クリニックの承継(医院継承)とは?手続きの流れと失敗しないためのポイントを徹底解説
目次
「高齢で体力的に限界を感じているが、長年通ってくれている患者さんやスタッフのことを考えると、簡単に廃院するわけにはいかない」「子どもは医師になったが、クリニックを継ぐ意思がない。どうすればいいのだろう」
このような悩みを抱えている先生は非常に多く、さらに医師の高齢化も進んでいて後継者問題は切実な課題です。クリニックの承継(医院継承)は、こうした悩みを解決する有効な手段です。第三者にクリニックを引き継ぐことで、地域医療を守りながら、ご自身も安心して引退ができます。
本記事では、以下の内容を詳しく解説します。
- クリニック承継の基本的な仕組みと3つの種類
- 承継が成立するまでの具体的な流れと必要な期間
- 失敗しないための5つのポイントと成功事例
- 譲渡価格の相場や税務上の注意点
この記事を読むことで、クリニック承継の全体像を理解し、どのように進めればよいのか具体的なイメージを持てます。後継者問題でお悩みの先生にとって、最適な選択肢を見つけるための第一歩となるでしょう。
クリニックの承継(医院継承)とは
クリニックの承継(M&A)とは、すでに運営しているクリニックを後継者に引き継いで運営することです。近年、開業医の高齢化が進む一方で、医師の子どもが医師にならないケースや、そもそも後継者がいないケースが増加しており、休廃業の件数も増加傾向にあります。

データ出典:株式会社データバンク「医療機関の 「休廃業・解散」 動向調査 (2023 年度)」
そのため、親族ではなく第三者にクリニックを承継する「第三者承継」の需要が特に高まっています。また、買い手側となる勤務医にとっても、新規開業よりも少ない準備期間と資金で開業できる承継開業が注目されており、医院継承市場は年々活発化しています。
関連記事:社会的背景を踏まえた病院M&Aの動向【コンサルタント解説】
クリニックを承継するメリット
まずはクリニックの承継における、売り手側と買い手側それぞれのメリットを紹介します。
売り手側のメリット
クリニック承継における売り手側の主なメリットは、以下の通りです。
| 利益の確保 | 譲渡価格は「1年分の営業利益 + 建物や医療機器の簿価」となり、一般的に利益で1,000~4,000万円程度になります。 |
| 後継者問題の解決 | 後継者不足による閉院を回避できます。地域医療を継続し、患者やスタッフを守ることが可能です |
| 経営の安定 | 医療法人などへの承継により、優れた経営ノウハウの導入や経営効率の改善が期待できます。 |
買い手側のメリット
クリニックを承継開業する「買い手側」の主なメリットは以下の通りです。
| 開業コストや労力の削減 | クリニック開業時に必要な費用や優秀なスタッフの採用などの負担を大幅に軽減できます。 |
| 既存の患者基盤の確保 | ゼロから患者を集める必要がないため、開業直後から安定した収益が見込めます。 |
| 実績ある立地での開業 | すでに実績のある場所で開業できるため、立地選定のリスクを軽減し、経営計画も立てやすいです。 |
クリニックを承継するデメリット
クリニックの承継は良いことばかりではありません。承継におけるデメリットやリスクについても理解しておきましょう。
売り手側のデメリット
売り手側の主なデメリットは以下の通りです。
| 後継者と方針が合わない可能性 | 承継後に診療方針が変わる可能性があるため、事前の十分な話し合いが必要です。 |
| 患者離れやスタッフの離職のリスク | 院長交代によって患者が他院へ転院したり、スタッフが退職したりする可能性があります。 |
| 希望通りの取引条件にはならない可能性 | 譲渡価格や診療方針などで、譲歩が必要になる場合があります。条件の優先順位をつけておくことも大切です。 |
| 仲介手数料がかかる | M&Aの仲介業者によっては想像よりも手数料の費用が高額になる場合があります。 |
買い手側のデメリット
買い手側の主なデメリットは以下の通りです。
| 既存スタッフとの関係構築 | 前院長のやり方に慣れたスタッフとの関係構築には時間がかかります。また新方針を打ち出す際は十分な説明と合意が必要です。 |
| 建物や設備の老朽化リスク | 承継後に修繕や買い替えが必要になる場合があります。デューデリジェンスで状態を確認することが重要です。 |
| 潜在的な債務や法的リスク | 承継前には見えなかった債務や労務問題が発覚するケースもあります。専門家による徹底した調査が必要です |
クリニックの承継は親族内と親族外(第三者)がある
クリニックの医業承継は、承継させる相手によって大きく「親族内承継」と「親族外承継(第三者承継)」に分けられます。それぞれメリット・デメリットがあり、承継相手を探す方法やマッチングのしやすさが異なります。自院の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。
親族内承継
親族内承継は、引退する院長の職を医師の資格を持つ息子や娘、甥、姪、孫などの親族に引き継ぐ方法です。個人のクリニックを親子間で相続する場合には、以下の2つに分けられます。
| 生前の医院継承 | 親が生きているうちに行う承継で、贈与として行われる場合が多いです。 |
| 相続による医院継承 | 親が亡くなった後、相続財産として承継します。相続税の負担が大きくなる可能性があるため、事前の税務対策が必要です |
親族外承継(第三者承継)
近年増えてきている第三者への承継方法で、大きくクリニック内部の第三者へ承継する方法と、クリニック外部の第三者へ承継する方法に分かれます。
クリニック内部で行う親族外承継
長年勤務している医師への承継は、従業員からの理解や信頼感を得やすい点がメリットです。しかし、個人経営のクリニックでは後継者候補となる医師を見つけにくく、承継に必要な資金を持っていない可能性もあります。
クリニック外部に行う親族外承継
クリニックの外部の人に承継する場合、医局の人脈を活用したり、M&A仲介業者を活用したりするのが一般的です。特にM&A仲介業者なら独自のネットワークを有しているので、数多くの買い手候補者から最適なマッチングを行えるのが魅力と言えます。
親族外承継の手続きは医療法人と個人クリニックで異なる
親族外承継の方法は、クリニックを経営しているのが「医療法人」か「個人の経営者」かで手続き内容が大きく異なります。
医療法人の場合
医療法人の親族外承継の方法は「出資持分あり」と「出資持分なし」で異なります。
| 方法・決め方 | 出資持分あり | 出資持分なし |
|---|---|---|
| 手続き方法 | 出資持分の譲渡社員の入れ替え理事・理事長の変更 | 社員の入れ替え理事・理事長の変更 |
| 譲渡対価の支払い方法 | 出資持分を譲渡対価として支払う | 基金拠出型:基金の譲渡その他:退職金として支払い |
| 譲渡価格の決め方 | 医療法人の資産価値 | 退職金規定や基金の額 |
個人クリニックの場合
個人経営のクリニックが親族外承継する場合には、現院長が廃院届を提出し、そのあと後継者となる院長が同じ場所で新規開業をする「事業譲渡」という方法で行われます。
行政上は新しいクリニックが開設される手続きになるため、許認可や届出、賃貸借契約、リース契約、雇用契約などを新たに結ぶ必要があります。
クリニックの承継が成立するまでの流れ

クリニックの親族外承継では、一般的に準備から成約まで6か月〜1年、引き継ぎまで数か月〜1年と、合計1年〜2年程度かかります。ここでは承継までの流れを詳しく解説します。
承継時期や条件の整理
譲渡側と承継側ともに、以下の条件を整理しておきましょう。
- 譲渡対象の資産(建物、医療機器、営業権など)
- 希望する譲渡時期
- 譲渡方法(事業譲渡、持分譲渡など)
- 譲渡価格
売り手側はクリニックの財産(現金、預金、建物、土地など)を算出し、買い手側は開業したい場所や診療コンセプトを考えておくと、スムーズなマッチングにつながります。
専門家への相談
承継の手続きは煩雑で、医業特有の法律や税務などの専門知識が必要です。医院継承に特化したM&A仲介会社を中心に、医療分野に詳しい弁護士や税理士などの専門家のサポートを受けましょう。
M&A仲介会社は豊富な案件をもとに、買い手側と売り手側それぞれの条件を比較して最適なマッチングを行います。
承継相手の選定・交渉
承継候補をピックアップしたら双方で情報の精査を行ったり、買い手側は現地視察や承継条件について金額感などの交渉を行ったりします。
買い手側が売り手側に対して承継の意思を示す「意向証明書(LOI)」を提出する場合もあります。この段階で、クリニックの経営方針や理念のすり合わせが非常に重要です。
候補者との価値観があまりにも異なる場合、承継後にさまざまな問題が起きる可能性があるため、十分な話し合いが欠かせません。そのためにも一度この段階で「トップ面談」を実施します。
関連記事:医院継承(M&A)のトップ面談とは?スムーズな承継を実現するポイントを解説
基本合意書の締結
承継条件の交渉が終わったら、最終契約まで進むというお互いの意思表示のために、双方の合意を記した「基本合意書(MOU)」を締結します。基本合意書には譲渡価格の目安や譲渡スケジュール、独占交渉権、秘密保持義務などが記載されます。
基本合意書が結ばれたとしても、その後の展開次第ではまだ「破談」となるケースもあるので安心はできません。特に売り手側のクリニックの経営状況において「重大な問題点は本当にないのか」という視点から、次のデューデリジェンスが実施されます。
関連記事:医業承継(医院継承)における「基本合意書」の役割・注意点
デューデリジェンス(買収監査)
基本合意書を締結した後に、「買収監査(デューデリジェンス)」を行います。クリニックに承継する上でリスクが無いか、財務情報が適正であるかなどの調査です。デューデリジェンスでは、財務面だけでなく、法務面、税務面、人事面、事業面など、多角的に調査を行います。
関連記事:医業承継(医院継承)における買収監査(デューデリジェンス)について
最終契約の締結
デューデリジェンスの結果をふまえて、最終的な条件の交渉を行います。基本合意書にお互いが合意した内容を盛り込んで「最終契約書」を締結します。この最終契約書は法的拘束力を持つため、一方的な契約の破棄などは行えません。
最終契約書には、譲渡価格、譲渡対象資産の明細、譲渡実行日、表明保証条項、競業避止義務などが詳細に記載されます。
引き継ぎと対価の支払い
最終契約を結んだら、クリニックの引継ぎの準備に入ります。経営権の引継ぎだけでなく、通院患者やスタッフにも説明する必要があるため、引継ぎ期間はある程度の日数を見込んでおきましょう。
最終契約書に記載されている承継実行日に、承継予定のクリニックの資産を承継し、承継する側は譲渡側に譲渡対価を支払います。この手続きが済んだ後も、保健所への提出や地方厚生局への申請など行政上の手続きが必要です。
クリニック承継で失敗する3つの原因
ここでは承継前から承継後まで、よくある失敗を3つご紹介します。
当初の条件から大幅に変更してしまう
承継の条件に関しては、特に以下の項目をあらかじめ決めておく必要があります。
- 譲渡対象の資産
- 希望する譲渡時期
- 譲渡方法
- 譲渡価格
候補者が出てきた後に売り手側が大幅に条件を変更してしまうと、交渉が破談する可能性が一気に高くなるので注意しなければなりません。たとえば、当初は譲渡対象の資産が「営業権と機器及び物件のみ」だったとして、あとから「土地」も譲渡したいとなった場合には、譲渡価格が大幅に跳ね上がります。
条件を変更する場合はコンサルタントに相談の上で、常識の範囲内で行うことが大切です。
治療方針の変更による従業員・患者の減少
買い手側の経営者が理想の医療経営を実現するために、承継したクリニックで新しい経営方針(医療方針)へと変更されるケースもあります。
しかし、新しい改革と継承したクリニックの実態が大きく乖離していたり、スタッフへの十分な説明や合意を経ずに進めたりすると、反発を招いて離職者や患者離れに繋がるので注意しなければなりません。治療方針については譲渡先とよく話し合い、重要なポイントは可能な限り引き継ぎ、かつ現状のスタッフや患者との信頼関係の構築も欠かせません。
法令・財務上のトラブル
法令・財務上のトラブルには、以下のようなものがあります。
- 保険医療機関指定申請の遅れによる資金繰り悪化
- 従来と同じ数の病床確保ができない
- 非医師への事業承継で失敗
- 行政手続きの不備によるトラブル
ほかにも譲渡する法人が資産を売却し、代金を受け取った際、その利益には法人税等が課税されます。法律や税務に関するトラブルを防ぐためにも、医療業界に特化した専門家に相談しましょう。
関連記事:診療所・病院の承継でありがちなトラブル
クリニック承継を成功させるための3つのポイント
クリニックの開業を検討している先生も、引退を検討されている先生も、理想的でスムーズなクリニック承継を成功させるために、これから紹介する3つのポイントをチェックしておきましょう。
早い段階で着手する
クリニックの譲渡先が決まるまで最短でも半年、多くの場合で1年前後かかるため、早めに専門家に相談することが大切です。特に高齢による体力面での不安から承継を検討する場合には、体力のあるうちに余裕をもって準備を進めておくことをおすすめします。
医師の急逝などでクリニックの経営ができなくなった状態からの承継では、譲渡価格が低くなったり譲渡条件を譲歩しなければならなかったりするためです。
後継者とじっくり条件交渉を行う
譲渡先を探す際は、都合の良い情報ばかりを開示しがちです。しかし買い手側は良い点ではなく「悪い点」のほうが一番気になる、ということを理解しておきましょう。これは医院継承に限ったことではありませんが、人はだれしも好条件であればあるほど「何か都合の悪いことがあるのではないか」と疑い深くなるのが心理です。
たとえば業績が良くないのであれば、問題点を客観的に伝えることで、むしろ信頼関係の構築に繋がる場合もあります。また候補者との価値観があまりにも異なる場合、承継後にさまざまな問題が起きる可能性があるため、経営方針や理念のすり合わせが欠かせません。
従業員や患者への丁寧な配慮を行う
特に親族外承継では、長年クリニックを支えてきた従業員や通院していた患者さんへの配慮が欠かせません。院長が変わることで、従業員の離職や患者離れが起きる可能性があるためです。
このような事態を軽減する方法として、承継前に候補者が実際に非常勤として診療したり、承継後も前院長が診療をサポートしたりする「クッション期間」を設けることが効果的です。
いきなり新体制に移行するのではなく、従業員や患者との信頼関係が構築できるまでの期間を確保することで、承継後のトラブルを軽減できます。
クリニック承継の成功事例
ここでは、私たち「エムステージマネジメントソリューションズ」が実際に承継で携わった事例をいくつか紹介します。
59歳の大学教授が定年前にクリニックを承継開業
59歳の大学教授が定年前に退職し、首都圏郊外の内科クリニックを承継開業した事例です。売り手側は76歳の院長で、診療科を増やしてくれる買い手を希望しており、買い手側の専門は泌尿器科でしたが、非常勤で内科診療の経験もあった先生です。
診療圏調査により泌尿器科の競合が少ないエリアと判明し、私たちは内科+泌尿器科という形での運営を提案しました。
買い手側は最初の面談で「すぐにでも契約します」と即断即決の姿勢を示したことで、売り手側も提示価格をスムーズに受け入れました。この意思決定の速さが評価され、面談から2か月足らずで承継が実現。譲渡対価は約3,000万円で、承継後は広域から泌尿器科の患者を集め、承継前を上回る収益を上げています。
▶ 詳細はこちら:【首都圏×内科】定年を数年後に控えた教授が大学を辞め、医院継承により開業した事例
債務超過の医療法人が大手グループへの承継で再生
東京都内で19床の有床診療所を運営する医療法人が、2億円の負債と債務超過という厳しい状況からM&Aで譲渡できた事例です。売り手側は70歳の理事長で、共同経営していた弟との経営方針の対立により債務超過状態に陥っていました。
しかし19床を持つ希少な有床診療所という点や隣接エリアの人口増加が見込まれる点を前面に出して買い手を募ったところ、個人と法人合わせて10近くからオファーを獲得しました。
売り手側の理事長は数年間留任することで合意し、債務超過のため価値がゼロの持分に1,000万円の価格をつけて譲渡することに。理事長は2億円の債務保証がなくなり、譲渡対価も得られました。
買い手側は新たに整形外科を掲げて、病床稼働率を上げる戦略で収益性を高めています。
▶ 詳細はこちら:【東京×循環器内科】多額の負債を抱えた状態から医院継承に成功した医療法人
専門家のヒアリングで開業ビジョンが明確になり半年で成約
1年近く良い案件に巡り会えなかった売り手側と買い手側の双方が、専門家のヒアリングによりスムーズにマッチングできた事例です。売り手側は首都圏郊外で25年以上クリニックを経営していた60代前半の院長。
買い手側は40代半ばの消化器外科医で、自宅から通える範囲に限定して探していたため、1年経過しても納得する案件に巡り会えませんでした。私達は買い手側の先生と初回ヒアリング時に開業ビジョンをじっくり壁打ちした結果、エリアを限定する必要性がなかったと視野を広げていただくことに成功しました。
診療圏調査の結果、売り手のクリニックは競合が非常に少なく、長期的にも安定した経営が期待できる立地と判明。面談ではお互いのバックグラウンドが似ていることを認識して、すぐに意気投合されていたのが印象的でした。
売り手側も当初は譲渡価格を高く設定していたこともあり、なかなか承継先が見つかりませんでしたが、今回のような最適な候補者はもう見つからないと判断され、予定よりも低い譲渡価格で成約が成立した事例です。
▶ 詳細はこちら:【首都圏×消化器外科】初回ヒアリング時の壁打ちでスムーズに継承開業できた事例
クリニック承継に関わる税務・法務の注意点
クリニックの承継では、税務や法務に関する専門的な知識が必要です。
| 譲渡益に対する課税 | 個人経営の場合は譲渡所得として所得税や住民税が、医療法人の場合は法人税等が課税されます。譲渡価格を決める際には税負担を考慮する必要があります。 |
| 退職金スキームの活用 | 退職金は税制上の優遇措置があり、税負担を大幅に軽減できます。特に出資持分のない医療法人を承継する場合、退職金という形で譲渡対価を支払うことが一般的です。 |
| 買い手側の税負担 | 不動産を含む承継の場合、不動産取得税や登録免許税、消費税などが発生します。資金計画を立てる際には、これらの税金も含めた総額で検討することが重要です。 |
これらの税務・法務の詳細については、以下の関連記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
▶ 関連記事:【税理士監修】病院・クリニックM&Aにかかる税金完全ガイド|売り手・買い手の注意点
また、これら税務や法務の知識は、M&A仲介会社の中でも医療業界の専門家でないと落としてしまいがちです。クリニックの承継を検討されているのであれば、医療業界を専門とした仲介会社を選ぶようにすることをおすすめします。
クリニックの承継に関するよくある質問
最後にクリニックの承継に関して、よく聞かれる質問に回答をしていきます。
クリニック承継の譲渡価格の相場はどれくらいですか?
譲渡価格の相場は「1年分の営業利益+建物や医療機器の簿価(時価)」が一般的で、個人のクリニック譲渡で3,000~4,000万円程度になることが多いです。
ただし、以下の要因によって価格は大きく変動します。
- クリニックの立地条件(駅からの距離、商圏人口など)
- 年間の患者数や収益性
- 医療機器や設備の状態
- 従業員の継続雇用の有無
- 診療科目(内科、整形外科、皮膚科など)
承継後に院長名やクリニック名を変更することは可能ですか?
承継後に院長名やクリニック名の変更は可能です。実際、承継後しばらくは旧クリニック名を維持し、患者や地域住民が新院長に慣れてきた段階で名称変更を検討するケースもあります。
なお、個人経営のクリニックを承継する場合、行政上は一度廃院届を提出し、新たに開設届を提出するため、法的には新しいクリニックとして扱われ、クリニック名の変更は自由に行えます。
従業員の雇用は必ず引き継がなければなりませんか?
法的には、個人経営のクリニックを承継する場合、従業員の雇用を必ず引き継がなければならないという義務はありません。特に個人経営のクリニックは行政上では一度廃院し、新たに開設する手続きになるため、従業員との雇用契約も一度終了し、新院長が新たに雇用契約を結ぶ形になります。
ただし、実務上は以下の理由から、従業員の継続雇用が強く推奨されます。
| 従業員を引き継ぐメリット | クリニックの運営ノウハウや患者情報を引き継げる患者との信頼関係を維持できる新たにスタッフを採用・教育するコストと時間を削減できる地域での評判を保てる |
| 従業員を引き継がない場合のデメリット | 患者離れが起きる可能性が高いクリニック運営のノウハウが失われるスタッフの採用・教育に時間とコストがかかる売り手との交渉が難航する可能性がある |
個人経営から医療法人への承継は可能ですか?
個人経営のクリニックを医療法人に承継は可能です。
むしろ、買い手側として医療法人を選ぶことで、以下のようなメリットがあります。
| 売り手側のメリット | 資金力のある買い手であるため譲渡価格の交渉がスムーズグループ経営のノウハウがあり承継後の経営が安定しやすい従業員の雇用や待遇が改善される可能性がある地域医療の継続性が保たれやすい |
| 買い手側(医療法人)のメリット | 新規開業よりも短期間で事業拡大ができる既存の患者基盤を獲得できる実績のある立地で開業できるグループ全体のスケールメリットを活かせる |
まとめ:クリニックの承継を成功させるためには専門家のサポートが重要
クリニックの承継は、売り手側にとっては後継者問題の解決と利益の確保、買い手側にとっては開業コストの削減と既存患者の獲得という双方にメリットがあります。成功のポイントは早期の着手や専門家のサポート、従業員や患者への配慮です。
承継には1〜2年程度の期間が必要なため、余裕を持って準備を始めることが重要です。実際に50代後半からの承継開業や債務超過からの再生など、様々な条件の先生が承継開業を実現されてきました。
クリニックの承継をお考えの先生は、豊富な実績とネットワークを持った「エムステージマネジメントソリューションズ」にご相談ください。4.1万人以上の登録医師と1.7万件以上の医療機関との豊富なネットワークを活かして、ご希望に合った譲渡先をご提案いたします。
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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。
【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。