医療DXとは?医療業界はこれからどう変化するのか
医療DXとは、デジタル技術を活用して医療現場を改革する取り組みです。2022年10月に設置された「医療DX推進本部」は、患者情報の共有やマイナ保険証の導入を通じて、医療の質向上と効率化を目指しています。背景には、高齢化による社会保障費の増大や医療人材不足があります。今後は電子カルテの普及や医療情報の標準化が進められる予定ですが、セキュリティ対策や医療IT人材の育成が課題となっています。
今回の記事では、医療DXについて詳しく解説するとともに、医療DXが抱える課題や、医療DXによって医療業界がこれからどう変化していくのかについても解説します。
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医療DXとは?
2022年10月、岸田内閣に新たに「医療DX推進本部」が設けられました。
DXとは「Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション」の略で、AIやIoT、ビッグデータなどのデジタル技術を用いて、既存事業の枠組みや提供する価値を根底から変革させる取り組みのことです。
「医療DX推進本部」において、「医療DX」は、これまでデジタル化が遅れていた、保健、医療、介護の各段階でデジタル化を促進させ、患者がより良質な医療やケアを受けられるように、さらには医療従事者に新たな価値を提供できるように、社会や生活の形を変えることと定義されています。
しかし、上記のような説明では、抽象的でイメージがわきにくいかもしれません。例えば、「患者情報の共有」を例に挙げて説明します。
これまで医療機関は基本的に個別に患者情報を管理してきたため、診療情報の共有化がなされず、患者からすれば他施設の受診時に紹介状を求められ、一から検査し直さなければならない場合がありました。
共通の診療情報プラットフォームで患者情報を共有・管理できれば、病院とクリニック、介護施設、薬局などの間でスムーズな地域医療連携が可能となり、患者が得られる医療の質が向上します。また、医療業務の効率化やコスト削減も期待できるでしょう。
このように患者情報や医療データを、全体最適された基盤を通して、外部化、共通化、標準化する取り組みも医療DXの大きな柱となります。
そのような医療情報の利活用のために推進されている制度の1つが、マイナンバーカードと健康保険証の一体化です。
原則として、2023年4月からはすべての医療機関、薬局で、健康保険証の代わりとマイナンバーカードが利用できること(マイナ保険証)が目指されています(現在、2023年9月までの経過措置が設けられています)。さらに2024年秋には紙の健康保険証は廃止され、すべてマイナ保険証に置き換えられる予定です。
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医療DXが推進される背景
現在、政府が音頭を取り、医療DXの普及促進に注力しているのはどうしてなのでしょうか。その理由としては以下のようなことが考えられます。
少子高齢化による社会保障費増大の抑制
日本の高齢者の割合はすでに総人口の29.1%であり、2025年にはいわゆる団塊の世代が後期高齢者である75歳に達することから、総医療費の膨張が見込まれています。財政における社会保障費負担の抑制のためにも、医療の効率化によるコスト削減は避けて通れません。
医療人材リソースの不足への対応
また、少子化は労働力人口の減少をもたらします。さらに、過去には長時間労働が当たり前だった医療現場にも働き方改革が求められるようになり、2024年からは医師の働き方改革も導入されます。時間外労働の総量規制が実施されることから、医療従事者の人的リソースがこれまで以上に逼迫します。
今まで以上に少ない人的リソースで、多くの高齢者を支えなくてはならないことからも、医療現場での省力化、効率化は喫緊の課題となっています。
医療データの収集・管理・活用
例えば、新規開業のクリニックにおいては、電子カルテの導入は当たり前になっています。しかし、既存の病院やクリニックにおいては、いまだに紙カルテによる患者情報の管理、レントゲン画像のフィルム保存など、旧来のアナログ的な業務管理のままである医療機関も多く(令和2年の電子カルテ普及率は約5割)、IT化の遅れは以前から指摘されてきました。
その最中、新型コロナウイルス感染症の流行拡大局面では、データの収集や連携がうまくできないなど、保健所も含めて、医療現場の混乱を生む一因となってしまいました。
そこで、アナログ的な患者情報管理の非効率性が改めて浮き彫りとなり、今後のコロナ再拡大や新たな感染症危機に迅速に対応することが可能な体制を構築しておくことが急務であり、その手段としても医療DXが注目されています。
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「医療DX令和ビジョン2030」が掲げる医療業界の未来
上記の背景を踏まえ、2022年5月、自由民主党政務調査会より「医療DX令和ビジョン2030」と題して、医療のDX化・医療情報の有効利用を推進するための提言がなされ、現在、厚生労働省に推進チームが組織され、以下のような取り組みの検討を進めています。
「全国医療情報プラットフォーム」の創設
「全国医療情報プラットフォーム」とは、これまで医療機関、自治体、医療保険者によって個別に管理されてきたレセプトや特定健診、予防接種、電子処方箋、自治体検診、電子カルテなどの医療全般の情報を共有できる、共通プラットフォームのことです。
また、マイナ保険証と組み合わせて、マイナポータル経由で患者自身も自分の医療情報をいつでもどこでも閲覧可能となり医療サービス利用の利便性向上が期待できます。
これまでは紙媒体で取得していた同意書や承諾書等も、今後はマイナンバーカードによる電子署名が可能となります。
電子カルテ情報の標準化と標準型電子カルテの検討
医療情報の収集や共有がうまくいかない原因の1つとして、電子カルテのデータ規格が、医療機器メーカーによって異なり、相互のデータ流通ができないことが挙げられていました。
そこで今後は、厚生労働省の主導により、医療情報交換の国際標準規格である「HL7FHIR」に統一されていく予定です。
2022年3月には、「診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書」の3文書と、「傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方」の6情報が標準規格として採択しました。
今後、順次対象となる情報が拡大されていく予定です。
これにより、医療現場における業務効率化はもちろんのこと、収集した保健医療データを匿名化データとして二次利用することで、医薬品産業やヘルスケア産業でのビッグデータ活用も期待されています。
しかし現状としては、先述のようにいまだに電子カルテが導入されていない医療施設が約5割もあります。連携以前に、まずは標準化された電子カルテの導入が必要になります。
そこで、今回の提言では、補助金などを活用して、電子カルテ導入率を2026年までに80%、2030年までに100%とする目標も掲げられています。
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診療報酬改定DX
これまでの診療報酬改定の際には、改定内容が文書で発表され、レセプトコンピューターのメーカーがそれを読み解き、エンジニアが報酬計算プログラムに落とし込むという、非常に非効率かつ、膨大な作業工程が発生していました。
今回の提言には、その診療報酬改定プロセスのDX化も盛り込まれています。
具体的には、診療報酬の算定に使用する「共通算定モジュール」を導入し、改定の際はこのモジュールを更新するだけで済むというものです。
これが実現すれば、医療機関はもちろんのこと、保険者や医療情報システムに関与するすべの人材の負担を軽減できる可能性があります。
医療DX化の課題
医療DXが広く普及するためには、いくつかの課題があります。
セキュリティ問題
コンピュータシステムに侵入して、データを暗号化して“人質”にして金銭を要求するのが「ランサムウェア」です。実査にこの被害にあい、診療が一時的にできなくなる医療機関も出現しています。
「全国医療情報プラットフォーム」など、幅広く共有されるコンピュータシステムの実装においては、ランサムウェアをはじめとしたセキュリティ脅威から防御できるセキュリティ対策が、必須になります。また、万一被害を受けた際の補償をどうするのかといった課題もあります。
医療現場のITリテラシー
医師や看護師、技師や薬剤師など、医療現場に集まる職種のほとんどは、あくまで各々の職種における専門家です。専門知識、専門技術への研鑽は積みますが、ITやデジタル技術の知識はそれほど持ち合わせていないことが多いのが現実です。一般企業であれば、新入社員を対象としたIT研修などもありますが、ITについて学ぶ機会を設けている医療機関はほとんどないでしょう。
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医療IT人材の不足
上記のITリテラシーの問題とも関連しますが、個々の医療機関が医療DXに対応しようとする際に課題となるのが、マネジメント層にデジタル技術を理解できる人材が不足していることです。
医療DXを実現するには、医療施設全体の業務プロセスを見直す必要があるため、経営トップによる導入推進が不可欠です。しかし、理事長や院長、事務長などのマネジメント層が比較的高齢だと、DXの意義があまり理解されないことがよくあります。
そこで、医療現場のマネジメントとデジタル技術との両方に通じた「医療IT人材」の育成は、今後ますます求められる課題となるでしょう。
まとめ
「医療DX令和ビジョン2030」は、医療DX後進国からの脱却を目指すための強いメッセージが込められた内容でした。
今後の病院、クリニック経営において、患者に満足され、地域で求められる病院、クリニックとなっていくためには、同ビジョンに示された将来像をいち早く実現し、医療DXの導入を推進していくことが必要になると思われます。
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