医療法人の病院やクリニックはM&A(売却・買収)できる?実情やメリット、注意点を解説
医療機関のM&Aが増加している背景には、経営者の高齢化や後継者不足、診療報酬の削減などがあります。院長の高齢化と後継者不在は深刻で、実際に73.6%の医療法人が後継者問題を抱えています。医療機関の承継は医師しかできず、地域の将来性やライフスタイルの問題も影響しているため、第三者によるM&Aが重要な選択肢といえるでしょう。
本記事では、医療法人のM&Aの実情や売却側と買収側双方のメリット、注意点などについて解説します。
医療機関(医療法人含む)におけるM&Aの実情
▼病院・診療所の開設者等の平均年齢推移
出典:厚生労働省医政局委託株式会社川原経営総合センター『医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究 報告書』
厚生労働省の調査によると、2018(平成30)年時点で病院院長の平均年齢は64.3歳、診療所院長の平均年齢は61.7歳となっています。一般企業が65歳を定年と定めているところが多いことを考えると、医療機関の院長の高齢化は近年顕著であることがうかがえます。
また、経営者の高齢化により経営戦略の見通しが立たなくなったことなどで、診療所の廃止件数も増加しています。2017 (平成29)年10月~2018(平成30)年9月の1年間では、7,000 件以上もの診療所が廃止・休院していました*。
*厚生労働省医政局委託株式会社川原経営総合センター『医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究 報告書』
このような事態をふまえ、最近では医師会などを中心に医療機関の後継者問題の解決を推進するようになってきています。
しかし、そのように院長が引き継ぎたいと考えても相手がいない、後継者問題も医療機関には深刻です。2020(令和2)年の全業種の後継者不在率は65.1%に及びますが、そのうち病院・医療に関する法人の後継者不在率は73.6%とより高く、実に7割以上もの法人が後継者問題を抱えていることが分かります**。
病院や診療所の後継者は医師免許を持った人しかなれないことが、ほかの業界よりも医療機関の承継のハードルをより上げていると考えられています。また、仮に医師の子どもがいたとしても、地域の将来性に対する不安や自分や家族のライフスタイルを重視したいとの意向により、親の医業を継承しないケースも増えていることも一因です。
今後、より社会が少子高齢化、人口減少していくことを考慮すると、承継対策は早急に進めていかなくてはなりません。
**帝国データバンク『特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2021 年) 』
▼診療所、病院における後継者属性の構成比
出典:日本医師会総合政策研究機構『日医総研ワーキングペーパー 医業承継の現状と課題』No.422
また、後継者が決定している場合、後継者の属性が非親族(第三者)である割合は、病院は35.3%、診療所は12.4%でした。医療機関の第三者継承の割合は20年前には8.6%であったのに対し、直近では45.9%にまで急増しているという調査データもあります***。
このように、「病院やクリニックなど医療機関のM&A(第三者継承)」は、もはや医療機関にとって将来の選択肢の1つになってきているといえるでしょう。
***日本医師会総合政策研究機構『日医総研ワーキングペーパー 医業承継の現状と課題』No.422
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医療法人をM&Aすることによる、売却側と買収側のメリット
売却側の医療法人がM&Aを行うメリット
売却側メリット①廃院しなくても済む
医療法人を売却することで、自分が院長を引退した後に廃院せずに済みます。後継者問題も解決することができるでしょう。
売却側メリット②地域医療に貢献できる
地域の通院患者を放り出さずに、そのまま承継した病院に通い続けてもらうことができます。
売却側メリット③スタッフの雇用を守る
廃院してしまうとスタッフを全て解雇しなければなりませんが、M&Aの利用によりスタッフの雇用をそのまま買収側に引き継いでもらうことも可能です。
売却側メリット④大手法人の傘下に入れば、設備投資・事業拡大も
M&Aにより大手法人に譲渡すれば、老朽化した施設の修繕や建て直しなどの設備投資や、資金力の注入による事業拡大なども見込めます。
売却側メリット⑤創業者利益の獲得
売却側はM&Aの譲渡契約の際に、買収側より譲渡対価(創業者利益)を得ることができます。
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医療機関(医療法人含む)における買収側の医療法人がM&Aを行うメリット
買収側メリット①グループ拡大による事業基盤の強化
共通する経営資源の整理や購買の共同化など、グループ経営によるシナジー効果を生み、経営効率化を図れます。
買収側メリット②新規エリアでの事業拡大
病床過剰地域などの病床増加が困難な地域でも、病床を持つ病院を承継することができます。
買収側メリット③優秀な人材を獲得できる
承継する医療法人の在籍スタッフをそのまま引き継ぐことができれば、採用が難しい医師や看護師などの専門職人材を、手間をかけずに採用することが可能です。
買収側メリット④地域による規制を避けられる
M&Aでそのまま引き継げば、煩雑な法人設立や医療施設開設の許認可手続きなどを省くことができます。
医療法人のM&Aを行う際の注意点
医療法人のM&Aは、医療法にのっとったものでなければなかったり、設立団体によって手順が異なったりするため、注意が必要です。
M&Aの注意点①医療法人の非営利性
もし、自治体によりその医療法人の設立が営利目的と見なされてしまえば、医療法により開設許可が下りないため注意が必要です。なお、営利法人は、医療法人の社員もしくは役員になることができません。
また、医療法人は非営利性を保たなければいけないため、医療法で剰余金の配当は禁止されています。その配当には、事実上の利益と見なされるものも含みます。そのため、医療法人の役員やその親族が株主となっている会社に対し、第三者と取引する場合に比べて高額な取引価格で取引することなども禁止されています。
M&Aの注意点②社員の議決権は、1人につき1議決権
株式会社における株主の議決権とは異なり、医療法人における社員の議決権は出資割合に関わらず1人につき1議決権を持っています。よって、売却したい医療法人に対して100%出資していても社員の議決権は1議決権しかないため、ほかの社員の賛同を得なければ役員の選任などが行えません。そのため、賛同する社員を過半数揃えておく必要があります。
M&Aの注意点③社員の入退社は、旧社員の協力が必要
医療法人の社員は出資者である必要がなく、出資者が社員になる必要もありません。
裏を返せば、出資者である社員が買収側に出資持分を譲渡しても一緒に社員の役職も移転するわけではないため、買収側は出資持分の譲渡とともに新社員の入社と旧社員の退社を行う必要があります。
新社員の入社には旧社員で構成される社員総会での承認決議が必要であり、なおかつ、旧社員は除名事由がなければ退社できません。このようなことから、社員の入退社(入れ替え)には旧社員の協力が必要不可欠なため、事前にしっかり協力を得ておかなければなりません。
M&Aの注意点④医療法人の種類により、使えるスキームや行政手続きが異なる
医療法人がM&Aを行う場合には、自治体や保健所、厚生局などに許認可を得なければなりません。しかし、医療法人の行政手続きは、社団や財団などの医療法人の種類や出資持分の有無などにより、使えるスキームや行政手続きが変わってきます。
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まとめ
このように、メリットとともに注意すべき点も多い医療法人のM&A。したがって、医療法人のM&Aを行う際には、医療を専門とするM&A仲介会社に依頼すると安心です。当社のコンサルタントにご相談いただければ、医療法に精通している行政書士や税理士、弁護士などの専門家にコンタクトを取りながら、医療法人のM&Aをスムーズに導きます。まずは資料をチェックされてみてはいかがでしょうか。
▼エムステージの医業承継支援サービスについて
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。