医療機関の事業譲渡における消費税|計算方法や注意点を解説

売却 2022/10/17

医療法人や個人事業主である開業医が、運営する医療機関を第三者に譲りたい場合などにおいて検討される手法の一つが「事業譲渡」です。医療機関の事業譲渡にはさまざまな注意点がありますが、その中の一つに消費税の取り扱いがあります。

本記事では、医療機関の事業譲渡にかかる消費税の取り扱いを解説します。

医療機関の事業譲渡

事業譲渡とは、特定の事業に関する資産や負債を、現金などの対価と引き換えに他者へと移転させるもので、事業承継やM&Aの際に用いられる手法としてポピュラーなものです。

この事業譲渡は、医療機関でも行うことができます。近年、後継者不在などの理由から廃業を検討する医業経営者が増えていますが、事業譲渡は、廃業を避けて医療提供体制や雇用を継続していくための有効な手段といえます。

医療機関の事業譲渡に関しては、医療機関の運営主体が医療法人であるか個人事業主の開業医であるかにより、対価の受け取り方に関し以下のような違いがあります。

医療法人による事業譲渡の場合、買い手から支払われる事業譲渡の対価を医療法人が受け取ります。医療法人の経営を担う理事長などが対価を直接取得できるわけではありません。
一方、個人事業主の開業医による事業譲渡の場合は、事業譲渡の対価を開業医自身が受け取ることになります。

いずれにおいても、医療機関の事業譲渡の際に最も注意しなければならないのは、医業を継続するための行政手続きです。事業譲渡後に、買い手側で医療機関の運営ができないといった事態に陥らないよう、医療機関の事業譲渡を行う際は、専門家に相談の上、慎重に手続きを進めていく必要があります。

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消費税の課税取引と非課税取引

ここから、本記事の主題である、事業譲渡の際における消費税の取り扱いを説明します。

はじめに、消費税における課税取引と非課税取引について確認しておきましょう。

厳密な定義は割愛しますが、消費税は「国内において事業者が対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供」について課税されます(課税取引)。

しかし、上記の課税取引の定義には該当していても、消費税の性格になじまないものや社会政策上の配慮に基づく一定の取引については、消費税を課税しないこととされています(非課税取引)。

主な非課税取引として、以下のような取引が挙げられます(消費税法第6条、別表第1)。

【一般的な非課税取引の例】
・土地の譲渡や貸付け
・有価証券や金銭債権(売掛金や貸付金など)の譲渡
・利子を対価とする金銭の貸付け
・住宅の貸付け

また、医療機関においては、以下のような取引は非課税取引となります。

【医療機関ならではの非課税取引の例】
・公的な医療保険制度に基づく医療の提供
・介護保険法に基づく介護サービスの提供
・妊娠検査や分娩介助などの助産に関する役務の提供

通常、医療機関の医業収益の大半は保険診療による診療報酬なので、医療機関の収益のほとんどは非課税取引となっています。

事業譲渡の際の消費税

医療法人も個人事業主の開業医も「事業者」であることには変わりはありません。また、はじめに述べたように、事業譲渡は特定の事業に関する資産等の譲渡に該当します。

このため、医療法人や個人事業主の開業医が行う事業譲渡は、「国内において事業者が対価を得て行う資産の譲渡」に該当し、消費税の課税取引となります。

医業関係者の中には、「医業は消費税の非課税事業」だと考えているため、「医療法人や個人事業主の開業医が行う事業譲渡も非課税なのでは」と誤解される方もいます。

しかし、医業経営において、消費税が非課税となるのは、あくまで上述した「公的な医療保険制度に基づく医療の提供」などの非課税取引なのです。

それ以外の課税取引に該当するものは、医療法人や個人事業主の開業医が行う取引であっても消費税が課税されます。

ただし、事業譲渡の対象となる資産に、その譲渡が消費税の非課税取引となる資産(以下、「非課税資産」と呼びます)が含まれている場合、この非課税資産については、消費税はかからないことになります。

医療機関の事業譲渡の際、含まれている場合が多い非課税資産としては、病院や診療所の敷地(土地)や金銭債権などが考えられます。

事業譲渡にかかる消費税の計算方法

ここからは、具体的な事例をもとに、事業譲渡における消費税の計算方法を説明します。

事例の前提

医療法人Aは、運営する診療所Xに関する事業を、医療法人Bに対して2億円(税抜)で事業譲渡することにしました。診療所Xに関する資産の情報は以下のとおりです。なお、診療所Xに紐づく負債はないものとします。

▼診療所Xに関する資産

対象資産Aの帳簿価額時価(取引価額)消費税の課税区分
土地8千万円1億円非課税
建物4千万円6千万円課税
器具備品1千万円1千万円課税
のれん3千万円課税

ここで、特に注意していただきたいのが、「のれん」です。のれんは「営業権」と呼ばれることもありますが、事業譲渡の対象事業に内在されるノウハウやブランドなどの「超過収益力」のことで、買い手側(本事例では医療法人B)において資産計上されます。のれんの金額は、譲渡対価総額(同2億円)と譲渡対象事業の時価純資産(同1億7千万円)の差額となります。のれんも消費税の課税取引となる点に注意が必要です。

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本事例における消費税額

上の表にあるとおり、本事例において消費税の課税対象となるのは、建物6千万円、器具備品1千万円、のれん3千万円の総額1億円です。非課税資産である土地には消費税は課税されません。

したがって、この事業譲渡にかかる消費税額は1千万円(課税資産の総額1億円×消費税率10%)となり、この消費税額を含めると、医療法人Aは2億1千万円を受け取ることになります。

本事例の仕訳

参考までに、本事例についての仕訳(会計処理)を示すと以下のようになります。なお、医療法人A、Bともに、消費税の会計処理方法として税抜経理方式を採用しているものとします。

▼医療法人Aの仕訳

借方貸方
現金預金:2億1千万円土地:8千万円
建物:4千万円
器具備品:1千万円
移転損益(注):7千万円
仮受消費税:1千万円

(注)税抜きの譲渡対価2億円と譲渡対象資産の帳簿価額総額1億3千万円との差額は、移転損益(特別利益)となります。

▼医療法人Bの仕訳

借方貸方
土地:1億円
建物:6千万円
器具備品:1千万円
のれん:3千万円
仮払消費税:1千万円
現金預金:2億1千万円

(注)事業を譲り受ける側(買い手側)における資産の取得価額は時価となります。

事業譲渡における消費税の注意点

事業譲渡を行う際の消費税に関する注意点として、「仕入税額控除」への影響が挙げられます。

消費税には、商取引の過程で消費税額が累積していくことを避けるため、仕入税額控除という制度が設けられています。

仕入税額控除とは、例えば、80万円の仕入をおこなった際に8万円の消費税を支払い、100万円の売上が発生した際に10万円の消費税を受け取ったような場合、消費税の納税額を計算する上で、売上にかかる10万円の消費税から仕入にかかる8万円の消費税を控除することができるというものです。

この控除の仕組みを仕入税額控除と呼び、上記の場合、仕入税額控除により消費税の納税額は、差額の2万円となります。

ただし、消費税が課税される仕入であっても、消費税が非課税となる売上に対応するものは、仕入税額控除の適用対象とすべきではないという考え方のもと、仕入税額控除には一定の制限が設けられています。

この点についての詳細は割愛しますが、医業は売上全体に占める非課税売上の割合が高い(課税売上の割合が低い)ため、事業を譲り受ける側(買い手側)が事業譲渡の際に支払った消費税について、仕入税額控除が十分にとれない可能性があります。

また、事業譲渡する側(売り手側)においても、譲渡する資産の中に土地などの非課税資産が含まれている場合には、事業譲渡の結果、非課税売上の割合が高まり、仕入税額控除できる金額が小さくなってしまうことが考えられます。

いずれの場合も、課税上不利になるため、譲渡資産に含まれる土地の時価が高い場合などにおいては、事前に仕入税額控除に与える影響をシミュレーションしておく方がよいでしょう。

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その他の税金

消費税の他にも、事業譲渡をした際の譲渡益に対して、医療法人であれば法人税が、個人事業主の開業医であれば所得税が課税されます。

また、事業譲渡の対象資産の中に不動産が含まれる場合には、事業を譲り受ける側(買い手側)において不動産取得税や登録免許税が課税されます。

事業譲渡の検討を行う際は、消費税だけでなく、上記のようなさまざまな税金についても考慮していく必要があります。

まとめ

医療機関の事業譲渡を行う際は、非課税資産を除き消費税が課税されること、仕入税額控除にも影響がおよぶ可能性があることには、十分注意しておく必要があります。また、消費税以外の税金も考慮しなければなりません。

さらに、医療機関の事業譲渡には、税務面以外でも、手続き面で多くの課題があるため、事業譲渡を検討する際は、早めにこの分野に精通している税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

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