開業医の平均引退年齢|引退時に抱えがちな問題点と対策

売却 2022/09/08

勤務医と違って、開業医には定年がありません。働く意欲があり、気力、体力が衰えなければいつまでも働けることは、開業医の魅力のひとつだと考えられるでしょう。

しかし、それは逆にいうと、自分で引退の時期を決め、そこに向けた準備も自分でしていかなければならないことを意味しています。

そこで本記事では、引退が視野に入り始めた開業医を対象に、何歳くらいで引退するのか、引退に向けてどんな準備が必要かといった点を解説します。

開業医の平均引退年齢は?

開業医が何歳で引退しているのかという点について確認できる調査データは存在しないようです。しかし、日本医師会総合政策研究機構の「日医総研ワーキングペーパー No.440 日本医師会 医業承継実態調査:医療機関経営者向け調査」には、医療経営者へのアンケートによる「引退予定年齢」のデータが掲載されており、これがヒントとなりそうです。

同調査は、「日本の医業承継に関する現状把握を目的とし、全国の民間医療機関およそ4,000施設(病院、診療所)の現経営者を対象に、アンケート調査を実施した」ものです(回収数1,088件(回答率 27.3%))。

その中には「引退予定年齢」というアンケート項目があります。その回答集計によると、現経営者が考える引退予定年齢の平均は73.1歳。5歳ごとの階層別データでみると、70~75歳とする人がもっとも多くなっています。

なお、医療機関の種類別のデータも掲載されていますが、以下のようにほとんど差はみられません。

  • 病院経営者:74.1歳
  • 有床診療所経営者:73.1歳
  • 無床診療所経営者:73.0歳

これはあくまで「引退予定年齢」なので、実際の引退年齢の平均と多少の差異は生じているものと思われますが、目安とはなるでしょう。

勤務医の引退は65歳~70歳が主流

ちなみに、勤務医についてみると、例えば国立病院機構では、医師の定年を65歳と定めています。また、「シニアフロンティア制度」等による勤務延長制度も設けられており、希望によっては70歳まで勤務することも可能です。他の公的な病院でも、それに準じて65歳定年を基本として、70歳までの継続雇用または再雇用が可能となっているところが主流です。

一方、民間病院の場合は、病院によって異なりますが、やはり65歳定年とし、本人の希望に応じて70歳程度まで働ける仕組みを設けている病院が多いようです。

いずれにしろ、65歳~70歳程度まで働く勤務医の定年年齢より、開業医の平均引退年齢が高いことは間違いないなく、それだけ長く働けることになります。

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開業医の平均年齢

一方、厚生労働省が公表している「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(令和2年)によると、医療機関の代表者の平均年齢は以下のようになっています。

▼医療機関経営者の平均年齢

全体男性女性
病院64.7歳65.1歳59.1歳
診療所62.0歳62.4歳59.3歳

(データ出所:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(令和2年)

引退予定年齢と、現在の平均年齢との差が、開業医の、平均的な残りの就業期間ということになり、おおむね10年前後だと思われます。

もちろん、上記はあくまで平均データであり、実際は各自の健康状況や医療機関の経営状況次第で、80代まで続けなくてはならない人もいれば、もっと早期に引退してしまう人もいるでしょう。

そこに大きく関連してくるのは、経済面での問題や後継者の問題です。

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開業医引退にあたっての問題点

引退を考える時期に抱えることの多い問題点がいくつかあります。ここではどのような問題があり、どのように解決していくかを考えていきましょう。

開業時の借入金の返済

開業時の借入金の返済が残っている場合は事業承継を視野に入れましょう。

廃業して中古品を換金することもできますが、建物の復元や医療廃棄物の処分、従業員の退職金などで大きなコストが発生します。

個人事業/法人成していない状態で事業承継すると債務や従業員の雇用は引き継がれず、譲渡資金を借入返済にあてることができます。

医療法人化している状態で事業承継した場合は債務や従業員の雇用が引き継がれるため、事業承継が完了した時点で返済の義務が買い手側に移行します。

ただ、立地や経営状況が良くない場合には買い手がなかなか見つからず、実際に契約を終えるまでに年単位で時間がかかるケースもあります。

なるべくはやいタイミングから検討していきましょう。

開業医の老後資金問題

次に老後資金について考えてみましょう。

2019年、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書で発表された、いわゆる「老後2000万円問題」は、医師にとっても気になる内容でした。

これは、夫が65歳以上、妻60歳以上の無職夫婦をモデル家計とすると、月の収入が20万9,000円で、支出26万4,000円なので、毎月約5万5,000円の不足が生じるという前提で計算されたものです。この前提で老後生活が30年間続くと、不足額が1,980万円(約2,000万円)に上るとされ、話題になりました。

ただし、これはいくつもの仮定を前提とした仮説であり、開業医に限らずどんな職業の方でも、そのまま当てはまるものではありません。

例えば、毎月の支出額は、そのご家庭の望む生活レベルによってまったく異なることは自明です。

また、収入にしても、その方の加入してきた公的年金が、国民年金のみなのか、厚生年金なのかによっても変わるでしょう。

医師の場合は、勤務医あるいは医療法人経営者であれば厚生年金加入ですが、個人事業の診療所の開業医では国民年金になり、受給額に大きな差が出ます。

さらに、開業医は、本人次第で高齢になっても働くことができ、働いていれば収入は得られるため、上記のようなモデル家庭の想定数値からは乖離していることも多いでしょう。

したがって、まず自分が引退後にどのような生活をしたいのか、それにはどれくらいの生活資金が必要なのか、公的年金による収入と、支出の差異を補うにはどれくらいの蓄えが必要なのかといった、ライフプランシミュレーションをすることが、もっとも大切です。

人生100年時代といわれて久しいのですが、必ずしも健康で100歳まで生きるとは限りません。

自分や配偶者に、あるいは夫婦揃って介護が必要となり、介護を受けながら長生きをする可能性もあるので、そういった事態も想定した、余裕のある引退後資金のシミュレーションが必要でしょう。

引退時の跡継ぎ問題

開業医が引退を考える際に悩ましい問題として、医療機関の跡継ぎ問題が挙げられます。

実際に、黒字経営であるにも関わらず跡継ぎが見つからずに廃院してしまう診療所が増えています。

帝国データバンクによる調査「医療機関の休廃業・解散動向調査」(2021年)によると、診療所の休廃業数471件に対し、赤字経営による倒産は、たったの22件しかありませんでした。また、倒産に対する休廃業の割合は、全国全業種の平均では9.1倍ですが、診療所は21.4倍(22/471)にも上ります。

つまり、多くの診療所は経営が健全であり、黒字経営であるにも関わらず、跡継ぎがいないため休廃業や解散を余儀無くされているのです。

このことは、地域住民、とりわけその診療所を利用していた患者さんにとって大きな不利益をもたらすものであり、地域医療の存続が危ぶまれる社会問題であるともいえるでしょう。

では、診療所の跡継ぎ確保の状況は、どのようになっているのでしょうか。

2019年に公表された「日医総研ワーキングペーパーNo.422 医療継承の現状と課題」によれば、診療所の後継者不在率(未定も含む)は、86.1%であり、多くの診療所で、医療継承の予定がなく跡継ぎ問題を抱えていることがわかります。

また、すでに跡継ぎを決めている診療所の後継者属性は、子が52.9%、配偶者が19.6%、親族が15.1%と、多くの診療所では跡継ぎを家族内から定めることを想定していることがわかります。

しかし、医療機関の経営者は、原則医師であるべきであり、親族内に医師がいない場合や、医師がいたとしても診療科が異なる場合、もしくは親族が継承を望まない場合は、医療継承が難しくなってしまいます。

これらの背景を踏まえて、近年は第三者(非親族)への医療継承も増えています。

診療所は、病院に比べれば比較的承継コストも低いことから、自院で働いてくれている勤務医に跡継ぎになってもらうケースもあります。

また、それ以外にも外部のコンサルタントやM&A仲介事業者を介して、第三者を紹介してもらい、跡継ぎになってもらうケースも増えています。

親族内に後継者が見つからない場合は、第三者承継の道を早めに探ることが、スムーズな引退準備に向けて重要になるでしょう。

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引退後の働き方

開業医としては引退しても医師としては仕事を続けていきたい場合、どのような働き方があるでしょうか。

ここでは3つの働き方を挙げていきます。

まずは他の医療機関に勤務医として再就職するという方法です。慢性期の患者さんを受け入れている医療機関へ再就職するなど、体力的に無理のない働き方を選択することも可能です。

次に、医療機関の院長や副院長として、診察はせずに医院の経営のみをする立場に就くという道もあります。開業医時代の経験をしっかり活かすことができ、経営一本で仕事をしていくなかで新たなやりがいを発見できるかもしれません。

最後に介護施設や産業医として就職するという方法もあります。ワークライフバランスを整えやすい職場を選択することでプライベートの時間もしっかりとることができるでしょう。

まとめ

今回は開業医が引退を考える際に知っておきたいことについてまとめました。定年退職がない開業医にとって引退のタイミングはご自身の裁量が大きいですが、健康状況や財務状況、後継ぎ問題などによっても左右されてしまいます。

早期に引退したくても老後資金がないために引退できない人もいれば、老後資金はあっても生涯現役で働きたい人もいるため、それぞれの価値観や状況によっても理想的な引退は異なります。

しかし、老後資金問題と跡継ぎ問題は、ほとんどすべての開業医がぶつかる問題であり、引退を想定した適切な準備しておくことが肝要です。

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