医業承継における秘密保持契約書のチェックポイント

契約関連 2023/07/03

医業承継において、第三者承継(M&A)が検討、実施される場合、その交渉過程で譲渡側、譲受側の当事者同士や、両者の間に立ってM&Aを取り持つ支援業者などは、それぞれ相手の秘密情報を知り得ます。その秘密情報を不用意に外部流出されることがないよう、ディールの各段階において、秘密保持契約と呼ばれる契約を締結しながら、具体的な交渉などが進められていきます。

本記事では、第三者承継(M&A)における秘密保持契約書について、医業ならではポイントを含めて解説します。

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秘密保持契約書とは

取引をおこなう際、その取引の相手方に自己の営業秘密や個人情報等について開示する必要があります。その場合に、開示された情報を適切に管理することを約束させる(自己が相手方から情報開示を受ける場合は、適切に管理することを約束する)契約のことを、一般的に「秘密保持契約」と呼びます。秘密保持契約は、英語では「Non-Disclosure Agreement」といい、その頭文字をとって「NDA」と略記されることもよくあります。

一般的な秘密保持契約は、主に、以下の2つの義務から構成されます。

  1. 第三者に開示・漏洩しないこと
  2. 当該取引の検討や実施以外の目的に使用しないこと

秘密保持契約を締結することで、自分たちが開示する秘密が守られることから、自己の情報を安心して提供できるようになるため、取引の促進が期待できます。そのため、秘密保持契約は実際に取引をおこなう前に、お互いの情報を出し合いビジネスが成功するか否かを検討する段階でも締結されます。

事業会社であれば株式会社などの法人自体、医業であれば医療法人や病院、診療所など、事業の運営主体そのものを譲渡する第三者承継(M&A)では、個別の商品やサービスを取引する場合と比べて、秘密にしなければならない事項は重要なものが多く、かつ多岐にわたります。M&Aにおいては、その交渉の進展段階に応じて、互いに開示する情報の範囲が異なるため、その度にスコープ(対応範囲)を変えた秘密保持契約を結ぶこともあります。

仲介会社との秘密保持契約書の主な内容とチェックポイント

現在のM&Aでは、直接当事者間で交渉をおこなうケースはまれで、M&A実務をサポートする支援業者、いわゆるM&A仲介会社などが間に入ることが一般的です。そこでまず、M&Aの当事者と、仲介会社との秘密保持契約書のポイントを解説します。

M&Aの仲介会社とは

仲介会社とは、売り手と買い手の間に立ち、双方に対しM&A実務のアドバイスやサポートをする会社です。仲介会社が間に入る場合は、売り手・買い手がそれぞれ仲介会社と仲介契約を締結し、売り手・買い手間のやり取りは仲介会社を介しておこなわれることになります。

なお、仲介契約と区別すべきものとして、ファイナンシャル・アドバイザリー契約(FA契約)があります。FA契約は、仲介契約と異なり当事者のどちらかのみをサポートする契約です。

仲介会社には、仲介業務しか扱わない会社もありますがFA業務を扱う仲介会社もあります。

ただし、一般的に、FA業務は、上場企業などの大企業のM&A(譲渡価格が数百億円から1,000億円以上)の場合に利用されます。小規模から中規模(譲渡価格100億円程度)までのM&Aでは、仲介契約となることが普通です。

秘密保持契約書のポイント

最初のポイントは、保護対象となる「秘密情報」の範囲にどこまでが含まれるかを確認することです。

M&Aにおいては、営業上の情報のみならず、M&Aの相手探しや、交渉をしている事実そのもの、また交渉内容なども重要な秘密情報になります。なぜなら、M&Aを検討・交渉しているという事実自体が、その医療機関で働くスタッフや患者に動揺を与え、場合によっては、医療機関の経営にマイナスの影響を与えることがあるためです。

仲介会社との秘密保持契約に関するポイントは、このM&Aを検討して相手探しをしていることや、交渉をしていることの事実を含めて、「秘密情報」としてカバーされているべきです。売り手の意図しないところで、M&Aを検討しているという情報が拡散しないように、秘密保持契約書の内容をよく確認しましょう。

また、M&Aの検討を進めるにあたって、顧問弁護士や顧問税理士などの専門家へアドバイスを求めることもあります。その際に、契約書においてこれら法令上の守秘義務を負っている専門家への秘密情報の開示が許されていれば、スムーズに専門家からのサポートを受けられます。第三者への開示がすべて禁止されているのか、あるいは専門家への開示は許されているのかといった観点から、秘密情報の開示が許される範囲も確認しておくとよいでしょう。

次に、当然ですが、M&Aの話が途中で頓挫する可能性も充分にあります。頓挫した場合に備え、自己が提供した秘密情報の返還・破棄に関する規定が含まれているかもチェックすることも不可欠です。M&Aが頓挫したのであれば、仲介会社や相手方に自己の秘密情報の保有を認める必要はありません。

秘密情報の返還・破棄に関する規定も必ずチェックしましょう。

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売り手・買い手間で交わされる秘密保持契約書の主な内容とチェックポイント

続いて、売り手・買い手間で直接交わされる秘密保持契約書のポイントをご紹介します。

まず、上述した、仲介会社との秘密保持契約のポイントは、そのまますべて、売り手・買い手間で交わされる秘密保持契約書においてもあてはまります。

ただし、M&A契約を業としておこなうM&A仲介業者と異なり、売り手・買い手は、通常、M&Aについては、いわば「素人」です。そのため、秘密保持契約書もより詳細な記載が求められます。例えば、情報漏洩の防止措置、情報管理者の設置、損害賠償の範囲・金額といった点につき具体的かつ明確な規定を定める必要があります。

特に売り手側は自己の情報を積極的に開示することになるので、買い手に対し上記のような義務を課す秘密保持契約書を締結しておき、情報漏洩に対してリスクヘッジをおこなうことは大切です。

医業M&Aの秘密保持契約書ならではの留意点

一般の企業間のM&Aであれば、業種に関わりなく、他業種間の企業同士でのM&Aとなることも珍しくありません。

これに対し、医業M&Aでは、通常は、医療機関同士でのM&Aとなるケースが大半でしょう。医療機関同士であるということは、つまり、M&Aの交渉相手であると同時に競業相手でもある場合もあるということです。

M&Aの交渉においては、特に売り手側は買い手側に対し自己の情報(決算に関する情報、従業員数、従業員への給与、患者数など)を開示することになりますから、競業相手に“手の内”を晒すのと同義です。そのため、秘密情報はM&Aの検討・実施以外の目的には使用しない、M&Aの交渉が頓挫した場合は情報を破棄or返還する、秘密保持義務違反があった場合には損害賠償を請求できるようにしておく等、秘密保持義務をより厳格にすることも考えられます。

患者情報は、特に慎重な扱いが求められる

医業において、患者の病歴や障害等は、「要配慮個人情報」として厳格な管理が義務付けられています(個人情報保護法第2条第3項)。

医業M&Aにおいて、このような「要配慮個人情報」の取扱いを秘密保持契約書にも明記しておく必要があります。そもそも要配慮個人情報は開示しないとするのか、開示するとして他の営業秘密と区別して別途での管理が義務付けられるのか、契約書の内容をよく確認しましょう。

また、要配慮個人情報が取り扱われるため、秘密保持義務の存続期間も重要なポイントです。一般的な営業秘密であれば時の経過とともに情報の価値は低下していきますから、秘密保持義務の存続期間は、契約終了後1年程度に設定されるケースが多いようです。

しかし、病歴等の要配慮個人情報は、時の経過に伴う価値の低下が考えにくいことから、医業M&Aでは秘密保持義務の存続期間が長期間に設定される場合が多くなります。

さらに、万が一、情報漏洩が生じた場合の救済措置や損害賠償に関しても規定しておきましょう。もし、「要配慮個人情報」が漏洩したとあっては、医療機関が受ける損害や風評被害は甚大なものとなります。情報漏洩に対して適切な救済措置や損害賠償に関する規定を定めておけば、損害の回復を図るとともに損害の拡大を防ぐことも可能です。

このように、医業M&Aでは「要配慮個人情報」を取り扱うため、一般的なM&Aよりも厳格な秘密保持が求められます。場合によっては、秘密保持契約書とは別途で、個人情報の取扱いに関する覚書を締結することも検討しましょう。

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まとめ

今回は、医業承継における秘密保持契約書について、一般的なポイントに加えて、医業承継ならではのポイントを含めてご紹介しました。

医業承継のためのM&Aでは、患者の病歴等の要配慮個人情報が取り扱われる点が主な特徴です。要配慮個人情報は個人情報の中でも厳格な保護が求められますから、秘密保持契約書も具体的かつ明確な規定が求められます。

医業承継のプロセスは専門的なものが多いため、医業承継に詳しい専門家のサポートを積極的に受けるとよいでしょう。

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