クリニックを高く売却するために押さえるべきポイント
目次
クリニックの医業承継における譲渡価額は、コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチの3つの方法で算定されますが、一般的には時価純資産法と収益力を組み合わせます。譲渡価額を高くするためには、資産管理や内部留保の増加、営業権の向上が必要です。交渉時には財務整理や資料準備が重要であるため、専門家への相談が推奨されます。
そこで本記事では、クリニックを第三者に売却する際に譲渡価額を高くするためのポイントを整理し、交渉時に意識しておくと良い点などについて解説していきます。
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譲渡価格はどのように決まるのか
M&Aによって第三者に企業などを譲渡する際に、理論上の譲渡価額を算定するために用いられる手法には、以下の3つがあります。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
「コストアプローチ」とは、対象となる企業(または事業)が持つ資産・負債などの状況から譲渡価額を算定する手法のことです。これに対して「インカムアプローチ」とは、企業などが稼ぎ出す収益力に着目し、譲渡価額を算定する手法になります。
また、「マーケットアプローチ」とは、自社と同業の上場企業をさまざまな角度から比較し、その結果から株価を逆算する方法です。
コストアプローチであれば譲渡価額に現在の資産状況を反映できますが、収益力を反映させることはできません。反対に、マーケットアプローチであれば譲渡価額に収益力を反映できますが、どれだけ資産を持っていてもそれが譲渡価額に反映されることはありません。
また、マーケットアプローチを行うためには自社と同業の法人を上場企業の中から探さなければなりませんが、クリニックや医療法人のように上場企業から類似法人を探し出せないケースでは、そもそも使うことができません。
このように、3の手法にはそれぞれ一長一短があるため、状況に合わせて最適なものを選択することになるわけですが、医業承継では多くの場合コストアプローチとインカムアプローチを折衷した方法が用いられています。
具体的には、コストアプローチの一種である「時価純資産法」で算出した時価純資産をベースに、収益力から算出した営業権を加え、それを理論上の譲渡価額とします。
医業承継の譲渡価額=時価純資産+営業権
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高く売却するために押さえるべきポイント①:時価純資産の考え方
時価純資産法とは、クリニックが保有している資産や負債を時価に換算し、資産から負債を差し引いた純資産を企業価値とする方法です。ここで算出した企業価値が、クリニックの譲渡価額のベースとなります。
ただし、すべての資産・負債を時価評価するのは実務的に困難なことから、土地や有価証券のような主要資産の含み損益のみを時価評価する場合もあります。
時価純資産法の計算方法
時価純資産法の計算は、多くの場合以下の手順で行います。
- 全資産を時価(=市場価額)に換算します。棚卸商品はもちろんのこと、建物や機械なども経過年数や使用状況を加味した時価に置き換えて行きます。特に、土地や有価証券のように含み損益が大きい資産の評価は必ず行います。
- 負債も同様に時価に換算します。
- 時価に評価替えした資産から負債を差し引き、譲渡価額のベースを算出します。
譲渡価額を引き上げるポイント
時価純資産法によって算出される譲渡価額を引き上げるためには、資産を増やして負債を減らさなければなりません。そのためには、たとえば資産であれば建物や機械などを丁寧に使い、経年劣化による価額の低下を出来るだけ抑えることがポイントとなります。
また、クリニックの内部留保を積み上げて行くことも大切です。過大な報酬や無駄な出費を行うと、クリニックの財務状況は「スカスカ」になってしまうため、高値での売却が難しくなってしまいます。
高く売却するために押さえるべきポイント②:営業権の考え方
「営業権」とは、一般企業でいう「のれん」のことで、クリニックの認知度やブランド力、スタッフの質の高さなどを総合したものです。こうした目に見えない収益の源泉を営業権といいます。
患者からの厚い信頼や地域での知名度、医療スタッフの充実ぶりなどは、決算書のどこを眺めても表記されていません。しかし、こうした無形資産は、クリニックの経営には欠かせません。
そのため、医業承継ではこうした無形資産を営業権として計上し、譲渡価額に上乗せします。なお、この営業権は、多くの場合「直近の営業利益の〇年分」で算出します。以下のような計算例となります。
・直近の営業利益:1,000万円
・営業権は営業利益の2年分とする
▶営業権の金額:1,000万円×2年=2,000万円
ここで算出した営業権を、上述の時価純資産法で算出した金額に加えたものが、理論上の譲渡価額となるわけです。
営業権を引き上げるポイント
営業権を引き上げるためには、まず営業利益を増やさなければなりません。過大な報酬や無駄な出費は控え、効率の良いクリニック経営を行うことで、営業利益を増やすことが出来るでしょう。営業利益が増えれば買い手側が医業承継後の収益をイメージしやすくなるため、営業権の金額を引き上げやすくなります。
しかし、これだけでは十分でありません。
上述のように、医療スタッフの質の高さや人数、そして認知度や地域医療との連携なども評価され、営業権を引き上げる大切なポイントとなります。これらは一朝一夕でどうにかなるものではありませんが、普段から気にかけ、じっくりと取り組んでいくと良いでしょう。
交渉時に意識すると良いこと
クリニックを高く売却するためには、売り手との交渉時に意識しておくと良いポイントがいくつかあります。その中でも特に効果的なのが、以下の4点です。
- 個人の資産や支出をクリニックの財務諸表から切り離す
- 必要な書類や資料をあらかじめ整理しておく
- 譲渡価額の落としどころを決めておく
- 医業承継の実績が豊富な専門家に相談する
個人の資産や支出をクリニックの財務諸表から切り離す
クリニックの資産の中には、休日にプライベートで使うこともある資産(自家用車など)が含まれている場合があります。また、個人的な支出との線引きが難しい経費が計上されていることもあります。
こうした資産や支出がクリニックの財務諸表に混じっていると、公私混同を疑われ、買い手に対して悪い印象を与えかねません。また、譲渡価額の算定の際にも不利になる場合が多いため、出来るだけ早い段階でこれらを財務諸表から切り離しておいた方が良いでしょう。
必要な書類や資料をあらかじめ整理しておく
クリニックの売却交渉を行うためには、直近3年分の「確定申告書(写し)」やリース物件の「賃貸借契約書」、土地建物などの「登記簿謄本」をはじめ、さまざまな書類が必要になります。
こうした書類をあらかじめ整理し、すぐに提出出来るようにしておくと、交渉がスムーズに進むだけでなく、相手からの信頼も得られるようになります。
譲渡価額の落としどころを決めておく
譲渡価額の算定方法はこれまでに述べた通りですが、その価額で最終的な譲渡価額が決まるわけではありません。相場と比べて高過ぎると買い手がつかないこともあるため、交渉前にある程度の落としどころを決めておくと良いでしょう。
どこまでだったら妥協できるのかをあらかじめ決めておけば、交渉が難航したり、振り出しに戻ってしまったりするリスクを抑えられます。
医業承継の実績が豊富な専門家に相談する
クリニックを売却する際に最も頼りになるのは、仲介会社のような専門家です。買い手を探すのもスケジュールを管理するのも、相手との窓口になるのも各種契約書を作成するもの、すべて専門家が行います。
特に、医業承継は一般企業のM&Aと比べると特殊な点が多いだけに、医業承継の実績が豊富な専門家を探して相談してみると良いでしょう。
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まとめ
クリニックを売却する際に算定される譲渡価額は、一般的に時価に換算されたクリニックの純資産に営業権を加えた金額が基準となります。したがって、ある程度の相場はあるものの、その幅はかなり広いため工夫次第で高く売却することも十分に可能です。
注意すべきポイントなどは本文で述べた通りですが、それを実行に移すためには思った以上の労力や専門知識が必要となる場合があります。少しの工夫で金額が大きく変わる場合もあるだけに、事前に専門家に相談しておくと良いでしょう。
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この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。