行政手続き

認定医療法人制度の概要|認定要件やメリット・デメリット解説

公開日
更新日
認定医療法人の概要|認定要件やメリット・デメリット解説

認定医療法人制度とは、持分あり医療法人が持分なし医療法人へ移行する際に、贈与税の非課税や相続税・贈与税の納税猶予・免除などの税制優遇を受けられる制度です。

平成19年(2007年)の医療法改正により、新たな持分あり医療法人の設立は認められなくなりました。しかし、それ以前に設立された持分あり医療法人は現在も存続しており、出資持分に起因する相続や持分払戻請求などの課題を抱えています。

こうした課題を解決し、地域医療を安定的に継続するため、厚生労働省は持分なし医療法人への移行を推進しています。その支援策として設けられているのが「認定医療法人制度」です。

認定医療法人制度は令和11年(2029年)12月31日まで延長されており、現在も利用することができます。本記事では、制度の概要や認定要件、メリット・デメリット、最新の手続きについて分かりやすく解説します。

持分あり医療法人・持分なし医療法人とは?

医療法人にはいくつかの類型があります。平成19年4月の第5次改正医療法施行以前は、多くの医療法人が「持分あり医療法人」として設立されていました。

出資持分とは、出資割合に応じて払戻しや残余財産の分配を受けることができる権利です。持分あり医療法人では、出資者はこの財産権を有しているため、社員の退社や相続などで出資者が変わる際、医療法人の財務に大きな影響を及ぼす可能性があります。

こうした問題を受け、平成19年4月以降は新たな持分あり医療法人の設立が認められなくなりました。一方、それ以前に設立された医療法人については経過措置として存続が認められており、基金拠出型医療法人などの持分なし医療法人への移行が推奨されています。

現在も多くの持分あり医療法人が存在していますが、厚生労働省では地域医療の継続と医療法人経営の安定化を目的として、持分なし医療法人への移行を推進しています。認定医療法人制度は、その移行を税制面から支援する制度です。

持分あり医療法人の問題点とは?

持分あり医療法人が抱える最大の課題は、出資持分が医療法人経営に大きな影響を与えることです。

相続税の課税

出資持分は財産権であるため、出資者が亡くなると相続税の課税対象となります。医療法人は利益を内部留保するため、経営が順調な法人ほど純資産が増加し、出資持分の評価額も高くなる傾向があります。

その結果、相続人には多額の相続税が発生する可能性があります。

持分払戻請求

社員が退社する場合には、医療法人へ持分の払戻しを請求できるケースがあります。純資産が大きい医療法人では払戻額も高額になるため、多額の資金流出が発生し、経営へ大きな影響を及ぼす可能性があります。

厚生労働省が示す3つのリスク

厚生労働省では、持分あり医療法人には次の3つのリスクがあるとしています。

・出資者の退社による持分払戻請求
・出資者の死亡による相続税負担
・持分放棄時の贈与税負担

例えば、設立時3,000万円だった出資持分が、長年の経営により15億円まで評価額が増加するケースも紹介されています。

これらのリスクは、医療法人の資金流出や経営悪化につながる可能性があるため、持分なし医療法人への移行が推奨されています。

持分なし医療法人のメリット

持分なし医療法人では、出資持分という考え方自体がありません。

基金拠出型医療法人では、拠出された基金は債権として扱われますが、評価額は常に拠出額となるため、医療法人の純資産が増えても価値が大きく増加することはありません。

そのため、

・相続税評価額の高騰を防げる
・持分払戻請求による資金流出リスクがなくなる
・長期的に安定した法人運営が可能になる

というメリットがあります。

また、持分払戻請求のリスクがなくなることで法人財産を安定的に維持しやすくなり、親族内承継や第三者承継などの医業承継も円滑に進めやすくなります。

認定医療法人制度とは?創設された背景

平成19年の医療法改正以降、厚生労働省は持分なし医療法人への移行を推進してきました。しかし、持分なし医療法人へ移行するためには、すべての出資者が持分を放棄する必要があります。

ところが、持分放棄によって医療法人が経済的利益を受けたとみなされる場合、医療法人へ贈与税が課税される可能性がありました。この税負担が、持分なし医療法人への移行が進まない大きな要因となっていました。

そこで創設されたのが認定医療法人制度です。現在、この制度は令和11年(2029年)12月31日まで延長されており、持分なし医療法人への移行を後押ししています。

認定医療法人制度で受けられる税制優遇

認定医療法人制度では、厚生労働大臣の認定を受けることで、持分なし医療法人への移行時にさまざまな税制優遇を受けることができます。

主なメリットは次の4つです。

① 持分なし医療法人へ移行する際のみなし贈与税が非課税

出資者が持分を放棄したことにより医療法人へ経済的利益が生じた場合でも、認定医療法人であれば原則として贈与税は課税されません。

② 出資持分に係る相続税の納税猶予・免除

出資者が亡くなり相続が発生した場合、一定の要件を満たせば相続税の納税が猶予されます。その後、持分なし医療法人への移行が完了すると、猶予されていた相続税は免除されます。

③ 出資者間のみなし贈与税の納税猶予・免除

一部の出資者だけが持分を放棄した場合、他の出資者に贈与税が発生することがあります。認定医療法人では、この贈与税も納税猶予の対象となり、最終的に全員が持分を放棄すると免除されます。

④ 福祉医療機構(WAM)の融資制度

持分払戻しに伴って資金が必要となった場合には、福祉医療機構(WAM)の経営安定化資金を利用できる場合があります。税制優遇だけでなく、資金面の支援も受けられることが認定医療法人制度の特徴です。

認定医療法人の認定要件

認定医療法人となるためには、厚生労働大臣から移行計画の認定を受ける必要があります。
主な認定要件は以下のとおりです。

運営に関する要件

・法人関係者へ特別な利益を与えないこと
・役員報酬が不当に高額とならない基準を定めていること
・株式会社等へ特別な利益を与えないこと
・遊休財産額が事業費用を超えないこと
・法令違反や帳簿書類の隠ぺい等がないこと

事業に関する要件

・社会保険診療等に係る収入が医療保健業務収入の80%を超えること
・自費診療の料金が適正であること
・特定外国人患者への請求額が適正であること
・医業収入が医業費用の150%以内であること

これらの要件は認定時だけでなく、持分なし医療法人へ移行した後も6年間維持し続ける必要があります。

認定医療法人制度の手続き・流れ

認定医療法人制度を利用する流れは以下のとおりです。

  1. 医療法人内で移行を検討
  2. 社員総会で移行計画を決議
  3. 厚生労働大臣へ移行計画を申請
  4. 認定取得
  5. 出資者との調整(持分放棄・払戻等)
  6. 都道府県へ定款変更認可申請
  7. 持分なし医療法人へ移行
  8. 移行後6年間は毎年運営状況を報告

なお、認定医療法人制度は令和11年(2029年)12月31日まで利用できます。また、認定を受けた後は、認定日から5年以内に持分なし医療法人への移行を完了する必要があります。

認定医療法人制度のメリット・デメリット

認定医療法人制度は、持分あり医療法人が抱える税務・経営上の課題を解決する有効な制度ですが、利用にあたってはメリットだけでなく注意点も理解しておくことが大切です。

メリット

① 移行時の税負担を軽減できる

認定医療法人制度を利用する最大のメリットは、持分なし医療法人へ移行する際の税負担を軽減できることです。

認定を受けることで、医療法人へのみなし贈与税が非課税となるほか、一定の要件を満たせば出資者に係る相続税や贈与税について納税猶予・免除を受けることができます。

② 相続時のリスクを軽減できる

持分あり医療法人では、出資者が亡くなると出資持分が相続財産となり、高額な相続税が発生する場合があります。持分なし医療法人へ移行することで、こうした相続税評価額の高騰によるリスクを回避しやすくなります。

③ 持分払戻請求のリスクを回避できる

持分あり医療法人では、社員の退社や相続などをきっかけとして、医療法人が多額の払戻しを求められる可能性があります。

持分なし医療法人へ移行すれば、このような払戻請求による資金流出リスクを回避することができ、安定した法人経営につながります。

④ 医業承継を円滑に進めやすい

持分問題が解消されることで、親族内承継だけでなく第三者承継(M&A)においても、承継スキームを検討しやすくなります。近年は医療法人の第三者承継も増えており、持分の整理は承継準備の重要なポイントの一つとなっています。

⑤ 融資制度を利用できる

認定医療法人では、持分払戻しへの対応など資金調達が必要な場合に、福祉医療機構(WAM)の経営安定化資金を利用できる場合があります。税制面だけでなく資金面でも支援を受けられることは、大きなメリットといえるでしょう。

デメリット・注意点

① 認定要件が複雑

認定医療法人制度には運営要件や事業要件など、さまざまな条件があります。税務・法務・医療法人制度に関する知識が必要となるため、多くの場合は税理士や医業承継の専門家と連携しながら進めることになります。

② 移行後も6年間は要件を維持する必要がある

持分なし医療法人へ移行した後も、6年間は認定要件を満たし続けなければなりません。毎年、厚生労働省へ運営状況を報告する必要があり、要件を満たしているか継続的に確認されます。

③ 認定取消となる可能性がある

認定後に運営要件を満たさなくなった場合や、必要な報告を行わなかった場合などには、認定が取り消される可能性があります。認定が取り消されると、納税猶予が終了したり、遡って贈与税が課税されたりする場合があるため注意が必要です。

④ 一度移行すると元には戻れない

持分なし医療法人へ移行すると、再び持分あり医療法人へ戻すことはできません。そのため、医療法人の将来像や承継計画を十分に検討した上で判断することが重要です。

⑤ 認定申請には期限がある

認定医療法人制度は恒久制度ではありません。現在の制度では、令和11年(2029年)12月31日までに厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。制度の活用を検討している場合は、期限に余裕をもって準備を進めることをおすすめします。

認定医療法人制度はこんな医療法人におすすめ

認定医療法人制度は、すべての医療法人に必要な制度というわけではありません。しかし、次のようなケースでは特に活用を検討する価値があります。

  • 持分あり医療法人を運営している
  • 理事長や出資者が高齢となり、相続対策を検討している
  • 出資持分の評価額が高くなっている
  • 親族内承継を予定している
  • 第三者承継(M&A)を検討している
  • 将来の持分払戻請求リスクを減らしたい

相続が発生してからでは選択肢が限られることもあるため、医業承継を見据えて早めに制度の活用を検討することが重要です。

まとめ

認定医療法人制度は、持分あり医療法人が抱える相続税や持分払戻請求などのリスクを軽減し、持分なし医療法人への円滑な移行を支援する制度です。

持分なし医療法人へ移行することで、税負担の軽減だけでなく、医療法人の財務基盤を安定させ、将来の医業承継を進めやすくなるメリットがあります。

一方で、認定後も6年間は運営要件を維持し、毎年報告を行う必要があるなど、制度の活用には十分な準備と継続的な管理が求められます。

また、認定医療法人制度は令和11年(2029年)12月31日までに認定を受ける必要があります。制度の利用を検討している医療法人は、相続が発生してからではなく、早い段階から準備を始めることが重要です。

持分なし医療法人への移行は、税務だけでなく医療法人制度や医業承継全体を見据えて検討する必要があります。不安や疑問がある場合は、税理士や行政書士などの専門家に加え、医業承継の実務に精通した専門家へ相談し、自院に最適な承継方法を検討することをおすすめします。

親族内承継(家族内承継)のご相談は、親族内承継支援ページよりにお問い合わせください。

よくある質問(FAQ)

認定医療法人制度とは何ですか?

認定医療法人制度とは、持分あり医療法人が持分なし医療法人へ移行する際に、相続税や贈与税の納税猶予・免除、医療法人へのみなし贈与税の非課税などの税制優遇を受けられる制度です。

認定医療法人制度はいつまで利用できますか?

現在の制度では、令和11年(2029年)12月31日までに厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。認定後は、認定日から5年以内に持分なし医療法人へ移行する必要があります。

認定医療法人制度を利用するメリットは何ですか?

相続税・贈与税の納税猶予や免除、医療法人へのみなし贈与税の非課税などの税制優遇を受けられるほか、持分払戻請求による資金流出リスクを軽減でき、医業承継を円滑に進めやすくなります。

認定医療法人にならないと持分なし医療法人へ移行できませんか?

いいえ。認定医療法人制度を利用しなくても持分なし医療法人へ移行することは可能です。ただし、認定を受けない場合は税制優遇を受けられない可能性があります。

認定医療法人になった後も手続きは必要ですか?

はい。持分なし医療法人へ移行した後も6年間は認定要件を維持し、毎年、厚生労働省へ運営状況を報告する必要があります。

持分あり医療法人は早めに持分なし医療法人へ移行した方がよいですか?

相続が発生してからでは税負担や承継方法の選択肢が限られる場合があります。親族内承継や第三者承継を予定している場合は、早めに制度の活用を検討し、専門家へ相談することをおすすめします。

【参考資料】
厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について」
厚生労働省「持分なし医療法人への移行に関する手引書(令和8年3月改訂)」

この記事の監修者

田中 宏典(医業承継M&Aアドバイザー/医療経営士1級/医業承継士/ファイナンシャルプランナー

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計70件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。

【免責事項】
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。