皮膚科の新規開業を成功させる完全ガイド!低リスクな開業を実現した事例も紹介
目次
皮膚科クリニックの開業は、医師のキャリアにおける大きな決断の一つです 。
高齢化社会の進展や美容意識の高まりによって、皮膚科クリニックの需要は増加傾向にあると同時に競合も多いため、開業で成功するためには綿密な準備と戦略が必要です。
本記事では、皮膚科クリニックの新規開業を成功させるためのポイントや注意点、新規開業以外の選択肢である医院継承についても詳しく解説します。
開業を検討している皮膚科医の方は、ぜひ参考にしてください。
皮膚科クリニック新規開業までの期間やスケジュール
皮膚科クリニックの新規開業には、通常1年から1年半程度の期間が必要です。
開業までの主なスケジュールは以下のとおりです。
新規開業までの期間 | スケジュール内容 | 具体例 |
12か月以上前 | 基本構想の策定 | 診療方針の決定(保険診療中心か、自由診療も含むか)事業計画書の作成資金調達の検討開業支援の会社や税理士の選定 |
12か月前 | 土地や物件の選定・設計 | 診療圏調査の実施物件の選定と賃貸借契約設計・施工業者の選定医療機器の選定 |
10か月前 | 施工開始 | 内装工事の着工医療機器の発注各種許認可申請の準備 |
6か月前 | 許認可の申請や設備面のチェック | 保健所への開設届出厚生局への保険医療機関指定申請スタッフの採用と教育電子カルテ等のシステム導入 |
3か月前 | 最終準備 | 内覧会の実施集患対策の開始(ホームページ開設、チラシ配布等)医薬品や医療材料の調達 |
新規開業時には、特に保健所や厚生局などの各種許認可に関する申請に注意してください。
開業予定の地域によって、必要な書類や申請期限が異なるためです。
書類に不備があったり、保健所の指摘などで施工の修正が必要になったりすることもあるので、余裕を持った開業スケジュールが重要です。
関連記事:クリニックの開業スケジュールと必要な準備を徹底解説
皮膚科の新規開業で必要な費用
皮膚科を新規開業する場合に必要な費用は、メインが保険診療となる一般的な「皮膚科」と自由診療がメインとなる「美容皮膚科」によっても大きく異なります。
- 皮膚科に必要な開業費用:2,000万〜6,000万円
- 美容皮膚科に必要な開業費用:5,000万〜1億円
皮膚科の開業では、主に「物件」と「医療機器」に関する費用の割合が多いです。
項目 | 費用の目安 |
皮膚科の物件に関する費用(不動産の契約や設計・工事費など) | 1,500万〜2,000万円 |
医療機器の導入費用 | 500万〜5,000万円 |
保険診療がメインの場合、大掛かりな医療機器や診療スペースは必要ないため、開業資金は比較的少なくて済みます。
一方で美容皮膚科の場合、1台あたり何百万円もするレーザー機器やイオン導入機器などを導入する必要があります。
それらの医療機器を配置できる物件も必要なので、皮膚科に比べて多くの開業費用が必要になるわけです。
また、ここで紹介した開業費以外に、数か月分の運転資金を用意することも忘れてはいけません。
関連記事:クリニックの開業資金はいくら必要?診療科目別でわかる費用や調達方法を紹介
クリニック開業で活用できる補助金や助成金
皮膚科の開業には多額の資金が必要ですが、国や地方自治体が設けている補助金や助成金を活用することで、自己資金の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
ここでは皮膚科クリニックの開業時に活用できる、主な補助金や助成金をご紹介します。
名称 | 金額 | 概要 |
IT導入補助金 | 最大450万円 | 電子カルテなどのITツールを導入する際に活用できる補助金 |
事業承継・引継ぎ補助金 | 最大800万円 | 医院継承による開業時に活用できる補助金 |
医療施設等施設・設備費補助金 | 最大1,650万円(医療機器設備費の2分の1まで補助) | 地方(へき地)で開業した際に活用できる補助金 |
創業補助金 | 最大200万円 | 開業時の経費を補助してくれる補助金 |
トライアル雇用助成金 | 4万円を最大3か月分 | ハローワークでスタッフを雇用した際に利用できる助成金 |
これらの制度は公募期間が定められていたり、年度によって内容が変更されたりすることも多いです。
利用を検討する際は、必ず管轄の省庁や自治体のホームページで最新の情報を確認するようにしてください。
補助金や助成金を有効活用することで自己資金の負担を軽減し、より充実した設備投資や運転資金の確保につながります。
皮膚科クリニックの平均年収
厚生労働省が令和5年に行った医療経済実態調査によると、個人クリニックの皮膚科の損益差額は約2,800万円という結果が出ています。
項目 | 金額(単位は千円) |
①医業収益 | 68,105 |
②介護収益 | 0 |
③医業・介護費用 | 40,060 |
損益差額(① + ② – ③) | 28,045 |
※出典:中央社会保険医療協議会|第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告
この損益差額は個人の手取り年収と全く同じとは言えませんが、皮膚科開業医の年収を把握する上で重要な数値と言えます。
「美容皮膚科」の場合は自由診療の収益割合が高くなるため、3,000万円以上の年収も現実的と言えるでしょう。
ただし、美容皮膚科は初期投資も大きくなるため、資金の回収期間も長くなることを考慮する必要があります。
また競合が激しい分野なので広告宣伝費用の負担も大きくなる傾向にあり、必ずしも高収益になるとは限りません。
皮膚科の最適な開業場所や物件は主な診療内容で異なる
皮膚科クリニックが成功するかどうかは、立地選びの段階で決まると言っても過言ではありません。
特に皮膚科は保険診療をメインにするか、自由診療をメインにするかで、理想的な立地戦略も大きく異なります。
ご自身のクリニックのコンセプトに合わせて、最適な開業場所を見極めましょう。
保険診療がメインの皮膚科の場合
アトピー性皮膚炎や湿疹、じんましんといった一般的な皮膚疾患を主に扱う保険診療中心のクリニックは、地域住民が日常的に通いやすい、生活圏内に近い立地が理想です。
【保険診療の皮膚科に最適な立地】
- 徒歩圏内に住宅が多い地域
- ファミリー層が多い新興住宅地
- 高齢者が多い既存住宅地
テナントビルでの開業を考える場合、ベビーカーを利用する親子連れや車椅子を利用される方、高齢の患者がストレスなく出入りできるよう、バリアフリーを意識した1階の物件が最適です。
もし、2階以上の物件を選ぶ場合は、エレベーターの有無や広さが重要な選定ポイントです。
また、郊外や住宅街では車で来院される患者も多いため、専用の駐車場の有無や周辺のコインパーキングも確認しておきましょう。
自由診療がメインの美容皮膚科の場合
シミ取りやエイジングケア、医療脱毛などの自由診療をメインとする美容皮膚科の場合は、通院の利便性とプライバシーへの配慮ができる立地が求められます。
美容に関する悩みはきわめてデリケートなため、クリニックに出入りする姿をあまり人に見られたくないと感じる患者も多いためです。
【自由診療の美容皮膚科に最適な立地】
- 仕事帰りに通院しやすい立地
- 複数の路線が利用できる駅周辺
- 急行や特急の停車駅など利便性の高い駅周辺
テナントビルの場合、2階以上のほうが人目を気にする必要が無いため、患者に好まれる傾向にあります。
また、患者の通いやすさは、ターゲットとする年齢層によっても変わってきます。
たとえば20代や30代を主なターゲットにするのであれば、流行のファッションビルや商業施設が集まる、若い世代に人気のエリアが理想的です。
一方で、50代以上を対象としたエイジングケアに特化したクリニックを上記のような若者で賑わうエリアに開業した場合、ターゲット層の患者は「場違いで行きにくい」と感じてしまい、逆効果になる可能性もあります。
特に美容皮膚科では、コンセプトとターゲット層を明確にした上で立地を選ぶことが重要です。
皮膚科の新規開業で失敗しないためのポイント
綿密な計画を立てて皮膚科を開業しても、経営が思うようにいかないケースも多いです。
ここでは皮膚科の新規開業で後悔しないために、特に押さえておくべき5つの重要なポイントを解説します。
高額な医療機器の導入はニーズと予算を入念に考慮
特に美容皮膚科では最新鋭のレーザー機器など、高額な医療機器の導入も収益のカギとなります。
とはいえ「最新・最高スペックの医療機器を導入すれば成功できる」と考えるのは危険です。
当然ながら高額な初期投資は、経営上のリスクとなるためです。
導入予定の医療機器が、クリニックの診療方針やターゲットとする患者層のニーズに本当に合っているのか、見極める必要があります。
まずは必要最小限の機器でスタートし、経営が安定してから患者の要望や収益状況に応じて、段階的に機器を増やしていくという方法も検討する必要があるでしょう。
開業資金の予算を圧迫しすぎないために、中古の医療機器やリース契約を視野に入れることも重要です。
患者への配慮と業務効率を考慮した設計
クリニックの内装やレイアウトは、患者満足度とスタッフの業務効率に大きく影響します。
設計段階で以下の点も考慮しておきましょう。
【動線計画】
患者が受付から診察室、処置室、会計へとスムーズに移動できるか。また、患者の動線とスタッフの動線が交錯しすぎないように分離し、業務の効率化とプライバシー保護を両立させることが重要です。
【プライバシーへの配慮】
診察室やカウンセリングルームは、声が外に漏れないよう個室にするのが理想です。特に美容皮膚科の場合、患者同士で視線が合いにくいように、待合室の座席も配置を工夫する必要があります。
【内装デザイン】患者がリラックスして過ごせるよう、照明の色合いや壁紙、インテリアなどに配慮し、清潔感と温かみのある空間を演出することが大切です。
関連記事:診療所の間取りを成功させるための考え方とは?法規制や広さの基準を解説
ターゲットに合わせた集患対策
どれだけ最新の医療設備を整えたとしても、クリニックを認知してもらわなければ患者が訪れることはありません。
診療内容によっても効果的な集患戦略は大きく異なるため、自院のコンセプトに合った集患方法を選択することが重要です。
保険診療中心のクリニックでは、地域住民への認知向上が最優先と言えます。
近隣住民に対してチラシをポスティングしたり、自治体の広報誌に掲載してもらったりといったアプローチが効果的です。
また、子ども連れの患者が多いことを見越して、小児科や保育園、地域のコミュニティセンターなどとの連携も検討しましょう。
一方で美容皮膚科の場合は、より広範囲のターゲットにアプローチする必要があります。
WebサイトやSNS(InstagramやTikTokなど)での情報発信は必須です。
施術内容や料金、症例写真を分かりやすく提示して専門性や信頼性をアピールしましょう。
ただし広告運用をする際には「医療広告ガイドライン」を遵守する必要があります。
関連記事:医療法による広告規制と限定解除要件|NG表現事例紹介
クリニックの評価に大きく影響するスタッフ教育の徹底
どれほど優秀な医師であっても、スタッフの対応が悪ければクリニック全体の評判は下がってしまいます。
特に皮膚科では見た目に関するデリケートな悩みを抱えた患者も多いため、スタッフの配慮ある対応が欠かせません。
そのため開業準備の段階から、スタッフ教育に注力することが重要です。
接遇マナー研修はもちろんのこと、クリニックの理念や診療方針を全員で共有するなど、スタッフ全員が同じ方向を向いて業務に取り組める体制を築きましょう。
定期的なミーティングや研修の機会を設け、スタッフ一人ひとりのスキルアップとモチベーション向上を図ることで患者満足度も向上し、リピートにもつながります。
医師会の加入はメリット・デメリットを把握
開業医の中には医師会への加入で悩む方も多くいらっしゃいます。
医師会は地域の医療連携や学術活動の推進、医療行政への提言などを行う団体であり、加入することでさまざまなメリットが得られます。
【医師会に加入する主なメリット】
- 地域の医療機関との連携がスムーズになる
- 最新の医療情報や研修会、講演会の案内を受けられる
- 医師賠償責任保険に割安で加入できる
- 地域の予防接種事業などに参加できる
一方で、経済的な負担と時間的な拘束というデメリットもあります。
入会金や年会費で年間数十万円から数百万円の負担が発生し、各種会議や当番医への参加も求められます。
加入の判断基準として重要なのは、地域での開業戦略と医師会の影響力のバランスです。
保険診療中心で地域密着型の経営を目指す場合は加入のメリットが大きいですが、美容皮膚科中心で広域からの集患を図る場合は、必要性の低い可能性もあります。
医師会への加入は義務ではありません。
これらのメリット・デメリットを検討し、自身のクリニックの診療方針やライフプランに合うかどうかを慎重に判断することが大切です。
関連記事:医師会に入らない開業医の理由と医師会に入るメリット
【事例紹介】新規開業のリスクや負担が抑えられる医院継承も視野に
ここまで皮膚科の新規開業について解説してきましたが、開業には「医院継承」という選択肢もあります。
医院継承とは、既存のクリニックを譲り受けて開業する方法です。
新規開業に比べて、初期投資を大幅に抑えられるだけでなく、既存の患者やスタッフを引き継げるため、開業当初から安定した経営を見込める点が大きなメリットです。
ここでは、医院継承によって低リスクな開業を実現した事例を紹介します。
美容整形クリニックのリスク軽減を実現した事例
自由診療の美容整形クリニックは収益性が高い一方、集患のための広告宣伝費が高額になりやすく、ゼロから開業するには経営的なリスクも伴います。
この事例の買い手医師は、これまで保険診療を中心に経営をしていたことから、自由診療に関する集患ノウハウがないことが課題でした。
しかし医院継承によって、すでに通院している患者と経験のあるスタッフをそのまま引き継げたため、ゼロから集患や採用を行う負担もなく、開業当初から安定したクリニック経営をスタートできました。
開業時の集患やスタッフ採用における費用だけでなく、高額な医療機器の導入費用も軽減できたため、初めての自由診療でも安定した開業を実現した事例です。
関連記事:【九州×美容皮膚科】自由診療の美容整形クリニックを事業集中のために医院継承した事例
売り手側の先生が勤務医として在籍して安定した開業を実現した事例
新しくクリニックを開業する際、地域住民からの信頼を得て経営を軌道に乗せるまでには時間がかかります。
この事例では医院継承によってその課題を解決し、安定したスタートを実現します。
買い手側である医療法人は、事業エリアの拡大を目的としていました。
そこで長年の実績があるクリニックを継承し、さらに売り手である院長に勤務医として残ってもらう形を選択しました。
これにより、買い手側は開業直後から前院長の患者をそのまま引き継ぐことができ、安定した収益を確保できるという大きなメリットを得ます。
また、売り手側の院長も経営者としてのマネジメントに疲弊し、転職を考えていたところなので、残留は願ってもない条件だったのです。
長年地域医療に貢献してきた院長が引き続き診療を行うことで、患者も安心して通院を継続できます。
新規のエリアで開業する際の集患のリスクとコストを大幅に抑え、スムーズな経営を実現する上で非常に有効な手段となった事例です。
関連記事:【北海道×皮膚科】医院継承した売り手院長が同じクリニックで勤務医となり診療を継続
まとめ|皮膚科の開業で後悔しないためにも専門家に相談を
皮膚科の開業は、保険診療と自由診療のどちらを主軸に置くかによって、必要な準備や戦略が大きく異なります。
理想のクリニックを実現するためには、明確なコンセプトに基づいた入念な事業計画と、それを着実に実行していく行動力が不可欠です。
しかし、多忙な勤務の合間を縫って、煩雑な開業準備をすべて一人で行うのは、大きな負担とリスクを伴います。
何から手をつけて良いか分からない、あるいは事業計画や資金調達に不安があるという先生は一度、医業承継やクリニック開業支援の専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
私たちエムステージマネジメントソリューションズでは、これまで数多くの医院継承をサポートしてまいりました。
その豊富な経験と専門知識を活かし、事業計画の策定から資金調達、物件探し、各種手続き、そして開業後の経営サポートまで行っています。皮膚科クリニックの開業をご検討の先生は、ぜひお気軽にご相談ください。
▶医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月、プレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を上梓。
そのほか、医院承継の実務と現場知見に基づく発信を行っており、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演や寄稿も多数。医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。