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医療法人の解散|手続きの流れややるべき事項の基本

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医療法人の解散|手続きの流れややるべき事項の基本
医療法人の解散|手続きの流れややるべき事項の基本

医療法人の解散は法人格を消滅させる行為で、財産を清算する必要があります。解散理由は債務超過、後継者不在、他法人との合併などがあります。解散には社員総会の決議が必要で、行政への届出や公告、債権者通知を行います。清算手続きは業務の終了、債権債務の取りまとめ、資産の換価、残余財産の分配などが含まれ、最終的に行政への清算決了届出と登記で完了します。

本記事では、医療法人を解散させる場合の基本知識について詳しく解説します。

医療法人の解散とは

医療法人の解散とは、医療法人の活動を停止して、法人格を消滅させる行為を指します。自然人(人間)でいえば、死亡とほぼ同じだと考えればいいでしょう。
ただ、自然人の死亡と違うのは法人の解散においては、相続という概念がなく、解散手続きの中で財産をすべて清算する必要がある点です。

医療法人の解散が検討されるケースとしては、以下のような場合が考えられます。

(1)医療法人が債務超過の場合

医療法人も、株式会社等の他の法人と同様に事業活動を行っています。病院建物や医療機器等をローンで購入し、診療報酬などの収益の中からローン返済等の支出を行ったりしています。また、医薬品の仕入れや職員への給与等の日常業務に伴う支出もあります。
この収入と支出のバランスが崩れて、支出のほうが大きくなってしまった場合、いわゆる赤字になります。そして赤字が続けば、総資産よりも負債のほうが大きい、債務超過の状態に陥る場合もあります。

債務超過が続き、金融機関から借入の返済ができない状態となれば、解散が検討されるでしょう。

(2)後継者が見つからない場合

医療法人を運営していく上で、医師の存在が不可欠です。原則的に、理事長は医師でなければなりませんし、勤務医師がいなければ、医療法人は事実上運営できなくなってしまいます。特に親族のみで運営している小規模な医療法人等では、後継者が見つからないために、継続できないケースもあります。

(3)他の医療法人との合併

他の医療法人と合併することにより、法人を解散するというケースもあります。上で挙げた債務超過や後継者が見つからない場合でも他の医療法人に吸収合併されるということもありますし、そうではなくとも、事業戦略として他の医療法人と合併するというケースもあります。
なお、合併はM&Aの一種だといえますが、一般的によく用いられている出資持分の売却(法人格が残る)とは異なるM&Aの方法です。

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解散手続きの流れ

医療法人を解散させる場合の、手続きの流れを解説します。

(1)法律上の解散事由を確認する

医療法人について定める医療法では、解散事由は以下の7つと定められています。いずれかに該当するかを確認しておきましょう。

  1. 定款を以って定めた解散事由(例えば、定款で「本法人の存続期間は設立から10年間とする」などと定めている場合です)
  2. 目的たる業務の成功の不能
  3. 社員総会の決議(原則として総社員の3/4以上の賛成を得る必要があります)
  4. 他の法人との合併
  5. 社員の欠亡(社員がいなくなること。ここでの社員は、従業員のことでは亡く、社員総会を構成する社員です)
  6. 破産手続開始決定
  7. 設立認可取消し(医療法人が違法行為を行うなどして、行政(都道府県知事)から設立認可を取り消された場合に該当します)

出典:医療法第五十五条

法律上は以上の7つの事由が定められていますが、いずれにせよ実務上の手続きとしては「社員総会決議」をもって進めていくことが多いです。

(2)社員総会で決議する

医療法人の解散は、社員総会決議により決定されます。理事長の独断、あるいは理事会では解散できません。

社員総会で決議する内容

医療法人を解散させるにあたって、社員総会で決めることは以下の事項です。

医療法人を解散する旨の決議そもそも解散するのかどうかを決議します。
破産手続きを選択するかどうかの決議債務超過にある場合には、破産手続きを選択するのが一般的です。破産手続きを選択する場合には、社員総会で、裁判所へ破産手続開始を申立てする旨の決議をします。
破産手続きを選択しない場合、清算人を誰にするかの決議債務超過以外の理由で解散する(破産手続きをしない)場合には、社員総会で清算人を選ぶ必要があります。清算人は、医療法では理事の中から選ぶものとされており、一般的には理事長が清算人となるケースが多いでしょう。
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(3)社員総会決議と並行して準備すべきこと

医療法人の解散は最終的には社員総会で決議して決めることになりますが、それまでに下準備が必要です。社員総会の決議に先立って、あるいは並行して行っておくべき事項は以下の通りです。

行政への認可、届出の準備

上記の解散事由のうち、①定款、⑤社員の欠亡による場合は行政への届出のみで解散手続きが可能です。

しかし、②目的たる業務の成功の不能の場合、③社員総会決議による場合には、行政(都道府県知事)の認可を得る必要があります。これは、医療法人は公益性があるため、安易に解散させないためであるとされています。これらの場合には、行政に解散認可を申請し、医療審議会で審査してもらう必要があります。

解散を検討する中で、社員総会に先行して、行政に解散することを相談して進めていくのが良いでしょう。

公告の準備、実施

医療法では、社員総会で解散決議をしたら、ただちに清算人が公告を行う必要があると定められています。
公告とは、具体的には官報に解散する旨を掲載してもらうということです。すぐに公告できるように社員総会と並行して公告の準備をしておきましょう。なお、行政の認可が必要な解散事由の場合は、行政の認可を得た後に公告を行うことになります。

債権者等の利害関係人への通知

社員総会で解散を決議したら、ただちに清算人から各債権者等の利害関係人へ通知を行い、債権届等の利害関係人に債権届等の手続きを取るよう促す必要があります。
決議したらすぐに通知を出せるようにリストアップして、宛名書きや送付文書の準備をしておくようにしましょう。

解散決議の登記手続き

社員総会で解散決議をしたら、解散決議を行った旨、および清算人が誰になるかを法務局で登記する必要があります。なお、行政の認可が必要な解散事由の場合は、行政の認可を得た後に登記を行うことになります。こちらも解散決議後すぐに登記できるように準備しておきましょう。

解散手続きに要する期間

社員総会で解散が決議されても、ただちに解散が完了するわけではなく、次は清算手続きに入ります。精算手続きには、最短でも2か月以上はかかります。債権届の届け出期間など、債権者保護を図る必要があるためです。

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解散決議後の清算中に行うべきこと

清算人は、主に下記の(1)~(4)の業務を行うことになります。

(1)現在業務の決了

業務を終了させて残務処理を行うことです。患者さんには他の病院を紹介したり、入院患者には転院を促したりして業務を終了させます。

(2)債権債務の取りまとめ

各債権者から返送されてくる債権届をもとに負債の取りまとめをします。また、未払いの診療報酬等の債権がある場合には債権回収を行い換価します。

(3)リースされている医療機器や自動車等、医療法人の財産ではないものの返却

医療法人の所有ではないリース物件等は、速やかにリース会社への返還等を行います。

(4)医療法人所有の医療機器等、資産価値のあるものを換価すること

医療法人では高価な医療機器を保有している場合も多く、また、病院の敷地・建物等の医療法人の資産があれば、これらも売却する等して換価する必要があります。

清算人の禁止事項

清算人が上記の業務を遂行する際に、禁止されている事項があります。

  1. 特定の債権者のみへの返済を優先して行うこと
  2. 法人所有を換価する中で不当に低い金額で売却したり、無償で廃棄したりすることなど

清算人は、清算をする上で、医療法人に対して善管注意義務を負っています。

上記の2点は、特定の債権者のみを優遇したり、法人の資産を不当に低減させたりするものであり、悪質な場合には清算人の任務懈怠として損害賠償を請求される恐れもあるため、十分に注意してください。

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残余財産の分配

上記の手続きで、清算人は、医療法人の資産と負債を整理することになります。その結果に応じて、残余財産を分配します。

(1)清算の結果、負債のほうが大きい場合

清算の結果、負債のほうが大きい場合には、清算人は破産手続を申し立てる必要があります(法56条の10)。

(2)資産のほうが大きく、残余財産がある場合

資産のほうが大きい、すなわち残余財産がある場合には、定款または寄付行為の定めるところによりその帰属が決まります(法56条1項)。処分されない財産がある場合には国庫に帰属します(同条2項)。

なお、残余財産に対しては、清算所得とみなされ、法人税、地方税が課税される可能性があります(法人税法39条)。税額を控除した残額が真の残余財産として分配の対象となります。出資持分のある医療法人では、社員に分配されることになります。

平成19年(2007年)以降に設立された医療法人は、出資持分のない法人であるため、残余財産の分配が問題となることはないものと思われます。

他方、その以前に設立された出資持分のある医療法人で、平成19年以降に出資持分なき医療法人へ移行していない従来の医療法人では、定款で残余財産は社員に分配すると定められていることが多く、そうした事案では、解散後に残余財産があれば、社員に対して、持分割合に応じた分配がなされます。社員は、出資額を超える額の分配を受けた場合には、その差額分は配当利益として所得税、住民税が課税される可能性があります。

清算の完了

残余財産の引き渡しが完了すれば、清算手続きがすべて終わります。清算人が最後に行うべきことは以下の2点です。

  1. 行政への清算決了の届出
  2. 清算決了の登記

これを以って、清算手続は終了し、医療法人の解散は完了します。

まとめ

本記事では医療法人の解散における流れや精算についてを解説してきました。医療法人を解散させる前に、医業承継を検討してみてはいかがでしょうか。

エムステージマネジメントソリューションズのコンサルタントは医療経営士の資格を保持しているため、経営に関するアドバイスなどのサポートも行います。クリニックや医院の医業承継に興味をお持ちの方は、ぜひ一度エムステージマネジメントソリューションズに無料でご相談ください。

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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>

株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。

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