医療法人とは?設立のメリット・デメリットを詳しく解説

医療経営・診療所経営 2023/01/10

病院、クリニックなどの医療施設は、医師個人が個人事業主として経営する形と、医療法人が運営主体となって経営する形とがあります。両者にはそれぞれ一長一短があり、一概にどちらがよいとはいえません。

そこで、本記事では、まず医療法人とはどんな組織なのかを確認し、個人事業経営と法人経営の違い、医療法人化することのメリット、デメリットを解説します。

医療法人とは

医療法人は、医療法に規定された法人です。「法人」とは、自然人(人間)と同様に、法律上の権利・義務の主体になる能力(法人格)を持つ組織体のことです。

法人には多くの種類があります。まず、「公法人」(国や地方公共団体など)と、「私法人」とに分類されます。私法人は、営利を目的とする「営利法人」(株式会社など)と、営利を目的としない「非営利法人」とに分類されます。そして、非営利法人の一種として「公益法人」があり、医療法人はこの公益法人の一種となります。他の公益法人には、宗教法人や学校法人などがあります。

医療法において、医療法人は次のように規定されています。

医療法 第三十九条
病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
2 前項の規定による法人は、医療法人と称する。

引用:医療法

「病院、診療所、老健、介護医療院を開設する社団または財団」を、医療法人とすることができるということです。

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「非営利法人」の意味

医療法人はすべて非営利法人です。非営利法人の「非営利」とは、「利益を得えてはいけない」という意味ではありません。あくまで「構成員への利益分配を目的としてはいけない」という意味です。非営利法人であっても、収益から運営費用を差し引いた利益がマイナス(赤字)状態では、長期的な存続が難しくなることは当然です。

医療法人の法人格や組織形態としての分類

医療法人は、その組織形態や税法上の位置付けなどにより、いくつかの観点から区分できます。

社団医療法人と財団医療法人

上記医療法の規定に、「社団又は財団」と書かれているとおり、医療法人は、まず大きく分けて「社団医療法人」と「財団医療法人」とに分類されます。

「社団法人」とは、人の集まりを基盤とした法人であり、「財団法人」は、財産の集まりを基盤とした法人です。言い換えると、社団法人は「人がどんな活動をしたいのか」という発想を起点にして設立される法人であり、財団法人は「財産をどのように使うのか」を起点として設立される法人ということです。

なお、令和4年3月31日の時点で、全国に医療法人は57,141あります。そのうち社団医療法人数は56,774、財団医療法人数は367となっており、99%以上が社団医療法人です。

※参照:厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移」

社団医療法人における出資持分の定めのある医療法人と基金拠出型医療法人

医療法人の新規設立の際には、法人に一定の初期的な資産(自己資本)が必要とされます。

医療法 第四十一条
医療法人は、その業務を行うに必要な資産を有しなければならない。

引用:医療法

社団医療法人においては、社団を構成する「社員」が資金を拠出することとなります。なお、ここでの「社員」とは、社団法人の創設メンバーのことであり、従業員のことではありません。

経過措置としてのみ存続している、出資持分の定めのある医療法人

以前は、医療法人の社員は、法人に対して「出資」をすることと、その出資割合に応じた「出資持分」を保有することができました。社員を辞める際や、医療法人が解散する際には、出資持分割合に応じて、医療法人の有する純資産の払い戻しを受けることができました。

このような、「出資持分の定めある医療法人」は、2007年4月以降設立ができなくなっています

ただし、それ以前に設立された医療法人については、経過措置として、そのままでの存続が認められています。また、出資持分の定めのある医療法人を、次に述べる、基金拠出型医療法人に移行することもできます

基金拠出型医療法人

2007年4月以降に新規設立する社団医療法人については、社員が出資をすることや、出資持分を保有することができなくなっています。それに代わる社員からの資金の拠出制度として、「基金」制度が設けられています。

これは、医療法人の定款において、基金制度が定められていれば、医療法人の解散等の一定の場合には、基金の返還を受けることができるというものです。以前の出資持分との違いは、基金制度において返還されるのは、医療法人の純資産額にかかわらず、拠出した際の額面金額が上限とされる点です。簡単にいえば、出資した金額が増えることがなくなり、より非営利法人の趣旨に即することとなりました。

なお、定款において基金制度の定めがなされていなければ、拠出した金銭の返還を受けることはできません。

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社会医療法人と特定医療法人

医療法人には、特に公益性の高い医療施設を運営する医療法人に対して、税制上の優遇などを定めた類型が設けられています。それが、社会医療法人と特定医療法人です。

公益性の高い医療を提供する社会医療法人

先に述べたように、非営利法人であっても、採算が悪化して利益のマイナス(赤字)が続けば存続は困難となるため、一定の利益を確保する必要はあります。

その一方、医療行為には、救急医療やへき地医療、周産期医療、災害医療など、採算性が悪くても取り組む必要がある、公益性の高い分野も存在します。

そのような公益性の高い医療は、主として国公立病院が担いますが、それらだけでは不十分であるため、民間病院からも公益性が高い医療が継続的に提供されることを目的として設けられた、医療法上の法人類型が「社会医療法人」制度です。

社会医療法人として認定されると、一定の収益事業を行うことが認められる、収益事業の本来事業は非課税になるなど、多くのメリットを受けられます。その反面、認定には、医療法人の組織構成面や運営面において、厳格な条件が設けられています。

特定医療法人

特定医療法人とは、租税特別措置法に基づき、

財団又は持分の定めのない社団の医療法人であって、その事業が医療の普及及び向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与し、かつ、公的に運営されていることにつき国税庁長官の承認を受けたもの

引用:厚生労働省Webサイト「特定医療法人制度について」

とされています。

上記の文言からもわかるとおり、特定医療法人も、公益性の高い医療施設を運営する医療法人を認定する制度です。ただし、社会医療法人が医療法に規定された法人類型であるのに対して、特定医療法人は法人税の軽減税率が受けられる法人として、租税特別措置法に規定された類型であるという違いがあります。

特定医療法人の認定を受けるためにも、やはり医療法人の組織構成面や運営面においての厳しい条件が設けられています。

ハードルが高いため、全医療法人56,774のうち、社会医療法人は338、特定医療法人は331しかありません。

個人事業の医師が医療法人化するメリット

現在では、医師がクリニックなどを新規開業する際には、最初は個人事業として開業し、その後、経営が軌道に乗った段階で、個人事業の医療法人化が検討されるプロセスが一般的です。

医療法人を経営するのは、個人事業に比べて、手間も費用もかかります。また、都道府県によっては、個人事業としての2年程度の医療施設経営実績がないと、医療法人設立許可を出さないところもあります。

そのため、まず個人で開業し、後に医療法人化するのが一般的となっているのです。

もちろん、患者への医療提供という点においては、運営者が個人であるか医療法人であるかによる違いはないため、中には個人事業のままずっとクリニック経営を続ける院長もいます。

では、個人事業を医療法人とすることには、どんなメリットがあるのでしょうか。

事業拡大をしやすくなる

医療法人化による最大のメリットは、医療事業を拡大していく際に有利な点が多いことでしょう。具体的には、下記のようなものが代表的です。

複数の医療施設や、老健など介護施設の開設が可能となる

個人事業の場合、診療所などの開設者(院長)が、別の医療施設(病院、クリニック)を開設したり、老健や介護医療院など介護施設を開設することはできません。例えば、最初に開設したクリニックの評判がいいため、副院長を雇うなどして、近隣地域に分院を作ろうと思っても、それができないのです。医療法人であれば、そのような制限はなく、いくらでも事業を拡張できます

また、医療法人であれば、医療施設以外に老健などの介護施設を運営して、連携させながら経営するといったことも可能となります。

人材を雇用しやすい

事業拡大を図る際には優秀なスタッフの増員は欠かせません。その点、医師や看護師、技師、事務員などのスタッフを雇用するにも、個人経営の診療所よりも医療法人のほうが採用をしやすい傾向があります。

社会的信用が増す

もともと医師の社会的な信用は高いものですが、個人事業より医療法人のほうがより高くなります。そのため、例えば診療所を拡張したり最新設備を導入するために、金融機関から融資を受けたりする場合にも、医療法人のほうが有利になるでしょう。

事業承継しやすい

個人事業の場合、医療施設、医療設備その他、医業に関して、院長が所有しているものはすべて個人の財産となり、相続税や贈与の課税対象となります。そのため、子に医療施設を承継させようとする場合には、承継手続きは複雑で、納税対策も難しくなります。

一方、医療法人で医療施設を経営する場合、医療法人そのものの承継だけで済むので承継はシンプルです。また、現在の基金拠出型医療法人であれば、課税対象となるのは基本的に、出資した基金の額面金額のみとなるので、医療法人の承継に関して多額の納税負担が生じません

なお、事業承継の一類型に第三者承継(いわゆるM&A)がありますが、これも個人事業より、医療法人のほうがやりやすくなります。

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税負担が減少する場合がある

個人事業の場合、事業利益に課されるのは所得税・住民税であり、医療法人の場合は法人税となります。税目が異なれば税率に違いがあり、超過累進税率における最高税率が所得税よりも法人税の方が低いので、所得金額によっては、法人化により税負担が減少する場合もあります。

ただし、後述する社会保険料負担の増加や法人化することによる費用の増加を考慮すると、所得税・住民税が多少減少しても総合的に見た金銭的負担は増加する場合があります。この点は、必ず税理士にシミュレーションしてもらったほうがよいでしょう。

医療法人化によるデメリット

医療法人化には、メリットだけではなく、以下のようなデメリットもあります。

法人の維持に手間とコストがかかる

法人化すると、会計、税務、社会保険などの手続きを専門の士業者に依頼しなければなりません。そのコストだけで最低でも年間50~100万円程度、場合によってはそれ以上かかることになります。

また、税務、法務、社会保険関係の各種手続きの手間が非常に増えます。それを処理するための事務スタッフを雇用すれば、その人件費も必要になります。

社会保険加入が義務となる

個人事業主の場合、従業員が5名以下であれば社会保険加入義務はありません。しかし、医療法人化をすると、たとえ院長1名だけの法人でも、社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金)加入が義務化されます。そして社会保険料は、所得に応じて上昇するので、高い役員報酬を受ければ、非常に高額になります。しかも、社会保険料は院長個人と法人の両方が負担しなければなりません。

一方、個人事業主の場合に加入できる、医師国民健康保険などは、保険料が非常に安く、また国民年金は定額であるため、一般的には法人化すると、社会保険料負担は何倍にも増加(個人分+法人分)します

法人の資金は自由に使用できない

個人事業の場合、収入から費用を差し引いて残ったお金は、院長が自由に使うことができます。しかし法人の場合、院長個人の所得となるのは法人から受け取る役員報酬(給与)だけです。個人と法人は別人格となるので、法人の現預金を院長が自由に使うことは、基本的にできなくなります。

廃業するのが大変

もし後継者が不在で将来、医療施設を廃業したい場合、個人事業であれば比較的簡単ですが、医療法人の場合、廃業手続きにもかなりの時間と手間、費用がかかります。

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まとめ

複数のクリニックを開院するなどして、医業経営を拡大していきたいと考える場合や、多くの優秀なスタッフを雇い入れたい場合は、医療法人化は不可欠となります。

しかし、そういった志向がない場合は、法人化のメリットとでデメリットを天秤にかけて、慎重に検討したほうがよいでしょう。

特に、よく「節税」目的で医療法人化ということがいわれますが、法人維持コスト、社会保険料負担を考えると、相当に高い所得を得ている院長でないと、その恩恵は受けられません。慎重に検討なさってください。

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