医業承継における「最終契約書」の内容

契約関連 2023/07/31

医業の第三者承継(M&A)では、いくつもの契約を締結しながら一歩ずつクロージングへ進んでいきます。中でも、最後に締結する契約が本記事で紹介する最終契約書です。

最終契約書は、契約のクロージング後も拘束力を持つ内容が記載される、非常に重要なものです。

本記事では、医業承継における最終契約書の役割や基本的な内容について解説した上で、実際の最終契約書がどのように書かれているのかについて、医療法人と個人医院等の場合にわけて解説します。

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最終契約書とは

最終契約書とは、医業承継の最終段階として締結される、譲渡側(以下:売り手)と譲受側(以下:買い手)の間での最終的な合意事項を定めた契約書のことです。

医業承継では、成約までのプロセスにおいて、秘密保持契約書や基本合意契約書などの契約書を締結していきますが、この最終契約書が文字通り医業承継の最後に締結する契約書となります。

最終契約書の目的

最終契約書の目的は、売り手と買い手の間で成立した医業承継の合意事項に法的拘束力を持たせることにあります。

法的拘束力を持たせるとは、万が一、契約内容に違反した場合には、契約を破棄したり、損害賠償請求を求めることができるようにしたりするということです。

なお、「最終契約書」とは最終契約時に交わす契約書の総称で、実際にこのようなタイトルの契約書を交わすわけではありません。また、内容に応じて複数の契約書が作成されることもあります。

例えば、医療法人であれば「出資持分譲渡契約書」や「拠出金返還請求債権譲渡契約書」の他に「経営引継契約書」が締結されることが多いでしょう。また、個人開設医院や分院の譲渡であれば「事業譲渡契約書」を最終契約として締結することになります。

最終契約書に共通する内容

最終契約書の内容は、承継スキームなどによって細かい内容は異なりますが、大まかな基本構造はおおよそ共通しています。それは、以下の部分です。

  • 取引の基本条件
  • 表明保証
  • 損害賠償もしくは補償等

取引の基本条件

取引の基本部分とは、契約の当事者の氏名、契約の締結目的、譲渡する資産(出資持分など)の内容やその譲渡価額などを記載します。

また、譲渡価額の支払日や支払方法などについても、具体的に定めます。

表明保証

表明保証(表明および保証)とは、一定時点(最終契約書締結時点)で、一定の内容について間違いがないことを当事者の一方がもう一方に対して表明し、その内容について保証することをいいます。

M&Aの最終契約書において、売り手にとっても、買い手にとっても、この表明保証は、非常に重要な部分です。

なぜなら、法人や事業は、手に取って調べられる有形物ではないため、どれだけ念入りにデューデリジェンスをおこなったとしても、将来のリスクを含め、すべてについて完璧に調査ができるわけではないからです。

仮に表明保証のないままで、譲渡契約が結ばれれば、契約書に記載されていない瑕疵が後日見つかったとしても、買い手は売り手側に対してその責任を追及できなくなってしまいます。つまり、買い手にとっての潜在リスクが高くなります。

そうかといって、逆に、「承継後になにか問題が発生したら、買い手は売り手に損害補償を求めることができる」といった、曖昧な補償契約では、なんでもかんでも売り手が補償をしなければならなくなり、今度は、売り手のリスクが高くなりすぎます。

そこで、「この項目に関しては、ここまでの期間で、ここまでの範囲のことは問題ないことを保障します」と、一方の当事者(主に売り手)が他方の当事者に対して「表明」して、保障するのが、表明保証です。

例えば、売り手が「契約締結前の過去2年間にわたって、すべてのスタッフに対して未払いの時間外手当はありません」という表明保証をします。すると、もし承継後に、1年前の未払い残業代が発覚して、それに対してスタッフから請求を求められたような場合に、買い手は売り手に対して、損害賠償などのなんらかの補償を求めることができます。

また、3年前の未払い残業代が発覚した場合、それは表明保証の範囲外なので、買い手は売り手に補償を求めることはできません。

なお、表明保証は、通常は売り手が買い手に対して保証する内容が多くなりますが、買い手が売り手に対しておこなう場合もあります。

補償(損害賠償等)

一般的には、契約違反に対する損害賠償請求権を認め、それについて補償する旨の内容を記載します。契約義務違反や表明保証違反があった場合の、損害賠償や補償等について、「なにを、どこまで、いつまで」おこなうのかを定めます。

つまり、表明保証と必ずセットになっているのが補償です。(「保証」と「補償」の違いに注意してください)。

表明保証と並んで補償も、非常に重要です。まず、補償の金額です。例えば、M&A自体が無価値となるような、重大な瑕疵に対する補償だとしても、仮に譲渡価額が10億円だったとすれば、それに対して、100億円の補償上限が設定されているとしたら、売り手のリスクは過大となります。最大でも、譲渡価額と同額の10億円に設定するとか、それより低く設定されていなければ、バランスがとれません。

また、補償期間も、例えば承継後3年間なのか、20年間なのかによっても、リスクは異なります。「20年も前のことをいまさらいわれても」ということもあるでしょう。

補償の内容も入念にチェックしておく必要があります。

医療法人を譲渡する際の最終契約書の内容

医療法人を譲渡する場合、出資持分がある場合とない場合によって、最終契約書の内容が変わります。

出資持分がある場合の最終契約書

「出資持分」とは株式会社でいう株式のようなものですが、その内容は株式とは大きく異なります。

株式会社の株式は、株式数に応じて、「財産権」と「議決権」を株主に付与しています。ですから、持株数が増えれば増えるほど、配当金額や株主総会での発言権が強くなります。

しかし、医療法人の出資持分は、出資額に応じた「財産権」は出資者に付与しているものの、「議決権」は付与していません。

そのため、出資持分のある場合の医業承継では、最終契約において、この「財産権」と「議決権」の両方について譲渡契約の結ぶ必要があります。そこで一般的には、下記2種類の契約書を作成します。

  • 出資持分譲渡契約書
  • 経営引継契約書

出資持分譲渡契約書

出資持分譲渡契約書とは、出資持分を売り手から買い手に譲渡するための契約書のことです。この契約書には、上述の「取引の基本条件」「表明保証」「損害賠償もしくは補償等」を記載します。

またそれ以外にも、契約内容に合わせ、契約解除に関する事項や医業承継のプロセスで知り得た情報に関する秘密保持、契約履行に関する費用(印紙代や弁護士などへの報酬)の負担などを記載します。

経営引継契約書

持分ありの医療法人では、経営陣が交代します。その際に作成されるのがこの経営引継契約書です。

この契約書には、引継ぎの条件や方法、契約のための前提条件(持分の譲渡が行われていること等)や表明保証などを記載します。

なお、経営引継契約書は、出資持分譲渡契約書とあわせて、1通の書面として作成される場合もあります。

出資持分がない場合の最終契約書

平成19年4月に施行された第5次医療法改正により、以後は出資持分のある医療法人の設立ができなくなりましたが、それに代わるものとして、基金制度があります。

この基金制度を使って設立された医療法人が、基金拠出型医療法人です。出資持分のない医療法人は、原則として出資に応じた財産の返還を求めることはできませんが、基金拠出型医療法人であれば、定款で定められた範囲内(ただし拠出額を限度とする)で拠出した基金の返還を求めることができます。

出資持分がない場合の最終契約では、この返還手続きとして、「拠出金返還請求債権譲渡契約書」を作成します。

なお、拠出金返還請求債権譲渡契約書には、出資持分譲渡契約書と同様に、「取引の基本条件」「表明保証」「損害賠償もしくは補償等」等に加え、秘密保持や契約履行に関する費用の負担などを記載します。

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個人開設医院や分院を譲渡する際の最終契約書の内容

医療法人の医業承継が法人などの経営母体を丸ごと譲渡するのに対し、個人開設医院や分院の譲渡では、医業承継に必要な資産や権利だけを切り取って譲渡します。

とは言え、単なる物品の売買とは違い、買い手は事業の一部を承継することになるため、上述の医療法人の場合と同様の最終契約をおこないます。

具体的には、「事業譲渡契約書」を作成し、売り手と買い手の間で最終契約を締結します。なお、この事業譲渡契約書には、他の最終契約書と同様の記載内容に加え、譲渡する資産(不動産、医療機器、カルテ、診療の名称、その他の権利など)および、それらの瑕疵担保責任などを記載します。

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まとめ

最終契約書でもっとも重要となるのは、表明保証と補償の内容が適切で、過不足ない内容になっているかどうかです。契約書は法律文書であるため、書き方ひとつで内容が大きく変わってしまうこともあります。M&Aならではの論点もあるため、M&Aに精通した弁護士などのアドバイスを受けながら、慎重に確認を進めていきましょう。

このように医業承継は専門的な知見が必要ですが、専門の仲介会社に依頼することでスムーズに手続きを進めることができます。

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