医局をやめる方法|円満退局のためのマナー・ステップ
目次
医局を辞める際は、理由とタイミングを明確にすることが重要です。タイミングは3~11年目の年度末が適切とされ、先に転職先を決めてから報告として伝えましょう。また、理由も納得されやすいものを考えることが大切です。メリットは勤務地の安定やワークライフバランスの向上がありますが、デメリットは資格取得が難しくなる点などがあります。
本記事では、円満退局のためにやるべきことや準備すべきこと、必要な心構えについてまとめました。
医局を辞める前に考えること
医局を辞める前に考えるべきことは、医局を辞める理由、そして辞めるタイミングです。
この2点を明確にしておくことでスムーズな退局が行えるでしょう。
医局を辞める理由
医局を辞める前に、なぜ自分が医局をやめたいのか、理由を考えましょう。辞める前に気持ちの整理をしておかなければ、辞めた後に後悔が残ってしまうからです。
また整理しておくことで、自身が目指すべき転職の方向性が定まりやすくなります。医局を辞める理由は人それぞれですが、たとえば以下のような理由があるでしょう。
- もっと年収を上げたい
- ストレスのある人間関係から開放されたい
- プライベートの時間を増やしたい
- 長期休暇をとりたい
ネガティブな理由があっても構いません。自分がどうなりたいのか、今後のビジョンを見定め、自身の気持ちの整理をしておきましょう。
辞めるタイミングを決める
辞めるタイミングを決めることは重要です。目安としては年度末の3月に辞め、4月から新しい勤務先に就くのが良いでしょう。
次に重要なのは退局を申し出るタイミングになります。遅くとも半年前、可能であれば1年前には退局を申し出ましょう。
一般的に、医局人事は秋に始まります。次年度の人事体制が整う前に退局を申し出ておけば、医局側も調整がしやすく、自身もスムーズに辞めやすくなるでしょう。
また、余裕を持って退局を申し出ておけば、引き継ぎに時間が割きやすくなり、医局に迷惑がかかりにくくなります。
自分のためにも医局のためにも、退局の申し出は早めに行っておきましょう。
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医局の辞め時
医局の辞め時は医師によって変わりますが、一般的には3つあると言われています。
勤続3年目
専門医を取得せずに辞める場合は、勤続3年目が適したタイミングと言えます。勤続年数が浅い状態であれば、医局内で重要なポジションを任される可能性が少ないため、辞めやすくなります。
一方で、勤続が長くなればなるほど、医局内で重役を任される可能性が高くなるのです。一度重役を任されると、辞めにくくなります。いざ退局の意思を伝えたら、激しい慰留を受けることもあるでしょう。
「退局しやすいうちに退局をしてしまう」という意味で勤続3年〜5年目は適したタイミングでしょう。
勤続6年目
専門医を取得するには、研修を含め、大体5年前後がかかります。勤続6年目であれば、専門医の資格を取得して退局できる頃であるため、1つのタイミングと言えるでしょう。
専門医の資格を持っていることで、転職に有利になります。年収やポジションの交渉時に使える要素になるのです。専門性だけでなく、権威性の証明にもなるため、メリットになるでしょう。
一方で専門医の資格は、定期的に更新する必要があります。また、資格更新のためには、専門科目に従事し続けることも条件のひとつです。資格取得後も、資格を保持しておきたい方にとってはメリットのある資格でしょう。
勤続11年目
10年以上勤務することで、臨床経験や臨床知識が豊富になっています。部長のポジションを持っているのであれば、転職先でマネジメント能力も評価されやすく、転職に有利でしょう。専門医の資格も保有しているのであれば、なお有利になります。
一方で、10年勤務すると、情報が閉鎖的になりがちです。特に医局以外の関連部門における情報が得られにくくなるため、視野が狭くなることもあるでしょう。この点をデメリットと感じない方で、十分な臨床知識や経験を積んでから退局したい方であればベストタイミングと言えます。
医局を辞めるメリット
医局を辞めることで、さまざまメリットが生まれます。一般的にメリットと言われていることは次の通りです。
勤務地が安定する
医局に務めていると、関連病院への転勤を命じられることがあります。場合によっては、自宅から遠い病院への転勤になることもあり、引っ越しを余儀なくされることもあるでしょう。
医局を辞め、開業医や非常勤医師として勤務することで、勤務地が固定化されます。勤務地を固定化させ、安定して働きたい医師にはメリットになるでしょう。
ワークライフバランスの担保
医局の勤務は、土日や休日出勤、当直勤務が多いことからワークライフバランスが取りづらいと言われています。当直明けで連日勤務したり、オンコール対応などの状況が続いたりすることで精神的にも肉体的にも負担が増えるでしょう。
医局を辞めることによりワークライフバランスが担保しやすくなります。医師によっては当直がない状態で業務に取り組めるので、肉体的な負担は減らせるでしょう。医師として仕事をしつつ、プライベートの時間を確保しやすくなれば、健康的な生活が送れるはずです。
キャリアアップ・スキルアップ
医局を辞めることで、自身が専門性を高めたい領域に特化できます。専門性が高まれば、専門の単科病院やクリニックなどに再就職しやすくなるでしょう。そこで現場経験を積めば、さらなるキャリアップが目指せます。
現在は、スペシャリストな医師が求められます。専門性を高めることで、さまざまな医療現場での活躍が期待されるでしょう。
年収アップ
一般的に給与が低いと言われる大学病院などから転職する場合は、条件交渉次第で大幅に年収アップが期待できるでしょう。
特に専門性を高め、市場ニーズに沿った働き方ができれば、自身の業務量やスキルに見合った収入が得られる場合もあるのです。
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医局を辞めるデメリット
医局を辞めるメリットがある一方で、デメリットも存在します。デメリットがあることで、医局の勤務を続ける医師もいるのです。
医局ならではの資格を取得しづらくなる
医局にいることで取得可能な医学博士の学位や、専門医としての資格などが取得しづらくなります。学位や資格の取得を第一に考え、医局での地位獲得を目指している医師にはデメリットとなるでしょう。
研究を続けることができない
医局では研究に時間を割き、論文発表しやすい環境が備わっています。医局にいることで、医師として医療に貢献しながら自己研鑽しやすくなるのです。
一方で、医局外では臨床経験が増えることで研究に割ける時間の確保が難しくなるでしょう。自己研鑽を続け、学会発表などで自身の研究結果を発表したい医師にとってはデメリットになります。
人脈を広げづらくなる
医局では教授の人脈を活用して、海外の研究機関に留学できる場合もあります。日本の医師免許は海外で使用できないこともあり、教授などのつてを使って道が開かれる場合もあるのです。
最先端の医療を学ぶために、海外で修行を積みたいと考えている医師にとってはデメリットとなるでしょう。
高度な医療を提供できなくなる
医局では希少で高度な医療に携わることができます。また、最先端の医療機器や医療環境が備わっている場合、最新の医療情報が得られるのです。
症例数はさほど多くはないものの、民間病院などでは経験できない症例を体験でき、貴重な経験が積めるのです。
円満退局までのステップ
医局を円満に退局するまでのステップについて解説します。
正しいステップを踏むことで、円満に退局できるでしょう。ぜひ実践してみてください。
転職活動
まずは転職活動を行い、転職先を決めておく必要があります。
転職活動時に活用すべき方法としておすすめなのは、転職エージェントに登録することです。
知り合いの紹介などで転職先を見つける方法もありますが、自身に適した転職先が見つかるかはわかりません。
転職エージェントの力を借りることで、自身のキャリアや勤務条件、将来の希望などを踏まえた転職先が見つかりやすくなります。エージェントによっては、病院の細かい情報や評判などといった、リアルで有益な情報を持っているエージェントもいるでしょう。
自身の要望に沿った転職先を効率的に探す意味では、転職エージェントを利用するのが1番です。
医局長または教授のアポイントをとる
転職先が決まったら、退局の意思を医局長もしくは教授に伝えるためにアポイントをとりましょう。医局長であれば医局秘書、教授であれば教授秘書経由でアポイントをとるとスムーズです。
ここで注意すべき点は、医局長や教授に退局の意思を伝える前に、同僚に先に伝えてはいけないという点です。もし退局の意思が同僚から医局長や教授の耳に入ってしまうと、トラブルが起こる可能性があります。
退局を申し出る場合は、必ず医局長または教授へ先に申し出ましょう。
相談ではなく報告として退局を切り出す
退局を申し出る際は、相談ではなく報告として退局を申し出ましょう。
相談というスタンスで切り出すと、説得される可能性があります。場合によっては、慰留され、話が進まなくなる場合もあるでしょう。
決定事項として退局を申し出ることで、受け入れられやすくなります。はっきりと医局を辞める旨を伝え、決意表明しましょう。
退局の準備は主体的に行う
退局の準備は主体的に行いましょう。転職エージェントに転職先を任せるだけでなく、自身で求人サイトや病院サイトを見て情報収集を行う必要があります。主体的に取り組むことで、より自身の要望に合った転職先が見つかるでしょう。
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退局にあたってのマナー
退局にあたって守るべきマナーを解説します。
後腐れなく退局するためにも、適切なタイミングのもと、正しい段取りで退局を行いましょう。
半年前に伝える
医局にとって、退局者が発生することは、損失です。人手の少ない医局であれば、診療に影響をきたす可能性もあります。場合によっては医局自体の存続にも影響が出ることもあるでしょう。
患者さんや医局への影響を最小限にするためにも、遅くとも半年前には退局を申し出ましょう。一般的に、医局人事は秋頃から動き始めます。次年度の人事体制が決まる前に退局の意思を伝えておくことで、医局側で人事調整がしやすくなるでしょう。
最後まで良い人間関係でいられるよう心がける
退局を申し出てから退局するまでの間は、やるべきことを漏れなくやりましょう。
特にやらなければならないことは、引き継ぎ業務です。医局に残された方がスムーズに業務を継続できるよう、引き継ぎ資料を作って情報共有をしておきましょう。
また、お世話になった方々に対し、御礼を直接伝えておくのも必要です。これらの積み重ねにより、後腐れなく良い人間関係のまま、退局ができるでしょう。
納得してもらえる退局理由
退局を申し出る際、必ず聞かれるのが退局理由です。退局理由を伝える時は、嘘をつかず相手が納得してもらえる理由を準備しておきましょう。
たとえば、受け入れられやすい理由として、以下が挙げられます。
- 実家のクリニックを継ぐ
- 自身で新規開業する
- 育児や介護、結婚などの家庭の事情
- 転科する
病院側では対応できない内容であれば、退局を受け入れられやすくなるでしょう。
ポイントとしては「決定事項」として伝えることです。変更がきかない決定事項であることを伝えれば、慰留を受けることも少なくなります。
一方で、以下のようなネガティブな理由は、受け入れられづらいです。
- 人間関係が辛い
- 勤務時間が合わない
- 給与面で納得できない
- 休みが少ない
これらの原因はいずれも病院に起因しているため、給与体系や勤務時間などの見直しを検討され、慰留される可能性があります。また、理由がネガティブであることで言い争いが起き、揉め事に発展するケースもあり得るのです。
退局を申し出る際は、誰もが納得しやすい理由を添え、決定事項であることを伝えましょう。
実家のクリニックを継ぐ
「実家で父が開業医をしており、高齢になったため、後を継ぐために退局したい」
このような理由で退局を申し出る場合は問題ないでしょう。医院承継は開業医ではよくあるケースです。相手が医師であれば納得されやすい理由となるでしょう。
自身で新規開業する
医師が退局をする際に最も多い理由の1つです。
「今後、医療分野における自身の専門領域で開業し、地域の人々に貢献したい」
このように退局を申し出るのが自然でしょう。
医局と良い関係性のまま退局し、開業できれば、医局から患者さんを紹介してもらうこともあります。なるべく良い人間関係を維持しておきたいものです。
育児や介護、結婚などの家庭の事情
「子どもが生まれたので育児に専念したい」や「親の介護に専念したい」などといった言い方をして退局を申し出る方もいるでしょう。また「結婚して、相手の勤務先(あるいは地元)で生活することになりました」という理由を伝える方もいます。
ここで注意すべきことは医局から「両立できるよう負担を減らすから」と慰留されるケースがあることです。そこで次の一言を加えると、慰留をかわしやすくなります。
「私だけ負担を減らしてもらうのは心苦しいです。周りの方にとって不公平になってしまいます。負い目を感じながら働くのは辛いので退局させてください」
このように伝えると、納得してもらいやすいでしょう。
転科する
「〇〇科に興味があり、転科するため退局します」このような理由は理解されやすいです。なぜなら、医局とは関連のない分野であり、医局側で調整ができない要望だからです。
また転科にはメリットがあります。それは、転科することで医局と接点が減ることです。たとえば退局し、医局と同じ科で働く場合、医局を離れた後も学会などで関わることがあるでしょう。一方で科を変えると、関わる機会がなくなるのです。
もともと医局と人間関係が悪く、退局後あまり医局と関わりをもちたくない方にとっては好都合でしょう。
転科をする際に考えるべきこと
転科をする際に考えるべきことは、專門医資格を取得するか否か、ということです。
専門医資格取得を目指す場合は、新専門医制度のプログラムを利用し、3年以上の研修を経て専門医試験を受けなければなりません。
新専門医制度のプログラムに入るには、2つの方法があります。
1つ目は、医局に入り直す方法です。自身の出身大学の医局に入り直すか、転科先の医局に入り直すかの2つ選択肢があるでしょう。それぞれの医局の教授に相談できるようであれば、どちらかに相談することをおすすめします。
2つ目は医局に入らず、市中病院のプログラムに入る方法です。ただし、入局の義務がある病院もあるため、利用する前に確認しておくと良いでしょう。
専門医資格取得を目指さない場合は、転科の相談を転職エージェントに依頼すると良いです。転職エージェントに依頼することで、転科先になり得る病院の情報が得られます。
また、条件交渉や質問などを代行してくれるので、時間と手間を省けるでしょう。
まとめ
医局を辞めることで、年収やキャリア、スキルアップが図れます。また、勤務地が安定し、ワークライフバランスも取りやすくなるでしょう。一方で、デメリットも存在します。学位や専門資格が取りづらくなり、人脈が広げづらくなるでしょう。海外留学が難しくなり、貴重な症例を体験しにくくなることもあるのです。これらのメリット・デメリットを考えて決断しましょう。
円満退局を行うためにも、辞める半年以上前に退局を申し出ておくことをおすすめします。トラブルがないよう、引き継ぎ業務をしっかり行い、今までお世話になった方に感謝の気持ちを伝えることも大事です。
自身の気持ちの整理としても、医局人事を考慮しても、退局にあたっては準備が大切となります。自身の目指すべき方向性やキャリア踏まえて辞めるを理由じっくり考え、また、退局を申し出るタイミングをあらかじめ決めておくことで、余裕を持った準備ができるのです。
開業を考えている方は承継開業も検討すると良いでしょう。前の医院の設備や患者さんを引き継ぐことができるので、開業のハードルが低くなります。
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この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。