経営者保証とは?メリット・デメリットや現状について解説


目次
経営者保証は、中小企業が資金調達を行う際に経営者個人が連帯保証人となる制度ですが、事業承継やM&Aの場面で深刻な障害となるケースも少なくありません。
近年は、経営者保証の見直しに向けたガイドラインや制度の整備が進み、解除に応じる金融機関も増えてきています。
本記事では、経営者保証の基本的な仕組みと目的、メリット・デメリット、制度の現状、M&Aとの関係性について解説します。
医院継承について無料相談してみませんか?
エムステージグループの支援サービスについての詳細はこちら▼
経営者保証とは
経営者保証とは、中小企業の経営者が自社の借入に対して個人として連帯保証を行う仕組みを指します。会社が金融機関などから融資を受ける際、企業単体の信用力だけでは貸し倒れリスクが高いと判断される場合、経営者自身が返済責任を引き受けることで資金調達が可能になります。
企業が倒産や業績不振などで債務を返済できなくなったときには、保証人となった経営者個人が会社に代わって返済義務を負うことになるため、経営失敗が即座に個人の破産や財産喪失に直結するという重い負担を抱える制度です。
経営者が事業に対して強い責任を感じやすくなる一方で、リスクが非常に高く、事業承継や新規起業の障害にもなってきました。経営者保証によって多くの経営者が私財を失うリスクを負っており、経済的な再起を困難にする要因としても指摘されています。
目的
経営者保証は、もともと中小企業の資金調達を円滑にするために存在してきました。法人の財務状況だけでは十分な与信が得られない場合、経営者の個人資産と信用力を担保に加えることで、融資の実行を可能にしてきたという背景があります。加えて、経営責任を明確にし、無責任な経営行為を抑制する意図もあります。
保証によって、自らの資産もリスクにさらされるという緊張感が生まれ、経営に対する真剣な姿勢が促されるという側面もあると考えられてきました。
課題
この制度には深刻な課題もあります。最大の問題は、会社が倒産した際に経営者個人が莫大な債務を背負い、生活基盤すら失うケースがあることです。その結果、後継者が事業承継をためらう、あるいは再起業を断念するなど、経済の循環を阻害する要因となっています。
さらに、経営者の個人資産と法人資産の分離が進んでいない場合、仮に法人の財務状況が健全であっても、経営者保証を求められるケースが続いています。保証債務の重さが、個人と会社の経営責任のバランスを崩し、過剰なリスクを一方的に経営者へ押し付ける構造にもつながっています。
経営者保証の提供状況
2020年度の調査によると、国内の中小企業における経営者保証の実態は依然として重いものとなっています。
借入に対して経営者保証を全面的に提供している企業は全体の44%に上り、部分的に保証を提供している企業が36%、保証を提供していない企業はわずか20%にとどまっています。このデータからも、多くの中小企業経営者が今なお個人リスクを引き受けながら経営を行っていることがわかります。
出典:中小企業庁「経営者保証」
経営者保証のガイドライン3つ
経営者保証のガイドラインは下記3つです。
経営者保証に関するガイドライン
「経営者保証に関するガイドライン」は、金融機関と中小企業の間で締結される経営者保証に関して、どのような条件下で保証を求めるか、あるいは保証の履行をどう扱うかについて定めた、自主的なルールです。これは法律ではありませんが、金融庁のもとで業界団体によって策定され、多くの金融機関が運用に取り組んでいます。
ガイドラインが生まれた背景には、従来の融資が経営者保証に過度に依存していたという問題があります。保証契約の結果、企業が倒産した際には経営者自身が多額の債務を背負い、再起が困難になることも珍しくありませんでした。また、保証債務の扱い方が不明確なために、金融機関ごとに対応がバラつくという問題もありました。
そこでこのガイドラインでは、法人と個人資産の分離がなされていること、財務内容が透明であること、資金返済の見通しが立っていることなどを条件に、経営者保証を不要とする方向性を示しています。ガイドラインに準拠することで、過剰なリスク負担を避けつつ、中小企業の経営をより自由で前向きなものにすることが期待されています。
事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則
事業承継の場面で経営者保証が障害にならないようにするために、従来のガイドラインを補足する形で設けられました。特に、後継者が新たに事業を引き継ぐ際に、前経営者と同時に保証を求められる「二重徴求」の問題に焦点を当てています。
実際には、保証を理由に事業承継をためらうケースが多く、特に後継者が資産を持たない若年層の場合、その負担は非常に重いものになります。これを受けて、政府の成長戦略にも盛り込まれた形で、原則として前経営者と後継者の両方に保証を求めないこと、つまり二重徴求の回避を金融機関に促す内容が盛り込まれました。
事業承継の前後で保証の取り扱いをどう判断すべきか、具体的な取扱い方針も示されており、金融機関・企業・後継者それぞれにとって安心して承継が進められる体制づくりが目的となっています。
廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方
廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方は、廃業を選択する中小企業に対して、保証債務の整理をより円滑に進めるために設けられました。これまでは、会社が清算されても連帯保証人である経営者に多額の債務が残り、最悪の場合には自己破産を選ばざるを得ないケースが多く見られました。
この指針では、保証人が誠実に経営してきた場合や、協力的に債務整理に応じる姿勢を示している場合には、破産に至らなくても一定の資産を残した形で整理が進められる道を提示しています。
経営者保証の借りるとき・引き継ぐとき・返すとき
経営者保証の借りるとき・引き継ぐとき・返すときに関して、下記について確認しておくことが大切です。
借りるとき・引き継ぐとき
経営者保証を避けて融資を受けたり、事業承継時に保証を見直したりするためには、「経営者保証に関するガイドライン」で示されている要件を満たす必要があります。
要件1:法人と経営者の資産を明確に分離する
経営者個人名義の資産を会社の担保にしたり、会社の資金を私的に流用したりするような曖昧な管理は避けるべきです。法人の通帳と個人の通帳を明確に分け、資産の独立性を維持していることが求められます。
要件2:法人単体での返済能力がある
会社の財務基盤がしっかりしており、経営者の個人保証がなくても返済できると判断される必要があります。継続的に黒字を確保し、借入金の返済に耐えうる利益体質であることがポイントです。
要件3:財務情報を適時適切に開示している
金融機関との信頼関係を築くには、決算書類や事業計画を定期的に開示し、経営の透明性を保つことが重要です。融資のリスク評価がしやすくなり、保証の必要性も下がります。
これらの要件をすべて、あるいは一部を満たす場合、経営者保証をつけずに融資を受けることも可能になります。また、すでに提供している保証についても、解除や見直しの対象となる可能性が出てきます。
さらに、「停止条件付保証契約」という形で、経営者保証の効力を限定する契約形態も存在します。これは、経営が健全な限り保証債務の履行義務が生じないというもので、経営者のリスクを大きく減らすものです。
返すとき
経営者保証を履行する状況、つまり企業が破綻し、経営者が連帯保証人として返済責任を負うことになった場合でも、「経営者保証に関するガイドライン」では、過度な負担を避けるための一定の保護措置が設けられています。
まず、保証人が破産を選ばずとも、原則として最低限の生活資金(自由財産)である99万円は手元に残されます。さらに、企業の再建に早期に取り組んだ場合などは、これに加えて年齢等に応じた生活費相当額(100万円〜360万円程度)を確保できる可能性があります。
また、経営者の生活の場である「華美でない自宅」についても、金融機関は収入に応じた分割返済などの措置を講じることで、自宅を維持できるよう配慮するよう促されています。
何より重要なのは、保証債務の残額について、手元の資産で返済しきれない部分は「原則免除」される方針があるという点です。このため、「経営破綻=人生破綻」という図式を避けることができます。
さらに、これらの保証債務整理に関する情報は、信用情報機関に登録されず、再起に向けた障害が最小限に抑えられる配慮もなされています。
経営者保証のメリット
経営者保証は、中小企業が資金調達を円滑に進めるための有効な手段のひとつです。信用力が十分でない法人においても、経営者個人が連帯保証人となることで金融機関の信用補完が得られ、融資の可能性が広がります。また、保証があることで金利や融資条件の優遇を受けられる場合もあり、必要な資金を確保して事業拡大のチャンスをつかむきっかけとなることがあります。
経営者保証のメリットについて詳しく見ていきましょう。
信用力が不足していても融資を受けやすくなる
創業間もない企業や中小企業は、財務基盤や信用力が不十分であることが多く、法人単体の信用力だけでは金融機関からの融資を受けにくいのが現実です。こうした場合に、経営者が個人として連帯保証人になることで、金融機関は「経営者自身が返済責任を負う」という信用補完を得られ、融資のハードルが下がります。
つまり、法人の財務状況に関係なく、経営者の個人資産や返済能力が担保として認識されるため、資金調達ができる可能性が高まるのです。
金利の引き下げや融資額の増加につながる
経営者保証があると、金融機関にとっての貸倒リスクが下がるため、その分、低い金利での融資が可能になります。また、万一返済が滞った場合も経営者に対して請求できるという保証があることで、金融機関はより多額の資金を貸し出す決断がしやすくなります。
その結果、経営者保証がないケースに比べて、同じ企業でも条件の良い融資を引き出せる可能性が高まります。
必要資金の確保によって事業拡大のチャンスが生まれる
事業を拡大するには、設備投資や人材確保、販路拡大といった局面で多額の資金が必要となる場合があります。経営者保証によって資金調達がスムーズになることで、成長機会を逃さずに事業を加速させることが可能になります。
たとえば、新規店舗の出店や新規事業への参入といった重要な局面で、必要な資金を確実に確保できることは、企業の成長にとって大きなアドバンテージとなります。
経営者保証のデメリット
経営者保証には大きなリスクも伴います。企業の返済が困難になった際には、経営者個人が全責任を負うこととなり、最悪の場合は自己破産に至る可能性も否定できません。また、保証の存在が積極的な経営判断の妨げになることや、事業承継時に後継者がリスクを恐れて承継をためらう要因となることもあり、企業の成長や存続に影響を及ぼす側面があります。
経営者保証のデメリットについて詳しく見ていきましょう。
返済不能時には自己破産に追い込まれる可能性がある
経営者保証を提供している場合、企業が倒産などで借入金を返済できなくなったとき、経営者個人がその債務を肩代わりする義務を負います。これは、個人財産を差し押さえられることを意味し、最悪の場合は経営者自身が自己破産に追い込まれることになります。経営者個人の生活にまで深刻な影響を及ぼすリスクがあるため、精神的にも非常に大きなプレッシャーとなるでしょう。
事業展開を阻害する場合がある
経営者保証が足かせとなって、事業の柔軟な運営を妨げることがあります。経営者が万一に備えてリスクを極端に回避するようになり、積極的な投資や挑戦的な経営判断ができなくなるというケースも少なくありません。経営判断にブレーキがかかることで、本来得られるはずだった成長機会を失うリスクもあります。
事業承継が難航する原因となり得る
経営者保証は、事業承継の大きな障害となることがあります。後継者が会社だけでなく個人の借入リスクまで引き継ぐことを求められると、その負担の大きさに躊躇し、承継を辞退してしまうケースもあります。優秀な後継候補が承継から離脱し、結果として事業承継が進まず、廃業に至る企業も少なくありません。経営者保証は、事業のバトンを次世代につなぐうえで、無視できないリスク要因です。
M&A後に経営者保証はどうなるのか
M&Aによって会社の所有者が変わるとき、経営者保証の取り扱いも大きな焦点となります。とくに中小企業では、経営者が会社の借入に個人保証をつけていることが多いため、M&A後の保証債務の扱いが売手・買手双方にとって重要な論点になります。
ここでは、主なM&Aスキームである「株式譲渡」と「事業譲渡」において、経営者保証がどのように扱われるかを解説します。
関連記事:医療法人の解散|手続きの流れややるべき事項の基本 | 病院やクリニックの医業承継(事業承継・M&A)はエムステージ
株式譲渡
株式譲渡は、売手が保有する株式を買手に売却し、会社の所有権そのものを移転するM&A手法です。株式を100%譲渡した場合、会社そのものは存続しつつも、経営権とともに債務も新しいオーナーに引き継がれます。
そのため、もともと会社が負っていた借入金については、引き続き会社が返済義務を負いますが、売手の経営者が個人的に負っていた保証債務については、そのまま残ってしまうリスクがあります。
このため、実務上はM&A契約において、買手企業が売手経営者の個人保証を解除することを約束する条項を設けるのが一般的です。M&A成立後、買手企業が金融機関と交渉し、保証解除の手続きを行うことで、旧経営者の保証債務からの解放が図られます。ただし、保証解除は金融機関の判断によるため、事前の十分な調整と契約書への明記が重要です。
事業譲渡
事業譲渡は、会社の事業や資産・負債の一部を切り出して他社に譲渡するスキームです。この場合、会社そのものの所有権は移転せず、売手企業は引き続き存在します。したがって、会社名義で借り入れた資金の返済義務や、経営者が個人的に引き受けていた保証債務は、そのまま継続されるのが原則です。
ただし、事業譲渡によって売手企業が受け取る対価(通常は現金)を活用し、借入金を完済することで、経営者保証を外す交渉が可能になるケースもあります。たとえば、譲渡益をもとに債務の返済計画を提示し、金融機関に対して保証解除を求めるといったアプローチが可能です。
保証解除の可否は、金融機関の判断や売手企業の資産状況によるため、事業譲渡後も経営者保証の解消には一定のハードルがあるといえます。
関連記事:医療法人内の1つの医院を譲渡する際のスキーム・注意点 | 病院やクリニックの医業承継(事業承継・M&A)はエムステージ
M&A後に問題化する「経営者保証の解除未履行」
M&Aの実行後、経営者が退任してもなお、旧経営者の個人保証が解除されないケースが増えています。この「経営者保証の解除未履行」は、売却後も個人として会社の借入を保証し続けるという不安定な状況を生み、売り手にとって深刻なリスクとなります。
2014年に公表された「経営者保証に関するガイドライン」では、透明性の高い経営がなされていれば、保証なしでの融資も可能とされるようになり、さらに2019年には事業承継時の「二重保証」を原則禁止とする特則も加わりました。
また、2020年からは「事業承継特別保証制度」が始まり、一定の要件を満たすことで既存の経営者保証付き融資も、借り換えによって保証を外すことが可能になりました。制度面では進展が見られる一方で、実務上では解除が進んでいない現状もあります。
M&Aでは、売却契約書に「経営者保証の解除」を明記することが一般的ですが、実際には買い手企業がその義務を履行せず、旧経営者が保証人のまま取り残されるケースも報告されています。本来であれば、M&Aアドバイザーや弁護士が介入し、契約書に沿って交渉・対応すべきところですが、M&A後のフォロー体制が不十分な場合、問題が表面化することになります。
経営者保証は、会社売却後の人生設計にも大きな影響を及ぼします。M&Aを検討している中小企業経営者にとっては、譲渡契約の段階から経営者保証の取り扱いについて入念な確認と交渉が必要不可欠です。
金融機関は経営者保証の解除に応じることが増えている
近年、事業承継を含むM&Aの現場において、金融機関が経営者保証の解除に柔軟に応じるケースが増えてきました。これは、2019年に策定された「経営者保証に関するガイドラインの特則」の影響が大きく、この特則では「前経営者と後継者の両方から保証を求めることは原則禁止」とされています。
さらに、2020年4月の民法改正により、いわゆる「第三者保証」に対する制限が強化されたことも背景にあります。特則では、会社の経営権を既に手放している前経営者は、もはや会社と直接的な関係がない「第三者」とみなされ得るとされており、金融機関が引き続き保証契約を維持する場合には、その正当性を慎重に検討し、一定期間後に見直しを行うことが求められています。
こうした法的整備やガイドラインの明文化により、金融機関自身も経営者保証に過度に依存せず、リスク評価や返済能力を法人単体で判断するスタンスへと変化しつつあります。その結果、M&Aの現場では、売り手経営者が保証解除を申し出た際、以前よりもスムーズに応じてもらえるケースが増えてきており、事業承継をより円滑に進める後押しとなっています。
M&Aの際は経営者保証の解除について理解が必要
M&Aによって会社の経営が他者に移る際、旧経営者が引き続き借入の保証人として責任を負い続けるケースは避けなければなりません。経営者保証の解除は、売却後の経営者の人生設計やリスク回避に直結する重要事項です。譲渡契約時から金融機関との調整や契約条項の整備を通じて、保証解除の可否と責任の所在を明確にしておくことが不可欠です。
M&Aを成功させるために、保証債務の取り扱いに関して正確に理解し、実務対応の準備を行いましょう。
医院継承について無料相談してみませんか?
エムステージグループの支援サービスについての詳細はこちら▼
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月、プレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を上梓。
そのほか、医院承継の実務と現場知見に基づく発信を行っており、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演や寄稿も多数。医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として活動している。
>著者プロフィール詳細(wikipedia)