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病院・診療所の譲渡先候補の探し方

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病院・診療所の譲渡先候補の探し方

病院や診療所の事業承継は、親族への相続・贈与が一般的でしたが、少子化や医師の意識変化により、第三者への譲渡が増えています。譲渡先候補の探し方としては、人脈活用、顧問税理士への相談、医師会や銀行への相談。M&A支援業者への依頼があります。特にM&A支援業者を利用する場合、秘密保持契約締結、匿名情報提供、詳細情報開示、意向表明書提出などの手順を経て交渉が進みます。譲渡先には医療法人や投資ファンドなど様々な種類があります。

本記事では、譲渡先候補を探すための各種の方法や支援業者のマッチングサービスを利用する場合の手順、譲渡先の種類、譲渡先候補を見つけやすくするために経営者が考慮しておくべき事項などについて解説します。

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病院・診療所が譲渡先候補を探す方法・手順

病院・診療所の事業承継は、親族(子など)への相続、贈与による承継が大多数を占めてきました。しかし近年では、少子化や医師の意識の変化などから、親族承継ができないことも増えています。その場合は、第三者への譲渡(売却)による事業承継が検討されます。

まず、第三者承継に際して、譲渡先候補を探すための方法の種類を紹介し、次に、現在主流であるM&A支援機関によるマッチングサービスを利用する場合の手順を解説します。

譲渡先候補を探す方法

譲渡先候補を探す方法には以下のような選択肢があります。

  1. 理事長や院長などの人脈で探す
  2. 顧問税理士に相談する
  3. 都道府県医師会・郡市区医師会に相談する
  4. 取引先銀行(メインバンク)に相談する
  5. M&A支援業者(医業コンサルタントやM&A仲介会社など)にマッチングを依頼する

1は、理事長や院長などの大学の同窓や後輩、個人的な知り合い、医師会・病院協会の活動を通して知り合った人物などに譲渡を直接打診したり、その人物のつてをたどって候補を探し譲渡を持ちかけたりする方法です。

実際にこの方法で譲渡先が見つかる場合もありますが、探す範囲はかなり限られており、適切な譲渡先がなかなか見つからないケースが少なくありません。

2.顧問税理士は日頃から経営の相談に乗ってもらうことも多い身近な相手です。医療機関の顧問をしている税理士は、複数の病院やクリニックの顧問をしていることが多いため、譲渡時の候補者探しの相談に乗ってくれることもあります。しかし、税理士自身が譲渡(M&A)に関して専門的な知識や経験を有しているケースは少なく、候補の紹介のみにとどまることが多いでしょう。

3.都道府県医師会や郡市区医師会の中には、医業承継の担当窓口・担当者を設けて譲渡・譲受希望者の引き合わせを支援しているところもあります。病院や診療所特有の事情をよく理解していることがメリットですが、件数が少ない、地域を越えたマッチングへは対応していないなどの限界があります。

4.近年では銀行の多くがM&A支援業務を強化し、担当部門を設置してマッチングサービスなどを提供しています。ただし、銀行自身にはM&A実務のノウハウや広域のネットワークが不足しているため、銀行は窓口となるだけで、実務はM&A支援業者に委託していることが多いようです。

5.医業承継に対応した医業コンサルタントやM&A専門業者(M&A仲介業者など)は、自社のネットワークやデータベースを活用して適切な譲渡先候補を探し出すマッチングサービスを提供しています。M&A仲介業者などは、それを専業としているため、他の方法に比べると広い範囲から譲渡先候補を探すことができ、また、実際にマッチングを成立させるノウハウも有しているというメリットがあります。デメリットしては、他の方法に比べると、比較的高額な費用がかかる点です。

M&A支援業者に依頼して譲渡先候補を探す場合の手順

現在、主流となっている、M&A支援業者によるマッチングは、おおむね以下のような手順で行われます。

①業者への問い合わせ、相談

②業者と秘密保持契約を締結

③業者に決算書などの内部資料を提供し、譲渡先候補に提示する匿名の譲渡案件情報(後述する「ノンネームシート」)や、病院・診療所の名称を含むより詳細な情報をまとめた資料(案件概要書)を作成

④業者が相談内容や③の資料をもとに有望な譲渡先候補を探し、ノンネームシートを提示して交渉を打診(あるいは、自社サイトなどでノンネームシートの一部を開示して譲受希望者を募集)

⑤ノンネームシートに興味を示した相手に対し(秘密保持契約を締結した上で)案件概要書を提示(譲渡希望者と譲渡先候補の間で直接秘密保持契約が結ばれることもある)

⑥買い手側は案件概要書などの資料を分析し、売り手側は業者のサポートのもとで譲渡先候補に対するリサーチを行い、譲受意向表明書を提出。トップ面談などを経て、双方の意思が固まったら本格的な交渉に進む。

譲渡先にはどのような相手があるのか

病院・診療所の譲渡先には以下のような種類があります。

  1. 医療法人
  2. 社会福祉法人などの非営利法人
  3. 個人病院・診療所の院長
  4. 個人医師(勤務医)
  5. 事業会社(ファンド以外の営利企業)
  6. 投資ファンド

1や2の典型は、大手医療法人グループへの参加です。また、地域の医療法人同士が合併して、新たにグループを形成する場合もあります。

3や4が譲渡先となるのは、個人同士の売買(開業医から開業希望者への譲渡、事業拡大を図る開業医への譲渡など)のほか、医療法人が一部の診療所を個人に譲渡するケース、現院長の持分や社員としての地位を譲渡して新院長を迎えるケースなどもあります。

5や6への譲渡では、医療法上、営利企業が直接、医療機関の開設者となることはできませんが、営利企業の関係者が医療法人の社員(従業員ではなく、医療法上の機関としての社員)に就任するなどの形で、実質的に経営支配権を握ることができます。

買い手となる事業会社は医療と隣接する事業(ドッラグストア、介護事業、ヘルステック事業など)を営んでいるケースが一般的で、本業との相乗効果などを狙って病院、診療所を買収するケースが増えています。

また、ファンドは、買収した病院・診療所の価値を高めてから売却し差益を得ること(=イグジット)を目的としてM&Aを行うことが一般的ですが、近年では、ファンドが経営することを目的として医療機関を取得するケースもあります。

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一般的なノンネームシートの内容

譲渡候補選定の初期段階では、病院や診療所を特定できないように、名称などは伏せて限定的な譲渡案件情報のみを記載した資料が譲渡先候補に提示されます。

譲渡を検討しているという事実が漏洩することは、スタッフや患者に無用の不安を与えるなど経営上好ましくない影響があるため、まずは匿名の情報をもとに候補を探します。

この匿名情報が記載された書類のことを「ノンネームシート」といいます。

通常、ノンネームシートはA4用紙1枚程度に、以下のような事項を記載します。

  • 所在エリア
  • 診療科目、診療日
  • 組織形態(個人/医療法人など)
  • 病床の有無・数
  • 医師、その他スタッフの数
  • 敷地や建物の広さなど(坪数、自己所有か賃貸、賃貸の場合は賃料など)
  • 医療機器・院内設備の概要
  • 処方(院内/院外)
  • 直近の医業収益、医業利益
  • 譲渡の理由・対象、希望する譲渡方法(持分譲渡、事業譲渡など)
  • 譲渡希望時期
  • 譲渡希望価格

ノンネームシートは、M&A支援機関にもよりますが、数十件の候補先に送付されることが普通です。その中から、譲受の意向がある相手に対して、秘密保持契約の締結後により詳細な情報を記した「案件概要書」を提出します。

案件概要書では、ノンネームシートでは記載されていなかった病院・診療所名のほか、経営者のプロフィール、より詳細な経営情報(財務情報、科目別患者数、テナント情報、競合状況)や譲渡の背景が開示されます。

譲渡先を見つけやすくするために譲渡側経営者がすべきこと

有望な譲渡先を見つけるためには、業者に任せきりにするのはなく、譲渡側経営者も積極的に動くことが重要です。譲渡先候補を見つけやすくするために譲渡側経営者として考慮・対応しておくべき事項をまとめます。

早期に積極的・具体的な検討を実施する

将来的に譲渡が必要になることを実感していても、具体的な検討をつい先延ばしにしてしまうケースが少なくありません。

そうしているうちに経営難に陥ったり健康問題が悪化したりして経営の続行が難しくなり、あわてて具体的な検討や譲渡先の探索を開始するということになると、適切な候補がなかなか見つからなかったり、条件交渉で大幅な妥協を強いられたりすることになりがちです。

経営面や健康面で余裕があるうちに譲渡の検討を開始することが、条件のよい譲渡先を見つけるコツです。

逆に、現在の経営状況が思わしくないのなら、ある程度時間をかけて経営改善を図ってから譲渡先を探すことで、望ましい候補が見つかる可能性が高まります。

例えば、地域での評判・認知度、院内の雰囲気、労使関係、職場環境、患者とのコミュニケーション、地域の医療機関・薬局・介護事業所との連携など、医療機関経営にとって重要なポイントについて、現状を再確認して改善を図っておくということです。

いずれにしても、譲渡の検討を先延ばしにせず、経営戦略の一環として早期から具体的な検討を開始しておくことが肝要です。

事業引き継ぎがしやすい環境を整える

現在は経営が好調であっても、それを買い手がうまく引き継げる見込みが立たなければ、買い手は見つかりにくくなります。

例えば、院長とアルバイト医師で経営している個人クリニックでは、集患力の多くが院長個人に属し、取引関係や雇用関係も院長個人抜きには成り立たないというケースがよく見られますが、こうしたケースでは、譲渡により院長が引退し、集患力や契約関係が崩れるようだと、買い手が引き継げる経営資源が乏しくなってしまいます。

こういったケースでは、院長が各部門の幹部に経営ノウハウを伝えたり、譲渡後も一定期間事業の引き継ぎに協力することを譲渡条件に含めたりすることで、買い手が見つかりやすくなり、好条件での譲渡を実現できる可能性が高まります。

また、ある部門の業務の遂行・管理が特定の職員に委ねられ、業務の手順や遂行状況が周囲に共有されていない状態(属人化している状態)でその職員が譲渡時に退職してしまうと、譲渡後の事業遂行に支障が出ます。

属人化してしまっている業務を洗い出し、仕組み化・マニュアル化などによって属人化を解消しておくことで、買い手はより見つかりやすくなります。

適切な情報開示を行う

譲渡先を探す際には、どうしても、こちらにとって都合の良い情報だけを相手側に開示しがちです。しかし、相手が投資判断を行うためには、良い点ばかりでなく悪い点も把握することが必要です。

例えば、業績が不振なのであれば、どこが問題なのかを客観的に分析し、相手に理解しやすい形で伝えるようにするとよいでしょう。それが信頼関係構築につながり、譲渡に向けた交渉を進めやすくなります。

適切な譲渡価格の目線を持つ

ご自身が苦労して経営してきた病院・診療所ですから、できるだけ高い価格で売却を望むのは当然です。しかし、過去の取引事例などから見て、適正と思われる価格水準を大きく超えるような譲渡価格を望めば、当然ながら譲渡先の選択肢が狭まります。

譲受側のメリットも考えた上で、無理のない範囲内での価格目線を持つことが大切です。

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診療所や病院のM&Aには専門的な知識や経験が必要なく、条件にマッチした譲渡先を探すことも容易ではありません。

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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。

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