2024年4月から改正医療法が施行!医師の働き方改革にどう対応する?

最新情報 2022/03/16

過労死など過重労働の問題を背景に、政府が推し進めてきた“働き方改革”。一般的な企業では2019年より多様な働き方を実現する「働き方改革法案」が施行されましたが、医師の勤務環境にも改善が必要と考えられています。

2024年4月にはいわゆる「医師の働き方改革」がスタートします。その前に、勤務先である医療機関は、医師の働き方を見直さなくてはなりません。これを、「医師の2024年問題」といいます。

はたして、医師の働き方はどのように変わり、経営側はどのような対応が必要になるのでしょうか。詳しく解説していきます。

改正医療法の適用で、医師の働き方はどう変わる?

医師の働き方改革法案では、どのようなことが定められているのでしょうか。具体的にご紹介します。

医師の働き方改革のポイント①時間外労働の上限規制

出典:厚生労働省『医師の働き方改革について』

時間外労働時間の上限は、労働基準法にて1ヵ月間45時間・1年間で360時間と決まっており、こちらは勤務医も同様です。それを超えて時間外労働をしなければならない場合は、以下の基準になります。

基本的には、今回の労働規制の原則はA基準です。ただし、救急医療などに携わる医師はB基準、研修医など多くの症例経験を積む必要がある医師はC基準の適用も可能となっています。

【A:診療従事勤務医に適用される水準】

  • 対象:全ての勤務医が対象
  • 残業上限:年960時間/月100時間(面接指導等を行った場合例外あり)
  • 上限時間を超過:連続勤務時間28時間(宿日直許可なしの場合)・勤務と勤務の間にインターバル9時間確保・代償休息のセットを努力義務

【B:地域医療確保暫定特例水準】

  • 対象:3次救急病院や年間に救急車1,000台以上を受け入れる2次救急病院など、地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関で勤務する医師
  • 残業上限:年1,860時間/月100時間(面接指導等を行った場合例外あり)
  • 上限時間を超過:連続勤務時間28時間(宿日直許可なしの場合)・勤務と勤務の間にインターバル9時間確保・代償休息のセットを義務

※ただし、B水準の特例適用期限は、2035(令和)年3月31日まで。施行以降はA水準適用とすることを目標に、毎年見直しを行わなくてはなりません。

【C:集中的技能向上水準】

  • 対象:初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や高度技能獲得を目指すなど、短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師
  • 残業上限:年1,860時間/月100時間(面接指導等を行った場合例外あり)
  • 上限時間を超過:連続勤務時間28時間(宿日直許可なしの場合)・勤務と勤務の間にインターバル9時間確保・代償休息のセットを義務

※初期研修医における連続勤務時間の制限については、28時間ではなく1日ごとに確実に疲労回復させるため15時間(その後の勤務と勤務の間のインターバル9時間)、または24時間(その後の勤務と勤務の間のインターバル24時間)としなければなりません。

当直について

以下の2点を満たす場合には規制の適用が除外されますが、当直中に診察するなどの実働があった時間のみ、労働時間として規制の対象に入ります。

1.労働密度がまばらであり、労働時間規制を適用しなくても必ずしも労働者保護に欠けることのないような、一定の断続的労働である

2.労働基準監督署長の宿日直許可を得ている

宿日直許可

宿日直の許可は、医療機関全体についてではなく、所属診療科・職種・時間帯・業務の種類などに限定して受けることが可能です。

たとえば、以下のような業務であれば、「軽度または短時間の業務」と見なされ、宿日直の許可が認められます。

  • 医師が、少数の要注意患者の状態の変動に対応するため、問診などによる診察など(軽度の処置を含む)や、看護師などに対する指示、確認を行うこと
  • 医師が、外来患者の来院が通常想定されない休日・夜間(たとえば非輪番日であるなど)において、少数の軽症の外来患者やかかりつけ患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察など(軽度の処置を含む)や看護師に対する指示、確認を行うこと
  • 看護職員が、外来患者の来院が通常想定されない休日・夜間(たとえば非輪番日であるなど)において、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動に対応するため、問診などを行うことや、医師に対する報告を行うこと
  • 看護職員が、病室の定時巡回や患者の状態の変動の医師への報告、少数の要注意患者の定時検脈、検温を行うこと*

*厚生労働省『医師の働き方改革について』

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医師の働き方改革のポイント②時間外割増賃金率のアップ

出典:厚生労働省『医師の働き方改革について』

大企業にはすでに適用されている法定時間外労働への割増賃金率の引き上げですが、2023年からは、医療業界も含めた中小企業にも適用になります。
具体的には、1ヵ月60時間を超える法定時間外労働に対して、50%以上の割増賃金率で計算して賃金を支払わなければならなくなります。

深夜労働の割増賃金率

22時から翌朝5時までの深夜時間帯に1ヵ月60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合には、支払う割増賃金率は「深夜割増賃金率25%以上+時間外法定割増賃金率50%以上=合計75%以上」となります。

法定休日労働の割増賃金率

1ヵ月60時間の法定時間外労働の算定には、法定休日**(たとえば日曜日)に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日(たとえば土曜日)に行った労働は含まれます。

**法定休日:使用者は、労働者に1週間に1日または4週間に4回の休日を与えなければならず、これを「法定休日」といいます。 法定休日に労働させた場合には、35%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

割増賃金の代わりに、代替休暇の付与でも可能

出典:厚生労働省『改正労働基準法』

引き上げ分の割増賃金の代わりに、有給の休暇を付与する制度(代替休暇)を設けることができるようになりました。
ただし、代替休暇制度導入にあたっては、組合員の過半数、それが無い場合には代表者の過半数との間で労使協定を結ばなくてはなりません。

労使協定では、以下の事項について定める必要があります。

  1. 代替休暇の時間数の具体的な算定方法 
  2. 代替休暇の単位 
  3. 代替休暇を与えることができる期間 
  4. 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日***

***厚生労働省『改正労働基準法

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医師の働き方改革法案の適用までに、医療機関が取るべき対応

出典:厚生労働省『医師の働き方改革について』

厚生労働省の調査によると、4割以上もの医師が週60時間以上勤務しているとされています。
そのような状況下で、医師の働き方改革がスタートするまでに、医師を雇用する医療機関はどのような対応を取る必要があるのでしょうか。

ここではより対応が必要な、時間外労働の上限規制についてどのような準備をしなければならないか考えてみましょう。

働き方改革への取るべき対応①医師の労働時間の把握

・宿日直許可の有無を確認:時間外労働時間の算出に関わってくるので、まずは労働基準監督署長の宿日直許可が下りているかを確認しておきましょう。

・勤怠管理システムの導入:タイムカードやICカードなど、正確な勤怠管理システムのない医療機関は速やかに導入し、医師の勤務時間を客観的に把握する必要があります。

働き方改革への取るべき対応②36(サブロク)協定の点検

36協定の定めなく、または定めを超えて時間外労働をさせていないか確認しておきましょう。医師を含む医療従事者とともに36協定で定める時間外労働数を自己点検し、必要があれば見直してください。

働き方改革への取るべき対応③タスクシフティング・タスクシェアリングの推進

医師の業務負担を軽減するため、ほかの多種職へのタスクシフティング(業務の移管)やタスクシェアリング(業務の共有)を積極的に行っていきましょう。

たとえば、診療補助を行うことができる特定行為看護師の育成や、クラーク(医師事務作業補助者)のカルテ入力などが挙げられます。

働き方改革への取るべき対応④ICTの導入

患者の状態をみるモニターシステムや基幹システム、電子カルテ管理システム、Web問診などが挙げられます。

これらは医療現場での使用を前提に構築されたシステムなので、導入することで医療現場の業務効率が改善・向上しやすく、医師の負担軽減につながることでしょう。

医師の働き方改革を進めるにあたり、懸念される影響

医師の働き方が変わることにより、医療現場ではどのような影響が出てくると考えられるでしょうか。

日本医師会は、以下のような懸念点を会見で発表しています。

働き方改革により懸念される影響①地方病院からの医師引き上げ

時間外労働規制により各地域に派遣している医師を引き上げざるを得なくなり、以下のような影響が出てくると考えています。この地方病院からの医師の引き上げは、実際に2004(平成16)年の「新臨床研修制度」の導入時にも問題となったので、今回起こらないとは言えません。

  1. 医師の紹介業者に高額な対価を支払ったとしても、全国各地で医師を確保できない医療機関が出てきしまう
  2. 派遣医師を確保できない診療科においては宿日直体制が確保できず、休日・夜間外来の縮小や閉鎖せざるを得なくなる
  3. 縮小や閉鎖しない医療機関では、その分休日・夜間外来の業務が増加し、その医療機関の医師の負担が過大になってしまう

働き方改革により懸念される影響②大学病院の医師のモチベーションが低下

時間外労働の規制により、大学病院で勤務する医師は現在のように一般病院で副業ができず、収入が減少することになってしまいます。

そのため、大学病院を辞めて、収入面などの処遇の良い一般病院で勤務する医師も多くなるでしょう。そうなると医師が足りなくなるため、一般病院から大学病院に医師を派遣してもらうという、現在と逆の流れが発生しかねないのです。

このように大学病院からの人材流出が進むと、医師派遣による地域医療支援機能に支障を来たすだけでなく、大学病院における診療・研究・教育の質の確保も難しくなってしまうと警鐘を鳴らしています。

働き方改革により懸念される影響③産科医療の縮小

産科に大学病院からの派遣医師が来なくなった場合には、出産できる体制維持が困難になります。その結果、産科医療機関が減ることでほかの産科の負担が高まるだけでなく、地域住民にとっては住んでいる地域によっては出産がままならなくなってしまうでしょう。

以上のような懸念から日本医師会は、「医師独自の宿日直の許可基準の検討」や「2024(令和6)年からの新制度施行にもう少し猶予を設ける」などの弾力的運用を厚生労働省に求めています。

加えて、教育や地域医療の継続の観点から全ての大学病院にはB水準または連携B水準の申請とともに、医療水準の維持向上のためにC―1水準とC―2水準の申請をしてもらうことなどへの対応も文部科学省に促しています****。

****日本医師会『医師の働き方改革について』

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まとめ

このように、医師の働き方改革は勤務医にとってはワークライフバランスの実現を目指す取り組みではあるのですが、実務を担う都道府県の体制整備や地域医療の確保とのバランスなど、課題も多くあります。

しかし、この医師の働き方改革を通じて勤務環境が改善し、女性を含めた多くの医療職員が多様な働き方が可能になれば、医師の偏在是正にもつながっていくことでしょう。

この働き方改革を実際に医療現場に取り入れていくには、医師本人だけでなく、経営側やともに働く医療従事者、患者などもともに、意識改革を行うことが何よりも重要です。

これからは、医師の過重労働に支えられた医療現場ではなく、医師個人の生活も尊重しながら勤務し続けられるような世の中を目指していかなければならないでしょう。

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