医業承継におけるクロージングの工程【徹底解説】

目次
医業の第三者承継(M&A)におけるクロージングとは、最終契約に基づき対価の支払いを行い、M&A取引(経営権の移転や合併など)を実行することを意味します。
クロージングまでにはいくつかの準備手続きを済ませておく必要があり、場合によってはクロージング後にも手続きが必要になります。
本記事では、最終契約締結からクロージング前後までの工程について、医業承継ならではのポイントに留意しながら解説します。
医業承継におけるクロージングとは
M&Aにおけるクロージングとは、最終契約に基づく対価支払いと取引実行のプロセスを指しますが、医業承継のクロージングまでには社員総会や行政手続きなどの準備手続きが求められ、クロージング日以降にも手続きが必要になる場合もあります。
したがって、最終契約締結からクロージング前後までのプロセスをセットにして捉えておくのが得策です。
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医療法人を譲渡する際のクロージングの工程
医療法人全体を譲渡する場合、社員・評議員・役員の入れ替えによる「経営権譲渡」、あるいは、売り手法人を買い手法人に一体化する「吸収合併」のスキームが用いられます。
スキームごとに異なった法的手続きが求められ、法人の類型などにより対価支払いの方法が変わってきます。
経営権譲渡における法律上の手続きの流れ
社団医療法人の最高意思決定機関は社員総会であり、総社員の過半数が出席した社員総会において出席者の過半数が承認することにより議題が可決されます。したがって、社員の入れ替えにより社員の過半数を買い手側の人物・法人が占めれば、経営権が買い手に移転します。
通常、社団医療法人の経営権譲渡は以下の流れで行われます。
①売り手側の社員総会において、買い手側の人物・法人(営利企業以外)が社員として入社することを承認する決議を行う
②売り手側の社員が退社し、社員の過半数を買い手側が占めるようにする
③新たな社員体制による社員総会で旧役員(理事・監事)の解任と新役員の選任を決議
④新たな理事会で新理事長を選任
⑤社員名簿を更新し、行政への役員変更届出と法務局での理事長変更登記を行う
経営権譲渡では理事長を買い手側の人物に変更するのが通例ですが、経営権の所在は社員総会議決権の保有割合で決まるので、理事長の変更は必須ではなく、現理事長が退社した上で「雇われ理事長」として理事長職を継続する例もあります。
他の役員と違い、理事長は医師である必要があるため、営利企業(医療関連分野の株式会社やファンドなど)が買い手となる場合、現理事長が理事長職を継続する例が少なくありません。
財団医療法人の場合、役員の解任・選任は評議員会決議により行われます(決議の条件は社団法人と同じ)。また、評議員は一定の要件に該当する人物(医療従事者など)のなかから理事会により選任されるのが通例です。
したがって、財団医療法人の経営権譲渡においては、売り手法人の理事会で評議員の入れ替えを決議し、新たな評議員会で役員の解任・選任を行い、必要な届出・登記を行うという流れになります。
吸収合併における法律上の手続きの流れ
吸収合併は医療法に基づき以下の流れで行われます。①~⑤の手続きは売り手・買い手の双方で(協力して)行います。
①吸収合併契約を締結する
②社団医療法人の場合、社員総会において全社員の賛成による吸収合併契約承認決議(財団医療法人の場合、理事の3分の2以上の賛成による承認決議)を行う
③都道府県知事へ合併認可申請を行う
④合併の認可が下りたら、財産目録・貸借対照表を主たる事務所に備え置き、債権者へ開示する
⑤債権者に対し合併に異議を述べるための期間を設け、債権者から異議が述べられた場合は債務の弁済や担保提供などの対応をとる(債権者保護手続き)
⑥契約書に記された効力発生日に合併が成立し、売り手法人の全権利義務が買い手法人へ一括して承継され、売り手法人は消滅する
⑦合併後の法人が合併登記を行う
対価受け渡しの手続き
持分の定めのある社団医療法人を譲渡する際には、以上の手続きと並行して持分譲渡の手続きを行うのが通例です。
売り手側の持分保有者(退社する理事長などの出資者)が持分を買い手に譲渡し、対価として現金などを受け取ります。その後、出資者名簿を更新します。
持分譲渡を行わない場合やそもそも持分が存在しない法人の場合、M&Aを機に退職する人物に対しては退職金の調整、M&A後も法人(売り手法人や合併後の法人)に残る人物に対しては報酬・賞与の調整などにより対価の受け渡しを行います。
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個人開設医院や分院を譲渡する際のクロージングの工程
個人開設医院の譲渡においては、事業を構成する権利義務(資産・負債・契約など)を個別に移転する「事業譲渡」のスキームが用いられます。
医療法人の分院を譲渡する場合、「事業譲渡」のほか、権利義務を一括して買い手法人に移転する「吸収分割」のスキームも利用できます(ただし持分の定めのある医療法人は吸収分割を行えません)。
個人開設医院の事業譲渡のクロージング
事業譲渡では権利義務の1点1点を個別に買い手の法人・個人に移転する手続きが必要です。
債権・債務・雇用契約・取引契約・賃貸借契約など、第三者が絡む権利義務を移転するには、その第三者当人の同意が求められます。また、不動産を移転する場合には所有権移転登記が必要です。
権利義務の移転手続きに加え、いくつか行政手続きも必要です。
行政上は売り手の医院は廃止され、買い手のもとで新たに診療所を開設するという扱いになるため、事業譲渡日から10日以内に廃止および開設の届出をする必要があります。保険診療を行う場合は厚生局に対して保険医療機関指定申請も行います。
買い手が医療法人の場合、開設する診療所が増えるため定款の変更が必要です。定款変更には社員総会決議(財団医療法人の場合は評議員会の意見を聴いた上での理事会決議)と都道府県知事による認可が求められます。
定款変更の認可が下りるまでには1~3ヶ月程度かかるため、定款変更認可申請は最終契約締結後すみやかに行う必要があります。
事業譲渡の対価の支払いは、最終契約で定めた事業譲渡日に行われるのが通例ですが、権利義務の移転や行政上の手続きをすべてその日までに完了できるとは限りません。
そのため、事業譲渡日までに完了しない手続きについては事業譲渡日後遅滞なく完遂できるような措置を取ることが、売り手側の義務として求められます。
分院の事業譲渡のクロージング
売り手法人において分院譲渡は「重要な資産の処分」に該当するため、社員総会での承認決議が必要です。また、定款変更(開設する病院・診療所の変更)のため社員総会決議(評議員会の意見を聴いた上での理事会決議)と都道府県知事の認可が求められます。
買い手が法人の場合、買い手側でも定款変更手続きが必要です。
その他の手続き(権利義務の移転、対価受け渡し、売り手における分院廃止届出、買い手における診療所開設届出、保険医療機関指定申請)は個人開設医院の譲渡の場合と同様です。
分割のクロージング
吸収分割は医療法に基づき以下の流れで行われます。①~⑤の手続きは売り手・買い手の双方で(協力して)行います。
①吸収分割契約を締結する
②社団医療法人の場合、社員総会において全社員の賛成による吸収分割承認決議(財団医療法人の場合、理事の3分の2以上の賛成による承認決議)を行う
③都道府県知事へ分割認可申請を行う
④分割の認可が下りたら、財産目録・貸借対照表を主たる事務所に備え置き、債権者へ開示する
⑤債権者保護手続きを行う(吸収合併の場合と同一)
⑥売り手法人において②~⑤の手続きと並行して労働契約の承継に関する手続き(後述)を行う
⑦契約書に記された効力発生日に分割が成立し、分割される事業に属する権利義務が買い手法人に一括して承継される
⑧買い手法人が分割の登記を行う
売り手法人の従業員は、吸収分割契約に基づき労働契約が買い手法人に承継される人と、承継されずに売り手法人に残留する人とに分かれますが、以下に該当する従業員は分割の前後で業務内容や労働条件が大きく変わる可能性があります。
(A)吸収分割契約締結時点で分割対象事業に主として従事していたにもかかわらず、吸収分割契約において労働契約承継の対象となっていない従業員
(B)吸収分割契約締結時点で分割対象事業とは別の事業に主として従事していたにもかかわらず、吸収分割契約において労働契約承継の対象となっている従業員
売り手法人は、これらに該当する従業員が異議を述べるための期間を設ける必要があります。
期間内に異議が述べられた場合、(A)の従業員であれば買い手法人へ労働契約が承継され、(B)の従業員であれば売り手法人へ残留することになります。
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まとめ
M&Aのクロージングでは、最終契約締結からクロージング日前後に掛けて、法令や契約に従い様々な手続きを遂行する必要があります。医業承継では行政上の手続きが必要になるケースが多いのが特色と言えます。
どのような手続きが必要になるかは医療法人の類型やM&Aスキームによって異なります。クロージングの工程については、スケジュール面も含めて、条件交渉の段階で十分に検討しておくことが必要です。
このように医業承継は専門的な知見が必要ですが、専門の仲介会社に依頼することでスムーズに手続きを進めることができます。
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