医療法改正の概要と開業医が考えるべきこと

最新情報 2023/02/06

2021年5月、通常国会において、医師法や感染症法、労働基準法などの関連法とともに、医療法が改正されました。

本改正の主な内容として、医師の働き方改革、医療関係職種の専門性活用によるタスクシフト・タスクシェアの推進、また、地域医療構想の推進など地域の実情に応じた医療提供体制などとなっています。

本記事ではこれらの概要について解説するとともに、同改正を受けて開業医が考えるべきことを考察します。

2021年医療法改正の背景と概要

医療法は、1948年の制定以来、医療を巡る時代背景の変化にあわせてたびたび改正が行われてきました。直近の改正は、2021年5月の通常国会における改正となります。(正式名称は、「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」)

近年の医療業界においては、医師不足、医師偏在による医師の長時間労働が長らく問題視されてきました。コロナ禍の影響により、一部の医療機関ではそれに拍車がかかる状況も見られています。

一方、第2次安倍内閣以降進められてきた「働き方改革」の流れの中でも、医師はその業務の特殊性から、暫定的に例外的な扱いを受けてきました。

しかし、多くの医療機関で医師の長時間勤務は深刻化し、過労死なども発生しています。その状況の改善が喫緊の課題となっていることは明らかです。また、そのためには、並行して、他の医療関係職種の専門性を活用したタスクシフト・タスクシェアにより、医師の負担軽減も進めなければなりまえせん

それらのテーマに加え、コロナ禍における地域医療提供の確保というテーマも含めた内容で制定されたのが、2021年5月28日に公布された改正医療法というわけです。

以下、今回の法改正の3本柱とされている、「医師の働き方改革」「各医療関係職種の専門性の活用」「地域の実情に応じた医療提供体制の確保」について、それぞれ概要を解説します。

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医師の働き方改革

医師の働き方改革は、医師の長時間労働を緩和し、医師自身の健康を確保することによって質の高い医療の提供ができる体制を目指しているものです。2024年4月1日からの開始が予定されています。

具体的には、医師の長時間労働を是正するため、時間外労働の上限について、医療機関の実態に応じて、「A水準」「B水準」「C水準」の3種類が設けられることとなります。

出典:厚生労働省「医師の働き方改革について」

A水準は、診療に従事するすべての医師が対象となる基準であり、年間の時間外労働時間の上限は、原則960時間となります。これがいわばスタンダードです。ただし、医療機関の実態によっては、A水準を超える内容の36協定(労使協定)を結ぶことが可能となります(年1,860時間が上限)。それが、B水準とC水準です。

B水準は「地域医療確保暫定特例水準」ともいい、その名の通り、3次救急病院や、一定以上の救急搬送を受け入れている2次救急病院など、地域に救急医療を提供している病院が該当します。B水準において可能な医師の時間外労働時間は、960時間を超え1,860時間までとされます。

さらにB水準は細分化した「連携B水準」が設けられています。この水準は医師の勤務先として主となる医療機関における労働時間は960時間以内に収まるものの、副業や兼業先の労働時間を通算すると960時間を超え1,860時間までとなるような医師が所属する医療機関が対象です。

なお、2つのB水準はどちらも、2035年度までの特例的な措置とされており、それまでに、時間外労働時間が削減されることが求められます。

C水準は「集中的技能向上水準」とも呼ばれ、「C-1水準」「C-2水準」にわかれます。

「C-1水準」は、臨床研修医・専攻医が研修プログラムに沿って基礎的な技能や能力を習得する医療機関に適用されます。また、「C-2水準」は医師登録後の臨床従事6年目以降の医師が高度技能育成に必要な分野で指定された医療機関で診療に従事する場合に適用されます。

2024年4月までに、医療機関は、自院の状況に応じて、いずれかの水準を選ぶことになります。

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各医療関係職種の専門性の活用

医師の働き方改革を推進し、労働時間短縮を実現するために重要なのが、医師以外の各医療関係職種の専門性を活用した、医師の業務のタスクシフト・タスクシェアです。医療関係職種の業務範囲の見直しは令和3年10月1日から施行されています。

4職種における業務の拡大

出典:厚生労働省「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推
進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決
定について」

該当する医療関係職種には、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士の4職種があり、それぞれ実施できる業務が拡大されました。

たとえば、RI検査における静脈路の確保やRI検査医薬品の投与、投与終了後の抜針・止血などといった、医師や看護師が行っていた行為を、改正後は診療放射線技師が行えるようになっています。

臨床検査技師は、超音波検査において造影剤の注入や超音波検査の実施、抜針・止血といった行為が行えるようになりました。

臨床工学技士は、手術室などで生命維持管理装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続するための静脈路確保、薬剤の投与、抜針・止血などの行為が可能となっています。

救急救命士においては、医療機関に搬送されるまでの間、重度傷病者に対してのみ実施できた救急救命処置が、救急外来についても行えるように業務が拡大されました。

医師養成課程の見直しも

出典:厚生労働省「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推
進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決
定について」

また、医師養成課程の見直しも行われ、①共用試験合格を医師国家試験の受験資格要件とし、②試験に合格した医学生が臨床実習として医業を行うことができる旨の明確化が行われました。①は2025年4月1日、②は2023年4月1日施行の予定です。

以上のように、医師に偏在している業務の一部を他の医療関係職種に移管したり共同で実施したりすることによってそれぞれの専門性を活用し、最終的に医師の負担軽減を目指す改正が行われました。

地域の実情に応じた医療提供体制の確保

地域の実情に応じた医療提供体制確保の内容は、大きく3つに分けられます。

ひとつは「新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制の確保に関する事項の医療計画への位置付け」であり、都道府県が作成する医療計画の記載事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」を追加することが定められました。

具体的な記載項目の例として、平時からの取り組みとして感染拡大に対応可能な医療機関・病床などを確保することや、感染拡大時の受入候補となる医療機関を明記しておくことなどがあります。

また、「地域医療構想の実現に向けた医療機関の取り組みの支援」として、従来から議論されてきた地域医療構想の実現に向けて積極的に取り組む医療機関に対して、財政支援を通じた支援を実施することが定められました。

具体的には、令和2年に創設された「病床機能再編支援事業」について国が全額を負担することや、再編を実施する医療機関に対する税優遇の措置を講じることなどが記載されています。

最後に「外来医療の機能の明確化・連携」として、外来機能報告が制度化されることが明記されました。

これは、大病院など一部の医療機関に外来患者が集中して患者の待ち時間や医師の外来負担が増加する課題を解決するために、地域で外来機能を重点的に担う医療機関を明確化するものです。

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医療法改正を受けて開業医が今後考えていくべきこと

今回の法改正の中でも、特に医師の働き方改革は、すべての医療機関、すべての医師に密接に関係するものでしょう。

少なくとも、勤務医については、時間外労働時間の上限は法的な規制となるため、雇用者である病院・クリニックは絶対に遵守するべきものとなります。開業医であっても、他の医師を雇用している場合は、どのようにすれば法令を遵守した体制で病院・クリニックを維持できるか、十分に考えていかなければなりません。

その際、開業医自身は、雇用される労働者ではないため、法的な規制は受けません。そのため、勤務医の労働時間削減を補うために、開業医は従来よりもむしろ労働時間が増えることも懸念されています。

そこで、他の医療従事者とのタスクシフト・タスクシェアを活用したり、医療ITを活用したりすることにより、従来以上に、効率的な医療機関経営、医療提供体制の構築について考えていく必要が生じています。

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まとめ

今回の医療法改正に含まれた項目はいずれも、以前から議論されてきたテーマや、すでに取り組みが開始されているものの広がりが見られていなかったテーマなどです。新型コロナウイルス感染症拡大をいわば奇貨として、そういったテーマの推進がようやく現実化してきたといえるかもしません。

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