クリニックの廃業とM&Aのメリット・デメリットを比較

売却 2023/08/29

経営環境悪化や後継者不足を背景にクリニックの廃業件数は増加傾向にあります。一方で、廃業を選ぶのではなく、M&Aにより第三者への事業承継を図る経営者も少なくありません。本記事では、廃業とM&Aのメリット・デメリットを比較しながら解説します。

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クリニックの廃業をめぐる最近の動向

クリニックの廃業件数(倒産ではなく自主的な廃業・休業・解散に至った数)は、2016年から以下のように推移しており、若干増加傾向がうかがえます。

診療所(歯科診療所以外)の廃業件数歯科診療所(歯科のみの診療所)の廃業件数
201637575
201736669
201838776
201944475
202041183
202147184
出典:「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021 年)」帝国データバンク

クリニックが廃業に至る主な理由としては、以下があげられます。

  • 少子高齢化、診療報酬引き下げ、コロナ禍、人件費上昇などを背景とする経営難
  • 医師・看護師の地域的偏在(都市部への集中と地方部での人手不足)による採用難
  • 経営者の高齢化と後継者不在

日本医師会が2019年に全国の病院・診療所を対象に行ったアンケート調査(「医業承継実態調査:医療機関経営者向け調査」)によると、今後の廃業・承継に関する選択肢(現段階での希望・計画)の割合は以下の通りです。なお、複数回答可のため合計が100%を超えています。

・親族への承継:62.0%
・閉院:43.9%
・親族以外の第三者個人への承継:38.2%
・M&Aによる他の医療機関への承継:22.5%

親族への承継がトップですが、すでに後継者候補がいて承継の意思を確認済みというケースは60代経営者で24.7%、70代経営者でも39.9%に過ぎません。後継者候補の属性は子が88.0%と圧倒的に多く、非親族(自院の勤務医など)は6.5%にとどまります。

そうした状況のなか、閉院を考えている経営者の割合は高く、M&Aを検討する経営者も2割を超えています。

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廃業する場合のメリット・デメリット

廃業は、経営者にとっては多少メリットも考えられるものの、雇用中のスタッフや通院中の患者、取引先にとっては直接的なマイナスの影響があり、地域の医療・雇用を将来にわたって縮小させる恐れもあります。

廃業のメリット

廃業のメリットとしては以下があげられます。

  • タイミングを経営者が自分で決められる
  • 後継者・事業承継先を探す手間が不要
  • 倒産(法定整理)に比べればダメージが少なく、資金を手元に残せる

身内や自院に勤務する医師、院外の第三者に事業承継(M&Aによる譲渡)をする場合、承継のタイミングは後継者・承継先の意向に大きく左右されますが、廃業であれば基本的に経営者が自分の意思でタイミングを決められます。

また、当然ながら事業の後継者・承継先を探す必要がなく、そのための苦労・手間・コストが不要です。

債務超過・資金難で倒産を余儀なくされた場合、クリニックの全資産を売却しても債務弁済に不足し、事業清算後に資金が手元に残りません。個人事業主や個人保証(経営者保証)をしている法人経営者は自己資金を投入しなければならず、自己破産に陥ることもあります。

倒産に至る前の、まだ財務的な余裕がある段階で廃業を選べば、清算後に資金を手元に残し、よりダメージが少ない形で事業の幕引きを図ることができます。

廃業のデメリット

一方、廃業にはデメリットも多くあります。

  • 廃業コストがかかる
  • 患者を他院に紹介し引き継ぐ必要がある
  • 従業員の職が失われ、地域雇用が縮小する恐れがある
  • 地域医療が縮小・空洞化する恐れがある

廃業には、意外とコストがかかります。

例えば、買い手のつかない医療機器・院内設備・備品や仕入先に返品できない医薬品の廃棄費用、リースしている医療機器の残債支払い費用、金銭債務の返済費用、テナント物件の原状回復費用、従業員への退職金、行政手続きの委託費用などが必要になります。

廃業を決めてからしばらくの間は、初診を断りながら再診患者の診療と他院への紹介・引き継ぎの業務を行わなければならないため赤字となることがあり、それも廃業コストに加わります。

こうしたコストを総計すると、少なくとも数百万円程度はかかり、1,000万円を超えることも少なくありません。

医療機器・院内設備・備品のなかには中古販売業者などに売却可能なものもあるでしょうが、売値は一般的にかなり低く、安く買い叩かれることになるのが現実です。

廃業に伴い従業員は職を失い、地域は医療サービスと雇用の提供者を失うことになります。とくに医療の担い手が不足している地域では、失われた分を補うサービス提供者が現れにくく、地域医療の空洞化を一歩進めてしまう結果になりかねません。

M&Aで売却する場合のメリット・デメリット

M&Aは、成功すれば売り手・買い手双方の経営者だけでなく、従業員、取引先、地域住民にとってもよい結果をもたらします。

ただし、買い手の利害が大きく関わってくるため、売り手経営者にはある程度の譲歩が求められることがあります。また、M&Aには失敗のリスクもあります。

M&Aのメリット

M&Aには以下のようなメリットがあります。

  • 売り手は譲渡益が得られる
  • 後継者不在でも事業承継が可能
  • 患者さんへの地域提供を継続できる
  • スタッフの雇用を守れる

M&Aの場合、クリニックの事業は解体されずに次の担い手に承継され、その事業の価値に相当する対価が売り手のもとに入ります。

一部、譲渡対象外の資産を処分したり、リース残債を支払ったりするコストがかかることがあり、M&A支援業者を利用すれば仲介手数料などが発生しますが、それを差し引いても相当の金額が残るのが通例です。

後継者不在は廃業を選ぶ大きな理由の1つとなっていますが、M&Aを活用すれば後継者がいなくても事業承継が可能です。

もちろん、M&Aを通してクリニックが存続すれば、通っていた患者さんへの医療提供は継続できますし、将来にわたって地域に医療を残すことができます。

また、M&A契約時にスタッフの継続雇用を条件とすれば、スタッフの雇用を守ることもできます。

M&Aのデメリット

M&Aにはメリットだけではなく、以下のようなデメリットもあります。

  • タイミングを自分だけでは決められない
  • 思い通りの事業承継が可能とは限らない
  • M&Aに対する否定的イメージが一部に残っている
  • M&A仲介業者などに支払う費用が必要

M&Aによる承継のタイミングは、適切な買い手候補が見つかるまでの期間や、相手が望む承継時期、契約交渉や行政手続きにかかる期間などによって左右され、売り手経営者の一存で決めることはできません。また、すぐに相手が見つかるとは限らないため、一定の時間がかかることが普通です。

タイミング以外でも、譲渡対価の額、スタッフの引き継ぎ、診療方針・医院名の継承など、売り手の要望がそのまま通るとは限らず、いずれかの面で多少の譲歩が必要になるのが通例です。交渉ごとなので、手間や精神的な負担もかかるでしょう。

また、M&Aにおいては、M&A仲介会社を通じて買い手候補とマッチングしてもらうことが普通です。M&A仲介会社が間に入ることで、相手探しや条件のすり合わせもスムーズに進みますが、反面、仲介会社に支払う手数料が発生します。

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廃業を考えているならM&Aも検討を

適切な買い手への譲渡が行えるのであれば、M&Aは廃業に比べてほとんどデメリットはなく、幅広い関係者に利益をもたらしうる選択肢です。

M&Aに対する負のイメージが廃業を選ぶ動機になるケースもまれではありませんが、M&Aのメリットを考えれば、そうしたイメージのために第三者への譲渡という選択肢を除外するのは非常にもったいないと言えます。

M&Aのメリットを享受するためには適切な買い手とのマッチングが欠かせません。この点がかつては大きなハードルとなっていましたが、現在では医業を専門とするM&A仲介サービスも増え、多数の譲渡・譲受希望者がサービスに登録しており、マッチングの機会は大きく広がりました。

こうしたことから、廃業を考えているなら、その前に少なくとも一度はM&Aを検討してみるのが得策と言えるでしょう。廃業を選ぶのは、適切な相手が見つからないなどの理由でM&Aはやはり難しいと判断されてからでも遅くはありません。

まとめ

廃業は経営者が好きなタイミングで実行できるというメリットがありますが、多額のコストがかかる上に、地域にマイナスの影響を与えることになります。

M&Aであれば、逆に譲渡益が得られ、地域に医療サービスと雇用の拠点を残すことができます。将来的に廃業することを考えている経営者は少なくありませんが、実際に廃業を選ぶ前に、M&Aという選択肢も検討してみることをおすすめします。

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