資金調達

クリニックの資金調達などで必要になる「事業計画書」について

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資金調達で必要となる「事業計画書」について

事業計画書は、数年~5年の事業見通しや目標を具体的な数字で示す書類です。目的は対内的には事業内容・予算の明確化と従業員のエンゲージメント強化、対外的には金融機関への事業の将来性や返済能力のアピールです。内容には経営理念、事業内容、組織体制、収支予測、返済計画などが含まれ、金融機関が求める整合性・合理性・現実性のある数字を示す必要があります。クリニックの開業方法や投資内容も重要です。

本記事では、資金調達・融資審査での使われ方に重点を置いてクリニックの事業計画書について解説していきます。

事業計画書とは?作成目的と記載事項

事業計画書とは、今後数年~5年程度の事業の見通しや目標・方針について、具体的な数字をあげて説明した書類です。 ここでは、事業計画書の作成目的と記載事項についてまとめます。

事業計画書の作成目的

事業計画書を作成する目的には、対内的なものと対外的なものがあります。

事業計画書作成の対内的目的事業の構成内容・方針・予算・経費を明確化し、設備投資や採用・人事などの経営上の意思決定の基準とするため。
従業員に対して今後の事業や待遇の見通しを伝え、方針・規律・コンプラインスの組織内浸透、従業員エンゲージメントの強化、生産性・顧客満足度の向上を図るため。
事業計画書作成の対外的目的事業資金を融資により調達しようとする際に、金融機関に事業の将来性や返済能力をアピールして融資審査を有利にするため。
既存の借入金の返済猶予を金融機関に求める際に、今後の経営改善の根拠を示して金融機関を納得させるため。

金融機関はまず決算書の数値で事業者の信用力を評価し、融資の可否を判断します。決算書から読み取れる業況や財務体質が十分に良好であれば、決算書だけで基本的に融資可否の判断がつきます。

決算書の数値が十分に良好とは言えず、貸し倒れの懸念が残る場合、金融機関は事業計画書の内容から今後の伸びを予測し、決算書の数値と合わせて融資の可否を判断します。

起業・開業時には決算書がまだ存在しないため、事業計画書の内容をもとにした予測がより重要になります。 資金難により既存の借入金を期日通りに返済することが難しく、金融機関に返済の猶予を求める際にも、事業計画書によって今後の収益改善・経費削減の根拠を示せば、金融機関が期日延期に応じてくれる可能性があります。

資金調達のための事業計画書の記載内容

資金調達(融資審査)のための事業計画書には、以下のような事項を記載します。

・経営理念、ビジョン
・経営者の経歴、取得資格、事業実績
・事業内容(サービス内容、特長、ターゲット、取引先など)
・組織体制(既存/採用予定の従業員の役割分担・人員数)
・既存借入の状況(借入残高・年間返済額など)
・調達が必要な資金(設備投資資金や運転資金)と調達方法(自己資金額、借入先別の借入額)
・収支予測(収益・経費の予測)とその算出根拠
・返済計画(月々の返済可能額、返済の原資)

金融機関が「融資を行いたい」と思う事業計画書の、3つのポイント

事業計画書によって融資審査を有利にするためには、金融機関から見て説得力のある内容であることが必要です。

ここでは、金融機関が融資審査において重視する事業計画書のポイントを解説します。

①経営理念・ビジョンと経営方針・行動計画が噛み合っているか

「経営理念・ビジョンのような抽象的なことがらは、融資審査で重視されないだろう」と考える人がいますが、実際には経営理念・ビジョンの記載はかなり重視されます。

ただし、経営理念・ビジョンだけを切り離して評価するわけではなく、それがいかに具体的な経営方針・行動計画(診療方針や人事、設備投資内容など)に反映されているか、という観点から総合的に判断されます。

立派な理念をきれいな言葉で表現してあっても、具体的な経営方針・行動計画と遊離しているようでは、融資審査で不利になります。 経営理念・ビジョンがそうした浮ついた内容となっている場合、まずは経営理念・ビジョンを見つめ直すことから始める必要があります。

②一貫したストーリーが描かれているか

融資審査のための事業計画書は、「これから何々の事業(投資)をするので、これだけのお金を貸してほしい。その事業によりこれだけ利益が向上するので、十分返済できる」という主張を伝えるものです。

主張に説得力を持たせるには、一貫した筋立て(ストーリー)が必要です。それがないと、融資を引き出すために「とってつけた話」のように聞こえてしまい、説得力がありません。 ストーリーは「動機」「課題解決」「投資対効果」の観点からまとめるとよいでしょう。

▼動機のストーリー
現在の経営理念や診療内容、診療方針、投資内容などを決定した理由・背景を、これまでの経歴・経験・実績に絡めて説明する。
 
▼課題解決のストーリー
組織内および組織外(市場・競合環境・医療行政など)にどのような課題・弱み・脅威があり、今後の事業(投資)によりそれがいかに解決されるかを説明する。
 
▼投資対効果のストーリー
自らにどのような強みがあり、市場にどのような好機が存在するかを示した上で、資金調達により行う事業がそれらのおかげでいかに投資対効果の高いものとなりうるかを説明する。

ストーリーを伝えるための表現も、事業計画書を作成する上では重要です。だらだらと思いを書き連ねるのではなく筋道を立てて要点をまとめ、診療関係の記述においては難解な医療用語は避けて、分かりやすく説明しましょう。

③整合性・合理性・現実性のある数字が記されているか

事業計画書では、今後どのような投資や経費削減を行い、その結果どの程度の利益向上が見込めるのか。そして、そのうちどれくらいの金額を借入金返済に回せるかを、具体的な数字で示した上で、その算出根拠も提示する必要があります。

これらの数字が互いに矛盾していたり、合理的に算出されていなかったり、非現実的であったりした場合、たとえ言葉(ストーリー)が巧みであっても、説得力がありません。 金融機関の融資審査担当者に「これなら貸せる」と思わせるためには、一貫したストーリーの中に整合性・合理性・現実性のある数字を盛り込むことが必要です。

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クリニックの事業計画書を作成する際の留意点

ここでは、クリニックの事業計画書作成において特に留意すべきポイントを解説します。

①地域の市場・競合の状況と自院の強みを説明する

事業計画を現実的なものとするためには、周辺地域における今後の人口・年齢構成の推移や、競合医療機関の数・立地関係、医療行政の動向などを踏まえた現状分析が欠かせません。 冷静な現状分析のもとで自院の強み・武器となる要素を抽出して、それがいかに課題解決・投資成果に結びつくかを説明することが重要です。

②診療内容・方針と収支予測を説明する

診療の科目・内容や診療形態の構成(外来/入院/在宅/オンラインおよび保険/自費の割合)により、予想される収支は大きく変わります。

事業計画書では、以下の点について具体的に説明する必要があります。

・どのような経験、経営理念・ビジョン、現状分析のもとでその診療科目、内容、構成を選択するにいたったのか
 
・どの程度の収益が見込めるか
「収益=患者単価×1日当たりの平均患者数×稼働日数」を月ごと・年ごと、診療科目別、保険・自費別などで算出し、投資により患者数・単価・収益がいかに増えるかを示す。
 
・経費(人件費、薬品・医療材料の原価、設備リース代、地代・家賃など)はどの程度かかり、今後どのくらい業務効率化・コスト削減が可能か。

③開業方法(新規開業・承継開業)

クリニック開業には一から事業を立ち上げる方法(新規開業)と、既存クリニックを承継する方法(承継開業)があり、それぞれにいくつかのパターンがあります。

開業方法パターン
新規開業・戸建て開業(自己所有の土地・建物で開業)
・テナント開業(既存の賃貸物件で開業)
・建て貸し・オーダーメイド賃貸
(地主が開業者の希望に合わせて建てた建物を借りて開業)
・借地開業(借地の上に自己所有の建物を建てて開業)
承継開業・親族間承継
・M&A(第三者からの承継、院長から勤務医への承継)

開業パターンにより、開業費用(調達が必要となる金額)の相場は大きく異なります。経歴・実績や自己資金の額に照らして、無理のない開業パターンを検討することが重要です。

承継開業では、既存クリニックの経営資源(土地・建物・医療機器・設備、患者、地域における認知度、スタッフの雇用契約など)をどれだけ引き継げるかが大きなポイントとなります。

とくに問題となりやすいのは、患者、認知度、雇用契約など、人的な経営資源の引き継ぎです。円滑な引き継ぎのためには、承継前から相当の期間にわって後継者が医師として承継対象クリニックに勤務したり、承継後に旧院長が一定期間残留して診療や引き継ぎ事務に協力したりすることが必要になります。 そうした取り組みにより多くの経営資源を引き継いで、承継後の事業に活かせることを事業計画書でアピールできれば、融資審査で有利になります。

④投資内容と既存事業の関係性

既存のクリニック事業において医療機器導入や新規診療分野開拓、多施設運営に向けた診療所新設などの投資を行う場合、投資内容と既存事業の関係性が問題となります。

投資により新規患者層の獲得が期待されるだけでなく、既存事業における業務効率化や顧客満足度向上・単価上昇が明確に見込め、投資と既存事業との間にシナジー(相乗効果)が生まれるようであれば、融資審査で有利になります。 逆に、投資内容と既存事業の関係が薄く、別個の要素がただ付け加わるだけという場合、成否の見通しが立ちにくくリスクが大きいため、融資審査のハードルが高くなります。

⑤追加投資も踏まえた返済計画

近い将来に新たな投資・資金調達を行う計画がある場合(例えば、数年スパンで新たな医療機器導入を計画している場合や、承継開業から戸建て開業への移行を計画している場合)、そのための余裕を計算に入れて返済計画を立てておく必要があります。

まとめ

金融機関に示す事業計画書は、金融機関内の稟議に通るだけの客観性や明確性を備えている必要があります。院長自らで作成することが難しいと感じる場合や、短時間で確実にある程度の水準の事業計画書を作成したい場合には、医業経営に詳しいコンサルタントなどに相談することを検討してもよいでしょう。

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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。

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