診療所・病院の売却における譲渡価格の決め方

お役立ち 2023/05/02

M&Aにより診療所や病院などの譲渡(売却)がおこなわれる際、その譲渡価格(売買価格)はどのように決まるのでしょうか。近年増加している医療機関のM&Aにおいて、一般的に用いられている譲渡価格の決め方について解説します。

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譲渡価格の計算方法

昨今、医療機関においても、後継者の選定難などから、第三者承継、いわゆるM&Aによる医療機関や医療法人の譲渡を選ぶ医療経営者が増えています。

その検討の際に、重要なポイントとなる要素の1つが、自院はいくらで売れるのかという譲渡価格でしょう。譲渡価格の決め方は、「バリュエーション(価値算定)」とも呼ばれます。

「病床1床あたり◯◯万円」は過去の遺物

医療機関がM&Aで譲渡されるケース自体は増えてきていますが、譲渡価格の情報がオープンにされることはほとんどなく、藪の中となっているのが実態です。

かつては、病院については「病床1床あたり◯◯万円」といった、M&Aの「相場」が語られることもありました。先輩医師などからお聞きになられたことのある方も多いかもしれません。

これは、病院が許認可業であり、新規の病床割当を取得することのハードルが高いことから、既存の病床を一種の利権のようなものと捉えて、病床数で病院の価値を見積もるという考え方です。かつてはそれで通用した時代もあったかもしれませんが、医療機関の収益性が全般に低下傾向にあり、病床機能再編も求められているなど、病院を取り巻く環境が大きく変化した現代においては、まったく通用しない考え方だと思ったほうがいいでしょう。

資産額+営業権での評価が一般的

現代の病院M&Aにおける譲渡価格の決め方は、営利企業(株式会社)のM&Aの際に用いられる企業価値算定(バリュエーション)の考え方が流用されます。それには、大きく次の3タイプがあります。

①コストアプローチ

貸借対照表の純資産額を基準とする方法です。時価純資産額に将来の予想収益分を営業権として加える「時価純資産額+営業権」方式が代表的です。診療所や病院などのM&Aに際して用いられる主流の方法です。

②マーケットアプローチ

過去の類似のM&A事例での譲渡価格を参考にする方法や、同業の上場企業に対して株式市場で形成されている株価を、営業利益やEBITDA(営業利益+減価償却費)などの共通指標によって比例させることにより、譲渡対象企業の株価を推定する方法などです。

③インカムアプローチ

将来の5年程度の期間にわたって得られると予測されるフリーキャシュフローを算定し、それを現在価値に割り引いた金額を基準にして企業価値を算定するDCF(ディスカウントキャッシュフロー)方式が代表的です。

これらは排他的なものではなく、通常、可能であれば複数の方式で譲渡対象の価値を算定して、より妥当な譲渡価格を推定しようとします。

診療所や病院の場合、②や③の方式を当てはめることが難しい場合が多く、実際には①の「時価純資産額+営業権」方式が用いられることが多いでしょう。この方式は、現時点での資産価値として「時価純資産」の価額を算出し、それに、将来の収益可能性として「営業権」を加えるという考え方です。

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譲渡資産額の評価方法

資産額の評価は、計算書類(決算書)の貸借対照表に基づいておこなわれます。

まず、貸借対照表の「資産の部」に計上されている資産を確認します。診療所、病院によって多少違いはありますが、下記のような資産が計上されていることが多いでしょう。

  • 現金・預金
  • 事業未収金
  • 棚卸資産(医薬品、診療材料等)
  • 不動産(土地、建物)
  • 医療機器
  • リース資産
  • ソフトウェア
  • 差入保証金

一方、負債の部には、通常、下記のような科目で計上されています。

  • 事業未払金
  • 未払費用
  • 預り金
  • 短期・長期の借入金

そして、「資産の部」に計上されている資産額から、「負債の部」の負債額を差し引いた差額が「純資産の部」です。この純資産の部の金額は、決算期末時点でその医療機関が保有している財産額ということになります。

貸借対照表を洗い直す時価純資産を求める

ただし、貸借対照表が必ずしも資産の実態を正しく表しているとは限りません。その理由の1つは、会計ルール自体が、実態を正確に表すものになっていないということ、もう1つは、資産・負債が会計ルール通りに正しく計上されているとは限らないということです。

例えば、会計ルールでは、土地などの資産は取得原価(購入時の価格など)で計上されることになっています。50年前に購入した土地なら、その購入時の価格で計上されているということです。そのため、現時点での評価額(時価)と大きな乖離がある場合があります。

また、建物や医療機器などは、法定減価償却費を計上することにより、価値の減価はある程度反映されていますが、必ずしも老朽化がそのまま反映されているわけではなく、やはり時価(再調達価格=現在買ったらいくらになるのか)との乖離があります。

さらには、将来に支払う未収金などの場合は、将来価値と現在価値とに乖離があるため、現在価値に割り引く必要があります。

負債の部においては、退職給与債務、賞与債務などが、本来は引当金として計上すべきものが、正しく計上されておらず、いわゆる簿外債務(オフバランス)となっていることもよくあります。

M&Aの譲渡価格算出においては、貸借対照表をベースとしながら、上記のような、実態との乖離をもたらす様々な論点を洗い出して、確認・修正し、本当の時価を反映した時価貸借対照表を作成し、時価純資産額を算出します。

この時価純資産額が、その時点で、診療所や病院が保有する資産の価格ということになります。

なお、経常収支のマイナス(赤字)が長年続いている医療機関の場合、負債額が資産額を上回り、純資産額がマイナスの「債務超過」の状態になっていることがあります。この場合、譲渡価格を求める際の純資産の評価はゼロとなります。

営業権の評価方法

「営業権」は「超過収益力」あるいは「のれん代」と呼ばれることもあります。超過収益力とは、貸借対照表には計上されていないけれども、収益を生み出す源泉となるものだと想定される無形資産のことです。

診療所や病院であれば、利便性の高い立地にあること、地域に長年根付いて活動してきたことによるブランド力(信用力や知名度)、難度の高い症例を扱ってきたノウハウなどが該当するでしょう。

貸借対照表をベースにした時価純資産額では、これらの要素が勘案されません。そこで、一般的には、これを「営業権」として、譲渡価格に反映させます。

ただし、ブランドやノウハウといった要素は、貸借対照表に計上された不動産のように、その評価額を客観的に測定することが難しいことはすぐにわかります。

そこで、実際のM&A取引において、譲渡価格決定の際には、営業権を厳密に評価しようとするようなことは、通常おこなわれません。

実務上よく用いられる年買法(年倍法)

よく用いられている営業権の評価方法は、「年買法」(または「年倍法」とも)という考え方です。これは、「標準経常利益」をもとにして、その3年分とか5年分という具合に、倍数化した数値を営業権の評価額とするものです。

標準経常利益とは、利益調整のために用いられることが多い役員報酬や、減価償却費などを調整した経常利益です。

年買法において、営業権を標準経常利益の何年分にするのが妥当なのかという点については、一般的には数年(2~5年)程度が用いられることが多いようですが、客観的な決まりや根拠があるわけではありません。

買収側の立場からすると、営業権に対する投資を、将来得られる標準経常利益で回収していくことになります。その投資回収期間が何年であれば投資が妥当であるかという視点から、営業権を標準経常利益の何年分と評価するかを考えます。

一方売り手側が、その金額に対して妥当だと感じるかどうかは、やはり客観的な根拠はなく、主観的なものとなります。

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まとめ

以上説明してきた要素は、あくまで一般的なものです。M&Aは相対での交渉に基づいた取引なので、譲渡価格についても個別の事情が大きく影響します。例えば売り手が「多少譲渡価格を引き下げてでも、今すぐ売りたい」と考えていることもあれば、買い手が「どうしてもこのエリアに進出したいので、多少高くても欲しい」と考えることもあります。

そういった要素も踏まえて、もし、自院がどれくらいの譲渡価格で売却できるのかを知りたいのであれば、医療機関専門のM&A仲介会社である株式会社エムステージマネジメントソリューションズに無料の譲渡価格の見積もりをご依頼ください。

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