オンライン診療ガイドラインの要点をわかりやすく解説
目次
オンライン診療ガイドラインは、医療従事者不足や医師偏在、ICTやAI技術の発展、コロナ禍の影響を背景に作成されました。オンライン診療の普及促進のための基本理念や遵守事項が示されており、信頼関係や安全性確保が強調されています。また、初診からのオンライン診療や薬剤処方の制約も定められています。オンライン診療を提供する医師は、厚生労働省の研修受講が必須です。
オンライン診療ガイドライン作成の背景
近年、オンライン診療が注目されるようになった背景として、一方には、恒常的な医療従事者不足や医師偏在、医師の働き方改革推進など、医療業界における様々な課題があります。そして、もう一方には、ICT(情報通信技術)やAI技術の飛躍的な発展があります。その2つの背景から、今後普及が見込まれるオンライン診療に、医療機関が取り組む際の枠組みを提示したのが、2018年に厚生労働省より公表された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(ガイドライン)です。
その後、2020年春からのコロナ禍を経て、オンライン診療に対しては、医療現場からと、社会からの、両方のニーズが急速に高まりました。それを受けて、同ガイドラインは2022年1月に、一部が改定されています。
オンライン診療ガイドラインでは、医師や患者、その他の関係者が安心して利用できるオンライン診療の普及を促すため、オンライン診療に際して最低限遵守する項目や推奨される考え方が示されています。オンライン診療への取り組みを進めたい医療関係者であれば、ぜひ押さえておくべき内容です。
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遠隔医療のなかの「オンライン診療」
そもそも遠隔医療とは、情報通信機器を利用した健康増進、医療に関する行為のことです。
ガイドラインでは、これまで定義が曖昧であった遠隔医療の概念が整理され、「オンライン診療」「オンライン診療勧奨」「遠隔健康医療相談」の3つに分類されました。
オンライン診療とは
そのうちの「オンライン診療」とは、情報通信機器を通して診察や診断、処方などの診療行為をリアルタイムで行うこととされます。
オンライン診療勧奨とは
オンライン診療勧奨とは、遠隔医療のうち情報通信機器を通して患者の診察を行い、患者個人の心身の状態に応じた最低限の医学的判断をともなう受診勧奨のことです。
遠隔健康医療相談とは
遠隔健康医療相談は、医師が行うものと医師以外が行うものとにわかれます。
医師が行う遠隔健康医療相談は、遠隔医療のうち情報通信機器を利用して得られた情報のやりとりを通して、患者個人の心身の状態に応じた医学的助言を行う行為を指します。
一方で、医師以外が行う遠隔健康医療相談は、一般的な医学的情報の提供や受診勧奨にとどまり、診断などの医学的判断をともなわない行為です。
オンライン診療ガイドラインに示された6つの基本理念
オンライン診療ガイドラインでは、医師がオンライン診療を行う際に従うべき、6つの「基本理念」が示され、オンライン診療はこの基本理念に則って行われなければならないとされています。
はじめに記されている「医師-患者関係と守秘義務」では、オンライン診療は、医師と患者の相互信頼が必要とされることから「かかりつけの医師」にて行われるのが基本であること、対面診療を適宜組み合わせることが定められています。
続く、「医師の責任」では、オンライン診療において医師が行う診療行為の責任は、原則として当該医師が負うこととされ、そのためオンライン診療で十分な情報が得られないと判断したときは対面による診療に切り替えることが必要だとされます。
「医療の質の確認及び患者安全の確保」では、医師はオンライン診療において自らが行った診療について、対面診療の場合と同様に治療成績などの有効性の評価を定期的に行わなければならないと規定されます。
「オンライン診療の限界などの正確な情報の提供」で記載されているのは、医師はオンライン診療における利点や不利益について理解し、患者や家族などに対する事前説明を行わなければならないといった内容です。
「安全性や有効性のエビデンスに基づいた医療」では、適切なオンライン診療普及のため、医師は安全性や有効性についてエビデンスに基づいた医療を行うこと、また治験や臨床試験などを経ていない安全性の確率されていない医療を提供しないことが記されています。
最後に「患者の求めに基づく提供の徹底」においては、オンライン診療は患者の求めがあって実施されるものであり、研究など医師の都合のみにより行うことに対して注意喚起を行っています。
オンライン診療の提供に関する事項
先述のように、ガイドラインは2022年1月に改定されています。改定の眼目は、初診からのオンライン診療が認められたことです。
初診からオンライン診療を行う場合、医師と患者間における信頼関係が構築されていることが必要であるため、「かかりつけ医師」が行うことが原則とされています。またオンライン診療を行っていても、必要に応じて対面診療を組み合わせることが原則です。
なお、オンライン診療には、利点と不利益があります。医師は、オンライン診療における利点と不利益について、患者に対して適切に情報提供し、患者の合意を得た上で、オンライン診療が行われなければなりません。
つまり、患者からの求めがあってはじめて実施されるものであり、医師側の一方的な都合で行うものであってはならないとされています。
また、オンライン診療を開始する際には、医療の安全性の担保および質の確保・向上や利便性の向上を図るために「診療計画」を定めておくべきことが重要であるとされています。
薬剤の処方についても一定の制約があり、初診の場合には、処方できない薬剤なども示されています。
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オンライン診療の提供体制についての事項
ガイドラインではオンライン診療を提供する際、医師の所在や患者の所在、通信環境などについてどうあるべきかなども定められています。
医師の所在に関して、オンライン診療を行う医師は医療機関以外の場所でも診療の提供ができますが、医療の質を確保するため、騒音などがなく、ネットワークが安定している環境下で実施される必要があると説明されています。
また、患者に関するセンシティブな情報が漏洩しないように、公衆の場ではオンライン診療を行わないようにすること、オンライン診療を行う医師は、責任の所在を明らかにするためにも、医療機関に所属しているべきであることなども定められています。
一方、患者の所在に関しては、対面診療の際と同様に清潔かつ安全で、プライバシーが保たれるように外部から物理的に隔離された空間で行われる必要があると記載されています。
通信環境に関しては、医師はオンライン診療を計画する際、患者に対してオンライン診療システムのセキュリティリスクを説明し、同意を得なければならないとされています。そのため、医師はオンライン診療に用いる情報通信機器などのシステムについての理解を深めることが必要です。
研修の受講
オンライン診療を実施しようとする医師は、オンライン診療に責任を有するものとして、また情報通信機器の使用や情報セキュリティについての知識を習得するため、厚生労働省が定める研修を受講する必要があります。
研修プログラムは5科目からなり、「オンライン診療の基本的理解とオンライン診療に関する諸制度」「オンライン診療の提供に当たって遵守すべき事項」「オンライン診療の提供体制」「オンライン診療とセキュリティ」「実臨床におけるオンライン診療の事例」といった内容で構成されています。
研修プログラムは各科目ともe-learning形式で、インターネットで講義用動画を視聴して受講し、研修を受講したあとは10題の演習問題を解くこととなります。この研修を修了すると、オンライン診療研修修了証の発行ができます。
オンライン診療研修を受講する際には、「緊急避妊薬の処方に関する研修」も受講することができ、このプログラムの受講を修了することにより緊急避妊薬の処方にかかるオンライン診療研修修了証を取得することができます。
オンライン診療にかかる点数
2022年1月のガイドライン見直しをふまえ、情報通信機器を用いた場合の初診料について新たな診療報酬の評価が設定されました。
2022年4月以降、厚生労働大臣が定める施設基準を満たした保険医療機関においてオンライン診療の初診を行った場合、算定できる点数は251点です。
再診料についてはオンライン診療料が廃止され、情報通信機器を用いた場合の再診料が73点、また外来診療料が73点との評価も新設されました。
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まとめ
2022年1月改定のガイドラインで、初診からのオンライン診療が制度化され、かかりつけ医師が診療を行うことが規定されたのは、新型コロナウイルス感染拡大を受けた規制緩和の動きです。コロナ禍を背景として、社会のあらゆる領域においてオンライン化が進展する中、医療機関においてもオンライン診療普及の流れがとどまることはないでしょう。
とはいえ、オンライン診療には利点もあれば欠点もあり、また患者の属性によっての向き不向きがあります。対面診療と適切に組み合わせた導入が求められます。
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この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。