【北海道×皮膚科】譲渡した売り手院長が同じクリニックで勤務医となり診療を継続
【北海道×皮膚科】譲渡した売り手院長が同じクリニックで勤務医となり診療を継続
エリア | 北海道 |
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診療科目 | 皮膚科 |
運営組織 | 個人経営 |
譲渡理由 | 働き方の変更 |
運営年数 | 8年 |
目次
私たちエムステージグループには、事業承継をお手伝いしているチーム以外に、医療人材の転職やマッチングを支援する人材サポートチームもあります。
本件は、当初は人材サポートチームの方に、「現在クリニック経営をしているが、そこを譲渡して、他の病院で勤務医として働きたいので紹介してもらえないか」というご相談を、売り手となる江川先生(仮名)からいただいたことがきっかけでした。
早速、ご面談してご事情を詳細に伺ったところ、江川先生が希望されていた他病院への転職以外にも、有力な選択肢があると思われました。つまり、クリニックの経営面だけを第三者に委ねて、ご自身はそこで勤務医として働くという方法です。
【売り手側】地元での評判がよく、遠方からの来院もある皮膚科クリニック
江川先生は現在49歳ですが、8年ほど前に北海道の某市に、えがわ皮膚科クリニック(仮称)を開院しました。医師は江川先生のみで、あとは数名の看護師と事務スタッフがいる、よくある規模のクリニックです。
江川先生は最新の治療法の習得にも熱心で、患者さんが通勤帰りに立ち寄りやすいように診療時間を夜7時までにするなど、開院当初から患者さん本位のクリニック運営を心がけていました。その甲斐あって地元での評判は良く、近隣都市からわざわざ来院する人もいて、集患面では苦労していませんでした。自ずとえがわ皮膚科クリニックの収益性は高く、平均より高い業績をあげていました。
また、えがわ皮膚科クリニックが所在する市は、北海道内でも比較的人口減少が少ないエリアで、当面は、地域人口減少による心配も不要です。
しかし、経営には何の問題もなく順風満帆であるかに見えましたが、江川先生はスタッフのマネジメント問題で数年間悩んでいました。
スタッフのマネジメントに長年苦労したことで、病院への転職を希望
江川先生は、常に患者さん本位で考え、患者さんのためにできることを最大限おこなう熱心な医師です。そして、クリニックのスタッフにも同じように、常に親切かつ熱心に患者さんに対応してほしいと考えていました。
しかし、スタッフには仕事と割り切って働いている人も多く、手抜きをしているわけではありませんが、江川先生から見ると、熱心さが不足しているように感じられることがありました。
そこで江川先生が指導をするのですが、なかなかうまく伝わりません。決して理不尽な要求をしているつもりはないのですが、反発するような態度を示し、改善しないスタッフもいるのです。それでも指導して改善を求めると、突然退職してしまい、あわてて後任者を探すといったことも数回ありました。どうすればよいかわからず、スタッフのマネジメントにずっと悩んでいました。
診療が好きで、診療上での苦労はまったくいとわない江川先生でしたが、スタッフのマネジメントについては、苦手意識がだんだん大きくなり、非常に負担に感じるようになっていたのです。
その負担感がほとんど限界に達し、もうマネジメント業務はしたくないという思いから、クリニックを譲渡して、病院に転職する検討をなさいました。
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経営・マネジメント業務のみを譲渡するという方法を提案
先生のお話を伺った私たちは、他の病院への転職という選択肢以外にも、次のような方法があることを示しました。
それは、えがわ皮膚科クリニックの経営権を第三者に譲渡して、経営管理・マネジメントについてはその第三者に任せる一方、江川先生は勤務医としてクリニックに残って診療を続けるという方法です。
その話を聞いて、江川先生は「そんなことができるとは知りませんでした」と、とても驚かれました。M&Aでクリニックを譲渡すると、自分と一切関わりがなくなると思い込まれていたのです。江川先生と同じように誤解している先生は、意外とたくさんいらっしゃいます。しかし、クリニック譲渡後に、そのまま勤務するケースは、期間限定のパターンも含めれば珍しくありません。
江川先生は、できればそうしたいと話されました。苦手なマネジメントを考える必要がなく、クリニックに通院してくれる患者さんをこれまで通りに診療できるというのは、江川先生にとって理想的な形でした。
もちろん、M&Aは相手があることなので、そのような形が受け入れられるかは、相手次第です。しかし、えがわ皮膚科クリニックの場合は、その条件を受け入れてくれる買い手が見つかる可能性は高いだろうと私たちは考えていました。
その理由は、江川先生の診療方針からクリニックの収益性が高かったためです。また、皮膚科という医師をアテンドすることが比較的難しい診療科であったこともあります。
【買い手側】院長がそのまま勤務医となることはむしろ歓迎される
予想通り、私たちが買い手の探索を始めるとすぐに3件の買い手候補が見つかりました。
いずれも江川先生が勤務医として残るという条件を受け入れてくれました。
その中から、北海道、東北エリアで10件以上のクリニックを運営している医療法人渡部会(仮称)が最終的に買い手となり、えがわ皮膚科クリニックの譲渡契約が結ばれました。
渡部会では、過去にも何件ものクリニックをM&Aで譲り受けています。そして、M&A後の院長は、ほぼ外部から医師を招聘しています。その意味では、新しい院長を招聘するノウハウは持っていました。
しかし、手間や時間、また、M&A後の収益の安定性などから、江川先生がそのまま残ることを歓迎していただけました。
譲渡スキーム、譲渡上の懸念点など
えがわ皮膚科クリニックは個人経営であったため、譲渡スキームとしては事業譲渡で、M&A後は医療法人渡部会が新しいクリニックの経営者になるという形です。ただし、クリニック名などは、当面変更しないこととしました。江川先生も勤務を続けるため、患者さんからは何も変わっていないように見えます。
スタッフは、渡部会が新しく雇用する形で雇用契約を巻き直します。待遇については、従前の条件を引き継ぐこととされました。数多くのクリニックを運営している渡部会は、看護師や事務スタッフのマネジメントノウハウも豊富であり、引き継ぎにあたっては、スタッフに十分な説明がなされたため、全スタッフがそのまま残留することとなりました。
渡部会が気がかりとしていたのは、勤務医として働くことになる江川先生に支払われる給与です。これは、渡部会の共通規定が適用されます。医師の平均的な給与水準から見て妥当な金額でしたが、これまでに江川先生が受けていた院長としての報酬よりは下がります。
しかし、江川先生にとっては、これまで通りクリニックで診療を続けられることのほうが重要でした。また、M&Aの譲渡対価も受け取れます。そのため、給与については、渡部会の規定のままということで、特段の問題とはなりませんでした。
本事例のポイント
本事例の成功ポイントは以下の通りです。
①ヒアリングを通じて、売り手の本当のニーズを発見できたこと
最初のご相談の際に、江川先生から伝えられたニーズは「転職」でした。しかし、ヒアリングにより、その裏に隠された真のニーズは「マネジメント業務をせずに診療だけに集中したい」ということだとわかりました。
真のニーズを把握できたことにより、最適な解決策をご提示することができ、M&Aの成功につながりました。
②何のために譲渡をするのかという目的意識が明確だったこと
江川先生は、譲渡価格や、M&A後に勤務する際の給与にはほとんどこだわりませんでした。マネジメント業務から離れ、診療に専念するという目的のためにM&Aをするという、目的意識が明確だったためです。それが早期のM&A実現につながりました。
③売り手がそのまま勤務することが、買い手にとってもメリットだったこと
譲り受け後のクリニックで江川先生が勤務をすることは、買い手にとってもメリットがありました。それは、実績ある江川先生がそのまま勤務することで、安定した収益が最初から見込めることです。
売り手と買い手の利害が相反するのではなく、いわゆるWin-Winの関係となったことも、早期にM&Aが成功したポイントでした。
スタッフのマネジメントに悩まれていることから承継を考えている場合は、一度専門家に相談してみてはいかがでしょうか。