医療法人は売却できる?出資持分ありとなしの場合の譲渡スキームやしくみ
目次
医療法人の売却方法は、出資持分の有無で異なります。売却の手法(スキーム)は、出資持分ありで4つ、持分なしで3つです。選ぶスキームによって、理事長の手元に残る金額も変わります。
持分ありで注意したいのは、理事長以外の出資者の存在です。持分なしの場合、売却の対価は退職金や基金として受け取る形になります。出資持分の有無によって、売却スキームの注意点や特性が大きく異なります。
そこで本記事では、出資持分の有無で異なる医療法人の売却スキームについて詳しく解説します。
医療法人における出資持分の有無
医療法人とは医療法にもとづき設立された法人

出典:厚生労働省『出資持分のない医療法人への 円滑な移行マニュアル 医療法人の基礎知識①~医療法人の類型~』
医療法人とは、病院や診療所などを開設・運営するために、医療法にもとづいて設立された法人です。
医療法人にできるのは、次の施設を開設する場合に限られます。
- 病院
- 医師または歯科医師が常時勤務する診療所
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
医療法人は「社団医療法人」と「財団医療法人」に分かれる
社団医療法人は人が集まってつくる法人、財団医療法人は寄附された財産をもとにつくる法人です。つくり方が違うため、法人のルールの呼び方も重要なことを決める場も変わります。
| 社団医療法人 | 財団医療法人 | |
|---|---|---|
| 何をもとにつくるか | 人の集まり | 寄附された財産 |
| 法人のルール | 定款 | 寄附行為 |
| 重要なことを決める場 | 社員総会 | 理事会(評議員会の意見を聴く) |
医療法人のほとんどは社団医療法人で、出資持分があるのも社団医療法人だけです。

出典:医療法人数の推移(令和8年3月31日現在)|厚生労働省
出資持分のある医療法人と出資持分のない医療法人の違い
出資持分のある医療法人と出資持分のない医療法人の違いは「出資者に財産権が認められているかどうか」です。持分ありなら解散時などに出資額に応じた払い戻しを受けられますが、持分なしでは受けられません。
平成18年の医療法改正によって、平成19年4月1日以降は「出資持分あり」の医療法人は新設できなくなりました。そのため「出資持分がある医療法人」の割合は年々下がっています。

出典:厚生労働省「医療法人数の推移(令和8年3月31日現在)」
出資持分ありの場合、2026年現在で設立から19年以上が経っているため、引退を考える年代に差し掛かっている院長も多いです。一方で医療業の後継者不在率は59.0%と全業種平均の50.1%を上回っています。
出典:全国「後継者不在率」動向調査(2025年)|帝国データバンク
親族に後継者が見つからないことから、第三者への承継を選ぶ医療法人も増加しました。実際私たちエムステージマネジメントソリューションズにも、出資持分のある医療法人からのご相談が増えています。
なお持分に代わる仕組みとして、平成18年の改正後に「基金」が設けられました。
医療法人売却の際のスキーム(手法)

医療法人の売却には4つのスキームがあります。スキームに寄って買い手に引き継ぐ範囲や手続きの手間が変わります。
自院に使えるスキームを判断する前に、4つの中身を押さえておきましょう。
医療法人売却スキーム①事業譲渡
事業譲渡とは、売り手と買い手で事業譲渡契約を交わし、譲渡日に契約書で定めた対象資産の権利を買い手に移転させ、代わりに売り手は譲渡対価を受け取ります。
譲渡の対象範囲を売り手と買い手双方の合意で決められるという柔軟性がある点がメリットです。一方、不動産賃貸契約など各種契約は売り手から買い手に引き継がれないため、契約を結び直しが発生する等、手続きが煩雑になるというデメリットもあります。
医療法人売却スキーム②持分の譲渡
持分の譲渡は、出資持分のある医療法人限定で使えるスキームです。売り手の医療法人の出資持分を、買い手に譲渡します。
医療法人ごと譲渡し、法人が持つ資産および負債を一手に承継する形になるので、医療法人が結んだ契約などもそのまま引き継がれます。事業譲渡に比べると手続きがシンプルになるといえるでしょう。
医療法人売却スキーム③合併
合併は、2つの医療法人を1つの医療法人に統合し、組織編制を行うスキームです。
医療法人が合併する場合、社団法人であれば社団法人と、財団法人であれば財団法人と合併する必要があります。また、合併後の医療法人が2つの医療法人の資産および負債を一手に引き継ぎます。
合併のメリットは、2つの医療法人が同一地域圏だった場合には、病床の移動も可能であることなどが挙げられます。
医療法人売却スキーム④法人格の売買
法人格の売買とは、契約締結や登記の権利のみを売買することで、売り手側の資産や負債などは買い手に引き継がれません。
売り手の医療法人は資産や負債などを自分で相殺して、外側の法人格のみを買い手に承継します。資産などは承継しないため、ほかのスキームより安価で手続きが少なくなるになる場合が多いでしょう。
出資持分ありの医療法人を売却する場合
出資持分のある医療法人は、4つのスキームすべてを使えます。選択肢が広いぶん、スキームの選び方で手続きの手間も税負担も変わります。使えるスキームと、実際に持分を譲渡するときの流れを確認しておきましょう。
出資持分ありの医療法人を売却する際に使えるスキーム
出資持分ありの医療法人は、「事業譲渡」と「持分の譲渡」、「合併」、「法人格の売買」いずれのスキームを使うことも可能です。
手続きが簡素化されることや税制上のメリットから「持分の譲渡」を売却時のスキームとして選ぶことが多いです。
出資持分譲渡のしくみ
持分の出資者が理事長だけでない場合には、売り手である理事長がその持分を買い取ってからでないと譲渡の手続きが進められません。また、譲渡にあたり、医療法人の社員および役員を全て変更する必要があります。
関連記事:医業承継(医院継承)における買収監査(デューデリジェンス)について
出資持分なしの医療法人を売却する場合
出資持分のない医療法人が使えるスキームは3つです。持分の譲渡を除いた形になり、理事長が受け取る対価の形も変わります。使えるスキームと、合併・事業譲渡それぞれの流れを確認しておきましょう。
出資持分なしの医療法人を売却する際に使えるスキーム
出資持分なしの医療法人の場合には、「事業譲渡」、「合併」、「法人格の売買」、といったスキームが使えます。
また、法人の清算時に残余財産の分配を受ける権利がないので、売り手側の理事長等は譲渡後に基金または退職金として対価を受け取ります。
合併における医療法人売却のしくみ
医療法人が合併を行う場合には新しく医療法人を設立し、消滅する2つ以上の医療法人を引き継ぐ「新設合併」と、合併後存続する医療法人に消滅する医療法人を引き継ぐ「吸収合併」がありますが、後者の「吸収合併」の方が一般的です。
吸収合併では、存続する側の医療法人が消滅する側の医療法人の資産だけでなく、負債やスタッフなどの雇用も全て引き継ぐことが多いです。
- 持分なし」と「持分なし」の医療機関が合併:「持分なし」の医療法人に
- 「持分あり」と「持分あり」の医療機関が合併:「持分あり」と「持分なし」の医療法人を選択可能
- 「持分あり」と「持分なし」の医療機関が合併:「持分なし」の医療法人に
事業譲渡における医療法人売却のしくみ
売り手と買い手が譲渡契約を締結し、譲渡範囲を決めて譲渡を行います。売り手側は病院の廃止届出、買い手側は新規の開設許可を取得する必要があります。
まとめ:医療法人の売却は出資持分の有無で手元に残る金額が変わります
医療法人の売却では、出資持分の有無で使えるスキームが変わります。持分ありなら持分の譲渡で対価を直接受け取れる一方、持分なしでは退職金または基金として受け取る形になります。
医療法人の売却は承継先が決まるまで一般的に6か月から1年ほどかかり、準備が早いほど希望の条件に合う相手も見つかりやすくなります。
引退の時期から逆算して、動き出すタイミングを決めておきましょう。
私たちエムステージマネジメントソリューションズは、全国の医師ネットワークをもとに、院長先生に最適な承継先をお探しします。引退の時期が決まっていない段階でも、医院継承・医業承継(M&A)のご相談は、エムステージ医業承継サポートにぜひお気軽にご相談ください。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計70件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。
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本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引や個別の状況に対する税務・法務・労務・行政手続き等の専門的なアドバイスを提供するものではありません。個別案件については必ず専門家にご相談ください。