病院・診療所を売却した際の退職金について

売却 2023/05/31

病院・診療所の売却では、課税額を抑える等の目的により、対価の授受に退職金を用いる場合があります。病院の経営主体(医療法人か個人か、医療法事の場合、持分ありかなしか)によって、退職金の受け取り方や税務処理は変わります。経営主体別に、売却時における退職金の取り扱いをくわしく解説します。

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退職所得課税の基本

病院・診療所をM&Aにより売却してその売却対価を得る際、その一部を医療法人からの退職金として受け取ることで、売り手側にかかる課税額を減らせる可能性があります。それは、退職所得に対する課税は税制において非常に優遇されているためです。

まず、退職所得に対する課税の仕組みを解説します。

退職所得に課税される税金の計算

退職所得に課税される所得税の計算は、以下のプロセスでおこなわれます。

(1)課税退職所得金額の算出

まず、課税退職所得金額は、役員等としての勤続年数が「5年以下」か「5年超」かによって以下のとおり計算式が異なります。

役員等勤続年数課税退職所得金額
5年以下退職金の額-退職所得控除額
5年超(退職金-退職所得控除額)÷2

上記計算式の「退職所得控除額」については、勤続年数が「20年以下」か「20年超」かによって以下のとおり計算式が異なります。

勤続年数控除額
20年以下40万円×勤続年数※80万円未満の場合は80万円
20年超800万円+70万円×(勤続年数-20年)

(2)課税所得に対する税額の算出

課税退職所得金額をもとに、税額を算出します。計算式は以下のとおりです。

退職所得にかかる所得税=課税退職所得金額×所得税率-控除額(※)

(※)所得税率および控除額は、以下の速算表によります。

課税退職所得金額税率控除額
1,000円から1,949,000円まで5%0円
1,950,000円から3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円以上45%4,796,000円

例えば、役員等勤続年数が40年で、1億円の退職金を受け取ったとすると、退職金に対する所得税は、以下のようになります。

退職所得控除額:800万円+(70万円×(40年-20年))=2,200万円
課税退職所得金額:(1億円−2,200万円)÷2=3,900万円
所得税額:3,900万円×40%−279万6,000円=1,280万4,000円

退職所得課税は優遇されている

退職金は、長期間勤務をしたことに対する対価であるため、課税が優遇されています。

勤続年数が5年を超えている場合は、退職所得の金額を2分の1として税額を計算可能です。また、退職所得控除額に関しても、勤続年数が20年を超える場合には、20年以下の場合と比べて控除額が大きくなる仕組みとなっています。

加えて、他の所得と分離して課税されるので、給与がいくら高くても関係ありません。

所得税は、受け取り金額が高くなるほど、高くなった部分の税率が高くなる超過累進税率にはなっていますが、それでも、上記例のとおり、1億円の退職金を受け取っても、課税は13%弱と、かなり低い税率になっていることがわかります(なお、上記は所得税のみについてであり、復興特別所得税、住民税も課税されます)。

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持分あり医療法人の売却における退職金

はじめに、平成19年3月31日以前まで設立することができた、持分あり医療法人(定款に出資持分の定めがある医療法人)に関して解説します。現在でも、医療法人の過半は、持分あり医療法人が占めています。

持分あり医療法人の場合、M&Aに際しては、社員の地位とともに、理事長等が保有している出資持分を譲渡します。

M&Aの対価を理事長が受け取る方法としては、下記の2種類の方法があります。

①全額を出資持分の譲渡に対する譲渡対価(支払うのは買い手)として受け取る

②出資持分の譲渡に対する譲渡対価(支払うのは買い手)+退職金(支払うのは医療法人)として受け取る

いずれの場合も、譲渡価格は同じであり、お金が支払われる財布がどこかという点が異なるのです。そして、それによって、売却した理事長にかかる課税が変わってきます。

出資持分の譲渡所得に対する所得税の課税は、一律20%(+復興特別所得税)の分離課税となっているためです。

先に見たように、退職所得は超過累進課税で、退職所得額により税率は変化しますが、勤続40年で1億円の退職金なら、約13%の税率となりました。つまり退職所得課税は、一定金額までは、譲渡所得課税よりもかなり低い税率となるのです。

そのため、仮に譲渡価格が2億円だとするなら、2億円全部を出資持分譲渡に対する対価(譲渡所得)として受け取るよりも、1億円だけを出資持分譲渡に対する譲渡対価として受け取り、1億円を退職金として受け取る方が、税額を押さえることができるというわけです。

譲渡対価で支払っても、退職金で支払っても、譲受側の支払いは変わらない

ところで、出資持分に対する譲渡対価は、買い手(譲受人)が支払います。一方、退職金は医療法人が支払います。すると、譲渡価格の一部を退職金で支払ってもらって買い手が出す金額が減れば、その分、買い手が得をすると思えるかもしれません。しかしそれは誤解です。

例えば、上記の例で、譲渡価格(=医療法人の価値)が2億円だとします。全額を譲渡対価で支払えば2億円です。一方、医療法人が理事長に退職金を1億円支払った場合、その医療法人からは現金1億円が流出します。すると、その分、医療法人の価値は下がっています。つまり、退職金1億円を支払ったあとの医療法人は1億円の価値しかないため、譲渡対価も1億円になるというわけです。金額のやりとりについては、売り手の理事長も、買い手も、損も得もしていません。ただし、課税関係には変化があるということです。

退職金を受け取る場合の留意点

ただし、これには2点留意点があります。

1点目は、医療法人にその退職金を支払えるだけの十分な現預金があるかという点です。いくら計算上は有利でも、支払える現金がなければ、絵に描いた餅です。

2点目は、理事長などの役員が受け取る退職金が「不相当に高額」であると税務署からみなされた場合、適正額以上の部分に関して医療法人における損金算入が否認される点です。退職金の額は適正範囲内に収める必要があります。この適正金額の範囲に明確な基準はありませんが、「役員としての勤続年数」や「報酬額」、「貢献度」などを基準に、下記の算式で設定することが一般的です。

役員退職金=最終報酬月額×勤続年数×功績倍率

法人の代表者における功績倍率は、「3」が目安とされています。

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持分なし医療法人の売却における退職金

平成18年の医療法改正により、平成19年4月1日以降は持分あり医療法人を新規で設立することは認められていません。したがって、この日以降に設立された医療法人は「持分なし医療法人」です。

持分なし医療法人では、そもそも譲渡できる持分そのものがありません。そのため、医療法人M&Aの譲渡対価の支払いに関しては、退職金が用いられることが一般的です。

売却後に受け取る退職金に関しては、一般的な退職所得と同様に課税されます。

個人病院・診療所の売却における退職金

個人医師が病院や診療所を運営する場合、税制上は「個人事業」と呼ばれます。

個人事業の病院や診療所を売却する場合、譲渡の対象となる法人格自体が存在しないため、事業譲渡によって設備や契約等の資産をまとめて売却するスキームとなります。譲渡対価は医師個人に支払われ、資産の種類に応じた所得税が課税されます。

そして、個人事業をおこなっている個人事業主については、税制上、「退職金」という概念が存在しないこと注意が必要です。退職金がない以上、医療法人とは異なり退職金による節税スキームは活用できません。

実質的には、事業の譲渡対価が退職金の代わりとなります。

ただし、事業譲渡後にその病院、診療所で一定期間、勤務医として引き続き勤務すれば、その後の退職時に退職金を受け取ることは可能です。一種の裏ワザともいえるこの方法を活用することで、退職所得に対する優遇を得られます。ただし、前述したとおり、過大な退職金の支払いは税務上否認されるおそれがあるため注意が必要です。

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