医療経営・診療所経営

宿日直許可とは?医療機関の取得条件・申請手順と未取得の経営リスクを解説

公開日
更新日
宿日直許可とは?医療機関の取得条件・申請手順と未取得の経営リスクを解説

「当直の時間は労働時間に含まれるのか、判断に迷っている」こうした疑問をお持ちの先生は多いことでしょう。

2024年4月から医師の時間外労働に上限規制が適用され、当直時間の扱いは病院やクリニックの経営に直結する問題になりました。

宿日直許可の有無によって、労働時間のカウントや残業代の計算は大きく変わります。未取得のまま放置すれば、行政処分や医院継承時の評価額引き下げにもつながりかねません。

本記事では、宿日直許可の仕組みから取得条件・申請手順、さらに医院継承で注意すべきポイントまでをわかりやすく解説します。

宿日直許可とは当直を労働時間から除外する制度

宿日直許可とは、労働基準法第41条に基づき、労働基準監督署が「この宿日直は断続的な業務にあたる」と認める許可制度です。

出典:医療機関における宿日直許可~申請の前に~|厚生労働省

通常は医師に宿日直をさせた場合、その時間はすべて労働時間として扱われます。宿日直許可を受ければ、宿日直中の時間は原則として労働時間に算入されず、時間外・休日・深夜の割増賃金を支払う必要もなくなります。

2024年4月には医師の働き方改革として時間外労働に上限規制(A水準:年960時間)が施行され、宿日直の時間が労働時間に含まれるかどうかが経営に直結するようになりました。

医師の働き方改革の全体像については「医師の働き方改革が医療機関に与えた影響と対応のポイント」で詳しく解説しています。

まずは、宿日直に関係する用語の違いを整理しておきましょう。

宿直・日直・当直・夜勤の違い

医療機関で使われる「当直」「夜勤」などの用語は、法律上の扱いがそれぞれ異なります。

用語内容宿日直許可の対象
宿直夜間に施設内で待機し、電話対応や巡視などの断続的な業務を行う。翌日も勤務を継続する対象
日直休日の日中に施設内で待機し、断続的な業務を行う対象
当直「宿直」と「日直」をまとめた総称として使われることが多い宿直・日直として対象
夜勤通常の夜間労働。労働時間にすべてカウントされる対象外

宿日直許可の対象となるのは「宿直」と「日直」のみです。夜勤は通常の労働そのものであり、許可の対象にはなりません。

「当直」という言葉は宿直と日直の総称にすぎないため、許可申請の際は「宿直」「日直」を分けて申請する必要があります。

宿日直許可の有無で変わる2つのこと

宿日直許可の有無で、日々の人件費管理と医師の働き方改革への対応が大きく変わります。違いは「労働時間のカウント」と「残業代の発生」の2つに集約されます。

どちらも経営コストや法令遵守に直結するため、それぞれ確認しておきましょう。

労働時間へのカウントが変わる

労働時間のカウント

宿日直許可がある場合、当直中の時間は労働時間に算入されません。医師の時間外労働の上限規制(A水準:年960時間)にも影響しにくくなります。

宿日直許可がない場合は、当直中の時間がすべて労働時間としてカウントされます。月に数回の当直だけでも年間の時間外労働が積み上がり、上限規制を超えるリスクが高まる点に注意が必要です。

残業代の発生が変わる

当直時間に対して発生するコスト

宿日直許可がある場合は、宿日直中の時間に対して宿日直手当のみを支払えば足ります。時間外割増(25〜50%増)や深夜割増(25%増)を別途支払う必要はありません。

宿日直許可がない場合は当直時間がすべて通常の労働時間として扱われ、時間外割増と深夜割増の両方が発生します。医師の人数と当直回数によっては、年間で数百万円単位の差が生まれることもあるでしょう。

宿日直許可なしで当直を続けるリスク

2024年4月に医師の時間外労働に上限規制が施行されました(A水準:年960時間、B・C水準:年1,860時間)。宿日直許可がなければ当直時間がすべて時間外労働に加算されるため、上限を超えやすくなります。

上限超過だけでなく、過去にさかのぼった残業代の請求や行政処分の対象になる可能性もあります。ここでは宿日直許可なく当直を行う、2つのリスクを確認しておきましょう。

過去の残業代をまとめて請求される

宿日直許可がない状態で宿日直を行わせていた場合、過去にさかのぼって残業代の支払い義務が生じます。宿日直許可を取得していても、実態が許可基準から逸脱していた場合は同様です。

残業代請求の時効は「当分の間3年」と定められています。

“2020年4月1日以降に支払期日が到来する全ての労働者の賃金請求権の消滅時効期間 を賃金支払期日から5年(これまでは2年)に延長しつつ、当分の間はその期間は3年と されています。なお、退職金請求権(現行5年)などの消滅時効期間などは変更されてい ません。”

 引用:賃金請求権の消滅時効についてのリーフレット|厚生労働省

当直に携わる医師の人数に年数を掛け合わせると、帳簿に載っていない未払い残業代が大きな金額に膨らむ可能性があります。

行政指導・罰則の対象になる

宿日直許可を取得せずに当直をさせることは、労働基準法違反として行政指導や是正勧告の対象になります。悪質と判断された場合は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金※が科される可能性もあります。

※労働基準法第119条

第37条(割増賃金の不払い)および第32条(労働時間)の違反に対して「6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」

 出典:e-Gov法令検索|労働基準法

なお、宿日直許可を「申請中」であっても、正式に宿日直許可が下りるまでの間は無許可運用と同じ扱いになるので注意しましょう。

クリニックや病院が宿日直許可を取得するための条件

宿日直許可を取得するには、厚生労働省が定める「一般基準」と「医師・看護師向けの追加基準」の両方をすべて満たす必要があります。いずれも「宿日直中にほとんど労働が発生しない」ことを前提とした基準です。

通常の夜間診療と変わらない業務量であれば許可は認められません。それぞれの具体的な要件を確認しておきましょう。

一般基準:4つの要件をすべて満たす

すべての業種に共通する基準として、以下の4つの要件があります。1つでも欠けると許可は認められません。

常態としてほとんど労働が発生しない

宿日直中の業務は、定時の巡視や緊急時の連絡対応、非常事態への待機が中心であることが求められます。つまり、「待機がメインで、実際に手を動かす場面はごくわずか」という状態でなければなりません。

宿日直手当が1日平均賃金の1/3以上支給されている

宿日直1回あたりの手当として、1日の平均賃金の3分の1以上を支給する必要があります。たとえば1日の平均賃金が3万円の医師であれば、1回あたり1万円以上の手当が求められます。

宿直は週1回・日直は月1回以内に収まっている

同じ医師が宿直を担当できるのは週1回まで、日直は月1回までです。人手不足でシフトを回しにくい医療機関ほど、この回数制限がネックになりやすいといえるでしょう。

宿直に対応した睡眠施設が整っている

宿直勤務者が仮眠を取れるよう、相当の睡眠設備を用意しなければなりません。仮眠室やベッドがない環境では、この要件を満たすことはできません。

医師・看護師向けの追加要件もすべて満たす

医師や看護師が宿日直を行う場合、さきほどの一般基準4項目に加えて、以下の3つの要件もすべて満たす必要があります。

通常勤務が終わってから開始されている

宿日直は、通常の勤務時間の拘束から完全に解放されたあとに開始する必要があります。たとえば外来診療や手術の延長がそのまま宿日直に移行する場合、この要件を満たさないと判断されます。

発生する業務が軽度かつ短時間に限られている

宿日直中に発生する業務は、特殊な措置を必要としない軽度なもの、または短時間で完了するものに限られます。そのため救急対応や手術が頻繁に発生する環境では、宿日直許可の取得は難しいといえます。

夜間に十分な睡眠が取れる環境がある

宿直の場合、夜間に十分な睡眠が取れる状態が条件です。夜中に何度も起こされるような実態があれば、この要件を満たさないと判断される可能性があります。

宿日直許可の申請手続きと必要書類

宿日直許可は自動的に付与されるものではなく、管轄の労働基準監督署に申請して審査を受ける必要があります。

書類の不備や準備不足があると審査が長引くため、申請前の段階で自院の勤務実態を整理し、許可基準を満たしているかを確認しておくことが重要です。

ここでは、申請から許可取得までの流れと準備すべき書類を紹介します。

申請から取得までの流れ

宿日直許可の申請は、以下の手順で進めます。

  1. 申請前確認:就業規則・シフト表・賃金台帳をもとに、宿日直許可の基準を満たしているか確認する
  2. 書類の準備:申請書・就業規則・賃金台帳・シフト表・睡眠設備の図面などを揃える
  3. 管轄の労働基準監督署の窓口またはe-Gov電子にて申請をする
  4. 審査を受ける
  5. 許可証を受領する

不明な点がある場合は、厚生労働省の相談窓口に問い合わせましょう。

申請に必要な書類一覧

主に以下の書類を準備します。

  • 宿日直勤務許可申請書(様式第10号)
  • 就業規則(宿日直に関する規定箇所)
  • 賃金台帳(宿日直手当の算定根拠を示すもの)
  • シフト表(直近の勤務実績がわかるもの)
  • 睡眠場所の見取り図・写真(宿直の場合)
  • 勤務の態様がわかる資料(業務内容や発生頻度の記録)

出典:東京労働局労働基準部監督課|医療機関における宿日直の許可基準について

書類に不備があると審査が長引くことがあります。事前に管轄の労働基準監督署へ相談し、必要書類を確認しておきましょう。

宿日直許可が取り消される原因と対策

宿日直許可は一度取得すれば終わりではありません。取得後も勤務実態が基準から逸脱していると判断されれば、宿日直許可が取り消される可能性があります。

取り消されると、それまでの当直時間がすべて労働時間として扱われ、未払い残業代の支払い義務が発生することもあります。

勤務実態の乖離は、労働基準監督署の臨検監督(定期・抜き打ち)や医師からの申告をきっかけに発覚します。取り消しにつながる主な原因と対策方法について解説します。

宿日直中の通常業務が記録されていない

宿日直中に通常の診療業務が発生しているにもかかわらず、記録が残っていないケースです。記録がなければ勤務実態を正確に把握できず、基準を逸脱していても気づけません。

対策として宿日直中に通常業務が発生した回数と時間を記録する台帳を整備し、定期的に内容を確認しておきましょう。

宿直週1回・日直月1回の回数制限を超えている

シフト作成時に回数制限を意識しないまま、同一の医師に週2回以上の宿直や月2回以上の日直を割り当ててしまうケースです。

シフトを組む段階で「宿直は週1回まで、日直は月1回まで」をチェック項目に加え、超過がないか確認する仕組みを設けましょう。

宿日直許可の内容と勤務実態が異なっている

宿日直許可の取得時の申請内容と現在の勤務実態が、いつの間にかズレてしまうケースです。診療科の追加や患者数の変化によって、宿日直中の通常業務が増えることは十分にあり得ます。

対策として、定期的に勤務実態と許可内容を照合することが重要です。通常業務が発生した場合はその時間を労働時間として別途記録し、割増賃金を支払うルールをあらかじめ整備しておきましょう。

宿日直手当が基準額を下回っている

賃金改定後に宿日直手当の見直しを行わず、1日平均賃金の3分の1を下回ったまま放置しているケースです。賃金改定を実施する際は、宿日直手当の金額が基準を満たしているかもあわせて確認しておきましょう。

宿日直許可が未整備だと医院継承でも不利になる

宿日直許可の問題は、日常の労務管理だけにとどまりません。医院継承(M&A)の場面においても、宿日直許可が未整備状態だと大きなマイナス要因になります。

買い手側のデューデリジェンス(買収前の詳細調査)で労務リスクが見つかれば、評価額の引き下げや交渉の破談にもつながりかねません。特に譲渡を検討している先生は、以下の3つの理由を確認しておきましょう。

関連記事:医院継承のDD(デューデリジェンス)とは?種類や調査内容、費用をわかりやすく解説

未払い残業代が簿外債務として評価額を下げるため

宿日直許可なしで当直を行わせていた期間がある場合、その間の残業代が帳簿に載らない「簿外債務」として残ります。

残業代請求の時効は当分の間3年です(改正労基法第115条)。過去3年分の未払い残業代が偶発債務として認識されると、デューデリジェンスの段階で譲渡価格を引き下げられる要因になります。

金額が大きい場合は、買い手側が取引自体を見送ることもあり得るでしょう。

表明保証違反のリスクが買い手を慎重にさせるため

医院継承(M&A)の契約では、売り手側が「労務コンプライアンスに問題がない」と表明保証するのが通例です。しかしクロージング後に、宿日直許可を取らずに当直を行わせていた事実が発覚すれば、表明保証違反として損害賠償を請求される可能性があります。

買い手側にとっては取引完了後に想定外の賠償リスクを抱えることになるため、価格交渉で大幅な減額を求めるか、取引そのものを見送る判断をすることも珍しくありません。

医師に敬遠されて承継後の採用競争力が落ちるため

宿日直許可がない病院で当直を行うと、その時間が医師の時間外労働の上限(A水準:年960時間)をそのまま消費します。特に非常勤やアルバイト先を探している医師にとって、宿日直許可のない病院は「自分の残り枠を大きく使ってしまう勤務先」として敬遠されやすくなります。

承継後に当直体制を維持できなくなれば、診療の継続そのものに支障が出かねません。医師の確保が難しくなることは、経営の安定性を大きく損なう要因です。

宿日直許可に関するよくある質問

宿日直許可は取得条件や適用範囲が細かく定められているため、実務の場面で判断に迷う先生も多いです。

ここではとくに多い「許可を取るメリットは何か」「許可なしの当直は違法なのか」「宿日直中に実際に働いたらどうなるのか」という疑問について、回答していきます。

Q1. 宿日直許可のメリットは医療機関にとって何ですか?

医療機関にとってのメリットは、主に以下の3つです。

  • 人件費の適正化:宿日直中の時間が労働時間に算入されないため、割増賃金の負担を抑えられる
  • 上限規制への対応:医師の時間外労働が圧縮され、年960時間の上限を超えにくくなる
  • 採用面での差別化:「宿日直許可あり」と明示できることで、医師の応募先として選ばれやすくなる

Q2. 宿日直中に働いているのに労働時間にならないのはおかしくないですか?

宿日直許可はそもそも「ほとんど労働が発生しない待機中心の勤務」にのみ認められるものです。実際に通常の診療業務が発生した時間については、宿日直許可の有無にかかわらず労働時間として扱われ、残業代の支払い義務が生じます。

つまり「働いているのに労働時間にならない」という状態は、制度上は起きない仕組みです。それでも実態が通常業務と変わらないまま運用している、いわゆる「名ばかり宿日直」は違法にあたります。

Q3. 宿日直許可なしで当直させるのは違法ですか?

宿日直許可なしで当直をさせること自体は、直ちに違法となるわけではありません。ただし、当直時間はすべて通常の労働時間として扱う必要があります。

深夜割増(25%増)と時間外割増(25〜50%増)の支払い義務が発生し、医師の時間外労働の上限規制(A水準:年960時間)にもカウントされます。宿日直許可を取得しないまま当直を続けると上限超過のリスクが高まるため、早めの対応が重要です。

まとめ|宿日直許可の有無は経営や医院継承に影響する

宿日直許可は、当直時間を労働時間から除外できる制度であり、人件費の適正管理や医師の働き方改革への対応に直結します。宿日直許可がない状態で当直を続ければ、過去の残業代請求や行政処分のリスクにさらされるだけでなく、医院継承の場面でも評価額の引き下げや交渉の破談につながりかねません。

しかし、宿日直許可の取得には厳格な基準があり、取得後も勤務実態の管理を継続する必要があります。「宿日直許可を取って終わり」ではなく、定期的な実態の確認と記録の整備が欠かせません。

まずは自院の当直体制が宿日直許可の基準を満たしているか確認し、未整備であれば早めに体制を見直しておきましょう。

私たちエムステージマネジメントソリューションズでは、医院継承(M&A)に関するご相談をお受けしています。労務面の準備についても、先生の状況に合わせたサポートが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継サポートにお問い合わせください。

この記事の監修者

田中 宏典(医業承継M&Aアドバイザー/医療経営士1級/医業承継士/ファイナンシャルプランナー)

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計70件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。

【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。