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〈税理士解説〉医療法人の病院やクリニックを譲渡する際の税金の注意点

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税理士解説_医療法人の病院やクリニックを譲渡する際の税金の注意点

医業承継(医療版M&A)では、税務も欠かせない知識の1つです。そこで、弊社のコンサルタントとともに医業承継に携わる税理士・飯田先生に、医療法人の病院やクリニックを承継する際、税制で留意すべき点について教えていただきました。

前編の今回は、売り手側の立場から見た、譲渡の際にかかる税金で気をつけたい点について解説していただきます。

税理士・飯田光先生

国内最大手「日本経営ウィル税理士法人」へ在籍中、メガバンクへ出向し事業承継業務に従事。その後、マネーフォワードグループ税理士法人にて、中小企業向けにクラウド型会計システムを駆使し先進的な税理士業務を行う。現在、株式会社G.C FACTORYのコンサルタントとしてM&A仲介に加え、税理士法人G.C FACTORYへ寄せられる税務会計・財務に関する買収監査にも従事。

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譲渡における税金の留意点

譲渡における税金の留意点は、「譲渡するスキームの検討」と「決定したスキームによる課税関係」の2つです。

医療法人として運営する病院やクリニックの譲渡対価の受け取り方は、出資持分ありの医療法人である場合、「出資持分の譲渡」と「退職金で譲渡対価を受け取る譲渡」の2つのスキーム(手法)があり、買い手による資金調達の主体がそれぞれ異なります。

まずは、買い手側の視点で考えてみましょう。買い手が個人の医師である場合、出資持分の譲渡は、買い手が個人で出資持分を買い取る資金を用意しなければいけません。そのため、個人で多くの手元資金を持っていなければならず、資金調達のハードルが高いと言えます。

一方、退職金で譲渡対価を受け取る譲渡の場合には、受け取る退職金は医療法人から旧経営陣に支払われます。あくまで資金調達の主体は医療法人なので、個人と比較すると資金調達のハードルが低くなります。

医療法人で借りた負債は運営しながら少しずつ返していくことが可能なので、買い手側の資金調達の難易度のみで考えれば、退職金で譲渡対価を受け取る譲渡の方が負担感は少ないと言えるでしょう。

2つのスキームの違い

医療法人の譲渡で検討すべき2つのスキームは、税制面において譲渡で支払う税金の税率がそもそも異なります。

はじめに、出資持分の譲渡をする場合における課税関係を説明します。所得税法上、出資持分の譲渡によって利益が生じた場合、その利益は譲渡所得に区分され、その譲渡益に課税されます。この場合、税率は20.315%(内訳:譲渡所得の税率=所得税および復興特別所得税の15.315%+住民税5%)です。

  • 譲渡所得税=譲渡所得×20.315%
  • 譲渡所得=譲渡価額―(取得費+譲渡費用)

以上のような計算となり、医療法人の出資金は取得費(原価)として、譲渡所得を算出する際に譲渡価額の金額から控除することができます。

つまり、出資持分の譲渡対価が出資額以下であれば、税金はかかりません。

たとえば、以下のような事例があるとします。

この場合、譲渡対価2,000万円ー資本金1,000万円=1,000万円が譲渡所得となります(譲渡費用がない前提)。譲渡所得税は、1,000万円×20.315%=203万1,500円となります。

つづいて、退職金で譲渡対価を受け取る譲渡の場合は、こちらよりも少し複雑になります。
まず、退職所得を計算し、その後で税率(0~55.945%)をかけて算出します。
役員等の勤続年数が5年以下である場合等を除き、以下のような算出方法になります。

  • 退職所得の税金=退職所得の金額×超過累進税率
  • 退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額)× ½

また、退職所得の控除金額は、勤続年数20年を区切りに以下のように変わります。

<勤続年数>          <退職所得の控除額>

・20年以下           40万円×勤続年数(=80万円以下の場合は、80万円) 

・20年以上           800万円+70万円×(勤続年数ー20年)

たとえば、以下のような事例があるとします。

売り手側のスタッフがどのくらいの勤続年数を経ているか、退職金としていくら総額で受け取れるかで税率がかなり変わるため、あらかじめ売り手に確認が必要です。

こちらも退職金控除の金額内で収まってしまえば、税金の負担が無くなります。

スキームは合わせるケースが多い

これまでの流れで2つのスキームを検討しながら、譲渡の際にどちらかを選ぶ必要があると思われがちですが、実はどちらか一方ではなく合わせるケースが多いです。

スキームはどちらか一方しか使えないわけではなく、通常、出資持分の譲渡と退職金で譲渡対価を受け取る譲渡の2つを併用します。

たとえば、先程挙げた上の事例ですと、元々1,000万円を資本金として出資しているので、出資持分の譲渡を行うと、譲渡対価が1,000万円以下であれば譲渡益は発生せず税金がかかりません。

譲渡対価の総額2,000万円のうち1,000万円は、出資持分譲渡に先立って退職金として受け取ります。

先程ご紹介したように20年以上勤務の方の退職金は800万円+αが控除できるので、こちらの事例の場合は受け取り方を併用したほうが税負担が少なくなる可能性が高いでしょう。

補足ですが、資産(土地などの非課税資産を除く)を売買する際には売却益に消費税を上乗せして計算するのですが、出資金に関しては売却しても消費税がかかりません。

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医療法人として運営する病院やクリニックの譲渡で、トラブルが起こりがちなポイント

病院やクリニックを譲渡する際は、「低廉譲渡」と見なされてしまわないように注意が必要です。

たとえば、不動産を一般的な基準の価値よりもあまりにも低い価格で売却してしまうと、低廉譲渡(ていれんじょうと)と見なされ、時価と売買価格の差額に贈与税が課税されてしまう可能性があります。
出資持分の譲渡でも同様に、たとえば時価が10億円のものを1億円で売却したとなると、これも低廉譲渡に該当します。

とくに、親族間の承継(継承)の場合には、低廉譲渡が論点となる場合があるので気をつけるべきです。

しかし、医業承継などで利益が相反する第三者間取引の場合には、低廉譲渡が問題になることは少なく、譲渡金額が唯一の時価として見られることが多いです。よって、もし一見低い金額で販売したとしても、時価算定の根拠や裏付けがあれば(低いなりの理由がある場合)、問題にはなる可能性は低いでしょう。

他に留意すべきポイント

近年、アーリーリタイアを考えている先生も多いですが、役員就任後5年以内に退職金を受け取る際は留意すべきです。

退職金で譲渡対価を受け取る譲渡の場合、退職金を受け取る役員の勤続年数が5年を超えているかは確認しておくべきポイントです。勤続年数5年以下の退職になると、5年超の場合に比べ、退職所得が高くなるためです。

最近、「アーリーリタイアするために、クリニックを売却したい」と医師からご相談いただいた案件があったのですが、よくよく資料を見てみると、まだその先生ご自身の勤続年数が3年程度しか経っていませんでした。そうすると、譲渡の際に受け取る退職金の税率がかなり上がってしまうので、「急がずに探していきましょう」とお話させていただきました。

こういうことも、M&Aにかかわる税制に詳しくないコンサルタントが進めていくと、売却の際に想定していた以上に多額の税金がかかることになり、大変なことになってしまいます。

後から対策できたことが発覚すると、売り手とコンサルタントとの間にトラブルが生じてしまったりします。早めにM&Aに強い税理士に相談をすれば適格なフォローをしてもらえ、税務面での問題は生じにくくなるでしょう。

医業承継のご相談なら、ぜひ医業承継専門の仲介会社エムステージマネジメントソリューションズにお問い合わせください。専門のコンサルタントが、徹底サポートいたします。承継も視野に入れているという先生は、まずは資料をチェックされてみてはいかがでしょうか。

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この記事の監修者

税理士_飯田光

税理士・飯田光先生

国内最大手「日本経営ウィル税理士法人」へ在籍中、メガバンクへ出向し事業承継業務に従事。その後、マネーフォワードグループ税理士法人にて、中小企業向けにクラウド型会計システムを駆使し先進的な税理士業務を行う。現在、株式会社G.C FACTORYのコンサルタントとしてM&A仲介に加え、税理士法人G.C FACTORYへ寄せられる税務会計・財務に関する買収監査にも従事。

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