基金拠出型医療法人のメリットと移行へのステップ

医療経営・診療所経営 2022/11/25

医療法人にはいくつかの制度類型があります。それらの中で、現在、医療法人を新設する際の主流となっているのが、基金拠出型医療法人です。

本記事では、基金拠出型医療法人とはどんなものか、その特徴やメリット、また、出資持分ありの医療法人からの移行などについて解説します。

基金拠出型医療法人とは

「基金拠出型医療法人」とは、医療法人運営の原資として、拠出された「基金」を用いることを、医療法人の定款(法人の基本的なあり方を定めた法定文書)において定めている医療法人です。

基金拠出型医療法人の基金とは、医療法人に拠出された金銭、その他の財産で、定款の定めるところにより、一定の場合に拠出者に対して返還義務を負うものです。

なお、基金拠出型医療法人という名称は、法律で定められた正式名称ではなく、基金制度が定められた医療法人を指す通称として、広く用いられている呼び方です。

基金拠出型医療法人が生まれた背景

基金拠出型医療法人は、2007年4月の第5次医療法改正おいて、それまでの主流であった「出資持分の定めがある医療法人」(持分あり医療法人)に代わる形態として、創設されました。

以前の持分あり医療法人では、医療法人運営の原資として、出資者による「出資」が用いられることが定款において規定されていました。出資者は、医療法人に対して出資持分を有することとなります。

この出資持分は、医療法人に対する財産権を表しており、出資者が社員(社員総会構成員)であれば、退社する時や死亡した時の払い戻し請求権があり、また社員であるか否かにかかわらず、医療法人解散時の残余財産分配権もあります。

それらの財産権が行使される際、出資持分は医療法人の純資産額に応じた時価で評価されます。すると、出資金を払い戻す際に「出資額面」と払い戻し金額との差額が実質的な配当にあたり、医療法人の非営利性と抵触しているのではないかという指摘が以前からなされていました。また、払い戻しの際には、医療法人から多額の現金が流出し、法人の財務を不安定化させること、さらに、事業承継の際には、出資持分の移転に対して多額の課税が発生することなどの問題もありました。

そこで、第5次医療法改正おいて、それまで99%以上を占めていた、持分あり医療法人の新規設立は認められないこととなり、以後新設できるのは持分なし医療法人に一本化されたのです。

基金制度のある持分なし医療法人が「基金拠出型医療法人」

第5次医療改正により持分あり医療法人が新設できなくなった際、それまでの「出資」制度に代わるものとして、「基金」制度が創設されました。この基金制度を採用している医療法人が、一般的に「基金拠出型医療法人」と呼ばれています。基金とは、債権に類する権利・義務関係を表すものです。

なお、持分なし医療法人には「基金」制度を採用しない「一般の持分なし医療法人」もあります。しかし、実際には、医療法人に拠出額を返還する義務(拠出者から見れば返還を受ける権利)がある基金拠出型医療法人が設立されることが大半です。

一方、従来からある持分あり医療法人については、「経過措置」として当面の存続が認められていますが、持分なし医療法人への移行が推奨されています。

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医業承継における基金拠出型医療法人設立のメリット

持分あり医療法人と比べて、基金拠出型医療法人には以下のようなメリットがあります。

医業承継における出資持分の問題

持分あり医療法人では、事業承継に際しての現経営者から後継者への出資持分の移転(相続、贈与、または譲渡)に対する課税対策は、重要な問題です。

出資持分の課税評価は、国税庁の「財産評価基本通達」により、非上場株式の株価の評価に準じる方法で評価されます。出資持分の相続財産としての評価方法は複雑なのでここでは割愛しますが、出資した額面金額ではなく、医療法人の純資産額などを基準とした時価で評価されます。

例えば、医療法人設立時に現経営者が出資した1,000万円の出資持分が、事業承継時には数億円の相続税評価額に高騰していることも、まったくめずらしくありません。

すると、事業承継に際して、相続や贈与、譲渡により出資持分を移転する際には、相応の高額な課税がなされることになります。つまり、高額な納税資金が必要です。

一方で、医療法人の出資持分は、財産として高額な課税評価となる一方で、上場株式や不動産のように、簡単には現金化できる財産ではありません。

この出資持分の「高額な課税財産でありながら、現金化が困難」という性格が、事業承継の際には、円滑な承継を阻む壁となる場合があったのです。

基金の評価額は額面金額

基金拠出型医療法人の基金は、定款の定めにより返還の義務がありますが、その返還は額面金額までと定められています。医療法人の非営利性から、基金返還の際に利息を付すことも禁止されています。

そのため、相続や贈与、譲渡に際しての財産価値の評価も、基本的に額面金額での評価となります。

例えば、医療法人設立時に現経営者が出資した1,000万円の基金は、年月を経て医療法人の資産がどれだけ増えていようとも、相続や贈与においては1,000万円として評価されて課税されるということです。

このことから、スムーズな医業の事業承継が可能になることが、現経営者・後継者にとって基金拠出型医療法人のメリットとなります。

基金拠出型医療法人に移行するために必要なこと

持分あり医療法人が持分なし医療法人へ移行するには、

(1)出資者が出資持分を放棄する、または出資持分の払い戻しをすることにより、出資持分を消滅させる

(2)定款の変更をおこない、都道府県に定款変更の認定を受ける

という2つのステップが必要です。

基金拠出型医療法人移行時の課税上の問題

ここで問題となるのが(1)のステップです。

まず、出資持分のすべてを出資者に払い戻すことは、大きな現金の流出を伴うため、医療法人の財務上、現実的には困難な場合がほとんどでしょう。

また、出資者が出資持分を放棄する場合、以下のような課税上の問題が生じる場合があります。

・一部出資者が出資持分を放棄した場合、他の出資者へその出資持分を贈与したものと見なされ、他の出資者に贈与税が課税される。
・全出資者の出資持分を放棄した場合、医療法人へその出資持分を贈与したものと見なされ、医療法人に贈与税が課税される。

そもそも、医業経営者には、出資持分という財産権を放棄することに対する抵抗感が強いことに加えて、この贈与税問題があるため、第5次医療法改正以後も、持分あり医療法人から基金拠出型医療法人への移行は、なかなか進みませんでした。

ちなみに、現在でも社団医療法人の約3分の2は持分あり医療法人であり、移行が遅々として進んでいないことを伺わせます。

認定医療法人制度

そこで、基金拠出型医療法人への移行促進のために制定された、特例制度が「認定医療法人」制度です。

これは、一定の要件に基づいた「移行計画」を作成し、その計画を厚生労働省からの認定を受けることで、出資持分放棄に関連した贈与税、相続税の猶予・免除が受けられるという内容です。2018年に制定され、制度改正を経て、2022年11月現在では2023年9月までが認定期間とされています。

基金拠出型医療法人への移行を検討する場合は、認定医療法人となることで、税制上有利な移行が可能になります。ただし、認定計画の策定、認定には、一定の時間が必要となることから、早期の準備開始が求められます。

まとめ

現在、持分あり医療法人は「経過措置」として存続が認められていますが、あくまで暫定措置という位置づけなので、遠い将来まで認められ続けるかどうかは不明です。強制的に移行させられるということが、絶対にないとはいえません。

それは別としても、将来の事業承継における課税や高齢化した社員の退社なども考慮すると、認定医療法人制度が適用できるうちに、持分あり医療法人を、基金拠出型医療法人へ移行させておくことは、有力な選択肢になるでしょう。

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