医業承継(医院継承)における意向表明書とは?売り手・買い手のポイント
意向表明書は、M&Aの買い手が買収意向を示すために売り手に提出する書面で、買収価格や交渉スケジュールなどが記載されます。秘密保持契約締結後、売り手から提供される資料やトップ面談を経て提示されます。意向表明書は、買い手が独占交渉権を得るための重要な資料であり、売り手は有望な譲渡先を絞り込むために利用します。買い手は専門家の支援を受けて作成し、売り手もM&A支援業者と相談しつつ内容を慎重に確認することが重要です。
本記事では、医業の第三者承継における意向表明書について、医業ならではのポイントに触れながら解説していきます。
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意向表明書とは
意向表明書とは、M&Aの買い手が買収(譲受)の意向を表明するために売り手に差し入れる書面です。買い手が希望する買収価格、取引手法(スキーム)、今後の交渉スケジュール、独占交渉権に関する事項などが記載されます。
意向表明書を提示するタイミング
M&Aの初期交渉では、秘密保持契約締結後、売り手側の事業概要や財務状況などを詳細に記載した資料(IM:Information Memorandum)が買い手に交付されます。買い手側はIMを分析して買収対象の価値を算定したり取引手法(スキーム)を検討したりします。
また、M&A取引や譲渡・譲受後の事業のあり方についての意向を確認し合うために経営者同士の面談(トップ面談)が行われます。
IMの分析やトップ面談を経て、買い手が買収に向けて本格的な交渉を進める意向を固めた段階で、意向表明書が売り手に提示されます。
意向表明書の役割
IMは売り手が買収対象としての自らの価値をアピールするための資料であり、意向表明書は買い手が有望な譲渡先候補として自身を売り込むための書面と言えます。
意向表明書の内容やトップ面談の結果を受けて、売り手側も本格的な交渉に進むことを了承した場合、双方の間で譲渡条件や今後の交渉の進め方について調整が行われ、現時点での合意内容が基本合意書としてまとめられます。
基本合意書では、買い手に(一定期間の)独占交渉権が付与されます。意向表明書においても、独占交渉権の付与を希望する旨が記載されるのが通例です。
意向表明書は買い手にとっては独占交渉権を勝ち取るための資料であり、売り手にとっては有望な譲渡先候補をひとつに絞り込むための資料となるわけです。
意向表明書と基本合意書の違い
意向表明書と基本合意書に記載される項目は大方共通していますが、意向表明書は買い手の意向を売り手に示すための書面であり、基本合意書は売り手・買い手の合意内容を示すために双方の署名のもとで締結される書面であるという違いがあります。
なお、意向表明書は、英語の「Letter of Intent」の頭文字で「LOI」と呼ばれることがあり、また、基本合意書は「Memorandum of Understanding」を略して「MOU」と呼ばれることがあります。ところが、意向表明書に売り手が同意の署名を行えば、基本合意書と同等の機能を持つことになることから、基本合意書も「LOI」と呼ばれている場合もあるので、注意が必要です。
なお、比較的小規模な取引などにおいては、意向表明書の提示が行われず、協議のなかで譲渡条件などが話し合われて基本合意書の締結に進むケースもあります。
入札案件での意向表明書
複数の譲受希望者が名乗りを上げ、入札形式でM&Aが行われる場合、売り手は複数の候補者から意向表明書を受け取り、その内容をもとに交渉相手をひとつに絞ります。
入札プロセスの開始前に、意向表明書に記載すべき内容や提出期限、交渉相手の選定方法・時期などをまとめた書面(プロセスレター)が候補者に配布されるのが通例です。
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意向表明書の記載内容
意向表明書には、挨拶文に続いて以下のような事項を記載します(入札案件では売り手が指定した事項を指定の形式で記載します)。
買い手の概要 | 買い手の事業概要・沿革など |
M&Aの目的・背景 | 本件M&Aの目的、検討するにいたった背景 |
取引対象 | 買収の対象とする権利義務の内容(医療法人の経営権・持分、分院・個人医院の権利義務の全部または特定の一部など) |
取引価格 | 現時点で買い手が希望する買収価格とその算定根拠価格修正の要因となる事項(簿外債務の存在など) |
スキーム(M&Aの取引手法) | 現時点で買い手が希望するスキーム(事業譲渡、社員・役員の入れ替えによる経営権譲渡、法人の合併・分割など)譲渡対価の受け渡し方法(持分譲渡、退職金給付など) |
譲受後の経営に関する事項 | 譲受後の経営・診療の方針、役員・従業員の処遇、中長期的な事業戦略など |
買収資金調達に関する事項 | 買収資金の調達方法(自己資金、銀行融資など)資金調達の状況・見通し |
買収監査(デューデリジェンス)に関する事項 | 最終契約前に、売り手の事業の実態を把握し、買収対象として価値やリスクを評価するために、売り手の内部資料の分析や経営層へのインタビューなどを(買い手が依頼する専門家を交えて)行うこと買収監査の実施にあたり、売り手の協力を適宜要請すること |
独占交渉権に関する事項 | 一定期間にわたる独占交渉権の取得を希望する旨を記載 |
今後のスケジュール | 買収監査や最終条件交渉、M&A実行などのスケジュール |
意向表明書を提出するにあたり買い手が考えるべきこと
意向表明書が売り手から見て魅力的なオファーとなっているかどうかが重要です。とくにポイントとなるのは、買収価格や買収後の経営・雇用のあり方、そして承継者としての熱意です。
買収価格は、買収後の経営統合で生まれるシナジー(相乗効果)の価値を加味したものにする必要があります。入札案件の場合、他の候補者の出方を予想してより魅力的な価格を提示することが求められます。ただし、高く買いすぎると承継後の事業展開にとって負担となります。
買収後の経営方針やスタッフの雇用承継、役員の処遇などについては、売り手の希望を汲んだ上で、合理的な案を提示することが必要です。
一般的に、法人のオーナー経営者や個人事業主が売り手となる場合、買い手候補の熱意や共感が重視される傾向があり、医業承継においても同様の傾向が見られます。
売り手が地域医療の担い手としてこれまでに築いてきた事業の価値や診療・経営の特色などに対する理解・共感を具体的に示し、承継後の事業戦略にそれらをどのように活かしていくかについて積極的にアピールするとよいでしょう。
効果的な意向表明書を用意するためには医業承継やM&Aに関する専門知識・経験が求められるため、意向表明書はM&A支援業者に作成を委託するか、その監修のもとで作成するのが通例です。
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意向表明書を受け取るにあたり売り手が気をつけるべきこと
売り手としては、M&A支援業者とも相談しつつ、以下のような点に注意して意向表明書をチェックすることが重要です。
- 売り手として譲れないポイント
- 条件(譲渡価格や譲渡後の診療・経営の方針、スタッフ・役員の待遇など)に関して、希望に添う内容となっているか
- 買収価格の設定や資金調達方法、買収後の事業計画に合理性があるかどうか
- 経営統合によるシナジーが十分に望めるかどうか
- 共感や熱意が具体的で、根拠を伴っているかどうか
まとめ
意向表明書は買い手が譲渡先候補として有望であることをアピールし、独占交渉権を勝ち取るための書面です。売り手にとっては、交渉相手をひとつに絞り込むための資料となります。
意向表明書の作成およびチェックのプロセスでは、医業承継に関する専門知識や経験が求められるため、M&A支援業者などの専門家のサポートが重要になるでしょう。
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▼エムステージの医業承継支援サービスについて
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。