【調査】2020 (令和 2 )年度の病院・診療所の経営は?営業利益率・所得金額ともにマイナスへ!

最新情報 2021/12/21

昨今の新型コロナウイルスの感染拡大により、病院への受診を控える人が多くなったりと、病院や診療所の経営状況にも影響を与えています。新型コロナウイルスの流行が始まった2020(令和2)年の病院や診療所の経営状況は、果たしてどの程度悪化していたのでしょうか。

厚生労働省所管の独立行政法人である独立行政法人福祉医療機構が2021(令和3)年10月発表した、『2020 年度(令和 2 年度)病院・診療所の経営状況(速報)』*より、病院や診療所の経営状況を詳しく見ていきましょう。

*独立行政法人福祉医療機構『2020年度(令和2年度)病院・診療所の経営状況(速報)』

病院の経営状況の変化

コロナ禍の影響を受け、医業利益率は大きく低下

▼病院の医業利益率の推移

出典:独立行政法人福祉医療機構『2020年度(令和2年度)病院・診療所の経営状況(速報)』

2020 (令和2)年度の病院の医業利益率は、一般病院・療養型病院・精神科病院病といった病院類型別に見て、それぞれ大きく低下しています。

なかでも一般病院の医業利益率は-0.9%となり、年度全体の平均として初めてマイナス値となる見通しで、過去最低の水準という事態になってしまいました。

もともと病院は、2014(平成26)年の診療報酬改定や消費税増税の影響に伴い、全国で77.8%の病院が赤字**に転落。その後、2018(平成30)年にはようやく赤字の病院数は減少傾向になり、黒字の病院数が赤字の約2倍になるなど回復傾向になっていました。

そこへコロナ禍の影響に見舞われ、2020(令和2)年には赤字病院割合は全体で46.2%と、黒字病院割合に近づいてしまうという結果***になってしまったのです。

**一般社団法人 全国公私病院連盟『平成 26 年 病院運営実態分析調査の概要』

***一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本医療法人協会『新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査』

 ▼2020(令和2)年度病院の経営状況 病院類型別

出典:独立行政法人福祉医療機構『2020年度(令和2年度)病院・診療所の経営状況(速報)』

一方、経常収益率は2019(令和元)年度と比べ、一般病院0.3%と精神科病院0.1%とでわずかに上昇しましたが、療養型病院では -1.9%となりました。

これは、医療機関向けの新型コロナに関連する各種補助金を得たことでの収益補填効果により、経常収支ベースでは前年度並みの水準に近い形を維持できたものだと考えられます。

とはいえ、療養型病院においては、経常赤字病院の割合が2019(令和元)年度より12.5%も増加となってしまいました。

1 日平均患者数は減少し人件費も増加したが、一般病院の赤字割合は縮小

▼ 2カ年度年度同一病院比較 病院の経営状況 病院類型別

出典:独立行政法人福祉医療機構『2020年度(令和2年度)病院・診療所の経営状況(速報)』

2019(令和元)年度と2020(令和2)年度2カ年の経営状況を詳しく比較すると、一般病院・療養型病院・精神科病院全ての病院類型で、1日の平均患者数(入院・外来)が減少しました。

また、外来診療収益においては、全ての病院類型で上昇しているのが分かります。これは、新型コロナウイルス対応に伴って設けられている診療報酬上の特例措置や、2020(令和3)年度の診療報酬改定の影響によるものだと見られます。

収益に対して費用については、各病院類型とも人件費が伸びています。医師や看護師の数はほぼ横ばいであることを考えると、コロナ感染対策のための増員の影響によるものと考えられるでしょう。

経費率は療養型病院・精神科病院ではほぼ横ばいでしたが、一般病院は0.7%上昇しており、これも新型コロナウイルス対策のためのマスクや消毒液など消耗品の購入量の増加などが要因と考えられます。

新型コロナウイルス感染患者受け入れによる違い

コロナ渦による病院経営への影響は一般病院において特に大きいことが分かりましたが、一般病院のうち新型コロナウイルス感染患者の受け入れを実施した病院と実施しなかった病院では、経営状況に違いがあったのでしょうか。

受け入れ病院:医業利益率・経常利益率とも前年度から大きく低下したが、補助金収入を含めると経常収益は前年を上回る

▼新型コロナウイルス感染患者の受け入れを実施した一般病院の経営状況

出典:独立行政法人福祉医療機構『2020年度(令和2年度)病院・診療所の経営状況(速報)』

新型コロナウイルス感染患者を受け入れた2020(令和2)年度の一般病院の医業利益率は-2.0%、経常利益率は-1.5%と、どちらも前年より3%前後の減少に。

病床利用率が-3.6%、外来患者数も1割以上減少し、1床当たりの年間医業収入は前年度から68万7,000円減収となりました。

しかし、補助金収入を含めた決算ベースで見れば、経常利益率は2.8%増加、経常赤字の病院割合も8.5%減少し、どちらも前年より回復しています。

病床確保支援事業補助金などのコロナ対策に関連する補助金によって、新型コロナウイルス感染患者受け入れ病院の運営資金はしっかり穴埋めされているといえるでしょう。

受け入れ未実施の病院:経常利益率が前年度より低下

一方、新型コロナウイルス感染患者を受け入れなかった病院の経営状態はというと、病床利用率の低下(-2.9%)や1日平均患者数(入院・外来)の減少(-3.5人・-16.2人)など、新型コロナウイルス感染患者を受け入れた病院と同様の傾向に。

新型コロナウイルス感染患者を受け入れていなくても、感染を懸念する患者の受診控えや院内感染防止のための多床室の病床使用制限などの影響を受けていると考えられます。

医業利益率・経常利益率ともに前年度より低下し、感染拡大防止等支援事業のような感染対策の物品・備品購入に対するものが中心で補助金の金額規模が小さかったため、新型コロナウイルス感染患者受け入れ病院のように、収益の穴埋めをするまでには至っていません。

個人診療所の経営状況も、前回の医療経済実態調査結果より損益差額割合は大きく低下

▼ 2020 (令和2)年 個人立の一般診療所(無床)および歯科診療所の経営状況

出典:独立行政法人福祉医療機構『2020年度(令和2年度)病院・診療所の経営状況(速報)』

続いて、個人診療所=個人立の一般診療所(無床)についても見ていきましょう。所得金額割合は24.2%と、2019(令和元)年医療経済実態調査の損益差額割合の32.0%から大幅に低下****しました。

所得金額が赤字の診療所は、特に小児科や耳鼻咽喉科といった診療科目の診療所においてその割合が高くなっています。

とはいえ、診療所の赤字割合数は全体で8.6%なので、病院の赤字割合数が46.2%ということを踏まえると、診療所の方が病院よりも経営は安定しているといえるでしょう。

****所得金額割合は、医療経済実態調査における損益差額割合に相当するとの考えで両者を比較。

2022(令和4)年の診療報酬改定に向けて、議論が活性化

このような結果を受けて、2021(令和3)年11月24日に開催された中央社会保険医療協議会では、健康保険組合連合会・国民健康保険中央会・全国健康保険協会・全日本海員組合・日本経済団体連合会・日本労働組合総連合会の6団体が、後藤茂之厚生労働大臣に宛てて以下のような令和4年度診療報酬改定に関する要請*****を行いました。

2019(令和元)年度から20(令和2)年度にかけて医業損益差額は悪化したものの、医療法人病院は黒字を維持し、一般診療所、歯科診療所、保険薬局は依然として高い水準の黒字。

コロナ関連補助金を含めると、全体として損益差額は2019(令和元)年度から改善し、総じて医療機関経営は安定していることから、2022(令和4)年度は診療報酬を引き上げる環境になく、配分の見直しに主眼をおいたメリハリのある改定とすべきであることや、診療報酬と補助金・交付金の役割分担・効果を検証し整理するべきとしています。

*****『令和4年度診療報酬改定に関する要請』

対して、日本医師会の中川会長は11月24日の定例記者会見で、医療現場は病院と診療所ともに新型コロナウイルス感染症への対応を通じて著しく疲弊していると指摘し、改めて躊躇なく『プラス改定』とすべきと訴えました。

また、補助金も重要であるものの、あくまで医療機関の経営原資は診療報酬であると強調し、補助金頼みでは安定した経営ができないので、診療報酬が中心的な役割を果たすべきとの考えを表わしています******。

******日医HP『診療報酬の改定に向けて』

今後、 2022(令和4)年の診療報酬改定に向けて、より議論が熱を帯びていくことと考えられます。

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