電子カルテが普及しない理由|2022年の普及率は?

最新情報 2022/10/31

電子カルテ導入率は、年々増加し続けています。一方で、クリニックにおける導入率は、令和2年時点で半数にも至っていません。
なぜ、クリニックで電子カルテは普及していないのでしょうか。これには、さまざまな原因があるのです。

今回は、電子カルテが普及しない理由について解説します。
現状の普及率を含め電子カルテが普及しない原因や、電子カルテのメリット、選び方を記載しました。これから電子カルテを検討している方にとっても有益な内容になっています。ぜひ参考にしてみてください。

電子カルテの普及率

出典:電子カルテシステム等の普及状況の推移(厚生労働省)
電子カルテシステム等の普及状況の推移(厚生労働省)より作成

厚労省が出している医療施設調査では、病院・クリニック共に電子カルテ導入率が年々上がっています。特に病院の電子カルテ導入率は令和2年時点で57.2%。半数以上の病院が電子カルテを導入しています。

一方で、クリニックでは令和2年時点で49.9%。未だに全体の半数程度しか電子カルテを導入していません。

2022年(令和4年)の電子カルテ普及率は、これまでの伸び率から単純計算した場合病院で64.4%、クリニックで55.8%程度と予想できます。なぜクリニックでは電子カルテが普及しないのでしょうか。その理由について、次項より詳しく解説していきます。

電子カルテが普及しない理由

電子カルテがクリニックで普及しない理由はさまざまですが、そこには、紙カルテで数十年間運用してきたベテラン医師のこだわりや想いが関係しています。

紙カルテに使い慣れている

「紙カルテの方が使い慣れていて、電子カルテより使いやすい」
このような意見を持つ医師は多いです。特に高齢の医師の場合、数十年間紙カルテで運用してきた歴史があります。
「電子カルテはメリットがない。使いづらく、見落としの原因にもなるため導入を見送っている」といったネガティブな意見を持つ医師も多いのです。

また、紙カルテだからこそ可能な病名の表記があることで、紙カルテ運用を続けている医師がいます。たとえば、紙カルテでは風邪の症状によって上気道炎や扁桃肝炎、風邪といったさまざまな表記が認められているのです。

一方で、電子カルテでは「医療用語・コードの標準化」が推進されており、1つの病気に対して1病名のみの表現が義務付けられています。そのため、風邪が扁桃腺だけでなく頭に関係している場合でも「扁桃腺炎」と記載しなければならなくなったのです。

これに対し、「扁桃腺炎」だけが起因しているわけではないため「風邪」と表記すべきと考える医師がいます。このように、電子カルテを導入することで、紙カルテで記載可能だった病名表記ができなくなることに反発する医師がいるのです。

また、新しいものを取り入れたり、実践したりすることに抵抗を感じる医師もいます。

これらの理由から、電子カルテ導入に後ろ向きな医師が多いのです。

導入コストが高い

電子カルテを導入する場合、導入コストが高い点に難色を示す医師が多いです。

オンプレミス型(院内にサーバーを設置する方式)の電子カルテでは、一般的に200万円以上の初期導入費用がかかります。また、5年に1度サーバー更新する費用もかかるため、長期的なスパンで予算を確保する必要があるでしょう。

一方で、クラウド型(サーバーをクラウド上で管理する方式)の電子カルテでは、院内にサーバーを設置しません。そのため、初期導入費用が抑えられるメリットがあります。しかし、月額費用としてランニングコストが月に数万円かかるため、この点をデメリットとして捉える医師がいるのです。

電子カルテ導入に関して、費用対効果が見込めないと判断したクリニックでは導入が難しいでしょう。

PCへの苦手意識

高齢の医師の場合、PC自体に苦手意識を持つ方が多いです。イメージとして、操作が難しく、かえってカルテ入力が困難になると感じる医師が一定数います。

厚生労働省における2018年のデータによると、クリニックの医師における平均年齢は60歳です。PCが日本に普及していない時代から開業している医師が多く、PC運用に慣れていないことでPCを敬遠する医師がいます。

また、PCがあることでPC入力に意識が向き、患者の顔を見ずに診察してしまう点を指摘する先生もいます。診察時には、患者の顔をしっかり見て、患者と真摯に向き合いたいと考える医師の想いがあるのです。

災害時を想定しての懸念

たとえば、地震や津波といった災害により、停電が起きてPCが使えなくなることを懸念している医師がいます。有事の際に紙カルテ運用をしておけば、診療に影響が出ないと考える医師が一定数いるのです。

現在は、サーバーをクラウド上で管理し、タブレット端末などで電子カルテを参照できる仕組みがあります。これを活用することで、停電が起きてもPCがダウンせず、運用が停止しない対策がとられているのです。

また、オンプレ型の電子カルテでサーバーを院内に設置する運用であっても対策方法があります。サーバーに無停電電源装置を接続することで、停電が起きてもPCのダウンを防止できるのです。

このように、現在の電子カルテでは、有事の際を想定した対策が練られています。今後、電子カルテを普及させるためには、こういった対策を啓蒙していく必要があるでしょう。

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電子カルテを導入するメリット

電子カルテを導入することで、さまざまなメリットが生まれます。
今後、電子カルテ導入を検討している方はぜひ参考にしてみてください。

業務効率化

院内業務全般が効率化されるため、診察時間や患者さんへの対応時間などが短縮可能です。

また、カルテ入力や書類作成が簡素化され、患者情報が一元化されます。そのため、スタッフ間で患者情報が共有しやすくなり、患者さんへの説明も簡便になるのです。

カルテ出しや受付業務・会計業務もスムーズに行えるようになるため、患者の待ち時間も減らせるでしょう。患者の待ち時間が減り、診察がスムーズに進むため、間接的に増患も期待できます。

場所をとらない

紙カルテの場合、数千枚以上のカルテを棚に保存する必要があるため、その分の保管スペースが必要です。

一方で電子カルテであれば、電子ファイル形式でサーバーに保存されるため、物理的な保管スペースが必要ありません。手狭になりがちなクリニックでも、保管スペースに困ることはないのです。

過去の記録を読みやすい

従来は、棚に保存された膨大な紙カルテの中から、参照したい患者さんのカルテを探す時間と労力が必要でした。

一方で電子カルテを導入すると、過去のカルテ記録を簡単に読み出すことが可能になります。参照したい患者さんのIDを入力するだけで、その患者さんのカルテ情報が参照できるのです。

また検査システムなどと連携することで、参照したい患者さんの検査データを瞬時に確認できる点もメリットの1つと言えます。

電子カルテによっては、過去数件のデータを同一画面に並べ、時系列比較なども容易に行えるメーカーもあるので便利です。

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電子カルテの選び方

電子カルテを選ぶ上で重要なポイントを解説します。電子カルテを選ぶ際は、導入後に後悔しないよう、次項のポイントに沿って選定しましょう。

使いやすさ

電子カルテを選ぶ上で最も重要なポイントは「使いやすさ」です。

電子カルテは、院内スタッフ全員が関わるものです。使いやすい電子カルテでなければ、導入が難しくなるでしょう。
選定にあたっては、入力の簡便さや画面の見やすさ、レスポンスの速さなどを総合的に判断すると良いです。

とはいえ、実際に使ってみないと判断しづらい部分があります。

そこで電子カルテを選ぶ際は、メーカーにデモンストレーションを依頼しましょう。実際に画面を操作したり、入力操作を目の前で見たりすることで評価しやすくなります。
使いづらいと思っていた電子カルテを実際使ってみることで、予想以上に利便性を感じ、購入に踏み切る医師もいます。まずは試しに使ってみましょう。

事業者の信頼性

電子カルテのシェアや導入実績は、電子カルテを導入する上で決め手の1つとなります。導入シェアや導入実績が多いほど、電子カルテメーカーへの信頼性が高まるからです。
機能性やスペックなどでメーカーを選定できない場合は、導入シェアや導入実績を基準に考えても良いでしょう。

また、メーカーによっては、電子カルテの種類や診療科ごとで強みが異なるメーカーもいます。自院が標榜しているクリニックの診療科に強いメーカーを選ぶのも1つです。クラウド型の電子カルテを検討しているのであれば、クラウド型の電子カルテ実績が豊富なメーカーを選ぶのもいいでしょう。

電子カルテを選ぶ際は、自院の治療方針や方向性に関連が深く、かつ実績のあるメーカー選びが大切となるのです。

他システムとの連携機能

たとえば「検査システムとの親和性の高さ」は選定ポイントの1つになります。電子カルテ上で検査データを参照できるか否かで、診療の効率が変わるからです。

たとえば、心電計を例に説明しましょう。

システムと連携していない場合、まず心電計に患者情報を手入力し、検査を行います。検査終了後、看護師が医師の元へ心電図(記録紙)を持って行き、医師が心電図を参照。その後、医師が診断をするという流れが一般的です。

一方で、検査システムと電子カルテを連携させると、どうなるでしょうか。

電子カルテと連携していれば、心電計上にIDを入力するだけで、電子カルテから患者情報が心電計側で取得できます。これにより、従来手入力していた患者情報入力作業がなくなるのです。

また、保存されたデータは検査システムを介し、医師のいる診察室の電子カルテ端末上で参照可能になります。これにより、従来看護師が行っていた、医師の元へ心電図を持っていく作業がなくなるのです。

検査システムを導入し、電子カルテと連携することで、検査後のカルテ入力が効率化されます。またスピーディーな診断が行えるようになるでしょう。
電子カルテで検査データや画像データが参照できれば、紙のデータを開いて参照する手間がなくなり、効率化が図れるのです。

また、外注システムとの親和性も重要です。

クリニックでは、院内で対応できない検査を外注業者に委託し、検査データを得る方法があります。

従来は、外注業者に委託し、数時間後に結果が返ってくる運用が一般的でした。しかし、現在では外注システムと電子カルテを連携することで、外注検査データを短時間で電子カルテに取り込むことが可能です。
従来行っていた手入力や、コピー&ペーストなどの作業がなくなるため、カルテ入力が効率化されるでしょう。

まとめ

今回は、電子カルテが普及しない理由について解説しました。

電子カルテが普及しない理由には、紙カルテで数十年間運用してきたベテラン医師のこだわりや想いが関係しています。また導入コストが高い点やPCへの抵抗がある点で、電子カルテ導入を見送る医師が多いです。

電子カルテを導入することで、診察時に患者の顔を見なくなることを懸念している医師もいます。そこには、患者の顔をしっかり見て患者と真摯に向き合いたいと考える医師の想いがあるのです。

一方で、電子カルテにはさまざまなメリットがあります。院内業務の効率化や保管スペースをとらない点、過去データが探しやすい点が挙げられます。

電子カルテ導入を促進させる動きはあるものの、それぞれのクリニック、医師にとってのベストな選択をしていくことが良いのではないでしょうか。

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