へき地医療の課題・取り組みと参加方法

医療経営・診療所経営 2023/03/06

へき地医療は少子高齢化と医師の偏在化という、2つの大きな問題を抱えています。

深刻な少子高齢化が囁かれる現代の日本では、2025年には団塊の世代が全員75歳以上になり高齢者が増加する一方、勤労世代人口の減少が進んでいるため、近い将来医療や介護、看護や福祉の分野において需給の逼迫が予想されます。

もう1つの問題は、医師の偏在化です。医師をはじめとする医療従事者の多くは都市部に集中しているため、地域によっては以前から医療資源の需給逼迫が余儀無くされています

この2つの課題を同時に抱えているへき地では、これまで国や都道府県が中心となって、その課題に取り組んできました。

そこで今回の記事では、へき地医療の現状と課題、それに対する取り組みなどをご紹介します。

へき地医療とは

そもそも「へき地医療」における「へき地」とは、どういった地域なのでしょうか?

厚生労働省の定めるところによれば、「へき地」とは、

交通条件及び自然的、経済的、社会的条件に恵まれない山間地、離島その他の地域のうち医療の確保が困難であって無医地区及び無医地区に準じる地区の要件に該当する地域

引用:厚生労働省「へき地医療の現状と課題」

とされています。

2014年時点で、へき地が存在しない千葉県、東京都、神奈川県、大阪府を除く43道府県の無医地区637か所と、準無医地区420か所の合計1057か所が、へき地医療の対象となっています。

「無医地区」とは「医療機関のない地域で、当該地域の中心的な場所を起点として概ね半径4kmの区域内に人口50人以上が居住している地域であって、かつ、容易に医療機関を利用することができない地区」と定義されています。

それに対し、「準無医地区」とは、「無医地区には該当しないが、無医地区に準じた医療の確保が必要な地区と各都道府県知事が判断し、厚生労働大臣に協議できる地区」と定義されています。

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へき地医療の現状と課題

厚生労働省は1956年から「へき地保健医療計画」と銘打って、医療体制の整備に努めてきました。

現在では、へき地医療への取り組みとして主に以下の3本の柱を立てています。

  1. 無医地区等に配置される「へき地診療所」
  2. へき地診療所を支援する「へき地医療拠点病院」
  3. 都道府県に設置されへき地医療のまとめ役となる「へき地医療支援機構」

(1)「へき地診療所」はへき地に対する基礎的な医療の提供をおこなう無医地区および無医地区に準ずる地区に設置される診療所のことです。

(2)「へき地医療拠点病院」とは、都道府県知事が指定し、無医地区等への巡回診療、へき地診療所への代診医派遣、へき地医療従事者に対する研修、遠隔診療支援等の診療支援事業をおこないながら、へき地地域からの入院患者の受け入れ等をおこなう病院です。

2021年には341施設のへき地医療拠点病院を認めています。

(3)「へき地医療支援機構」とは、へき地医療支援事業の企画・調整を担う仕組みであり、へき地での診療経験を有する医師が担当官となっています。

へき地診療所に対する代診医の派遣調整、ドクタープールの運営、へき地勤務医師のキャリア形成支援等、国や都道府県との意見交換・調整などをおこなっています。

これら3つがそれぞれ支援、連携し合い、へき地医療の改善に取り組んできました。

その結果、1978年には1750地区、50万人いた無医地区は、2014年には637地区、約12万人の住民と年々減少傾向にあります。

この結果だけをみれば「無医地区の数や対象人口が減ったのであれば、へき地医療の未来は明るい」と思うのが普通でしょう。ところが、へき地医療の現状を知ると、必ずしもそうとはいえないことがわかります。

無医地区が減った理由

自治医科大学の飯田さと子医師の報告によれば、無医地区が減った理由として「医療機関ができた」という理由は、全体のたった1割に過ぎず、過半数を占める理由は「交通の便が良くなった」からというものでした。

※参照:自治医科大学 飯田さと子「診療所医師からみたへき地医療問題「地域医療の現状と課題の地域間格差に関する調査」自由記載欄の質的内容分析」

さらに驚くことに、「人口が50人未満」になってしまったため、無医地区の定義から外れてしまったケースが、全体の約4分の1も占めていたそうです。

また、へき地に対する基礎的な医療の提供をおこなうへき地診療所は、2014年時点で1111施設であったのに対し、2021年には1108施設と若干ですが減少しています。さらに、この中の約半数が、医師の供給が不足して休診せざるを得ないのが現状だそうです。

この調査からは、むしろへき地医療の医療需給は深刻化しているように感じられます。

へき地医療への医師の認識

実際に医療現場で働く医師のへき地医療に対する認識にも、課題があります。

自治医科大学が2009年に医師におこなったアンケートの分析結果では、医師がへき地医療に対して「物的医療資源の過少」「専門外診療に対する不安」「家庭生活に支障あり」など多くの不安を感じている実態が明らかになり、都市部で働くより心理的、医療技術的ハードルが高いと考えられていることがわかりました。

※参照:自治医科大学 飯田さと子「診療所医師からみたへき地医療問題「地域医療の現状と課題の地域間格差に関する調査」自由記載欄の質的内容分析」

深刻な医師の偏在化

2003年から始まった新臨床研修医制度により、医師の偏在化にも拍車がかかっています。

同制度の導入後、医師は任意の医療機関で研修ができるようになったことで、大学の医局員が減少し、それまで地方の病院に派遣されていた医師が大学に引き上げ、結果として地方の医師不足を招く結果となりました。

特に小児科、産科など、地方における特定の診療科における医師不足は深刻な問題となっています。

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へき地医療への取り組み

以上にみてきたようなへき地医療における課題に対して、行政も手をこまねいているわけではありません。実際の取り組みをいくつかご紹介します。

へき地医療支援センター

厚生労働省のへき地医療対策を補助する目的で、平成17年にへき地医療支援センターが設立されました。主な役割は、へき地医療に従事する医療従事者の募集と再研修事業、全国のへき地医療関係者の情報収集と発信などです。

地域医療構想

平成27年から始まった地域医療構想は、今後さらに逼迫する医療需給に対して、病床の機能分化と連携を進め、効率的な医療提供体制を実現する取り組みのことです。

具体的には、地域内の医療機関を機能別に高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つに振り分け、それぞれの医療機関での必要病床数の把握と確保を2025年までにおこなう予定です。

また、医師の増員や育成を積極的に実施し、2036年までに医師の偏在化を是正することも目標としています

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へき地医療に参加する方法

これまでの内容からもわかる通り、国や地方自治体では医師のへき地医療への参加を促すべく様々な対策をおこなっています。

一方、医療現場で働く医師の中には、「無医地区の診療所での働き方の実情がわからないので心配だ」「興味はあるけど、どのように携わっていけばいいのかわからない」などの、疑問や不安を抱えている方も少なくないと思われます。

ご紹介した通り、へき地医療は「へき地診療所」「へき地医療拠点病院」「へき地医療支援機構」を中心に様々な人や組織、システムで成り立っています。

これらのどこで働いても、へき地医療に貢献することは可能です。

例えば、へき地診療所に務めて第一線で働く、へき地医療拠点病院でへき地地域からの入院患者を受け入れる、へき地医療支援機構の運営するドクタープールで医師の病気やけがや産休を支援するなど、へき地医療への携わり方は想像以上に多種多様です。

まず、へき地医療センターなどに問い合わせて情報を収集し、現状を知るところからはじめるとよいでしょう。

へき地医療センター事務局運営 へき地ネット

まとめ

今回の記事では、へき地医療の課題や取り組みなどについて解説しました。

無医地区自体は年々減少傾向にあるとはいえ、へき地における医療資源の需給逼迫は深刻であり、多くの課題を残しています。特に、医師の都市部偏在化は深刻な問題です。

それに対して、国や地方自治体も手をこまねいているわけではなく、一体となって様々な対策を施し、へき地医療における諸問題に取り組んでいます。

また、近年進む、医療DXやICTによるオンライン診療などが、へき地医療のあり方、医師の携わり方を良い方向に変えていくことも期待されます。

いずれにしても、へき地医療の課題解決には、何より医師の協力が必要不可欠であり、今回の記事がその一助となれば幸いです。

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