医療法による広告規制と限定解除要件|NG表現事例紹介
医療法による広告規制は、虚偽、比較優良、誇大広告を禁じ、適切な選択を阻害しないよう定めています。最新のガイドラインとウェブサイト事例解説書は、消費者委員会の意見を反映し、ウェブ広告の適正化を強調しています。問題のある広告には、体験談の紹介、費用強調、景品誘引などがあり、厚労省は監視体制を強化しています。
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医療法による広告規制の概要と最新の規制
最初に、医療法における広告規制の基本を確認しましょう。医療法では、医療広告について下記のように示しています。
第六条の五 何人も、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示(以下この節において単に「広告」という。)をする場合には、虚偽の広告をしてはならない。
引用:医療法
2 前項に規定する場合には、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を阻害することがないよう、広告の内容及び方法が、次に掲げる基準に適合するものでなければならない。
一 他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告をしないこと。
二 誇大な広告をしないこと。
三 公の秩序又は善良の風俗に反する内容の広告をしないこと。
四 その他医療に関する適切な選択に関し必要な基準として厚生労働省令で定める基準
虚偽広告、比較優良広告、誇大広告
上記条文では、医療法において第一に禁じているのが「虚偽広告」であることがわかります。簡単にいえば、ウソを書いているということで、これは当然禁止されます。
また、医療法では「比較優良広告」や「誇大広告」も禁じています。
比較優良広告とは、特定または不特定の他の医療機関と比べて、施設の規模、人員配置、提供する医療の内容等について、自院のほうが優れていると広告することです。
誇大広告とは、誇張した表現や優良誤認を導くような表現をしている広告のことです。最新の医薬広告ガイドラインでは、実際のサービス内容と違っている広告や、科学的根拠に乏しい情報で受け手の不安・混乱を煽り、受診につなげるような広告も誇大広告とみなしています。
また、「公序良俗を乱すおそれがある」という理由で禁止されているのは、わいせつな画像、残虐な画像、差別を助長するような表現などを用いた広告などです。
上記のそれぞれの具体例は、記事の後半で記載しています。
最新の医療広告ガイドライン
厚生労働省は、令和4年12月28日に最新の『医療広告ガイドライン(医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針)』を公表しました。続いて令和5年2月1日には、特にウェブサイトの事例について解説した『医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第2版)』も公表しています。
この2つの施策は、「法的規制を行い医療機関のウェブサイトのあり方を見直すべきだ」とする消費者委員会からの見解が色濃く反映されたものとなっており、医療機関によるウェブサイト広告の適正化を促す記述の比重が大きくなっています。
近年、特に問題とされている広告
例えば、最新の「医療広告ガイドライン」では、医療機関が、自らの広告で患者や患者家族からの体験談を紹介すること、費用を強調した広告、医療の内容とは直接関係になる誘引(景品プレゼントなど)などについても、「医療広告として適切ではなく、厳かに慎むべきである」とされています。
また、近年、美容医療などでウェブサイトを介しての消費者トラブルが増加していることから、厚生労働省では、ネットパトロールによる調査・監視体制を強化し、問題のある医療広告の発見・是正指導などにも努めています。
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ウェブサイト以外の広告規制
近年、医療機関の広告はウェブサイトによるものが中心となっていますが、それ以外にも、チラシ、パンフレット、ポスター、看板、新聞・雑誌広告、テレビ・ラジオCMなど、従来からある広告も用いられます。「医療広告ガイドライン」では、これらの医療広告のあり方に対して以下のように明示しています。
医療広告を行う者は、その責務として、患者等が広告内容を適切に理解して、適切に治療等を選択できるよう、客観的で正確な情報の伝達に努めなければならない
引用:医療広告ガイドライン
不適当な治療を受けた場合、情報の受け手は甚大な被害を受ける可能性があります。医療は人の生命・身体に関わるサービスであるという点を十分に認識し、広告内容については検討を重ね、正確かつ適切な情報提供に努める必要があります。
ちなみにメディアの責任において主体的に報道される新聞や雑誌などの記事は広告には該当しないため、規制対象にはなりません。
しかし、医療機関が新聞社や出版社に費用を払い、自らの情報発信を依頼していたとしたら、それは広告とみなされます。「これは広告ではありません」、「これは取材に基づく記事です」などと明記していても、病院名や病院の連絡先が記載されていれば広告とみなされ、その内容は規制の対象となることがある点に注意してください。その内容に医療法の広告規制上問題のある表現があれば、都道府県、もしくは保健所設置市や特別区の担当官からの行政指導が入る可能性もあります。
医療機関のウェブサイトにおける限定解除要件
医療広告においては、基本的に広告することが可能と定められている事項以外の情報を掲載することができません。つまり、記載できる事項が限定されています。
しかし、ウェブサイトは、新聞公告や看板広告などのように、意図に関わらず目に入る情報ではなく、利用者が自らの意図で検索して入手する情報です。また、ウェブサイトは現在では誰もが情報を入手するために利用するインフラにもなっています。
そのため、医療機関がウェブサイトで発信する情報を一律に広告として規制してしまうと、詳細な診療内容など患者が求める重要な情報の提供が妨げられる恐れがあります。
こうしたウェブサイトの特性をふまえ、最新の「医療広告ガイドライン」および「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第2版)」では、下記に示す「限定解除要件」を満たせば、従来は広告として掲載することができなかった「ビフォー・アフターの掲載」「自由診療の治療内容」「広告許可されていない診療科目名」等を、医療広告として掲示してよいこととされています。
広告可能事項の限定解除が認められる場合は、以下の①~④のいずれも満たした場合とする。
引用:医療広告ガイドライン
ただし、③及び④については自由診療について情報を提供する場合に限る。
① 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウ
ェブサイトその他これに準じる広告であること
② 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載する
ことその他の方法により明示すること
③ 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供する
こと
④ 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること
上記の「限定解除要件」では、自由診療の情報提供についての適正化が大きなねらいとなっており、自由診療の受診者となりうる利用者が、より適切な治療を想定内の費用で受けられるような方向づけがなされているものだといえます。
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医療機関のWEBサイトにおけるNG表現事例
「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第2版)」(以下、事例解説書)では、広告作成に際して陥りやすいNG表現事例を具体的に示し、医療機関によるウェブサイトの適正化を図っています。
以下、事例解説書に掲載されているNG表現事例を紹介していきます(カコミ内は、原則的に事例解説書に掲載されているサンプルの原文ですが、一部表現を修正しています)。
虚偽広告の例(1)
当院には、手術実績が豊富で高度な技術を持った医師が多く在籍しております。そのため当院ではどんなに難しい手術でも必ず成功させます!
「絶対安全な手術」は医学上ありえないので、医薬広告ガイドラインでは虚偽広告として取り扱うことが定められています。このような広告は「虚偽広告」として行政による指導対象となります。
虚偽広告の例(2)
即日インプラント治療1日ですべての治療が終了します。
インプラント治療は診断、検査、手術、定期メンテナンスと長期にわたっておこなわれるものであるのに、すべての治療が1日で終了するという広告は実態と異なるので、「虚偽広告」となります。
虚偽広告の例(3)
多くの皆様にご満足いただいております!医療脱毛 患者満足度99%
具体的な調査方法などデータ根拠を明示することなく、患者満足度や治療効果などの結果だけを示す表現は、「虚偽広告」に該当します。
誇大広告の例(1)
当院のサイトは、厚生労働省が定めた医療広告ガイドラインの遵守状況を確認する審査制度に基づき、指定審査機関から認定証を取得したことをお知らせいたします。
自主的に守るべき医療広告ガイドラインを、あたかも行政機関が保証しているような表現になっています。このような広告は「誇大広告」に該当します。
誇大広告の例(2)
△△インプラントセンター
医療機関の名称に「センター」を使ったり、医療機関と併記して「センター」の文言を使ったりするのは、誇大広告に該当します。医療広告に「センター」を使えるのは、救命救急センター、休日夜間急患センターなど、一定の機能を担う医療機関に限定されています。
誇大広告の例(3)
3年間、回数制限なく何度でも通えるため、全身のムダ毛を最後まで脱毛することを目指せます。
広告内容から受け取ることができる印象や期待感と、実際の治療内容との間に相違があるものは誇大広告となります。脱毛治療の場合、毛周期等の関係で、実質的に期間中に受けられる治療回数は限られており、回数制限なく何度でも通うには無理があるので、この広告は誇大広告とみなされます。
誇大広告の例(4)
ストレスを感じている方にはがんのリスクがあります。
科学的根拠が乏しい情報をもとに、受診や手術へ誘導する表現は誇大広告となります。
比較優良広告の例(1)
本グループは全国に展開し、最高の医療を広く国民に提供しております。
当院は美容外科手術において日本一の実績を有しています。
医薬広告ガイドラインでは、「日本一」、「最高の」、「No.1」などの表現は、比較優良広告に該当するものとして禁止すべきであるとしています。
比較優良広告の例(2)
県内で同じ治療を提供している「□□医院様」や「△△クリニック様」よりも安く受診できます!
特定の対象を具体的に示した比較も、明らかな比較優良広告なので当然NGです。
比較優良広告の例(3)
モデルの○○さんが当院に来院されました!
著名人との関係性の強調は、他の医療機関より優れているとの誤認を誘導するため、比較優良広告に該当します。
期間がない手術件数の表記
当院では、○○手術と××手術の実績はのべ1,500件を超えています!
「医療広告ガイドライン」では、手術件数を広告する際は、いつからいつまでの期間に行われたかを示す必要があるとしています。事例解説書では手術件数について、「対象期間を明示した上で1年ごとに集計したものを複数年に渡って示すことが望ましい」としています。あわせて、現在提供されている医療の内容について誤認させるおそれがあるもの(超長期間での表示など)は誇大広告に該当する可能性がある、とされています。
その他、知っておくべき医療広告でのNG行為
以下も医療広告においてついウェブサイトに掲載してしまいがちな、NG行為の典型例です。
体験談の掲載
個人が運営するウェブサイトや口コミサイトでの体験談は、医療広告としてみなされず、規制対象外です。しかし、医療機関のウェブサイトで、患者や患者家族、もしくはスタッフの体験談を自院の広告として紹介することは禁止されています、また、口コミサイトからの文面を転載することも禁止されています。
ビフォー・アフター写真だけの掲載
いわゆるビフォー・アフター(術前術後)の写真では、写真のみの掲載はウェブサイト閲覧者が誤認するリスクが高いのでNGとされています。ビフォー・アフターの写真を掲載する場合、「治療内容」、「期間・回数」、「費用」、「リスク・副作用」等、詳細な情報提供をあわせておこなう必要があります。
まとめ
医療広告で怖いのは、勘違いなどによりうっかりと規制に反する内容を掲載してしまうことです。最悪の場合、行政指導などを受けてしまうことにつながります。
その一方、医療機関の広告規制も時代に応じて少しずつ変化しています。特に、インターネット広告が主流となっている現在では、限定解除など、以前にはなかった考え方も登場しています。
広告に関して、無用のトラブルを避け、かつ効果的な訴求をおこなうため、常に最新のガイドラインなどの内容をチェックするようにしましょう。
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この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。