医院継承(M&A)のトップ面談とは?スムーズな承継を実現するポイントを解説
目次
医院継承を検討する際、トップ面談に対して不安を抱える先生は多くいらっしゃいます。
売り手側にとっては長年築いてきたクリニックや病院を託す重要な判断の場であり、買い手側にとっても理想のクリニックとの出会いを左右する貴重な機会です。
トップ面談は単なる顔合わせではありません。お互いの医療理念や人柄を確認し、信頼関係を築いて医院継承の成否を決める重要な場です。
本記事では、トップ面談の基本的な流れから事前準備のポイント、当日の注意点など、トップ面談を成功させるためのポイントをまとめました。
初めてトップ面談に臨まれる先生でも安心して準備できるように、医療機関専門の仲介会社である私たち「エムステージマネジメントソリューションズ」が詳しく解説いたします。
トップ面談とは
M&Aによる異印象消えのプロセスにおいて、売り手側のクリニックの代表者と買い手側の代表者とが直接会って、医院継承に向けた話し合いを行うのが「トップ面談」です。
売り手側や買い手側が医療法人であれば理事長、個人経営の診療所などであれば院長が、その任を担います。
トップ面談の目的と重要性
トップ面談の目的は、売り手側と買い手側がお互いの現状を認識して、双方の理解を深めることです。
決して具体的な譲渡条件等を交渉するだけの場ではありません。
特に売り手側の院長にとっては、長年育んできた地域医療を託すにあたり、買い手側がどのような医療理念を持っていて、どのような経営ビジョンや診療方針を描いているのか、また、どのような人間性なのかといったことは非常に重視されます。
「お金さえ払ってくれれば、相手はどんな人でもいい」と考える先生はあまりいません。
買い手側にとっても、どのようなクリニックなのか知るための重要な情報をトップ面談がもたらしてくれます。
トップ面談は概要書などの書面では知ることのできない疑問を解消し、お互いの医療理念をはじめに、双方の考え方や人となりについて理解を深め合うために重要です。
初回のトップ面談で折り合いがつかずに破談となった事例
私たちエムステージマネジメントソリューションズが担当した、都内の皮膚科クリニックの譲渡事例では、売り手側の希望条件に完全合致する40代女性医師の買い手候補が見つかったにもかかわらず、トップ面談で破談となりました。
買い手側が「ひとつめの候補ですぐ決めていいのか」という迷いから譲渡価格の引き下げを要求し、また継承後の明確なビジョンを示せなかったため、売り手側の先生が「単に値下げしたいだけでは」と感じたことが原因でした。
この事例からも、トップ面談では価格交渉よりも相互理解と信頼関係の構築が重要であることが分かります。
関連記事:【首都圏×皮膚科】個人から法人に視野を広げたことで、ベストな形で医院継承できた事例
M&Aプロセスにおけるトップ面談が行われるタイミング
M&Aのディール(取引・交渉)プロセスは、おおまかに下記の手順で行われます。
- ソーシング:相手探し
- マッチング:相手との条件のすりあわせなど
~中間合意~ - エグゼキューション:マッチングした相手とのデューデリジェンス(買収監査)や契約書の策定・締結
- クロージング:代金の支払いや施設の引き渡しなど
上記の「マッチング」の最後の段階で、トップ面談が行われます。
トップ面談が行われるまでの詳細な流れは下記のとおりです。
トップ面談までの流れ | 内容 |
1:初期相談 | 医院継承について仲介会社に相談し、承継の時期や従業員の扱い、承継後のビジョンなどを話し合う |
2:秘密保持契約締結 | 仲介会社とNDA(秘密保持契約)を締結した上で、医療機関の現状を把握するための資料(財務書類など)を提出する |
3:価値評価・スキーム検討 | 譲渡予定の医療機関の価値評価(譲渡価格の推定)譲渡スキームなどを検討する |
4:買い手候補者の探索 | 売り手側が特定されない匿名性の高い簡易的な資料(ノンネームシート)を仲介会社が作成し、買い手候補者を探す(買い手候補者のリストを、売り手候補も確認する) |
5:詳細情報開示 | 興味を示した買い手候補者とNDAを締結した上で、より詳しい資料(企業概要書)を開示し、医院継承を検討してもらう |
6:意向表明書の提出 | 譲受けを具体的に検討する買い手候補者は、希望の譲渡価格や希望条件などが記載された意向表明書を売り手候補に提出する |
上記1~6までのプロセスを経たあとで、売り手側が買い手候補者のトップと会って話をしてみたいと判断した場合に、トップ面談が実行されます。
トップ面談の出席者
トップ面談の出席者は、売り手側と買い手側の代表者と仲介会社の担当者が出席して行われます。
秘密保持の観点から、従業員などが出席することは基本的にありません。
ただしクリニックの状況等を買い手候補者に伝える上で必要な場合は、理事長以外の役員などが出席することもあります。
なお、トップ面談ではクリニックの経営理念や事業内容、企業文化などが話し合われますが、相手側を十分に理解できなかった場合には、2回以上の面談が行われることもあります。
仲介会社の報酬はトップ面談で発生することが多い
多くのM&A仲介会社では、トップ面談が行われたあと(中間合意後)の段階で請求(報酬)が発生します。このようなケースの場合、トップ面談で破談になったとしても、M&A仲介会社に支払う費用は発生しません。
ただし、マッチングの初期段階から「着手金」といった名目の費用が発生するM&A仲介会社も一部あるので注意してください。
トップ面談の具体的な流れ
一般的にトップ面談は、以下のような流れで進行します。
トップ面談の流れ | 目安の時間 | 内容 |
自己紹介(名刺交換) | 15分 | 売り手側と買い手側の自己紹介と面談の流れの確認 |
売り手側の紹介 | 20分 | 医療理念やクリニックの特色など |
買い手側の紹介 | 20分 | 譲り受けを希望した背景や理由承継後の経営方針など |
質疑応答 | 30分 | 双方の疑問点や不安点などの質問 |
内見 | 30分 | 場合によってはそのまま内見を行う |
トップ面談は上記の流れで、おおよそ1時間〜2時間程度で行われます。
クリニックのトップ面談で最適な服装と身だしなみ
トップ面談の服装は基本的にビジネススーツ着用が推奨されますが、状況に応じた柔軟な対応も重要です。
男性は紺やグレーのスーツに白いシャツ、ネクタイ着用が礼儀正しい印象を与えます。
女性であればビジネススーツまたはジャケット着用が適切です。
ただし、売り手側から「スタッフがいる時間帯のため、カジュアルな服装で」とリクエストがある場合もあります。
ただし、そのような場合でもTシャツや短パン、サンダルなどの過度にカジュアルな服装は避け、きれいめなカジュアルに留めましょう。
手土産については持参される先生もいますが、必須ではありません。
あらかじめ仲介会社に、相手側の雰囲気や最適な服装について確認するのも良いでしょう。
第一印象で信頼感を与えられるよう、医療従事者として相応しい品格ある装いを心がけることも重要です。
トップ面談後の意思決定に重要な2つの情報
M&Aの譲り受けを意思決定するには、数値化して表せる「定量的な情報(定量情報)」と、数値化できない「定性的な情報(定性情報)」の2種類の情報が必要です。
それぞれ詳しく解説します。
数値化できる定量情報
決算書のデータをはじめとした定量的な情報は、通常M&A仲介会社が用意した資料によって確認ができます。
定量情報の主な種類 | 主な資料 |
医業収益、費用の額資産、債務、純資産外来・入院患者数スタッフ数希望譲渡価格開業年数、築年数 | 損益計算書貸借対照法各種統計資料ほか仲介会社が提供した資料 |
M&Aの希望譲渡価格は、これらの定量情報を主に用いて算出されますが、その譲渡価格自体も、もちろん買い手にとっては重要な定量情報です。
数値化できない定性情報
一方で定性的な情報とは、ニュアンスや現場の雰囲気などの言語化が難しく、直接会話しなければ伝わらない情報が多く含まれます。
買い手側が医療機関を譲り受けるのは、譲り受け後の事業継続によって、収益やスタッフ確保、既存施設との間での送患など、経営的な効果を得ることが目的です。
譲り受け後、スムーズに経営を引き継いで効果が得られるかどうかには、数値では表すことができない定性情報も大いに関係しています。
【主な定性情報】
- 医療理念や経営方針
- クリニックの組織文化
- 院内の雰囲気
- スタッフの士気
- 地域の評判
- 患者層の特徴
- 地域での評判
- 競合と比較した場合の強みや弱み
売り手側にとっては、数字には表せられないクリニックに対する想いや理念などを伝えられ、買い手側にとっても、自身の医療理念と売り手側のクリニックとの相性なども確認できるため、トップ面談は非常に重要な機会です。
トップ面談における売り手側の準備と注意点
トップ面談で売り手側の準備や注意点は、主に以下の3点です。
- 買い手側の質問は正直に正確に答える
- 直接の条件交渉は控える
- できる限り前向きな返事をおこなう
それぞれ詳しく解説します。
買い手側の質問は正直に正確に答える
買い手側からの質問に対しては、正直かつ正確に答えることが大切です。
トップ面談はお互いの相性や価値観、経営理念などを共有し、相互理解を深めることを目的として行われます。
その際には売り手側が聞かれたくないこと、言いたくないことを聞かれる場合もあります。
ここで事実と異なる情報を伝えたり、誇張した表現をしたりすると、後でトラブルが生じてしまいかねません。
実際デューデリジェンス(買収監査)によって事実と異なる情報が明らかになることが多く、それが買い手側の不信感を招いて破談になるケースもあります。
トップ面談を成功させるためには、双方の信頼関係と誠実な対応が必要です。
直接の条件交渉は控える
トップ面談でいきなり条件交渉を行うことは、控えたほうが無難です。
基本的にトップ面談は、両者の信頼関係を築く場であり、譲渡価額や条件などを交渉して詰める場ではないためです。
両者の間で会話が弾み、一気に条件の話まで進む場合もありますが、相手からの不信感を招かないためにも基本的には条件交渉は控えたほうが良いでしょう。
できる限り前向きな返事をおこなう
買い手側から問いかけがあった場合には「◯◯であれば検討可能です」のように、できる限り前向きな返事を行うように心がけましょう。
「それはできません」「無理です」などのネガティブな返事を繰り返した結果、相手との信頼が築けずに破談となってしまうことがあるためです。
トップ面談における買い手側の準備や注意点
売り手側のクリニックの状況にもよりますが、一般的に医院継承は売り手市場、つまり1件の案件に対して複数の買い手候補者が登場し、競合するケースが多いです。
そこで買い手候補者は譲渡してもらうためにも、トップ面談において売り手側のメリットを的確にアピールする必要があります。
- 承継後のビジョンを明確にしておく
- 尋ねるべき内容や共通の話題などを整理しておく
- 売り手側に寄り添い尊重する
承継後のビジョンを明確にしておく
トップ面談では、売り手側から下記のような質問をされるケースが多いです。
- 「うちのクリニックに興味を持った理由はなんですか?」
- 「もし承継が実現した場合に、どのような将来のビジョンを描いていますか?」
- 「M&Aで経営統合されることで、相互にどのようなメリットや相乗効果があると考えていますか?」
こうした売り手側の質問に対して的確な回答ができるよう、あらかじめ承継後のビジョンやシナジー効果等を明確に答えられるようにしておくことは必須です。
尋ねるべき内容や共通の話題などを整理しておく
トップ面談の前には、売り手側のWebサイトや経済情報サービスなどから基本的な情報を収集しておくように心がけましょう。
売り手側から「譲り受けるつもりなのに、うちのクリニックについて何も知らないのか」と思われては、譲り受けは難しくなるためです。
また、情報収集では、売り手側の院長個人に関する情報の把握も大切です。
たとえば卒業校や所属学会、医局などに関する人脈、執筆論文などの研究テーマに共通の話題がないかなどです。
なお、こうした質問内容は、仲介会社のアドバイザーに相談すれば教えてもらえます。
売り手側に寄り添い尊重する
医療機関の承継件数は年々増加しており、M&Aへの理解も少しずつ広まっています。
とはいえ、いまだに「買い手のほうが優位である」という大きな誤解を持たれた方も少なからずいらっしゃるのも事実です。
実際の医院継承において、売り手側と買い手側は完全に対等な関係にあります。
売り手側は院長1人または夫妻2人で検討されるケースも多く、孤独感や不安を感じている可能性もあります。
そのため「買ってやる」といった尊大な態度は厳禁ですが、そのように受け取られかねない言動にも注意が必要です。
トップ面談は条件を詰める場ではなく、信頼関係を築く場であることを忘れずに臨むことが大切です。
クリニックのトップ面談においてよくある質問
ここでは医院継承時のトップ面談に関して、よくある質問を3つご紹介します。
- トップ面談で質問される内容は?
- トップ面談はどこで行われますか?
- トップ面談後の意思決定はいつまでに行うべきですか?
それぞれ回答していきます。
トップ面談で質問される内容は?
トップ面談時に売り手側と買い手側、双方からよく出てくる質問内容は下記のとおりです。
【売り手側からよく出てくる質問】
- 「なぜ当院に興味を持ったのですか?」
- 「承継後はどのような医療を提供したいとお考えですか?」
- 「現在のスタッフの雇用についてはどうお考えですか?」
- 「地域医療における当院の役割をどう継承していただけますか?」
- 「患者さんへの対応で特に大切にしたいことはありますか?」
【買い手側からよく出てくる質問】
- 「どれくらいの年齢の患者さんが多いですか?」
- 「どのような地域からの来院が多いですか?」
- 「各医療機器の使用頻度はどれくらいですか?」
- 「カルテの入力は先生がされていますか、それとも事務の方がされていますか?」
- 「近隣で競合となる医療機関はどちらですか?」
トップ面談はどこで行われますか?
トップ面談は売り手側のクリニックで行われることが一般的ですが、場合によってはラウンジや個室などで軽い食事をしながら行うこともあります。
トップ面談後の意思決定はいつまでに行うべきですか?
一般的にトップ面談が終わってから、1〜2週間以内には意思を伝えることが望ましいでしょう。
売り手市場の現在、意思決定が遅れると他の買い手候補者に先を越される可能性もあるためです。
ただし、重要な決断であることも事実ですので、必要に応じて仲介会社に相談し、適切な検討期間を確保することが大切です。
まとめ:医院継承を成功させるにはトップ面談が重要
「条件や金額さえ合えば、誰にクリニックを譲ってもかまわない」と考えられる先生は少数派でしょう。
多くの経営者にとって医院継承は、経済的な合理性だけで割り切れるものではなく、これまで培ってきた医療理念やクリニックの存在そのものを重要視するものです。
だからこそ、双方の人となりを知るためのトップ面談は、とても重要です。
トップ面談は譲り受ける側の意思決定としても、非常に大きなウェイトを占めています。
資料の数字だけではわからない定性情報を得る場として、また買い手側が譲り受けるメリットを、売り手側にアピールする場としてトップ面談を活用しましょう
医療業界専門の仲介会社「エムステージマネジメントソリューションズ」なら、トップ面談の準備から当日の進行、面談後の意思決定まで、専門のコンサルタントが徹底サポートいたします。
医院継承で悩まれていることがあれば、お気軽にお問い合わせください。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月、プレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を上梓。
そのほか、医院承継の実務と現場知見に基づく発信を行っており、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演や寄稿も多数。医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。