医療経営・診療所経営

医療法人の理事とは?社員との違いや職務について

公開日
更新日
医療法人の理事とは?社員との違いや職務について

医療法人の理事は、法人の意思決定や業務執行を行う必須機関の一つで、株式会社の取締役に相当します。医療法人には社員総会、理事、理事会、監事が必要で、理事は2年任期で社員総会により選出されます。理事長は医師または歯科医師で、医療法人を代表します。理事会は業務執行の決定を行い、重要な資産の処分など一部の事項は理事に委任できません。理事は忠実に職務を行い、損害が生じた場合の賠償責任を負う必要があります。

理事と役割が異なるのが、医療法人の社員です。社員は株式会社の株主にあたり、社員総会で理事を選んだり解任したりする立場にあります。

本記事では、理事の役割と選び方、社員との違い、理事が担う職務と負う責任までまとめました。

医療法人の理事とは業務執行を決める必須の役員

医療法人の理事とは、理事会の一員として、医療法人の業務執行を決める役員です。医療法は、医療法人に置かなければならない「機関」を定めており、理事はその1つにあたります。

理事の立場を理解するために、まず「機関」の意味と、医療法人に置く機関を確認しておきましょう。

法人の機関は法人に代わって物事を決めて実行する役割

法人の機関とは、法人に代わって物事を決めたり、決めたことを実行したりする役割です。法人は、契約を結んだり財産を持ったりできますが、法人そのものは考えたり動いたりできません。そこで、法人の中に「決める役割」や「実行する役割」を置き、その役割に就いた人が法人の代わりに動きます。

身近な株式会社では、会社法が次のように機関を定めています。

  • 必ず置く機関:株主総会、取締役
  • 定款で定めれば置ける機関:取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会、指名委員会等

出典:会社法第326条|e-Gov法令検索

このうち、会社の方針を決めるのが株主総会、業務を進めるのが取締役です。医療法人にも、同じように医療法で定められた機関があります。

理事と理事会は医療法で置くことが決められた機関

医療法人は、理事と理事会を必ず置かなければなりません。医療法が、医療法人に置く機関を次のように定めているためです。

“社団たる医療法人は、社員総会、理事、理事会及び監事を置かなければならない。 2 財団たる医療法人は、評議員、評議員会、理事、理事会及び監事を置かなければならない。”

出典:医療法第46条の2|e-Gov法令検索

医療法人には、社員が集まってつくる「社団」と、寄付された財産をもとにつくる「財団」の2種類があります。令和8年3月末時点で、医療法人59,893法人のうち59,514法人と、99%以上が社団です。そのため本記事では、社団の医療法人を前提に説明します。

出典:医療法人数の推移(令和8年3月31日現在)|厚生労働省

社団の医療法人に置く4つの機関のうち、理事は理事会の一員として、医療法人の業務の進め方を決めます。株式会社でいえば、理事は取締役、理事会は取締役会です。

理事会は、理事の中から理事長を1人選びます。理事長は医療法人を代表する立場で、株式会社の代表取締役にあたります。理事長は原則として医師か歯科医師から選び、医師以外を選ぶには都道府県知事の認可が必要です。

関連記事:医療法人とは?設立のメリット・デメリットを詳しく解説

理事の選び方と任期・資格・人数

理事は社員総会で選ばれ、任期は2年以内です。選び方と任期、人数は次のとおりです。

▼理事の選び方・任期・人数

理事の選び方・任期・人数
項目内容
選び方社員総会の決議で選ぶ
任期2年以内(再任できる)
人数3人以上(都道府県知事の認可を受ければ1人か2人)

医療法人が開設する病院や診療所の院長は、理事に加えなければなりません。院長を退くと理事の職も失うため、医院継承で院長が交代するときは、新しい院長を社員総会で理事に選びます。

理事になれるのは個人だけです。次のいずれかにあたる人も、理事になれません。

  • 心身の故障のため、職務を適正に行えない人
  • 医療法や医師法など医事に関する法律に違反して罰金以上の刑を受け、刑の執行を終えるか執行を受けることがなくなってから2年たっていない人
  • 上記のほか、拘禁刑以上の刑を受け、刑の執行を終えるか執行を受けることがなくなるまでの人

出典:医療法第46条の4第2項・第46条の5|e-Gov法令検索

▶医療法人の運営体制も踏まえた親族内承継のポイントはこちら

医療法人の「社員」と「理事」の関係

医療法人の理事と社員の違いは、決める事柄の範囲です。社員は、理事を選ぶことや定款の変更など、医療法人の重要な事柄を最終的に決めます。

医療法人のイメージ図(社団の場合)

出典:厚生労働省「医療法人の基礎知識」

理事は社員から任されて日々の業務の進め方を決めます。株式会社でいえば、社員は株主、理事は取締役です。

▼医療法人の社員と理事の違い

項目社員理事
株式会社でいうと株主取締役
集まる会議社員総会理事会
決めること理事の選任と解任、定款の変更など医療法人の業務の進め方
なり方社員総会の承認を受けて入社する社員総会の決議で選ばれる

社員は、医療法人と雇用契約を結んで働く従業員とは別の立場です。理事は社員から任されて業務を決めているため、社員総会はいつでも理事を解任できます。理事長も同じです。

同じ人が社員と理事を兼ねてもかまいません。社員の中から理事や理事長を選ぶ医療法人もあります。一方で、理事の仕事を監査する監事は、理事を兼ねられません。

出典:医療法第46条の5第8項・第46条の5の2第1項|e-Gov法令検索

医療法人の理事の職務

医療法人の業務の進め方を決めるのは、理事会です。理事会はすべての理事で構成する会議で、次の3つの職務を担います。

  • 医療法人の業務執行の決定
  • 理事の職務の執行の監督
  • 理事長の選出と解職

細かな業務まですべてを理事会で決めることはできないため、日々の判断は各理事や院長、事務長などに任せられます。任された人が上げた稟議や報告を、理事会で承認する形で運営します。

ただし次の6つは理事に任せられず、理事会で決めなければなりません。

▼理事に任せられない事項

#事項
1重要な資産の処分と譲受け
2多額の借入れ
3重要な役割を担う職員の選任と解任
4従たる事務所などの重要な組織の設置・変更・廃止
5定款の定めにもとづいて、理事や監事の損害賠償責任の一部を免除すること(社団医療法人)
6寄附行為の定めにもとづいて、評議員や理事、監事の損害賠償責任の一部を免除すること(財団医療法人)
理事会でしか決められない、院長や事務長に任せられる

※条文は「次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定」としており、6つ以外でも重要な業務執行の決定は理事に任せられない 

出典:医療法第46条の7第3項|e-Gov法令検索

これらは理事長を含む理事1人に任せられず、理事会でしか決められません。たとえば、医療法人が持つクリニックの土地や建物を売るとき、理事長が理事会にかけずに1人で決めることはできません。

医療法人の理事が負う責任

医療法人の理事は、法令や定款、社員総会の決議を守り、医療法人のために誠実に職務を行う責任を負います。この責任を果たさずに損害を出した場合、理事は医療法人や第三者に、その損害を賠償しなければなりません。

理事が負う主な責任は、次の3つです。

  • 医療法人に大きな損害を与えるおそれのある事実を見つけたら、すぐに監事へ報告する
  • 任務を怠って医療法人に損害を与えたら、その損害を賠償する
  • 悪意や重大な過失によって第三者に損害を与えたら、その損害を賠償する

出典:医療法第46条の6の3・第46条の6の4(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第83条を準用)・第47条・第48条|e-Gov法令検索

たとえば、ほかの理事の不正に気づきながら黙っていれば、監事への報告義務に反します。

第三者への責任は、事業報告書などの書類の内容も対象です。理事が事業報告書などに事実と違う重要な内容を書いた場合、注意を怠らなかったと証明できない限り、第三者に与えた損害を賠償します。

関連記事:医療法人は売却できる?出資持分ありとなしの場合の譲渡スキームやしくみ

まとめ:医療法人の理事は社員から任されて業務を決める立場

医療法人の理事は、株式会社でいえば取締役のように、業務の進め方を決める立場です。理事は社員総会から任されて職務を行い、社員総会の決議を守らなければなりません。場合によっては、社員総会の決議で解任されることもあります。

社員と理事を同じ先生が兼ねている医療法人では、2つの立場の違いを意識する機会は少ないかもしれません。しかし、事業承継などで社員や理事が交代するときは、それぞれの役割を正しく理解しておく必要があります。

医院継承専門の仲介会社エムステージマネジメントソリューションズでは、専門のコンサルタントがしっかりサポートいたします。承継も視野に入れているという先生は、まずは資料をチェックしてみてください。

▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継サポートにお問い合わせください。

この記事の監修者

田中 宏典(医業承継M&Aアドバイザー/医療経営士1級/医業承継士/ファイナンシャルプランナー

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計70件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。

【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。