【東京×女性消化器科】売り手が異なる2か所のクリニックを同時期に譲り受け
【東京×女性消化器科】売り手が異なる2か所のクリニックを同時期に譲り受け
エリア | ①東京都/②東北地方 |
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診療科目 | ①女性消化器科/②皮膚科 |
運営組織 | 個人経営 |
譲渡理由 | 健康問題および事業整理 |
運営年数 | 20年 |
目次
本件でご紹介するのは、エリアも売り手も異なる2か所のクリニックをほぼ同時に譲り受け、一気に事業拡大に成功した医療法人の事例です。
M&Aでクリニックを譲り受けるメリットはさまざまですが、本事例では、歯科クリニックのみを運営していた医療法人が、短期間でしかも比較的リーズナブルに医科クリニックへの多角化経営へと進出できた点が、大きなメリットだったといえるでしょう。
その成功の背景とポイントをご紹介します。
【買い手側】歯科クリニックから、医科への進出を図る
買い手は、東北地方の某県で2か所の歯科クリニックを経営する医療法人よつば会(仮称)の理事長、小林先生(仮名)です。小林先生はこばやし歯科クリニック(仮称)を経営する49歳の歯科医師で、審美歯科やインプラントなどの自由診療を専門としています。
歯科医師である小林先生が、医科への進出を考えるようになった背景には、もちろん事業拡大意欲がありましたが、それだけではありませんでした。
小林先生の親戚に、東北のへき地で内科・小児科クリニックを営んでいる先生がいました。その先生は高齢であるため、小林先生がいずれはその内科クリニックを引き継いで、へき地医療を守らなければならないという使命感を持たれていました。
しかし、それは今すぐという話ではないことと、歯科医師である小林先生が内科クリニックで診療をすることはできないため、まずはよつば会として医師を雇用し、医科クリニックを運営する経験を積んでおこうという思いがありました。
【売り手側1】院長の健康問題でM&Aを検討した東京の女性クリニック
加藤クリニックは、東京都心のお洒落な街で15年ほど前に開院された女性専用クリニックです。院長は女性の加藤先生(40代)です。
5年ほど前から美容系の自由診療にも力を入れ始め、それが街の住民層ともマッチしていました。また優秀なスタッフにも恵まれて、着実に患者を増やしていました。実際、直近の年間売上は6,000万円ですが、利益は3,000万円と、収益性はかなり高い状況です。
ところが、半年ほど前に院長の加藤先生がある難病に罹患していることが判明したのです。根治は難しいものの進行が遅いため、当面は医師としての仕事を続けることができます。しかし、院長としてクリニックを経営していくことは難しくなっていくことが見込まれました。
そこで、M&A譲渡によってクリニックの経営を第三者に任せながら、自身はそこで勤務医として働くことを検討します。
加藤先生からは、自身が医師として働き続けられることと、スタッフの雇用維持(個人事業の譲渡であるため再雇用)を、譲渡条件における優先度の高い項目として示され、私たちに仲介の依頼を行いました。
【売り手側2】事業承継に関連して、急いでクリニックの譲渡を望む東北の医療法人
もう1件の売り手は、東北地方で病院とクリニック合わせて5施設を運営している、医療法人小峰会(仮称)です。運営している5施設のうち、よつば会と同じ市に開院している皮膚科の佐野クリニック(仮称)の事業譲渡を希望していました。佐野クリニックの院長は医療法人の社員ではなく、雇用された医師が担っていました。
佐野クリニックは、自由診療のメニューを比較的多く取り揃え、積極的なマーケティング・広告展開もしており、年間の売上7,000万円、収益2,500万円ほどを安定的に出していました。
しかし、医療法人理事長の事業承継に関連して、事業ポートフォリオを整理する必要が生じて、佐野クリニックの譲渡が決められました。
小峰会が望んだポイントは、事業承継が関連していたため、とにかく早期に意思決定できることです。また、雇用をしている医師(院長)からはM&A後の退任の意向が伝えられており、その点は相談すべき事項として挙げられていました。
2件の譲り受けとなった経緯
買い手の小林先生は、はじめに私たちのWebサイトを通じて、加藤クリニックの譲り受け希望ということで連絡を下さいました。
そして、加藤クリニックとの交渉やトップ面談の準備を進めていく中で、Webサイトには掲載していなかった佐野クリニックも、小林先生にご検討いただく価値があると気づき、ご紹介することにしたのです。
その理由は、次の通りです。
- 佐野クリニックも自由診療の割合が大きく、安定した収益を出しているクリニックであること。
- 2つのクリニックが実施している自由診療の内容やマーケティング手法が異なっているため、それぞれのクリニックが持つノウハウを相互に流用することで、シナジー効果が見込めること。
- 佐野クリニックの所在地が、医療法人よつば会の本拠地と同じ市であること。
- 小林先生の意思決定が速いので、迅速な意思決定を求める売り手の医療法人小峰会の希望とマッチすること。
こうした背景を小林先生にご説明し、加藤クリニックとほぼ同時並行で、佐野クリニックとも交渉を進めることに同意していただけました。
その結果、どちらも約2~3週間後にはトップ面談が実現し、それから1か月ほどで加藤クリニックと、さらに3週間ほどで佐野クリニックとの最終契約が交わされることとなったのです。
通常、クリニックのM&Aでも半年程度の期間がかかることが多いため、2件を同時に進めながら3か月ほどで成約したのは、非常にスピーディーな進展でした。
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買い取りのスキームと承継のプロセス
本件は2件とも事業譲渡であり、医療法人出資持分の譲渡はありません。買い手が引き継ぐ対象は、医療機器、什器、医薬品などの他、患者基盤(カルテ)、診療ノウハウ、信用などの無形資産です。
事業譲渡の場合、いったん売り手のクリニックは廃業届を出して閉院し、それからよつば会が同じ場所、同じ設備でクリニックを新規開院するというプロセスになり、手続きには一定の期間が必要となります。
また、小林先生が医科クリニックを開業するのは初めてなので、引継ぎや事業戦略の構築などにある程度準備期間が必要です。そこで、実際に引き渡しを行うのは、それぞれの譲渡契約締結から3~4か月先となりました。
それぞれのクリニックで診療を行う医師(院長)については、加藤クリニックでは、加藤先生が希望どおり、当面の間、勤務を続けることになりました。また、心配だった佐野クリニックの医師については、引継ぎ後も小峰会が雇用している医師(院長)に1年程度は残ってもらうこととなり、成約への障害が取り除かれました。
現在は、2か所のクリニックとも、引き継ぎ開院に向けて準備中です。
2か所のクリニックを同時に譲り受けることができた、成功のポイント
通常、M&Aでの医療施設の譲り受けは、1件であっても大きなエネルギーが必要で交渉に時間がかかることもあります。しかし、本ケースでは、ごく短期間に2件を同時に承継できた事例です。以下に成功のポイントをまとめます。
①買い手がM&Aで実現したい内容が明確だったこと
小林先生が譲り受けにあたって重視していた点が、自由診療のノウハウを引き継ぎながら、それを軸とした経営を展開可能なクリニックであるということです。ポイントが明確であったため、すぐに希望にマッチしそうな2件目の佐野クリニックをご紹介することができました。
譲り受けを考える初期の段階では、「いい施設があれば買いたい」などの漠然とした要望からスタートすることも多いのですが、柱となる目的はある程度明確であったほうが、早期にマッチングが実現する可能性は高まります。
②売り手が譲渡価格に幅を持たせていたこと
当初、譲渡価格について小林先生が考える目線と、売り手が考える目線との間に10~20%程度の乖離がありました。しかし、売り手はどちらも譲渡価格を最優先の条件項目としておらず、ある程度の幅を持ってご相談いただいたので、交渉がスムーズに進みました。
③売り手・買い手双方への十分なヒアリングにより、要望・条件を把握できていたこと
売り手の加藤先生は、自らの勤務継続やスタッフ雇用維持を優先度の高い条件としていました。また、小峰会は、意思決定と交渉のスピードを重視していました。
一方、買い手の小林先生は、自由診療を基軸とすることや東京進出などの他に、譲り受け価格も重視していました。
事前の十分なヒアリングを通じて、双方の要望や条件を把握した上で、無駄のないマッチングができたことも、早期の譲り受け実現のポイントでした。
まとめ
医業経営を拡大や多角化を目指すのであれば、M&Aでの譲り受けは最適な方法です。本事例のように、複数の施設を一度にまとめて譲り受けることができれば、短期間での拡大も可能となります。
複数の売り手との交渉を同時で進行させるには、交渉だけでなく準備や手続きも複雑になるため、早めに専門家に相談することが大切です。複数の案件の中から買い手の意図を汲んだ適切な提案をしてくれるでしょう。
※案件情報の秘匿のため一部改編しています