「AIホスピタル」構想が描く近未来の医療

最新情報 2023/01/11

近年、AI(人工知能)技術は急速に進歩し、すでに多くの分野で実装されていることは、ご承知の通りです。医療の分野においても、AIが活用されることで、我が国の医療の課題である医療従事者不足や、医療費増大などの解決に資することが期待されています。

その中心となるのが、AIを中心に、IoTやビッグデータなどの技術を活用して効率的に医療を提供する「AIホスピタル」構想です。

本記事では、AIホスピタルの概要や、実現によるメリット、AIホスピタルを実装するためのプラットフォームなどについて解説します。

AIホスピタルとは

出典:内閣府 AIホスピタルによる高度診断・治療システム推進委員会 参考資料

「AIホスピタル」構想は、医療機器やIoTを通じて医療ビッグデータを構築し、さらにそれを通じて、医療の効率化や医療従事者の負担軽減、また、高度で先進的な医療サービスを、広く医療現場で提供できるようにする構想です。

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AIホスピタル登場の背景

かねてより、医療現場においては人的リソースの不足が課題とされてきました。

先行して進んだ看護師などコメディカルスタッフの働き方改革に続いて、2024年からは、医師の働き方改革により時間外労働の総量規制が導入されるため、特に地方部においては医療従事者の不足が深刻化する懸念があります。

しかし、国家資格を有する医療従事者の労働力確保は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。

そのような状況下で求められているのが医療業務の効率化、医療従事者の負担軽減であり、その鍵を握る1つとなっているAI技術を用いた医療体制の構築です。

具体的には、すべての医療判断を医師や看護師などの人が行うのではなく、医療データの情報処理や診断・治療候補の提示をAIがサポートする仕組みを整えることにより、医療従事者の負担軽減が期待されます。

また、診療の質の全般的な向上にもつながることから、医療従事者側だけではなく、医療サービスを受ける患者側にとっても有益なものです。

さらには、医療教育やコミュニケーションなど、多くの場面でAIが活用されていく未来が想定されます。

このように医療技術のイノベーションを推進する目的で、AI技術を用いた医療提供体制、すなわち「AIホスピタル」が求められるようになっているのです。

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AIホスピタル構想を推進している主体

内閣府の主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として、「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」に向けた取り組みが推進されています。

AIホスピタル実現に向けた取り組みは、複数の研究グループが一丸となって推し進められていますが、中心を担う機関として組織されたのが「医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)」です。

HAIPは、医療機器関連企業、大学、研究所など、14法人が組合員となっていますが、運営上の内部統制については、日本医師会内部に設立された「日本医師会AIホスピタル推進センター(JMAC-AI)」が担っています。

内閣府をトップとしながらHAIPやJMAC-AI、その他の多様な企業が協力し合うことにより、我が国のAIホスピタル実現に向けた事業は展開されています。

AIホスピタル実現によるメリット

AIホスピタルが実現されれば、医療にかかわる「医療機関」「患者」「国(医療行政)」のそれぞれにメリットがもたらされると考えられます。

医療機関のメリット

AI技術の活用により効率的な医療提供体制が整えば、結果として医療機関の経営上のさまざまなメリットが期待できます。

まず医師の負担軽減があります。2024年から医師の働き方改革により時間外労働時間の上限規制が実施されます。現在もよりも限られた医師の労働時間において、AIの診療補助によりがより効率的な診療を実施する助けとなります

また、医師の負担が軽減することで、医師は本来の医療行為に集中できるようになり、医療サービスの質はおのずと向上します。そうすれば患者の医療への満足度は増し、病院への定着率が高まることを期待できるはずです。

さらに、先進的なテクノロジーによる業務効率化やDXの推進によって魅力的な病院運営を実施していれば、優秀な医療人材の獲得にもつながります。

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患者のメリット

AIホスピタルでは、医療ビッグデータの構築が目指されています。AIによるビッグデータ分析により、患者にとってより客観的に適切な診療が受けられる可能性が高まります。

また、AIが診療を補助することにより、属人的な判断ミスによる医療過誤などの恐れが減少することも期待されます。

より正確な診療が、より広く受けられるようになることが、患者にとってもメリットだといえるでしょう。

国(行政)のメリット

最後に国(行政)のメリットがあります。AIホスピタル構想が「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に採択されていることからもわかるよう、国家戦略的なメリットがあります。

まず、超高齢社会において膨張を続ける医療費の抑制効果が挙げられます。医療ビッグデータの解析に基づいて、効率的な治療法の選択がされ、入院日数の短縮や、医薬品使用の適正化が可能となれば、総医療費の抑制につながることが期待されます。また、適切な医療により、患者の社会復帰の早期化が実現することは、労働力人口の減少対策ともなります

さらに、AIホスピタル構想において、国際的にみて先進的な医療AI技術が開発されれば、我が国医療の国際競争力の向上にもつながるでしょう。

実装が進む医療AIプラットフォーム

HAIPとJMAC-AIが進める医療AIプラットフォームは、「サービス事業基盤」「AI開発基盤」の2つの要素から構成されます。

「サービス事業基盤」では、高度で先進的な医療AIサービスを一元的に提供するポータルサイトを提供し、医療機関等の利用者がこのポータルサイトを介して医療AIサービスを安全に利用することを可能とします。

これにより、医師などの利用者が、診療現場で患者と向き合う時間を増やしたり、働き方改革などに寄与したりすることが期待されています。

一方「AI開発基盤」は、医療AIサービスの開発ベンダーや研究者がデータベースを仮想的に利用して医工連携を推進し、高度で先進的な医療AIサービスを開発できる環境の基盤となります。

2つの要素のうち、「サービス事業基盤」については、試行運用が実施されています。試行運用における目的は、医療AIプラットフォームを通じて、以下の運用をすることです。

  • 画像データによる診断補助AIサービスについて、利用者を拡大する運用。
  • 医師以外の入力時におけるAIによる問診支援や、医師による医学情報データベースの参照サービスの運用
  • 医師間のコミュニケーションを支援したり、医師等が作成したコンテンツを共有したりするサービスの運用

また、試行運用されている具体的な製品・サービスは以下の通りです。

製品・サービス名提供ベンダー概要
LOOKRECエムネスブラウザのみで稼働することができる100%クラウドベースのDICOM画像閲覧ビューワ
EIRLBrainAneurysmエルピクセル脳MRA画像から脳動脈瘤診断を支援する医療AIサービス
今日の問診票with CDプレシジョン診療録作成から3,000疾患700病状の所見、全処方薬情報検索までをサポートするAI問診票
AntaaQAアンター登録者3万7000人を超える、地域・診療所を超えた医師同士による質問解決プラットフォーム

まとめ

AIホスピタルが実現すれば、医療経営の改善や診療上の負担軽減、患者の満足度向上などさまざまなメリットが期待できます。急速に進行する高齢化社会や医療費の増大など、我が国が直面している医療分野の諸問題を解決するために、医療AIプラットフォームの実現は重要な意味を持ち、その本格的な実装が待ち望まれています。

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