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医院継承のDD(デューデリジェンス)とは?種類や調査内容、費用をわかりやすく解説

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医院継承のDD(デューデリジェンス)とは?種類や調査内容、費用をわかりやすく解説

医院継承を検討している先生から「DDとは具体的に何を調べるのですか?」「どんな書類が必要なのでしょうか」といった声をよくいただきます。

DD(デューデリジェンス)とは、契約を正式に結ぶ前に買い手側が行う調査・監査のことです。医院継承を成功させるためには、この調査でクリニックの実態を正確に把握することが欠かせません。

そこで本記事ではDDの基本的な意味から、調査の種類や進め方、費用相場まで丁寧に解説します。

DD(デューデリジェンス)とは契約前の買収監査のこと

DD(デューデリジェンス)とは、最終契約を結ぶ前に買い手側が売り手側の経営実態をあらゆる角度から調査・監査するプロセスのことです。

帳簿上の数字だけでは見えない隠れた負債や法的問題、スタッフトラブルなどを事前に洗い出すことを目的としています。医院継承の場面でいえば「このクリニックを引き継いで本当に大丈夫か」を客観的に確かめるための調査です。

クリニックのM&Aにおけるデューデリジェンスの重要性

DDは売り手側と買い手側、それぞれにとって重要な要素です。

買い手側にとっては、簿外債務(帳簿に載っていない借金)や労務問題といった「隠れたリスク」を引き継がないためのプロセスです。クリニックを承継した後に「知らなかった負債があった」「スタッフへの未払い残業代が大量に出てきた」といった事態を防ぐための、いわばリスクの事前チェックです。

一方で売り手側にとっても、DDは決して「監査されるだけ」の場ではありません。自院の価値を正しく評価してもらい、適正な対価を得るための機会でもあります。しっかりとした財務資料や経営データを開示することで、クリニックの強みが評価されやすくなります。

医院継承時のデューデリジェンスのタイミングは「基本合意後」

医院継承におけるデューデリジェンスは、一般的に「基本合意書(仮合意)」を締結した後に実施します。具体的な流れとしては、専門家への相談から始まり、マッチング、面談を経て基本合意に至った段階でデューデリジェンスに移行します。

医院継承の流れ

この調査結果をもとに条件調整を行い、問題がなければ最終契約、そしてクロージング(譲渡実行)という手順を踏みます。デューデリジェンスには通常1か月から2か月程度の期間を要するため、余裕を持ったスケジュールを組むことが大切です。

デューデリジェンスの進め方

DDは一般的に以下3つの手順で進められます。

段階期間の目安内容
準備1〜2週間調査チームの編成や調査項目の確定、売り手への資料請求リストの作成を行います。
調査2〜4週間提供された資料を詳しく分析し、必要に応じて現地視察や担当者へのヒアリングを行います。
報告1週間調査結果をまとめた「DDレポート(調査報告書)」を作成し、買い手側へ共有します。このレポートをもとに、最終的な譲渡価格の調整や契約条件の交渉が行われます。

DDを実施するのは公認会計士(財務・税務DD)や弁護士(法務DD)などの専門家です。依頼するのは買い手側であり、費用も原則として買い手側が負担します。

デューデリジェンスの際に必要な書類

DDがスムーズに進むかどうかは、売り手側の準備にも大きく左右されます。主に用意が必要な書類は以下のとおりです。

  • 財務関係の書類
    直近3期分の決算報告書、総勘定元帳、税務申告書など
  • 人事・労務関係の書類
    従業員名簿、賃金台帳、就業規則、雇用契約書など
  • 法務・契約関係の書類
    不動産賃貸借契約書、リース契約書、定款・議事録・社員名簿(医療法人の場合)など

日頃からこれらの書類を整理しておくと、DDの際に慌てずに対応できます。

医院継承時におけるデューデリジェンスは主に5種類

医院継承時におけるデューデリジェンスは主に5種類

DDと一口にいっても、調査の観点によっていくつかの種類に分かれます。医院継承では主に5つのDDが行われます。それぞれの内容とクリニック特有の注意点を確認しておきましょう。

財務DD:経営実態を数字で把握

財務DDとは、決算書などの財務諸表をもとにクリニックの経営状態を数字で確認する調査です。「帳簿上の利益は本物か」「隠れた借金はないか」を客観的に把握することを目的としています。クリニック特有の注意点として、保険診療と自費診療の収益構造の違いがあります。

【主な調査内容】

  • 損益計算書(売上・経費・利益の推移)
  • 貸借対照表(資産・負債・純資産のバランス)
  • 売上の内訳(保険診療・自費診療の比率)
  • 簿外債務(帳簿に載っていない負債の有無)
  • 減価償却(医療機器などの処理方法)
  • 退職給付債務(スタッフの退職金積立状況)

特に注意が必要なのが、保険診療と自費診療の収益構造の違いです。自費診療は院長の評判や景気に左右されやすく、たとえば「売上の8割が自費診療」のクリニックを引き継いだ場合、院長交代をきっかけに収益が一気に落ち込む可能性もあります。

財務DDでは「利益が出ているか」だけでなく、「その利益が承継後も継続できるか」という安定性まで評価します。

関連記事:クリニックのM&Aにおける『のれん』とは?」

法務DD:許認可・契約・訴訟リスクの洗い出し

法務DDとは、クリニックの運営に関わる法的なリスクを確認する調査です。許認可・契約・訴訟など、財務諸表には表れない「法律上の問題」を事前に把握することを目的としています。

【主な調査内容】

  • 保険医療機関指定の確認
  • 医療法人認可の状況
  • 賃貸借契約の名義・期間
  • 係争・訴訟の有無

特に注意が必要なのが保険医療機関の指定です。事業譲渡の場合、開設者が変わるため指定はリセットされ、買い手側が改めて再申請する必要があります。手続きが遅れると承継後すぐに保険診療を再開できなくなるため、DDの段階で管轄の厚生局に確認しておくことが重要です。

税務DD:過去の未払い税金や税務処理のリスクを確認

税務DDとは、過去の税務申告が適正に行われているか確認する調査です。将来的に税務調査が入った際に追徴課税が発生するリスクがないか、事前に洗い出すことを目的としています。

【主な調査内容】

  • 過去の税務申告の適正性
  • 未払い税金・社会保険料の有無
  • 繰越欠損金の状況

特に注意が必要なのが消費税の処理です。多くのクリニックは「簡易課税制度」を選択しており、医業のみなし仕入率は50%※と定められています。

※出典:国税庁|簡易課税制度の事業区分

通常は事務負担が軽く有利に働きますが、設備投資が多い時期には逆に税負担が増えるケースもあるため、過去の選択が適切だったかどうかも確認対象になります。

関連記事:医療法人の病院やクリニックを譲渡する際の税金の注意点」

事業(ビジネス)DD:診療継続性・患者数・競合環境の評価

事業DDとは、承継後もクリニックとして安定的に収益を上げられるかを調査するプロセスです。財務諸表だけではわからない「経営の実態」や「将来性」を多角的に評価することを目的としています。

【主な調査内容】

  • 月別患者数の推移
  • 紹介元病院との関係性
  • 競合クリニックの状況
  • 立地・賃貸条件

特に注意が必要なのが、院長交代後の患者離れリスクです。個人クリニックでは「あの先生だから通っている」という患者が多く、院長が変わるだけで別のクリニックへ移ってしまう可能性は少なからずあります。

そこで事業DDによって患者層や来院頻度を分析し「承継後も引き継げる患者かどうか」を見極めます。

人事DD:スタッフの雇用状況と退職リスクの確認

人事DDとは、クリニックで働くスタッフの雇用状況を確認する調査です。承継後に想定外の人件費コストや大量退職が発生しないよう、事前にリスクを把握することを目的としています。

【主な調査内容】

  • 雇用契約書・就業規則の確認
  • 退職金積立の状況
  • 未払い残業代の有無

特に注意が必要なのが、医院継承をきっかけとしたスタッフの退職リスクです。「院長が変わるなら辞める」と考えているスタッフがいたとしても、DDで事前に把握できていれば雇用条件の見直しや引き継ぎ期間の設定といった対策を取ることも可能です。

また未払い残業代が後から発覚すると、買い手側がそのまま引き継ぐことになるため、契約前の確認が欠かせません

医院継承におけるデューデリジェンスの費用相場

DDにかかる費用の目安は、クリニックの規模や調査の範囲によって幅がありますが、50万〜300万円程度が相場です。依頼先は主に公認会計士(財務・税務DD)と弁護士(法務DD)です。規模の大きな医療法人のM&Aでは、複数の専門家が並行して調査を行うため、費用も高くなる傾向があります。

費用は原則として買い手側が負担します。投資判断のための調査であり、買い手側にとって「払う価値のある確認作業」だからです。

医院継承におけるデューデリジェンスで発覚するリスクの例

DDはリスクがゼロのクリニックを確認する作業ではなく「どのようなリスクがどの程度あるのか」を明らかにする作業です。

ここでは、実際にDDで発覚しやすいリスクのパターンを3つ紹介します。

退職金の積立不足が発覚して譲渡価格に影響する

財務DDを進める中で、長年勤務したベテランの看護師や医療事務スタッフの退職金が帳簿にまったく計上されていないことが判明するケースがあります。

たとえば、20年以上勤務しているスタッフが複数いるクリニックで、退職金規程はあるものの積立が行われていなかった場合、潜在的な退職金債務が数百万円になっていることもあるわけです。

このような場合、買い手側が「その債務も背負う」ことになります。そのため交渉時に、不足額を譲渡価格から差し引くか、売り手側があらかじめ解決してから承継するかの選択が求められます。

事前に対策を行うためにも、財務DDで退職金の積立状況を必ず確認しておかなければなりません。

過去の税務申告で追徴課税リスクが判明する

MS法人(メディカルサービス法人)との取引を活用し、業務委託費などの経費を実態以上に計上していたケースが、税務DDで発覚することがあります。

持分譲渡(医療法人ごと引き継ぐスキーム)の場合、法人格をそのまま引き継ぐため、過去の税務処理も含めて包括的に承継することになります。将来的に税務調査が入れば、買い手側が経営する医療法人に対して追徴課税が及ぶ可能性があります。

こうしたリスクは、事業譲渡であれば引き継ぐ資産・負債を個別に選択できるため回避しやすい一方、持分譲渡では避けられない点に注意が必要です。

DDの段階で過去の税務処理の適正性を確認しておくことが、承継後のトラブルを防ぐ上で不可欠です。

院長個人のブランド性が高く承継後の収益急落リスクが判明

自費診療の比率が高いクリニック(美容・歯科・自由診療をメインとする内科など)では、事業DDで「収益の大部分が院長個人のブランドや技術に依存している」ことが判明するケースがあります。

レセプト(診療報酬明細書)データを疾病別や患者属性別に分析すると、「引き継げる患者層かどうか」が、ある程度見極められます。特定の疾患や年齢層に集中していて、かつその患者が現院長に強いリピーターになっている場合は、院長が交代したあとに収益が急落するリスクが否めません。

事業DDの結果は、のれん(営業権)の評価額にも直接影響します。のれんの算出方法については「クリニックのM&Aにおける「のれん」とは?営業権との違い・算出方法」をあわせてご確認ください。

いずれの事例も、専門家への早期の相談と、DDを通じた事前確認によって大きなトラブルを防げます。気になる点がある先生は、まずエムステージマネジメントソリューションズにお気軽にご相談ください。

医業承継時のデューデリジェンスをスムーズに行うためのポイント

DDは専門家に依頼すれば自動的に進むものではありません。売り手側の準備不足や買い手側の専門家選びの失敗によっても調査が長引いたり、重要なリスクを見落としたりするケースも実際にあります。

ここでは売り手側と買い手側、それぞれが事前に押さえておくべきポイントを2つ紹介します。

売り手側は不利な情報ほどあらかじめ開示しておく

DDでは、売り手側が把握していなかったリスクが発覚することもあります。しかし問題になりやすいのは「売り手側が知っていたにもかかわらず開示しなかった」ケースです。調査の途中で重大なリスクが発覚すると、買い手側の不信感につながり、交渉が白紙に戻るリスクがあります。

不利な情報(未払い債務・スタッフトラブル・過去の税務問題など)はあらかじめ開示しておくほうが、結果的に信頼関係を保ちやすくなります。

「言いにくいことを正直に開示してくれた」という姿勢が、誠実な売り手として評価されることも少なくありません。

買い手側は医療業界に強い専門家を選ぶ

DDを依頼する専門家は「医療機関のM&Aに詳しいかどうか」が重要です。医療機関は保険制度・医療法・各種許認可など、一般的な企業とは異なるルールが多く存在します。

一般的なM&Aの経験や知識だけでは、クリニック特有のリスクを見落とす可能性があります。保険医療機関の指定要件や診療報酬の請求実態、医療法人の設立認可など、医療分野の知識を持つ専門家に依頼することが重要です。

デューデリジェンス(買収監査)に関するよくある質問

「実際に自分のクリニックでDDが始まったらどうなるのか」「スタッフや患者に知られてしまわないか」と、具体的なDDのプロセスで不安を感じられる先生も多くいらっしゃいます。

ここでは私たちエムステージマネジメントソリューションズにも、実際によくいただく質問に対してお答えしていきます。

調査中にスタッフに承継のことがバレる心配はありませんか?

万全の注意を払って進行するため、基本的には心配ありません。万が一、休診日などを利用して現地調査が行われる場合でも、専門家は秘密保持契約を遵守し、スタッフに知られないよう細心の注意を払います。

クリニックのDDでレセプトデータは確認されますか?何のために見るのですか?

収益基盤の安定性を評価するために必ず確認されます。保険診療収入が適正に請求されているか実態を確認したり、患者層や疾病の構成、来院頻度などを分析したり、今後の事業継続性を判断するための重要な材料となります。

小さいクリニックのM&AでもDDは必要ですか?

ケースによって調査範囲は異なりますが、規模が小さいクリニックでも何らかの形でDDを行うのが一般的です。特に事業譲渡では、引き継ぐ対象を限定できるため、調査項目を絞って進めるケースもあります。

一方で、持分譲渡(医療法人ごと引き継ぐ形)では、過去の債務や税務・労務上のリスクも含めて承継する可能性があるため、より慎重な調査が重要です。規模やスキームに応じて、専門家と相談しながら必要な調査範囲を判断しましょう。

まとめ:デューデリジェンスは安心できる医院継承の実現に必須

デューデリジェンスは「疑われる調査」ではなく、買い手側にとっては見えないリスクを回避するための防御策であり、売り手側にとっては適正な評価を得るための重要なプロセスです。

お互いに誠実な姿勢で情報開示と調査を行い、問題点をクリアにしていくことが、安心できる医院継承の実現に不可欠です。医院継承に関して不明な点やお悩みがある先生は、ぜひ私たち「エムステージマネジメントソリューションズ」にご相談ください。

医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継サポートにお問い合わせください。

この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。

【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。