株式会社が医療法人を買収することはできるのか?

買収 2022/11/25

医業は非営利事業であることが求められるため、株式会社などの営利法人が、病院や診療所などの医業を直接経営することは、原則的に禁止されています。

しかし、近年、株式会社などの営利法人が、実質的に医療法人を買収して、間接的に医業経営に乗り出すケースが増えています。ここでは、その仕組みについて解説します。

医療法人に求められる「非営利性」の原則

病院、診療所などの医業経営は、個人経営・医療法人経営を問わず、非営利運営が前提になっています。一方、株式会社などの事業法人はいうまでもなく、営利を目的として運営される法人です。

そこで、株式会社が病院や診療所などの医療機関を直接経営することは原則的に禁止されており、営利法人たる株式会社と、非営利法人たる医療法人とが合併などで組織統合することもできません。

その点について、医療法における以下の規定が1つの根拠とされています。

医療法第七条
第一項
病院を開設しようとするとき(中略)は、開設地の都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。
第六項
営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては(中略)第一項の許可を与えないことができる。
参照:医療法

ここで、都道府県知事は、営利を目的として病院などを開業しようとする者に対して、許可を「与えないことができる」となっています。逆にいえば、与えることもできるわけですが、現実的には、医業は非営利が前提という考え方が行政にもまた、医業関係者の間にも一般的であるため、許可が与えられることはほとんどありません。

ごくまれな例外として、もともと大企業の社内病院だった病院が、地域病院として発展した場合に、株式会社が医療法人の開設者として認められたことはあります(東芝病院など)。

株式会社は医療法人の社員になれない

また、医療法人においては、「社員総会」が最高意志決定機関であり、社員総会を構成する社員(従業員ではありません)の総意により、経営意志が決定されます。この社員になる資格については、以下のように規定されています。

2 社員総会に関する事項について
(5) その他
③ 社団たる医療法人の社員には、自然人だけでなく法人(営利を目的とする法人を除く。)もなることができること。

引用:医政発0325第3号 平成28年3月25日 厚生労働省医政局長通知「医療法人の機関について」

社員は、自然人(人間)の他、法人が就くことも可能ですが、営利を目的とする法人(株式会社)は社員になれないということです。

ただし、出資持分の定めがある医療法人においては、医療法人の社員と出資者とは異なる立場であるため、営利法人が出資者になることは可能です。

このように、非営利を前提とする医療法人と、営利を前提とする株式会社とは「水と油」のような関係に思えるかもしれません。

しかし、実際には、株式会社が医療法人をM&Aにより買収するなどして、実質的に医業経営に乗り出している例は、たくさんあります。それには、以下のような方法が用いられています。

  • 株式会社が医療法人の経営権を取得する(社員交代+出資スキーム)
  • MS(メディカルサービス)法人を活用する
  • 一般社団法人を活用する

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株式会社が医療法人の経営権を取得する(社員交代+出資スキーム)

近年、医業経営者の高齢化、後継者不在、地域住民人口の減少などを背景として、医療法人のM&Aが盛んに実施されるようになりました。

医療法人のM&Aにおいて、主流となっているのが、「社員交代+出資」のスキームです。このスキームは、譲り受け側が株式会社や投資ファンドであっても実施可能であることから、医療法人を買収する際に広く用いられています。

なお、出資が関係するのは、出資持分ありの医療法人だけで、持分なしの医療法人においては、そもそも出資という概念が規定されていないので関係ありません。2007年4月以降、持分あり医療法人は新設できなくなっていますが、現状でも社団医療法人の約3分の2が持分あり医療法人であり、特に、M&Aを検討するような医療法人は、経営者が高齢=業歴が長い場合が多いことから、持分あり医療法人が大半を占めています。そこで、現在でも、社員交代+出資スキームが医療法人M&Aの主流になっているというわけです。

株式会社の関係者が社員になる

医療法人の経営実務を担うのは理事会と、理事会を構成する理事です。また理事の代表が理事長です。そして、その理事を選出するのは、社員総会です。このことから、医療法人の最高意志決定機関は社員総会であることがわかります。

また、持分あり医療法人においては「出資者」という概念がありますが、社員の身分と、出資者の身分は別々に規定されています。

出資をしていなくても社員になることができ、また社員じゃなくても出資者となることもできます。(ただし、実際には創設者とその一族が社員=出資者となっている医療法人が多いでしょう)。

なお、社員総会での議決権は「社員1名につき1票」とされています。社員総会での議決権と出資持分は関係ありません。また、医療法人の理事長は、原則的に医師または歯科医師である必要がありますが、社員にはそのような制限はありません。

そこで、このスキームでは、既存の医療法人の社員に退社してもらい、それと交代に、株式会社の関係者が医療法人の社員になります。例えば、株式会社の役員、従業員が、会社を辞めて医療法人の社員に就く、といった具合です。先に述べたように、社員は法人でも就くことができますが、営利法人は不可とされているので、株式会社自体が直接社員になることはできません。しかし、株式会社を辞めた人間が社員なることは、もちろん問題ありません。

このようにして、株式会社の関係者を社員とすることで、間接的に株式会社が経営権を掌握することができます。

株式会社が医療法人の出資持分を取得する

一方、持分あり医療法人において、医療法人に対する財産権を表す出資持分については、株式会社が、理事長を中心とした出資者から買い取ります。既存の社員が持つ出資持分を株式会社が買い取って、社員には辞めてもらい、その代わりに株式会社の関係者を新社員として就任させる、というのが、このスキームの全体像です。

なお、基金拠出型医療法人などの出資持分のない医療法人の場合は、出資持分を買い取ることはできないので、基金を買い取ったり、医療法人から退職金を支給したりといった形を取ることが一般的です。

MS法人を設立(またはM&A)して経営に関与する(間接的経営)

MS(メディカルサービス)法人とは、法律上、医療機関だけがおこなうことができると規定されている医療業務など以外の、医療機関経営に関連する周辺業務をおこなう法人です。例えば、病院における売店、食堂等の運営、医薬品や医療機器の購入、人材管理、不動産管理、経理などの業務です。営利事業が禁じられている医療法人において、経営の効率化、あるいは節税などを目的として、MS法人は一般的に広く設立・運営されています。

MS法人という概念は、法的に規定されているものではなく事業内容を表す単なる通称です。法的な法人の類型としては、株式会社や合同会社などの営利法人です。したがって、それらのMS法人を、別の株式会社がM&Aで譲り受ける、あるいは新設して医療法人と取引をするということは可能です。

医療法人は、医業により計上された収益の一部を、MS法人との取引を通じて、MS法人に移転させることが可能です。株式会社がMS法人に対して投資をおこない、MS法人を通じて医療法人の収益の一部を得ることは、実質的に医療法人を経営していることと近い意義となります。

株式会社が一般社団法人を開設する

一般社団法人とは、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律を根拠に設立される非営利法人です。一般社団法人は、医療法人と同様に非営利法人であり、医療法人と同様、社員(従業員ではありません)がその構成員となります。

ただし、医療法人と異なり、一般社団法人では、株式会社も社員になれることができ、株式会社が直接一般社団法人の開設者となることができます。

そして、一般社団法人は非営利法人であるため、医療法人の社員にもなれます。そこで、株式会社が一般社団法人を設立し、その一般社団法人が医療法人の社員に就くなどして、医療法人経営に関与するという形で、ワンクッション挟んだ形で、株式会社が医療法人の経営に関与することが可能となります。

ただし、一般社団法人の社員が株式会社で、一般社団法人の事業が実質的に営利事業だと判断されると、自治体からの許可が下りない恐れもあります。そのため、病院を経営している一般社団法人は、理事長に医師が就任しているといったケースが多いようです。

まとめ

株式会社は、病院を直接経営すること禁止されていますが、様々な方法により、間接的に影響力を行使し実質的に病院経営をすることは可能です。しかし、医療経営は非営利が前提であるため、営利性を追求した経営をすれば、自治体や監督官庁などから指摘や指導を受けるリスクもあります。株式会社が医療法人を買収し、病院経営に関与したい場合は、経験豊富なアドバイザーなどの助力を得ることが必須だといえるでしょう。

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