医療法人における医療DX導入の完全ガイド!導入事例や注意点も徹底解説
目次
政府は2030年を目標に電子カルテ導入率100※を目指しており、医療法人にとって医療のデジタル化は避けて通れない課題となっています。
しかし、高額な導入費用や複雑なシステムのため、簡単に取り組めるものではありません。そこで本記事では、医療DXの基本的な考え方から実際の導入効果、成功事例や導入時の注意点まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
費用を抑える支援制度や医院継承との関係についても詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてください。
※出典:厚生労働省|医療DXについて
医療DXとは

出典:内閣官房 医療DX推進本部(第1回)資料4「医療DXにより実現される社会」
医療DXとは、医療現場にデジタル技術を取り入れて、従来のやり方を根本的に変える取り組みのことです。「DX」は「デジタルトランスフォーメーション」の略で、単なるIT導入ではなく、患者にとってより良い医療を提供し、医療従事者の働き方も改善することを目指しています。
医療DXの基本的な考え方
これまで医療現場では、紙のカルテや手書きの処方箋、電話やFAXでの連絡など、アナログな方法で業務が行われてきました。医療DXは、これらをデジタル技術に置き換えることで、ミスを減らし、効率を上げ、医療の質を向上させようとするものです。
2022年10月には、政府が「医療DX推進本部」を新たに設置し、国を挙げて医療のデジタル化を進める体制を整えました。これにより、医療機関にとってデジタル化への対応は、もはや選択肢ではなく必須の課題となっています。
医療DXを導入することで実現できること
医療DXによって、以下のようなサービスが実現可能になります。
- 電子カルテ(紙のカルテをデジタル化)
- 電子処方箋(薬局との連携強化)
- オンライン診療(遠隔での診察)
- マイナンバーカード保険証
- 医療機関同士での患者情報共有
- AI画像診断(レントゲンの自動解析)
- 遠隔モニタリング(在宅での健康管理)
これらのサービスは、医療従事者の業務負担を軽減するだけでなく、患者にとってもより便利で質の高い医療を受けられる環境ができます。
医療DXが重要視される背景
医療現場において、これほどまでにデジタル化が重要視されている理由は、日本の医療が直面している深刻な課題を解決する重要な手段だからです。
ここでは医療DXが重要視されている理由を解説します。
少子高齢化による医療費増大への対応
現在、日本における総人口の約3割が65歳以上の高齢者となっており、この傾向は今後さらに加速すると予想されています。特に2025年には、いわゆる団塊の世代が後期高齢者である75歳となり、このまま高齢者が増え続けると、医療費は急激に膨らみ、国の財政を圧迫することになります。
そこで、医療のデジタル化によって無駄を省き、効率的な医療提供システムを構築することが急務となっているわけです。
医療従事者の人手不足問題
少子化の影響で働く人の数が減る一方、医療を必要とする高齢者は増え続けています。

出典:病院のあり方に関する報告書|公益社団法人「全日本病院協会」
さらに、2024年からは医師の働き方改革も始まり、これまでのような長時間労働に頼った医療提供は難しくなりました。この状況を改善するには、一人ひとりの医療従事者がより効率的に働けるよう、デジタル技術を活用した業務改善が不可欠です。
たとえば電子カルテの導入によって、手書きでカルテを作成する時間や患者情報を探す時間を大幅に短縮できます。
重複検査の削減と医療の質向上
現在、多くの医療機関では患者情報を個別に管理しているため、患者が別の病院を受診する際に、同じような検査を何度も受けなければならないことがあります。これは患者の経済的な負担となるだけでなく、医療資源の無駄使いにもつながります。
医療機関同士で患者情報を共有できるシステムが整備されれば、過去の検査結果や治療歴をすぐに確認でき、より適切な治療方針を決められるようになります。
緊急時の迅速な対応体制の構築
新型コロナウイルス感染症の流行時には、患者情報の共有に電話やFAXといった古い方法が使われていたため、対応が遅れる場面が多く見られました。災害時や感染症の流行時にも迅速に対応できるよう、デジタル技術を活用した情報共有体制の整備が重要になっています。
政府の「医療DX令和ビジョン2030」
政府は2022年5月に「医療DX令和ビジョン2030」という計画を発表し、2030年までに医療のデジタル化を大幅に進める方針を打ち出しました。
この計画では、患者情報の共有システムの構築や電子カルテの普及促進、医療費計算システムの改善など、医療現場の課題を解決するための具体的な施策が示されています。
全国医療情報プラットフォームの構築
最も重要な取り組みのひとつが、「全国医療情報プラットフォーム」と呼ばれる、医療情報を共有するための共通システムの構築です。

出典:第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料1「医療DXについて」
このシステムが完成すれば病院やクリニック、薬局、介護施設、自治体、保険組合などが患者情報を安全に共有できるようになります。患者はマイナンバーカードを使って、自分の医療情報をいつでもスマートフォンで確認できるようになる予定です。
電子カルテの共通化と普及促進
現在、電子カルテを導入している医療機関は全体の約半数にとどまっています。

また、導入済みの医療機関でも、メーカーによってシステムの仕様が異なるため、医療機関同士での情報共有が困難な状況です。そこで政府は、「HL7FHIR」※という国際的な共通ルールに統一することを決めました。
この共通ルールにより、どのメーカーの電子カルテでも情報をやり取りできるようになります。
【電子カルテ普及の政府目標】
| 年度 | 電子カルテ導入率 |
|---|---|
| 2026年 | 80% |
| 2030年 | 100% |
医療費計算システムの改善
現在、診療報酬(医療費の計算方法)が変更されるたびに、システム会社が手作業でプログラムを修正しているため、大変な時間と労力がかかっています。新しい仕組みでは「共通計算システム」を導入し、診療報酬の変更があってもシステムの一部を更新するだけで済むようになります。
これにより、医療機関や保険組合の事務負担が大幅に軽減される見込みです。
医療DX推進体制整備加算の詳細
2024年の診療報酬改定で新たに設けられたのが「医療DX推進体制整備加算」です。これは、デジタル化の取り組みを積極的に行っている医療機関に対して、一定の条件を満たすことで診療報酬を上乗せする制度です。
加算の種類と金額
2024年10月の改定により、加算は3つのレベルに分かれ、それぞれ異なる条件と金額が設定されています。
| 加算名 | 点数 | 条件 |
|---|---|---|
| 医療DX推進体制整備加算1 | 11点 | マイナ保険証の利用実績が十分にある 患者の健康管理相談にしっかり対応している |
| 医療DX推進体制整備加算2 | 10点 | マイナ保険証の利用実績がある 患者の健康管理相談に対応している |
| 医療DX推進体制整備加算3 | 8点 | マイナ保険証の利用実績がある |
出典:医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算の見直しについて|厚生労働省
マイナ保険証利用率の要件
加算を受けるためには、マイナンバーカードを保険証として利用する患者の割合が一定以上である必要があります。この要件は段階的に厳しくなっていきます。
【マイナ保険証利用率の要件推移】
| 加算名 | 2024年10月〜 | 2025年1月〜 |
|---|---|---|
| 加算1 | 15% | 30% |
| 加算2 | 10% | 20% |
| 加算3 | 5% | 10% |
医療機関は患者に対してマイナ保険証の利用を積極的に案内し、利用率を上げる努力が求められます。
電子カルテ導入の義務化
この加算を受けるためには、2026年5月31日までに電子カルテを導入し、他の医療機関との情報共有ができる体制を整える必要があります。当初は2025年9月30日が期限とされていましたが、2025年7月の中央社会保険医療協議会により期限が延長されました。
“電子カルテ情報共有サービスについては、先の通常国会に提出された「医療法等の一部を改正する法律案」の成立・施行により本格稼働となるところ、現在、当該法律案が未成立であることや電子カルテ情報共有サービスに関する対応等を踏まえ、経過措置を令和8年5月31日まで延長する。”
現在、電子カルテを導入していない医療機関は、この延長期間を有効活用して導入を検討する必要があります。ただし、政府は導入費用の負担軽減のため、「標準型電子カルテ」という低コストのシステムの開発を進めており、2025年以降に提供開始予定です。
医療DXの導入で得られるメリット
医療DXの導入は、患者と医療機関の両方に大きなメリットをもたらします。導入には初期費用がかかりますが、長期的には業務効率の向上や患者満足度の向上により、経営面でもプラスの効果が期待できます。
患者が得られるメリット
医療DXの導入で、患者は医療機関における利便性が大幅に改善されます。
| メリット | 具体的な内容 |
|---|---|
| 受診の利便性向上 | スマホで予約、待ち時間の短縮 |
| 検査結果の確認 | 自宅でもスマホから結果が確認できる |
| 薬の受け取り時間短縮 | あらかじめ薬局で準備し、すぐに受け取りが可能 |
| 同じ検査の重複の回避 | ほかのクリニックの検査データを活用 |
| ほかのクリニックで受ける治療の円滑化 | 過去の治療歴が正確にわかる |
特に多くの患者が不満に感じている「待ち時間の長さ」については、オンライン予約システムや診察順番通知システムの導入により、大幅な改善が可能です。また、スマートフォンで検査結果を確認できるようになれば、わざわざ結果を聞きに来院する必要がなくなります。
関連記事:【2025年最新】Web問診の普及率は約5%!費用や無料で導入する方法も紹介
医療機関が得られるメリット
医療機関にとっても、医療DXの導入は様々なメリットがあります。
| メリット | 具体的な内容 |
|---|---|
| 日常業務の効率化 | カルテ作成や管理の自動化 |
| 診療の質向上 | 過去データに基づく適切な判断 |
| ほかのクリニックとの連携 | 患者情報の共有による円滑な紹介 |
| スタッフの負担軽減 | 事務作業の削減 |
| 医院継承における優位性 | 将来性の高いクリニックとして評価される |
特に重要なのは、電子カルテの導入による業務効率化です。手書きでカルテを作成していた時間や、過去のカルテを探す時間が大幅に短縮され、医療従事者はより患者の診療に集中できるようになります。
また、医院継承を検討している医療機関にとって、医療DXの導入は大きなアドバンテージとなります。買い手側は将来性のある医療機関を求めており、デジタル化が進んでいる医療機関のほうが選ばれやすい傾向にあるためです。
医療DX導入時のデメリットや注意点
医療DXには多くのメリットがある一方で、導入時には注意すべき点もあります。ここでは医療DX導入時に多くの医療機関が直面する課題と、それぞれの解決策をまとめました。
初期費用の負担
医療DXの導入で最も大きな障壁となるのが初期費用です。電子カルテシステムだけでも数百万円から数千万円の費用がかかるため、特に小規模なクリニックにとっては重い負担となります。
しかし、政府や自治体が提供する以下の支援制度を活用することで、実際の負担額を大幅に軽減できます。
【支援制度の例】
- IT導入補助金:導入費用の一部を国が補助
- 標準型電子カルテ:政府主導で開発中の低コストシステム
- 地方自治体の独自支援:地域によって異なる追加支援
情報セキュリティ対策
患者の個人情報や診療データをデジタルで扱うため、サイバー攻撃や情報漏洩に対する対策が必要不可欠です。具体的には以下のような対策も必要です。
- 通信の暗号化:インターネット通信時のデータ保護
- アクセス権限管理:必要な人だけが情報にアクセスできる仕組み
- 定期的なバックアップ:データ消失に備えた自動保存
- ウイルス対策ソフト:最新の脅威に対応したセキュリティソフト
- スタッフ教育:セキュリティ意識向上のための定期研修
関連記事:電子カルテでの情報漏洩の原因とは?実際の事例と対策方法も解説
スタッフの技術習得
長年、紙のカルテや手書きの処方箋に慣れ親しんできた医療従事者にとって、デジタルシステムへの移行は大きな変化です。スムーズな移行のためにも、以下の配慮が重要です。
- 段階的な導入:一度にすべてを変えるのではなく、徐々に移行する
- 研修を充実させる:導入前の操作練習と導入後のフォローアップ
- わかりやすいマニュアルの作成:日常業務で参照できる簡潔な操作手順書など
- サポート体制:困ったときにすぐ相談できる窓口の設置
医療法人における導入事例
ここでは実際に医療DXを導入した医療機関が得られた効果について、実際の事例を3つ紹介します。
事例1:独自アプリで患者サービスを大幅改善
関東地方のある総合病院では、患者専用のスマートフォンアプリを開発し、患者サービスの向上に成功しています。
このアプリでは、患者さんが以下の機能を利用できます。
- 診察予約の管理:いつでもスマホから予約変更可能
- 待ち時間の確認:リアルタイムで診察順番を通知
- 検査結果の閲覧:過去1年分の結果をいつでも確認
- 処方薬の情報:薬の効果や副作用をわかりやすく表示
- 人間ドック結果:詳細な健康状態レポートをスマホで確認
特に患者から好評なのは、診察の順番が近づくとスマホに通知が届く機能です。これにより、患者は病院の待合室で長時間待つ必要がなくなり、買い物や用事を済ませてから来院できるようになりました。
事例2:ペーパーレス化で大幅なコスト削減を実現
九州地方のある大学病院では、院内業務の完全ペーパーレス化に取り組み、年間数千万円のコスト削減を実現しています。
【具体的な取り組み内容】
- 会議資料の電子化:すべての会議をタブレットで実施
- 電子決裁システム:承認手続きをすべてオンライン化
- クラウド型文書管理::学内データをクラウドで一元管理
- 施設予約システム:会議室や医療機器の予約を自動化
- 勤務管理システム:出勤管理や当直調整をデジタル化
この取り組みにより、年間で約3,000万円の用紙代や印刷代を削減できただけでなく、事務作業時間も約30%短縮されました。浮いた時間は患者対応や研究活動に充てられ、病院全体の機能向上につながっています。
参考:小さなクリニックの大きな変革! DX導入で実現する業務効率化と患者満足度向上の具体策|コトセラ
事例3:地域連携ネットワークで医療の質を向上
ある地域では複数の病院やクリニック、薬局、介護施設が共同で地域医療連携システムを構築し、住民の健康管理の質を向上させています。
【このシステムの特徴】
- 患者情報の安全な共有:同意した患者の情報を地域の医療機関で共有
- 重複検査の防止:他院での検査結果を即座に確認可能
- 適切な医療機関紹介:症状に応じた最適な紹介先を迅速に決定
- 在宅医療の充実:病院とクリニック、介護施設の連携強化
- オンライン聴診器:遠隔地でも詳細な診断が可能(試験運用中)
オンライン聴診器が本格的に導入されれば、遠隔地でも詳細な診断が可能になり、特に感染症が流行した場合に、非常に役立つ技術として期待されています。
医療DXの課題と対策
医療DXが順調に普及するためには、技術面だけでなく、人材育成や組織運営の面でも解決すべき課題があります。これらの課題を事前に理解し、適切な対策を講じることが成功の鍵となります。
サイバー攻撃への対策
近年、医療機関を狙ったサイバー攻撃が増加しており、特に「ランサムウェア」と呼ばれるコンピューターウイルスによる被害が深刻化しています。
ランサムウェアとは、医療機関のコンピューターシステムに侵入し、重要なデータを暗号化して使用不能にした上で、復旧と引き換えに身代金を要求する悪質なプログラムです。実際に被害を受けた医療機関では、診療が数日間停止し、患者対応に大きな混乱が生じました。
【効果的な対策方法】
- 定期的なデータバックアップ:複数の場所にデータを保存
- 最新セキュリティソフト:新しい脅威に対応できるソフトの導入
- スタッフのセキュリティ教育:怪しいメールや添付ファイルの取り扱い方法
- 専用ネットワーク:医療用システムを一般のインターネットから分離
- 定期的な脆弱性チェック:システムの弱点を事前に発見・修正
医療従事者のデジタル技術理解度向上
医療従事者の多くは、それぞれの専門分野において高い技術と知識を持っていますが、デジタル技術についてはそれほど詳しくないのが実情です。医療DXを成功させるためには、この知識格差を埋める取り組みが重要です。
【具体的な改善策】
- 基礎的なIT研修:パソコンやスマートフォンの基本操作から開始する
- 段階的なシステム導入:いきなり全システムを変更はせず、徐々に移行する
- 操作マニュアルの充実:実際の業務場面を想定したわかりやすい手順書を作成する
- 質問しやすい環境:困ったときに気軽に相談できる体制づくり
- 成功体験の共有:先行導入した部署の効果を他部署に紹介
医療IT人材の確保と育成
医療DXを推進するには、医療の現場を理解しながら、同時にデジタル技術にも精通した人材が必要です。しかし、このような人材は現在非常に不足しており、多くの医療機関で課題となっています。
【人材確保の方法】
- 外部専門家の活用:医療IT専門のコンサルタント会社と契約をする
- 既存スタッフの育成:意欲のあるスタッフを選抜してIT研修を実施する
- 段階的な責任者育成: 現場のリーダーから順次IT知識を身につける
医療DX導入の失敗事例と対策
医療DXの導入は多くのメリットがある一方で、準備不足や認識不足により失敗に終わってしまうケースもあります。ここでは、実際に起こりがちな失敗パターンと対策方法を詳しく解説します。
失敗事例1:スタッフの反発による導入停滞
とある病院で電子カルテの導入を決定しましたが、長年紙のカルテに慣れ親しんだベテラン看護師から強い反発があり、導入後も旧来の方法で業務を続けるスタッフが発生。結果として、電子カルテと紙カルテが混在する状況となり、かえって業務効率が悪化した事例です。
【主な失敗要因】
- 電子カルテのメリットの説明が不足していた
- 操作方法の研修時間が不十分だった
- ベテランスタッフの不安点や懸念点を軽視してしまった
【具体的な対策方法】
- 導入をする前にスタッフアンケートを実施して、不安点や要望の聞き取りをする
- 実際の患者データを使った実習形式の研修を複数回実施する
- 導入してからしばらくは、専任のサポートスタッフを配置する
- 一部の病棟から開始して、慣れてから全体に展開する
失敗事例2:システム選定ミスによる使い勝手の悪さ
価格の安さを重視して電子カルテシステムを選んだところ、操作が複雑で診察時間が長引いてしまい、結果的に患者の待ち時間が増えて、苦情が多発した。
【失敗の原因】
- 価格のみでシステムを選定した
- 実際の診療場面での使い勝手を十分検証しなかった
- クリニックの規模や診療内容に合わないシステムを選んだ
- スタッフの技術レベルを考慮しなかった
【具体的な対策方法】
- 導入前に試用期間を設ける
- 複数のシステムを実際に操作して比較する
- 実際に使用するスタッフにデモンストレーションで評価をしてもらう
失敗事例3:セキュリティ対策不備による情報漏えい
地方の診療所で電子カルテを導入したものの、セキュリティ対策が不十分だったため、コンピューターウイルスに感染。結果的に患者データが暗号化され、診療が1週間停止する事態が発生した。
【失敗の原因】
- セキュリティソフトを導入しなかった
- スタッフのセキュリティ教育を実施しなかった
- データのバックアップを取っていなかった
- 業者任せで医療機関側の管理体制や理解が不十分だった
【具体的な対策方法】
- ファイアウォールやウイルス対策ソフト、侵入検知システムを導入する
- 毎日自動でデータのバックアップを実施する
- 月1回のセキュリティ研修とメール訓練を実施する
- 万一の際の対応手順を事前に作成・訓練しておく
導入方法と相談先
医療DXの導入を検討している医療機関にとって、「何から始めればよいかわからない」「どこに相談すればよいかわからない」と悩まれる先生も多いでしょう。ここでは、具体的な導入の進め方と信頼できる相談先について説明します。
公的な相談窓口の活用
医療DXの導入について、まず活用したいのが公的機関の相談窓口です。例えば日本医師会では、会員向けに医療DXに関する専門の相談窓口を設けており、下記のような相談が無料でできます。
- オンライン資格確認システムの導入手順
- 電子カルテ導入に関する補助金制度
- サイバーセキュリティ対策
- システム運用のトラブル対応
各都道府県の医師会でも地域の実情に応じた相談対応を行っていますので、まずは身近な相談窓口を活用することをおすすめします。
民間企業への依頼方法
医療DXの実際の導入には、民間企業の専門サービスを活用するのが一般的です。
主な依頼先は大きく2つに分けられます。
ひとつは電子カルテやオンライン診療システムなどを開発・販売している「システム開発会社」で、特定の製品に特化したサポートが受けられます。
もうひとつは医療DX全般の相談や導入計画の策定を専門に行う「コンサルティング会社」で、複数のシステムを比較検討し、医療機関の規模や特性に応じた最適な提案が受けられます。
医院継承における医療DXの戦略的重要性
医院継承を検討している医療機関にとって、医療DXの導入状況は買い手側の判断に大きく影響します。売り手側にとっては、より多くの買い手候補からの関心を集められ、将来性の高い医療機関として評価されるメリットがあります。
買い手側にとっても、承継後すぐに効率的な診療を開始でき、追加のシステム投資が不要というメリットがあります。
私たちエムステージマネジメントソリューションズにおいても、専門家との協力体制のもと、医療DX導入を含む、医院継承のサポートを提供しております。
医療DXの導入に関してよくある質問
ここでは医療DXの導入に関して、よく聞かれる質問について回答していきます。
医療DX導入の初期費用はどの程度かかりますか?
医療機関の規模や導入するシステムによって大きく異なりますが、一般的なクリニックで数百万円程度、病院などの場合は数千万円ほどの規模感になります。支援制度を活用することで、実際の負担額を抑えることも可能です。
【支援制度の例】
- IT導入補助金(最大450万円)
- 各自治体が提供している補助金制度
電子カルテ導入に利用できる支援制度にはどのようなものがありますか?
主な支援制度は以下の通りです。
【国の支援制度】
IT導入補助金2025:ソフトウェア購入費、クラウド利用料の一部を補助
医療DX推進体制整備加算:対応済み医療機関への診療報酬加算
【自治体の支援制度】
多くの都道府県や市町村が独自の補助金制度を設けています。金額や条件は地域によって異なるため、所在地の自治体に確認することをおすすめします。
小規模クリニックでも医療DXの導入はできますか?
はい、小規模クリニックのほうが導入しやすい面も多くあります。
【小規模クリニックにおける医療DX導入の優位性】
- 意思決定が早い:院長の判断ですぐに導入を決められる
- スタッフ教育が効率的:少人数なので全員に行き届いた研修が可能
- 効果を実感しやすい:業務改善の効果がすぐに見える
まとめ:医療DXの導入で持続可能な医療経営を実現しましょう
医療DXの導入により、業務効率の大幅な改善と医療の質向上を同時に実現でき、患者に対しても待ち時間の短縮や重複検査の回避など、より良い医療体験を提供できます。導入時には相応の費用がかかりますが、政府の支援制度などで負担の軽減が可能です。
また、医院継承をお考えの場合、医療DXに対応済みの医療機関のほうが買い手が見つかりやすく、より良い条件での承継も期待できます。
医院継承のサポートが必要でしたら、医院継承の専門家である私たち「エムステージマネジメントソリューションズに」ご相談ください。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継にお問い合わせください。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。