地方の病院・クリニックのM&A動向調査
目次
地方の病院・クリニックのM&A動向は、経営者の高齢化と承継者不足により廃業が増加しているため、M&Aのニーズが高まっています。医業機関の平均経営者年齢は全業種を上回り、後継者不在率も多いため、廃業の代わりにM&Aを選択する傾向が強まっています。そのため、早期に専門家に相談することが推奨されます。
本記事では、経営者平均年齢や後継者不在率などの統計・調査データをもとにして、地方における医業M&Aの動向を考えます。
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医療業界において全国的に承継ニーズは高まっている
病院施設数は1990年頃をピークに減少を続けており、近年では診療所の廃止・休止件数が増加傾向にあります。厚生労働省「医療施設調査」によると、2021年の廃止件数は一般診療所が7,612、歯科診療所が1,252となっています。
倒産件数は年数十件程度と少なく、とくに増加傾向は見られません。相当数の医療機関が、良好な経営状態にもかかわらず廃業にいたっていると考えられます。その大きな原因とされるのが、経営者の高齢化と後継者不足だとされます。
例えば、日医総研の調査「医業承継の現状と課題」では、後継者不足の要因としては以下3点が挙げられています。
- 家業継承の文化が衰退し、子の人生は子が決めるという風潮が一般化したこと
- 診療報酬引き下げ、コロナ禍、人件費上昇などで経営環境が悪化し、医業経営の将来に対する不安が増していること
- 医師の偏在(医師が都市部に集中し、地方において医師不足が進行していること)
(参照:「日医総研ワーキングペーパー 医業承継の現状と課題」)
後継者不足は、業種を問わず中小法人・個人事業主において一般的な傾向となっており、それに対応していわゆる第三者承継(M&Aによる事業承継)が増加中です。
医療業界においても、M&A(経営権・出資持分・事業の売買や法人の合併・分割)のニーズは全国的に増加しています。
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地方の承継ニーズ
医業承継に限定して、地方におけるM&Aの件数やニーズを直接的に把握した統計は存在しないため、さまざまなデータから承継ニーズを推測してみます。
医業経営者平均年齢から見た承継ニーズ
帝国データバンクの調査「全国「社⻑年齢」分析調査2022年」によると、日本の経営者の平均年齢(全国・全業種平均)は一貫して上昇しており、60.4歳に達しています。
都道府県別に見ると、大都市圏では平均年齢が低く、それ以外では高い傾向があります。とくに平均年齢が高い都道府県としては、秋田県、岩手県、青森県、高知県などで62歳台になるなど、人口減少が進む地方県となっています。
一方、医療業界に限ると、2020年末時点における医業経営者(医療機関開設者・医療法人代表者)の平均年齢は、病院で64.7歳、診療所で62.0歳となっています。
これは全業種平均の値をかなり上回っており、医療業界においては、平均以上に高齢化が進行していることが見て取れます。
全業種平均・都道府県別のデータから推測すると、地方(とくに上記の都道府県など)においては医業経営者の高齢化がより進んでいるものと見られ、それに対応して承継ニーズも高まっていると考えられます。
後継者不在率から見た承継ニーズ
帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査2022年」によると、全国・全業種平均での後継者不在率は2010年代には65%前後を推移していましたが、2021年以降は若干改善し、2022年には57.2%となっています。
ただし、業種別に見ると、医療業は後継者不在率がとくに高い業種であり、2022年における不在率は68.0%です。
都道府県別では、やはり大都市圏は後継者不在率が低い傾向がありますが、地方においては一貫して後継者不在率が高いというわけではなく、傾向が分かれます。
不在率が高い順に上位10都道府県と下位10都道府県を並べると以下のようになります。
後継者不在率上位10 | 後継者不在率下位10 |
島根 75.1% 鳥取 71.5% 秋田 69.9% 北海道 68.1% 沖縄 67.7% 神奈川 66.2% 大分 65.6% 山口 65.3% 岐阜 62.9% 愛媛 62.1% | 熊本 49.5% 宮崎 49.3% 香川 49.0% 山梨 47.6% 佐賀 46.8% 鹿児島 46.4% 和歌山 46.2% 福島 44.7% 茨城 42.7% 三重 29.4% |
なお、これらのデータにおける「後継者不在率」とは、「後継者を求めているかどうかに関係なく、現時点で後継者がいない経営者の割合」を示している点に注意してください。「まだ経営者が若くて事業承継・後継者のことは考えていない」といったケースも含まれています。
都道府県別に見ると、経営者の平均年齢と後継者不在率がともに高い都道府県では、M&Aによる承継のニーズが一般的に高いと考えられ、医療業界でも同様の傾向があると見てよいでしょう。
大まかに言えば、大都市圏よりも地方においてそうした傾向があるため、地方における承継ニーズは比較的高いと推測されます。
細かく見ると、例えば、経営者平均年齢が61歳以上で、後継者不在率も上位10に入る都道府県(北海道、秋田県、神奈川県、島根県)においては、承継ニーズがとくに高いといえるかもしれません(あくまで限られたデータをもとにした大まかな推論です)。
事業承継におけるM&Aの割合から見た承継ニーズ
事業承継における先代経営者と後継者の関係性を見ると、親と子のような「同族承継」の割合が低下し、血縁関係にない役員・従業員が後継者となる「内部昇格」や、M&Aによる第三者承継の割合が増加する傾向にあります。
帝国データバンクの上記調査によると、2022年には全国・全業種平均で「同族承継」が34.0%、「内部昇格」が33.9%、「M&Aほか」が20.3%となっています。
一方、日本医師会が2019年に全国の医療機関を対象にして行ったアンケート調査「医業承継実態調査:医療機関経営者向け調査」によると、廃業・承継に関する予定・計画の割合は以下のようになっています(複数回答可のため合計が100%を超えます)。
親族への承継 | 62.0% |
閉院 | 43.9% |
親族以外の第三者個人への承継 | 38.2% |
M&Aによる他の医療機関への承継 | 22.5% |
(参照:「日本医師会 医業承継実態調査:医療機関経営者向け調査」)
この結果を見ると、医業承継におけるM&Aのニーズは相当高いことが推測されます。
親族への承継を考えている経営者が62%にのぼりますが、そのうち、後継者候補がいて承継の意思を確認済みというケースは多くなく、60代経営者で24.7%、70代経営者で39.9%に過ぎません。
後継者候補がいない(意思を確認していない)経営者は、今後M&Aによる承継を検討することになる可能性があります。
閉院を考えている経営者が43.9%にのぼりますが、M&Aの件数やM&A支援サービスが拡大していることを考えると、今後は廃業の代わりにM&Aを選択肢として考える経営者が増えることが予想されます。
こうしたことから、M&Aによる医業承継のニーズは地方を含め全国的にますます高まっていくものと思われます。
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地方にある病院・クリニックを売却したい場合まず何をすべきか
一般的に、病院・クリニックの売却を希望する場合、まずは自院の経営状況や地域のニーズなどを分析し、売却の目的や条件、戦略を検討します。そして、売却先として適した相手を探し、M&A交渉を進めていきます。
準備段階の検討や売却の相手探し(マッチング)においては、M&Aに関する専門知識や、買い手となる医師・医療法人とのつながり(ネットワーク)が重要となります。
顧問税理士に相談して売却を進めようとする経営者が少なくありませんが、M&Aに詳しい税理士は少数で、適切なアドバイスが得られない場合が多々あります。
顧問税理士や知人・取引先などのつてをたどって売却先を探すケースもよく見られますが、探す範囲(ネットワーク)が限られてしまい、なかなかマッチングに結びつきません。
とくに、地方においては地域内で適した買い手を探し出すことは難しいケースが多く、相談先には地域を越えたマッチングを支援できる能力が求められます。
売却を検討する場合、早い段階で仲介会社などのM&A専門機関に相談するのが得策です。
後継者不在でお悩みなら早めに仲介会社に相談を
M&Aによる医業承継のニーズは、潜在的なものも含めると、全国的に高まっており、今後はニーズが顕在化してM&Aという選択肢が一般化していくものと予想されます。
医療機関など、中小規模の法人や個人事業主がM&Aを検討する際には、相談先としてM&A仲介会社を選ぶのが一般的です。医業経営にも精通した仲介会社であれば、最適と言えます。
後継者不在などの理由で医療機関の売却を検討する場合、早めに仲介会社に相談することをおすすめします。
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▼エムステージの医業承継支援サービスについて
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。