かかりつけ医登録制度の実態|患者の声と課題点
コロナ禍によりプライマリーケアの重要性と、初診からオンライン診療解禁でかかりつけ医の必要性が高まっています。かかりつけ医制度は2018年から導入され、普及は進んでいますが、年齢によりばらつきがあり、制度への認識不足や情報不足が課題です。質の高いかかりつけ医の育成も必要で、現状は医師の研修を通じて確保を目指しています。かかりつけ医の導入には医療機関の負担増や患者の金銭的負担も伴います。
本記事では、かかりつけ医の普及についての現状と課題について解説します。
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かかりつけ医の必要性が見直されている
コロナ禍によりプライマリーケアの対応を強化しなくてはならなくなったことや、オンライン診療を初診から解禁したことにより、かかりつけ医の必要性がより高まっています。
コロナ禍で、プライマリーケアの重要性を認識
近年のコロナ禍では、当初、感染の危険性がある発熱患者の受診を断る診療所が多かったため、保健所の相談窓口や大病院に患者が殺到してしまい、結果として必要な措置を受けられない医療危機が発生しました。
まずはかかりつけ医が日頃から診ている発熱患者に対応し、コロナウイルス感染症に罹患していれば軽症者は在宅・オンライン診療でサポート、重症患者は病院に送る。もし、地域住民の健康問題にかかりつけ医が責任を持って対応するプライマリーケアシステムが普段から確率されていれば、このような医療危機は大分緩和されたと考えられます。
初回からのオンライン診療を原則かかりつけ医で解禁
また、コロナ禍で対面せずに受診できるオンライン診療へのニーズも高まったことにより、政府はかかりつけ医による診療を原則として、初診からのオンライン診療を解禁しました。
オンライン診療では触診などができず得られる情報が限定されてしまうため、安全性確保のために普段の患者の状態を認識しているかかりつけ医を基本として考えられたのでしょう。
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かかりつけ医はどのぐらい普及したのか
2018年4月から始まったかかりつけ医制度ですが、制度としてどのくらい浸透しているのでしょうか。内閣府の世論調査*のデータを見てみましょう。
*内閣府『医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査』令和元年
かかりつけ医は「いる」人が5割以上
▼かかりつけ医の有無
「かかりつけ医がいるか」という問いには、52.7%と半数以上の人が「いる」と回答しました。別のグラフで年齢別の内訳を見てみると、かかりつけ医がいる割合は70歳以上では80.0%だったのに対し、18~29歳では28.6%と年代によりかなりばらつきがあることが分かります。
※出典:上記の内閣府の調査データからグラフ作成
かかりつけ医がいない理由は、「必要性を感じないから」が最多
▼かかりつけ医がいない理由(最もあてはまるものを回答)
「かかりつけ医がいない」と答えた人が、「かかりつけ医がいない理由」として挙げられた理由は、1位「かかりつけ医の必要性について考えたことがないから」(27.6%)、2位「かかりつけ医を選ぶのに必要な情報が不足しているから」(16.3%)となっています。患者に対してかかりつけ医の重要性やかかりつけ医の選び方といった情報をアナウンスしていく必要があるでしょう。
※出典:上記の内閣府の調査データからグラフ作成
かかりつけ医を選ぶ際に重視しているのは、「分かりやすく説明してくれる医師」が最多
▼かかりつけ医を選ぶ理由(複数回答可)
※出典:上記の内閣府の調査データからグラフ作成
「かかりつけ医を選ぶ上で重視していること」には、1位「病状、治療内容など、分かりやすく説明してくれる医師」(60.3%)、2位「かかりつけ医が治療できない場合、専門の医療機関などを紹介してくれる医師」(54.0%)、3位「話を十分に聞いてくれる医師」(47.2%)という順で回答が選ばれました。
かかりつけ医には、患者との綿密なコミュニケーションが求められていることが伺えます。
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かかりつけ医の普及への課題
少しずつ利用が増えているかかりつけ医制度。しかし、患者全員がそれぞれのかかりつけ医を持つ、という程の普及には至っていません。どのような課題があるのでしょうか。
医療へのフリーアクセスが制度化を阻害
かかりつけ医がしっかり制度として位置づけられてこなかった理由としては、患者誰もが自由に医療機関を選んで受診できる、日本独自の「医療へのフリーアクセス」という特徴が大きいと言えます。かかりつけ医を定めそれ以外の医療機関への自由な受診を抑制する動きにつながるため、開業医たちの反対もあり明確な役割などが定義づけされていませんでした。
しかし、患者は選択の自由は持っているものの、かかりつけ医のように患者の健康管理にまで責任を持つ医療機関が決まっていないと、コロナ禍など未曾有の事態では医療へアクセスできないなど問題にもつながることが分かりました。
質の高いかかりつけ医の確保
プライマリーケアを充実させていく目的で、2017年の専門医制度の改革により、18の診療科別専門医とともに新たに「総合診療専門医」が創設されました。将来的には、この総合診療専門医がかかりつけ医の中核を担っていくと考えられますが、2018年に専門研修での育成が始まったばかりで、まだ全く数が足りていません。
当面は、開業医や中小病院の医師などに日本医師会の実施する「日医かかりつけ医機能研修制度」など総合診療の研修を受けてもらい、かかりつけ医の確保を図っていくことが重要です。
診療所の責任および患者の金銭的負担の増大
かかりつけ医になると、診療所の業務負担は多くなります。主治医として「患者の他院の通院状況の把握」「患者が服用している薬と服薬 状況の把握」「患者の健康状態や治療効果の把握」などを把握しておく必要があり、それぞれの患者の健康管理に責任を持たなくてはならなくなります。
また、かかりつけ医の仕事を評価するため導入された「地域包括診療料」も、「在宅医療の提供及び対象患者に対し24時間往診等が可能な体制の確保」や「24時間対応をしている薬局と連携」など算定の要件の厳しさがあり、届け出数は増えていません。
患者はかかりつけ医の受診すると、初診の場合「機能強化加算」として初診料に80点分加算され、その分金額的負担は増えることになります。
まとめ
普及へのさまざまな課題はありますが、かかりつけ医は患者側・医療機関ともにメリットがある仕組みです。
患者はかかりつけ医による総合的・継続的な医療サポートを地域で受けられ安心して過ごせます。
医療機関はかかりつけ医として地域の患者から信頼してもらえれば患者の周りの人々にもアピールでき、増患対策にもつなげることができます。
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この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。