クリニックの廃業率は0.47%|倒産・廃業の理由と対策

最新情報 2023/01/20

毎年、多くのクリニックが新規開業しています。その一方で、残念ながら廃業となってしまうクリニックも存在します。クリニックの廃業は、必ずしも経営不振による、いわゆる倒産とは限りませんが、廃業率は足元で増加傾向にあることからも、すべてのクリニック経営者にとって、決して他人事とはいえません。

本記事では、クリニック廃業の実態とその理由、また廃業を防ぐために講じるべき対応策などを検討していきます。

クリニックの廃業数、廃業・倒産率

調査会社の帝国データバンクでは、「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)」「医療機関の倒産動向調査(2021年)」という資料を公表しています。

それらによって、クリニック(診療所)の休廃業件数、倒産件数がわかります。(なお、同調査では「休廃業・解散」件数として記載されていますが、本記事では「休廃業・解散」をまとめて「廃業」と呼びます)。

 2016年2017年2018年2019年2020年2021年
廃業件数375366387444411471
倒産件数161314221222

調査は、病院、診療所、歯科医院ごとにまとめられています。いわゆるクリニックとは「診療所」のことで、病床数20床以下の有床診療所と無床診療所が含まれています。

調査によると、クリニックの2021年の廃業件数は、2016年以降で最高となる471件です。

また、クリニックの倒産件数は、2021年は、2019年と並ぶ22件で、2010年以降では最多となっています。

一方、厚生労働省が公表している、「医療施設動態調査」(2021年10月)によると、日本国内にクリニックは10万4,538施設あります。10万4,538のクリニックのうち、帝国データバンク調べの廃業・倒産件数が493件なので、全体数と廃業・倒産数を比べた廃業・倒産率としては、約0.47%ということになります。

※出典:厚生労働省「医療施設動態調査」(2021年10月)

ちなみに、中小企業庁によれば、日本の中小企業数は約358万社です※1。また、2021年に休廃業した企業数は約4万4,000社、倒産した数は6,000社程度でした※2。あわせて約5万件とすると、廃業・倒産率は約1.4%になります。一般企業と比較すると、クリニックの廃業・倒産率はかなり低いといえるでしょう。

※1出典:中小企業庁
※2出典:東京商工リサーチ

単純にいえば、「医療機関はつぶれにくい」ということで、これは常識的なイメージ通りかもしれません。

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クリニックが倒産したり廃業したりするケース

なお、「廃業」と「倒産」を同じようなものだと思っている方がいるかもしれません。しかし、調査結果が別々に公表されていることからもわかるとおり、両者は別の概念です。

帝国データバンクでは、「医療機関の倒産動向調査」において、倒産は「法的な整理を伴うもの」とし、負債額1,000万円以上の倒産が集計されています。

一方、「医療機関の休廃業・解散動向調査」における休廃業は、倒産を除いて、実質的に事業活動を停止している休業状態のものや、解散登記がなされた医療機関が集計されています。

クリニックが倒産に至る原因は、経営不振、債務超過

法的な整理を伴う倒産は、一般的には財務上、債務超過(総資産よりも総負債が多い状態)となり、金融機関からの借入金などが返済できない場合に、陥るものです。そういった状態に陥ってしまうのは過剰な設備投資(特にクリニックの建物など)や、なんらかの理由で患者数が減少して医業収益が減少し、赤字が続くなどの原因が考えられます。

医療法人によるクリニック経営の場合、債務者となる医療法人は、債権者に対して債務を返済するために、法人が保有する資産の売却などをしなければなりません。また、債務に対して個人保証(連帯保証)をしていれば、法人とあわせて個人の資産からの返済を求められるため、理事長の自宅不動産などを含めた個人資産を差し押さえられて、自己破産せざるを得なくなることもあります。

法人化していない個人経営のクリニックであれば、個人資産を差し押さえられます。

クリニックが廃業する理由は様々

一方、廃業とは、単にクリニックを閉鎖して、事業を辞めるということを意味しています。クリニックが廃業する理由は、次のように様々です。

  • 経営不振
  • 院長の高齢化や体調不調に伴う退職
  • 後継者不在

経営不振

収益の減少など、経営不振が理由でクリニックを閉鎖する場合であっても、借入金をすべて返済するなどして、債務がない状態にできる余力があれば、法的な整理である倒産ではなく、廃業をすることができます。例えば、医療法人で経営するクリニックは赤字で債務超過であっても、院長の個人資産で銀行からの債務等を返済しゼロとできれば、法的な整理ではない廃業が可能です。

院長の高齢化や体調不調などによる廃業

経営的にはしっかりと収益を残し、好調のクリニックでも、医師が院長ひとりの場合、院長が高齢化や体調不良などにより診療できなくなれば、廃業を検討せざるをえなくなります。

また、医師である院長が医業ではなく、別の事業を行うためにクリニックを廃業するということもありえます。

後継者不在

特に院長の高齢化による廃業の場合は、後継者不在問題がセットになっていることが多いでしょう。仮に、院長が診療できなくなったとしても、院長の子など、クリニックを引き継いでくれる医師がいれば、クリニックの閉鎖・廃業には至らないはずだからです。しかし、近年は後継者不在から廃業に至るクリニックが増えています。

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廃業を防ぐため、今後のクリニック経営に求められること

適切なマーケティング施策を打ち、収益を確保する

クリニックは、診療報酬により収入が安定していることや、患者数が景気に左右されないこととなどから、一般的な中小企業と比べれば、経営不振に陥りにくい業種です。

とはいえ、2000年代以降、クリニックの数は右肩上がりで増加しています。そのため、年々、競争環境が厳しくなっていることも事実です。

また、近年のクリニック経営を難しくしているのは、患者の意識変化です。SNSなどネットの口コミでクリニックの評判がすぐに拡散する時代ですので、患者にも適正な医療サービスを受けるために、クリニックを選別するという意識が強くなっています。そのため、一度悪い評判が立つと経営への悪影響は大きくなります。

そのような環境下において必要となるのは、クリニックが“医療サービス業”であることをしっかりと認識した上で、患者満足度を向上させるような診療を行い、さらにしっかりしたマーケティング施策を打つことです。

マーケティングとは、どんな患者さんに、どんな医療サービスを届けたいのかを明確にした上で、それをしっかりと発信していくことです。

特に、ネットマーケティング(SEO、MEO対策や、SNS活動)にしっかり取り組むことは、廃業しないクリニック経営のために必須となっています。

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スタッフ管理、スタッフ教育

ここ数年は、人手不足が恒常化しており、スタッフの雇用や労務管理がクリニック経営の大きな課題となっています。基本的に、労働世代の人口減少は続いていくため、今後もその状況が改善されることは望み薄です。

クリニックの場合、スタッフの患者への対応やサービスの品質が集患、引いては収益に大きな影響を与えます。

スタッフの労働環境を可能な限り改善するとともに、しっかりしたスタッフ教育を実施することが、クリニック継続のためには欠かせません。

後継者の医師を早期から確認し、後継者がいない場合は第三者承継も視野に入れる

しっかりした診療を施し、患者満足度が高いクリニックであっても、院長が高齢化して診療ができなくなったときに、後継者がいなければ廃業するしかありません。それを防ぐためには、もし院長に医師の子がいる場合は、早くから承継の意志を確認しておくことです。

近年増えているのが、「子が医師だったら、同然クリニックを継ぐだろう」と考えていて、しっかりした話をしないままにしておいて、いざそのときになったら、子から「自分はクリニックを継ぐ気はない」と告げられることです。現代では「子だから親の事業を継ぐのが当たり前」といった考え方は通用しません。早めにきちんと親子で話し合いをしておくことが肝要です。

一方、院長に子がいない、あるいは子が医師ではない場合に、自分一代で廃業するのか、第三者に承継してもらうのかは、早期に検討しておくべきでしょう。最近は、クリニックの第三者承継(M&A)も実施されることがありますが、相手選びの段階から含めると、実施には数年の時間がかかることもあるので、早期の準備は必須です。

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まとめ

医師が院長1人のクリニックの場合、その院長が診療できなくなったときのことを早めに考えておくべきでしょう。廃業を避けたいのであれば、収益面、後継者面の両面を見据えた準備が必要です。

また、収益状況が芳しくなく、赤字が続いているような場合は、早めに「見切って」、余力があるうちに廃業を選ぶことで、傷口が広がるのを防いだほうがいいこともあります。

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