オンライン資格確認とは?導入のメリットや準備について
目次
オンライン資格確認とは、患者の保健資格をオンラインで確認するシステムで、2021年3月に開始されました。マイナンバーカードのICチップから情報を取得するため、手入力やレセプト返戻の手間が省けます。薬剤情報や健診情報の共有が可能で診療が効率化するため、2023年4月から義務化されました。
本記事では、オンライン資格確認の概要やその導入背景や導入メリット、導入準備に必要なことについてを解説します。
オンライン資格確認とは
※出典:オンライン資格確認等システムの導入に関する医療機関・薬局システムベンダー用資料
オンライン資格確認とは患者さんの保険資格の確認作業をオンラインで行うことをいいます。2021年3月から本格運用が開始されました。
これまでは患者さんから手渡しされた保険証の情報を担当スタッフがシステムに入力してきましたが、オンライン資格確認導入後は患者さんが持参したマイナンバーカードのICチップ・健康保険証の記号番号などからオンラインで資格確認を行うことができます。
入力の手間やレセプト返戻の手間が省けるほか、薬剤情報や特定健診等情報を閲覧できるようになることで他院での医療行為を確認しながら診療できるようになります。
オンライン資格確認とデータヘルス改革
オンライン資格確認が導入された1つのポイントとして「2025年問題」があります。2025年問題とは、2025年に1947年〜1949生まれである団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となることにより、75歳以上の人口が全人口の約18%となるため、約5人に1人が75歳以上の高齢者となり、雇用や医療、福祉などにさまざまな影響が生じることです。
その中でも医療・介護分野の影響は大きいと考えられており、医師不足・過重労働・医療費、社会保障費の増大などの課題があります。これらの課題への対策のひとつとしてデータヘルス改革の推進が挙げられます。
データヘルス改革が推進されることで、医療・介護の膨大な情報を連結できるようになりますが、オンライン資格確認は全国の医療機関・薬局と情報を共有できる点、個人の医療情報を管理できる点、患者さんの同意を確実かつ電子的に得られる点からデータヘルス改革における重要な基盤であるといえます。
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導入後の本人確認方法
オンライン資格確認の導入後は、
- 顔認証付きカードリーダーによる顔認証
- 受付スタッフによる目視での確認
- 暗証番号
上記3つのいずれかによって本人確認を行います。
健康保険証は一旦患者さんから預かり受付で記号番号等を入力しますが、マイナンバーカードの場合は患者さんがカードリーダーにマイナンバーカードを置けばICチップから情報を取得できるので、預かる必要はありません。
導入は義務なのか?
2022年9月現在は、オンライン資格確認は義務ではありませんが、2023年4月から原則義務化に変更されます。
厚生労働省は、2023年5月末には概ね全施設へのオンライン資格導入を目指していましたが、2022年9月時点では目標5割に対し38%に留まりました。この導入ペースが続いた場合、2023年3月末時点での導入は59%程度と予想されます。目標を大きく割る結果から、医療機関・薬局でのオンライン資格確認を2023年4月以降は原則義務化することを決定しました。
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オンライン資格確認を導入するメリット
オンライン資格確認を導入することにより下記のようなメリットがあります。
診療報酬の加算
2022年9月末で、「電子的保健医療情報活用加算」が廃止となるとともに、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が下記の算定基準として新設され、2022年10月1日から適用されます。
電子的保健医療情報活用加算では初診時で7点・再診時で4点の点数を月1回に限り算定可能となっていましたが、医療情報・システム基盤整備体制充実加算では下記基準となります。
- 施設基準を満たしている医療機関で通常保険証を利用する場合:加算4点
- マイナンバーカードを保険証として利用する場合:加算2点
資格過誤によるレセプト返戻の作業が削減できる
保険機関に提出したレセプト内容に不備や誤りがあった場合に差し戻されることをレセプト返戻といい、今までは患者さん・保険者・審査支払機関への確認が増えるため、スタッフの負担となっていました。
オンライン資格確認の導入後は、即時に保険資格が確認できるため、資格の間違いなどによるレセプト返戻が減りスタッフの負担を減らせます。
保険証情報入力の手間を削減できる
これまでは受付スタッフが患者さんから健康保険証を受け取り、記号番号や氏名などの情報をシステムに入力する必要がありましたが、オンライン資格確認を導入すれば、患者さんがマイナンバーカードをカードリーダーに置けば最新の保険資格情報を取得できます。
健康保険証が提示された場合はスタッフ側で最低限の入力が必要となりますが、有効であれば保険資格情報を一気に取得できます。
来院前の保険資格照会
オンライン資格確認を導入すると予約患者の保険資格情報を一括照会できるようになります。これにより受付での患者さんへの案内をスムーズに行うことができるようになります。
限度額適用認定証などの情報を取得できる
限度額認定証とは、1つの医療機関での1カ月の自己負担額を限度額までにする証のことで、高齢受給者証などがあります。
今まで限度額適用認定証の情報は患者さん側が保険者に申請しないと発行できなかったため、限度額適用の対象者であっても受診時に認定証情報がなければ、限度額以上の医療費を窓口で支払う必要がありました。
オンライン資格確認システムを導入後、患者さんの同意が得られた場合においては、限度額適用認定証等をシステム上で確認できます。患者さんから保険者に申請をすることなく限度額情報を取得できるようになるため、仮に患者さんが認定証を持参していなくても限度額以上の医療費を窓口で支払う必要がなくなります。
薬剤情報・特定健診等の情報の閲覧
3年間分のどのような薬を飲んでいるのかという「薬剤情報」と5年間分の健診内容である「特定健診等情報」を医師・歯科医師・薬剤師などの有資格者が閲覧可能になります。
かかりつけの医療機関以外でも患者さんの最新情報が確認できるため、薬剤の重複投薬を防ぐなど適切な治療が可能となります。また、医療機関同士の情報共有による医療従事者の負担軽減や効率的な対面診療も期待できます。
注意点としては、情報を閲覧するには患者さん本人の同意が必要になります。受付時、カードリーダーにマイナンバーカードをタッチしてもらい、本人確認の後に「薬剤情報・特定健診情報等の閲覧同意」を患者さんが選択すると同意を得たことになります。
電子版お薬手帳への一括取り込み
これまでは電子版お薬手帳に薬剤情報を手入力したりバーコードで情報を読み取っていましたが、オンライン資格確認導入後はマイナポータルを介して一括で薬剤情報を取り込むことができるようになります。
オンライン資格確認を導入するデメリット
オンライン資格確認導入に関しては、上記のように多くのメリットがありますが、少なからずデメリットも存在します。
導入費用がかかる
オンライン資格確認を導入するにあたって、顔認証付きカードリーダーが必要となります。またオンライン資格確認に対応するための電子カルテ・レセプトコンピューターの改修も導入費用としてかかってきます。その他回線整備や端末が故障した際の修理費・回線の月額料金なども必要になります。
また、導入・運用維持だけでなく、導入の申請・システムのセットアップ・スタッフへの操作指導・マニュアル作成など多くの手間もかかります。
慣れるまでの受付負荷
長期的に考えると、オンライン資格確認を導入することは多くのメリットがありますが、スタッフの目線で考えると、今まで行っていた業務の流れが大きく変更されることが負担に感じられるかもしれません。
来院した患者さんがシステムの操作方法がわからず質問が増えたり、オンライン資格確認の登録をしていないマイナンバーカードを持参して使えなかったりする場合の対応に追われることもあるでしょう。
スタッフにもしっかりシステムや仕組みの説明をした上で運用をはじめることが大切です。
使われない可能性がある
オンライン資格確認についてよく知らない患者さんは多いです。「病院にいったら保険証と診察券」というイメージが定着しており、マイナンバーカードを利用する機会もこれまでほとんどなかったといえます。せっかく導入しても使われない可能性があることもデメリットのひとつでしょう。
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オンライン資格確認の導入費用と補助金
オンライン資格確認を導入するにあたっては、大きな費用が必要です。どれくらい費用が必要かというと、医療機関でのオンライン資格確認導入に関してシステムベンダーから提示された見積額は平均約400万円といわれています。
この対策として「医療情報化支援基金」という補助金があり、診療所では上限額429,000円まで補助金が交付され自己負担を抑えることができます。
注意点としては、オンライン資格確認の導入を2023年3月31日までに完了させた上で、2023年6月30日までに申請する必要があります。2023年4月からの原則義務化に向けて自己負担を少しでも軽減させるためには、積極的に活用すべき補助金といえるでしょう。
参照:オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係医療機関等向けポータルサイト「5. 補助金申請」
導入に必要な申請や準備
※出典:オンライン資格確認等システムの導入に関する医療機関・薬局システムベンダー用資料
実際にオンライン資格確認を導入する場合は、下記の手順で進めるとスムーズです。
顔認証付きカードリーダーの申し込み
ポータルサイトで医療機関としてアカウント登録が終了したら、「顔認証付きカードリーダー」を申し込みます。カメラが内蔵されており、マイナンバーカードの顔写真データと照合して本人確認を行うためのシステムです。
顔認証付きカードリーダーは1台無償提供されますが、各医療機関に届くまでには、注文してから約4ヵ月程度の期間が必要になるため、できる限り早く申し込む必要があります。
顔認証付きカードリーダーを導入しなければ、システム改修・パソコン・ルーターの購入に必要な費用はすべて補助金の対象外となるため注意が必要です。
システムベンダに発注
顔認証付きカードリーダーの申請を行ったら、カードリーダーの到着を待つ必要はなく、システム導入に向けてシステムベンダに見積もりを依頼します。システムベンダは普段から使用しているレセコンのベンダもしくは、回線のプロバイダーに依頼します。
なお、一般的には下記の内容が見積りに含まれおり、補助金の上限額は429,000円の4分の3までと定められています。
- パソコン・ルーターなどの購入と設定
- 専用アプリケーションの導入
- 既存システムの改修・動作確認
- ネットワークの設定
導入・運用準備
導入を決定したら運用に向けて準備をすすめます。機器の初期設定やスタッフに対しての説明(オンライン資格確認自体の説明・システムの使い方など)、運用マニュアルの作成が必要になります。
不明点があればすぐシステムベンダに相談できるようにしておきましょう。
補助金申請
オンライン資格確認の導入準備がすべて完了したら補助金の申請を行います。2023年3月31日までに準備を終わらせて、2023年6月30日までに申請することで補助金をもらえます。
「医療機関等向けポータルサイト」から次の書類を提出してください。提出方法はサイトでのアップロード・郵送提出どちらでも可能です。
- 領収書の写し
- 領収書内訳書の写し
上記2つの書類は金額が一致しておく必要があるだけでなく、税込金額で領収書の内訳を記載してシステムベンダーに支払った額が分かるようにします。見積書の提出は認められないため注意が必要です。
上記の2つ以外にも、「電子証明書発行申請」を行い準備が完了したことを報告する書類である、「オンライン資格確認等事業完了報告書」も合わせて提出します。
まとめ
オンライン資格確認を導入すると多くのメリットがありますが、今までの業務内容と大きく変わるため、医療機関のスタッフが正しく把握するだけでなく、患者さんへどのように認知させるかも同じくらい重要です。
患者さんに対しては、すぐにマイナンバーカードへの移行に対応するのは困難なため、厚生労働省が出しているポスターを医療機関内に貼って認知してもらう、スタッフから何度も詳細に口頭で説明するなどの工夫をして浸透させていくと良いでしょう。
オンライン資格確認を導入し、医療DX化を一歩先に進めましょう。
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この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。