング力を持つその買い手には、立地の難点を乗り越えられる勝算がありました。
承継の決め手になったのは、営業権を相場より安く設定したことです。売り手側の理事長が譲渡価格にこだわらなかったことから、通常なら半年〜1年かかる医院継承が、わずか2か月で成立しました。
出典:【首都圏×内科】美容皮膚科への転換で債務超過から再建を果たして譲渡に成功した事例|エムステージ
赤字クリニックの売却を成功させる4つの手順
買い手が警戒するポイントや赤字クリニックが売却できない特徴の多くは、事前の準備で解消できます。
ここで売却を成功させる4つのポイントを確認しておきましょう。
労務・契約上のリスクを隠さず整理する
まず、労務と契約のリスクを洗い出しましょう。とくに確認すべき項目は次の5点です。
- 未払い残業代の有無
- 雇用契約書の整備状況
- 就業規則の内容
- 医療機器のリース契約
- 不動産の賃貸借契約
これらは数字が違ったり隠していたりすると、デューデリジェンスでわかります。万が一、都合の悪い内容をわざと隠していたとなると、信用がなくなり交渉も破談になってしまいます。
赤字クリニックで承継をスムーズにしたいなら、クリニックの現状を包み隠さず公開することが重要です。
非公開マッチングを活用する
仲介会社の非公開ネットワークを使えば、公開されているM&A案件サイトには出てこない買い手候補にもアプローチできます。
仲介会社は、独自に築いてきた買い手候補との関係やデータベースを持っています。まずクリニックが特定されない資料で関心の有無を確認し、興味を示した候補先にだけ詳しい情報を開示する流れです。
公開サイトへの掲載だけに頼ると、そこに登録していない医師や医療法人には情報が届きません。仲介会社の非公開ネットワークを使うことで、候補の母数を広げられます。
資金繰りが苦しくなる前に相談をする
資金繰りが厳しくなる前に、M&A仲介会社に相談しておくことも重要です。資金が尽きかけてから動くと時間の余裕もなく、不利な条件でも受け入れざるを得なくなるためです。
医業承継は、検討から成約まで一般的に半年〜1年かかります。買い手がなかなか見つからない場合や、複数の候補とトップ面談を重ねる場合は、2〜3年かかることもあります。
出典:医業承継(医院継承)における譲渡が成立するまでの期間|エムステージ
早めに相談すれば、専門家と一緒に資金繰りを含めた複数の対応策が検討できます。
無償譲渡や大幅な値下げも視野に入れる
経営が苦しく、後継者を急いで探さなければならない場合は、価格にこだわらないほうが早く成約します。私たちが手がけた案件にも、次のようなケースがありました。
余命宣告を受けた理事長が、1億円超の借金を抱えるクリニックの承継先を探していたのです。理事長は無償譲渡を条件に掲げましたが、それでも借金の連帯保証人になることを理由に、最初に紹介した候補との話はまとまりませんでした。
それでも無償という条件のおかげで、開業を望んでいた勤務医が名乗りを上げ、借金の連帯保証人になって返済を続けることを条件に承継を実現しました。
廃業をして借金の返済義務や設備の処分費用がそのまま残ってしまうぐらいなら、思い切って無償譲渡という、将来の経済的な悩みを解消する方法も検討してみましょう。
関連記事:クリニック無償譲渡のメリット・デメリットとは?税金や成功のポイントも解説
赤字クリニックの売却で押さえたい2つの税務ポイント
赤字クリニックの売却には、黒字の医院では起きない税金の落とし穴が2つあります。ひとつは赤字の繰越、もうひとつは債務免除を受けたときの課税です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
赤字の繰越は法人と個人で期間が違う
赤字をくり越せる期間は、医療法人と個人立で3倍以上の開きがあります。
| 区分 | 制度 | 繰越期間 |
|---|---|---|
| 医療法人(青色申告) | 欠損金の繰越控除 | 10年 |
| 個人立クリニック(青色申告) | 純損失の繰越控除 | 3年 |
赤字の繰越期間が長いほど、買い手が得られる節税額も大きくなります。医療法人として売却するなら、この繰越欠損金の残高を買い手に示し、価格交渉の材料にできます。
ただし個人立の純損失は買い手へ引き継がれないため、同じ交渉はできません。立地や患者基盤など、ほかの強みで価格を主張する必要があります。
売却前の債務免除は法人・個人どちらも課税対象になる
借金を返しきれないまま売却を進める場合、金融機関と交渉して一部の借金を免除してもらうことがあります。ここで見落としやすいのが、免除された金額にも税金がかかる点です。
免除された金額は、実質的に手元に残るお金が増えたのと同じだとみなされます。100万円の借金が消えれば、100万円を受け取ったのと同じ扱いになり、原則として法人税・所得税の対象です。
この課税には、2つの軽減策があります。
1つ目は、赤字の繰越との相殺です。青色申告を続けてきた医療法人であれば、積み上がった繰越欠損金と相殺できます。
2つ目は、民事再生や破産など法的な手続きを伴う場合の非課税特例です。民事再生などの法的な手続きを伴う場合には、債務免除に関する税負担が軽減される場合があります。
適用される税務上の取り扱いは個別の状況によって異なるため、税理士などの専門家への確認が必要です。
関連記事:医療法人の債務免除益とは?税務上の扱いと医業承継時の注意点を解説
赤字クリニックの売却に関するよくある質問
最後に赤字クリニックの売却について、先生からよく寄せられる質問にお答えします。
売却したあとスタッフの雇用はどうなりますか?
承継の方法によって変わります。医療法人の持分譲渡なら雇用契約はそのまま続きますが、個人立の事業譲渡ではスタッフ一人ひとりの同意が必要です。
関連記事:医業承継(医院継承)時のスタッフ引き継ぎ・採用のポイント
医療法人が債務超過になると行政指導を受けますか?
債務超過そのものは行政指導の基準になりません。対象になるのは、法令や定款への違反、または運営が著しく適正を欠く場合です。
赤字のクリニックは全体でどれくらいありますか?
医療法人が運営するクリニックでは、令和6年度の赤字施設が37.4%でした。個人立は損益に院長報酬が含まれる分、単純比較はできませんが、実質的な赤字は58.6%とする試算もあります。
出典:政策部長談話「診療所(個人立)も経営悪化顕著 実質6割は赤字」|神奈川県保険医協会
まとめ|赤字クリニックでも準備次第で売却は十分可能
赤字クリニックの売却を左右するのは、赤字の大きさよりも買い手への伝え方とリスクの整理です。節税効果や立地、患者・スタッフは赤字でも評価される要素です。
一方で赤字の理由を説明できなかったり簿外債務を抱えたままだったりすると、買い手が候補から外す理由になります。資金繰りが尽きる前に、まずは自院の数字を整理することから始めましょう。
私たちエムステージマネジメントソリューションズでは、赤字・経営不振のクリニックの承継で、多くの先生をサポートしています。ぜひお気軽にご相談ください。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継サポートにお問い合わせください。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計70件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。
【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。