【専門家監修】クリニックにおける親族外承継とは?事例とポイントを解説
目次
クリニックの承継方法には、子どもや親族への「親族内承継」と、第三者への「親族外承継」があります。
近年は開業医の子どもが医師にならなかったり、そもそも子どもがいなかったりと、後継者不在に悩む医師も増加しています。
そこで注目されているのが、親族外承継です。
長年勤務している医師への承継やM&A仲介会社を通じた医療法人への売却など、親族外承継には様々な選択肢があります。
本記事では、クリニックにおける親族外承継の特徴や成功事例、円滑な承継のためのポイントについて解説します。
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親族外承継とは?親族内承継や第三者承継との違い
親族外承継とは、親族以外に事業を引き継ぐ方法のことです。
たとえば後継者候補として長年クリニックで働いている医師に承継するケース、まったく関係のない外部の医師に譲渡するケースも該当します。
一方で親族内承継は、子どもや兄弟など親族に事業を引き継ぐ方法です。
しかし医師の子どもが医師にならないケースや親族に医師がいないケースも多く、その場合の選択肢として親族外承継が注目されています。
第三者継承との違い
親族外承継と第三者承継は似ている部分もありますが、意味合いは多少異なります。
第三者承継は「社外の人材や企業への承継」を指し、ほかの医療法人や外部の医師個人への譲渡のことです。
一方で親族外承継は主に「社内の人材への承継」を指すことが多く、たとえばクリニックで長年勤務している医師や幹部職員への承継を意味します。
親族外承継も社内、社外両方を含めた「親族以外のすべての人」を対象にした表現ではあるものの、比較的「社内にいる親族以外の人」に対して承継をする場合によく使われる言葉です。
クリニックにおける親族外承継のメリット・デメリット
親族外承継には「クリニック内部の医師などに行う承継」「クリニック外部の医師などに行う承継」の2種類があります。
ここでは、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
クリニック外部に行う親族外承継のメリット・デメリット
クリニック外の医師などに行う親族外承継のメリットは、承継先の候補者を広く探せる点です。
医局の人脈を通じて知った医師に承継したり、M&A仲介業者などを活用して医療法人を紹介してもらったりする方法があります。
最近は医院継承の需要が高まっている傾向にあることから、医院継承による開業を選択される医師も多いです。
一方デメリットとして、希望通りの承継先が見つかるとは限らない点が挙げられます。
親族外承継は後継者を幅広く探せるものの、希望の条件すべてに合致した後継者を見つけることは難しい場合もあるためです。
たとえば譲渡価格で折り合いがつかないケースがあったり、診療方針が大きく異なったりなど「あと一歩」というところで、承継先が決まらないことも多いです。
また地方のクリニックの場合には、人口減少などの将来的な経営リスクを懸念する医師もおり、候補者が少ない傾向にあります。
そのため親族外承継で希望の後継者を見つける場合には、医院継承を専門としたM&A仲介会社を活用したり譲渡条件を見直したりなども必要です。
ほかにも、クリニック外部の医師などに親族外承継した場合、患者や従業員が離れる可能性もあります。
患者の中には「◯◯先生がいるから通院している」と、特定の医師による診断を希望している方も少なくありません。
診療する院長が変わったことで、他のクリニックに転院する患者が出る可能性があります。
従業員についても、新しい院長との人間関係や診療方針の違いに戸惑いを感じて退職するケースがあります。
このような事態を防ぐための方法として、後継者候補となった医師は承継前からクリニックで実際に働き、患者や従業員とコミュニケーションを取って信頼関係を構築していくことが効果的です。
クリニック内部で行う親族外承継のメリット・デメリット
クリニック内の医師などに親族外承継を行った場合のメリットとしては、ほかの従業員からの理解や信頼感を得やすい点が挙げられます。
すでに従業員との信頼関係が構築されているため、承継後の「従業員離れ」が起こる可能性も低いです。
また長年一緒に働いてきた医師なら、クリニックの医療に対する考え方や地域医療における役割、患者さんの層など、クリニックの強みや方向性を十分に理解している点もメリットと言えます。
承継後のクリニックの経営が気になる売り手側の医師にとっては、クリニック内の医師への承継は安心できるポイントです。
患者においても、これまで慣れ親しんだ従業員が院長や理事長になるほうが安心して通院できるでしょう。
長年クリニックで働いてきた医師への親族外承継なら、診療方針や理念もスムーズに引き継ぐことが可能です。
しかし、そもそも後継者候補となる医師を見つけにくい点がデメリットと言えます。
特に個人経営のクリニックの場合、院長が1人で診療を行っているところも多いでしょう。
医師がいた場合でも若年層で実績や経験が少なく、経営者になれるほどの資質がある人材がいるとは限りません。
また、承継に必要な資金を持っていない可能性も考えられます。
クリニック内部への親族外承継は、折り合いがつかずに人間関係がこじれてしまう可能性もあります。
親族外承継の方法は医療法人と個人経営者で異なる
親族外承継の方法は、クリニックを経営しているのが「医療法人」か「個人経営者」で手続き内容が異なります。
ここでは、それぞれの親族外承継の手続きの違いを解説します。
医療法人の場合
医療法人の親族外承継の方法は「出資持分あり」と「出資持分なし」で大きく異なります。
出資持分がある場合には、医療法人の出資者が持っている財産権(出資持分)を譲渡し、同時に社員の入れ替え、理事・理事長を変更する流れです。
譲渡価格は、医療法人の資産価値をベースに決めます。
一方で出資持分がない医療法人の承継手続きは、社員の入れ替え、理事・理事長の変更のみです。
出資持分の売却がないため、一般的に「基金拠出型医療法人」の場合は基金の譲渡、それ以外の医療法人は退職金という形で譲渡の対価を支払います。
個人経営者の場合
個人で経営しているクリニックを親族外承継する場合には、現院長が廃院届を提出し、そのあと後継者となる院長が同じ場所で新規開業をする「事業譲渡」という方法で行われます。
具体的にはクリニックが賃貸の場合には賃貸借契約書を、リース契約している医療設備があれば、その契約も新たに行わなければなりません。
従業員を継続して雇用する場合にも、新たに雇用契約書を結ぶ必要があります。
個人経営の承継は行政上、新しいクリニックが開設される手続きになるため許認可や届出、契約などを新たに行う必要があります。
クリニックで親族外承継が成立するまでの期間と流れ
クリニックを親族外承継する場合のおおまかな流れは、下記のとおりです。
- クリニックの状況や承継の条件を整理する
- 医院継承(医業承継)の専門家に相談をする
- 買い手の選定や条件の交渉などを行う
- 基本合意書の締結をする
- デューデリジェンス(買収監査)を行う
- 最終契約書の締結をする
一般的に後継者探しから最終契約書を締結するまでの期間として、6か月〜1年程度はかかります。
さらに最終契約後、クリニックの実際の引き継ぎに関する手続きで数か月〜1年程度の期間がかかります。
親族外承継には1年〜2年ほどの期間が必要になることを見込んで、余裕をもって準備を始めることも大切です。
▶関連記事:医業承継(医院継承)における譲渡が成立するまでの期間
クリニック外部への親族外承継を成功させるためのポイント
クリニック内部の医師への親族外承継は一見理想的に思えますが、実際には成功例は非常に少ないのも現状です。
その理由として、まず個人経営のクリニックでは院長1人で診療を行うケースが多く、そもそも承継を任せられる医師が院内にいないことが挙げられます。
また、非常勤医師や医局の先輩・後輩へ承継する場合には、普段からの上下関係があることから譲渡条件などの交渉が難しく、場合によっては人間関係がこじれてしまうケースも少なくありません。
そのため、現実的には第三者(クリニック外部)への承継を検討されるケースが非常に多くなっています。ここでは、クリニック外部への親族外承継を成功させるためのポイントを3つ紹介します。
専門家のサポートを受ける
クリニックの親族外承継では、医療に関する法規制や税務、労務など、多岐にわたる専門知識が必要です。
そのため、医院継承に特化したM&A仲介会社を中心に、医療分野に詳しい弁護士や税理士などの専門家のサポートを受けることが重要です。
特に承継の希望条件に合った候補者を見つけるためにも、医療業界のネットワークに長けているM&A仲介業者の活用を検討しましょう。
これまでの実績や経験から、医院継承でのよくあるトラブルを防ぐアドバイスができたり、候補者との契約がスムーズに行くためのサポートを行ったりすることが可能です。
長期化を想定して早めに行動する
クリニックの親族外承継では最終契約までに半年から1年、その後の引き継ぎ手続きに半年から1年と、想定以上に時間がかかることが一般的です。
特に候補者との条件交渉は、双方の希望が一致しないと長期化することもあり、そもそも条件に合った候補者がなかなか見つからないことも多くあります。
特に高齢による体力や健康面での不安からクリニックの承継を検討される場合には、体力のあるうちに余裕をもって準備を進めておくことが大切です。
従業員や患者への配慮を行う
親族外承継では、長年クリニックを支えてきた従業員や通院していた患者さんへの配慮も欠かせません。院長が変わることで、従業員の離職や患者離れが起きる可能性があるためです。
このような事態を軽減する方法のひとつとして、承継前に候補者が実際に非常勤として診療したり、承継後も前院長がしばらく診療をサポートしたりすることも実際に行われます。
いきなり新体制に移行するのではなく、従業員や患者との信頼関係が構築できるまでの「クッション期間」を設けることで、承継後のトラブルを軽減できます。
候補者と経営方針や理念のすり合わせをする
候補者との顔合わせの際は、クリニックの経営方針や理念のすり合わせが非常に重要です。
候補者との価値観があまりにも異なる場合、承継後の診療方針の極端な変更や従業員への処遇、患者への対応など、様々な場面で問題が起きてしまう可能性があるためです。
これまで培ってきたクリニックの特色や人間関係を崩さず、さらに発展させるためにも候補者と十分な話し合いが欠かせません。
クリニック外部への親族外承継が成功した事例
クリニックの親族外承継は、後継者不在や債務整理など、様々な課題に直面して検討されるケースが多くあります。
それぞれの課題に合わせて適切な承継方法を検討したり、最適な候補者とマッチングしたりすることが、円満な承継を実現する上で非常に重要です。
ただし前述したように、クリニック内部での親族外承継は、なかなか実現しないこともあります。
ここでは、第三者(クリニック外部)に視野を広げたことで親族外承継を実現した事例を紹介します。
お子さんに承継の意思がなかった60代院長の事例
首都圏の郊外で25年以上にわたりクリニックを経営してきた60代前半のA院長は、定年を一つの区切りとしてクリニックの譲渡を検討することにしました。
A院長のクリニックは消化器外科を専門とし、外来診療に加えて内視鏡検査や内科、小児科にも対応する地域に根差した医療機関です。
お子さんも医師でしたが承継の意思がなく、第三者への承継を検討することになりました。
当初は他のM&A仲介会社に依頼して譲渡先を探していましたが、1年近く経過しても良い譲渡先が見つからない状況が続いたため、私たちにもご相談をいただきました。
私たちがA院長にご紹介したのは、40代半ばの消化器外科医B先生です。
B先生は承継後も内視鏡検査を行いたいと考えていたため、設備の整ったA院長のクリニックは最適だったのです。
ただB先生は当初、自宅から通える範囲に開業エリアを限定しており、A院長のクリニックはエリア外でした。
B先生が開業エリアを広げられたのは、初回面談時にヒアリングをしっかりと行い、エリアを広げることでB先生が開業に求めていることを実現できると判明したからです。
また、診療圏調査の結果、競合が少なく将来性も期待できる立地であることが判明し、スムーズな親族外承継が実現しました。
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親族との共同経営が破綻して多額の負債を抱えた70歳理事長の事例
東京都の某市で循環器内科を専門とする石橋クリニックを運営していた70歳の柿本理事長は、多額の負債を抱え承継を検討することになりました。
柿本理事長は弟の佐藤先生と共同経営で医療法人を設立し、銀行から4億円を借り入れて石橋クリニックを開院しました。
当初は10年で返済予定でしたが、開業から5年が経過した頃に経営方針の違いから佐藤先生と対立が生じます。
結果として佐藤先生が理事を退任し、出資持分の払戻金などを支払ったことで医療法人は債務超過に陥ってしまいました。
さらに柿本理事長自身も年齢とともに体力的な限界を感じ始め、夜間当直や手術にも支障をきたすようになってしまいます。
柿本理事長は融資の返済が不安になり、相談先のメインバンク経由で私たちに相談が入りました。
私たちは石橋クリニックの強みである、19床の有床診療所としての希少性や今後の人口増加が見込まれる立地条件などを前面に出し、買い手候補を募りました。
その結果、多くの買い手候補から関心が寄せられ、最終的に急成長中の医療法人グループの傘下となることが決定します。
買い手側となった「あおば会」は、柿本理事長を当面の間そのまま理事長かつ院長として留任することで合意しました。
さらに柿本理事長の個人の2億円の債務保証も、あおば会の返済によって解除されました。
債務超過という厳しい状況においても、クリニックの強みを適切に評価して提案することで、円満な承継を実現できた事例です。
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親族外承継を成功させるには余裕をもったスケジュールと専門家のサポートが重要
クリニックの親族外承継では最終契約から新体制への移行まで、想定以上の期間を要することがあります。
特に高齢による体力面での不安から承継を検討する場合には、余裕をもって準備を始めることが重要です。
また、医療分野特有の法規制や許認可の手続き、従業員や患者さんへの配慮など、円滑な承継をするには様々な課題に対応しなければなりません。
そのため、後継者を探す際には医院継承に特化したM&A仲介会社を中心に、医療分野に詳しい専門家のサポートを受けることがおすすめです。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。