行政上の許可や税務などの複雑な論点を、専門家を巻き込んだチームで解決。

個人間の第三者承継では承継後の病床開設許可が難しかったため、一般社団法人の設立スキームを活用して、無事に承継を実現。
エリア 関東圏
診療科目 産婦人科
運営組織 個人経営
譲渡理由 高齢化、後継者不在
運営年数 50年

【売り手側】半世紀以上地元に根付いて診療してきた産婦人科クリニック

関東の某県の住宅街にあるVPクリニックは10床のベッドを持ち、分娩にも対応する産婦人科の有床診療所です。

同クリニックは、55年前に現在のVP院長の父だった先代院長により開院され、25年前に現在のVP院長が2代目としてクリニックを引き継ぎました。半世紀にわたり地元に根付いた診療を続けてきたおかげで、地域住民には「お産ならVPクリニック」という評価が定着しており、患者や妊産婦が途絶えることなく訪れていました。

VP院長はクリニックを引き継いでから地元住民の期待に応えるため、まとまった休みもほとんど取らずに診療にあたってきました。しかし、60代後半になると、ハードな産婦人科医の仕事に体力的な厳しさを感じるようになり、クリニック承継の検討を始めます。

VP院長の親族には承継できる方がいなかったため、知人から紹介を受けたM&A仲介会社X社に買い手探しを依頼しました。それが2年程前のことです。

産婦人科専門クリニックということもあってか、X社は買い手候補探しに難儀していたようですが、1年以上経ってようやく条件が折り合いそうな譲り受け希望の若手医師、LO先生がVP院長に紹介されました。

VP院長は、LO先生との面談などを経て、この人にならクリニック経営を任せられそうだと感じ、前向きに検討したいとX社に伝えました。

ところが、X社はM&Aの実施を進めることができず、私たちにご相談をいただくこととなりました。詳しい経緯等は後ほど説明します。

【買い手側】承継難のクリニック支援を志す若手医師

買い手となったLO先生はまだ30代後半と若い内科医でしたが、すでにM&Aにより2件のクリニックを譲り受け、経営なさっていました。うち1件ではご自身が院長を勤め、もう1件は同世代の若い医師に院長職を任せていました。

その2件のM&Aを通じて、地域に必要とされていながら、後継者不在で困っているクリニックが数多く存在することを知ったLO先生は、地域医療提供の継続を支える意味で、ご自身が経営できそうなクリニックであれば積極的に承継していこうという思いを強くされていたそうです。

また、「クリニックの医師として診療はしたいが、経営管理やマネジメントには興味がない」という医師が同世代に多いことも感じており、彼らが存分に診療できる場としても、クリニック経営を拡大していきたいという理想をお持ちでした。

個人経営の有床診療所に特有の論点

VP院長とLO先生はフィーリングが合い、マッチング自体はスムーズに進みました。譲渡価格についても、若いLO先生が用意できる金額は、当初VP院長が想定していた水準よりも低いものでしたが、地域に産婦人科クリニックを残すことを第一に考えていたVP先生は、金額の水準にはこだわりませんでした。

ただし、個人経営の有床診療所というところから、行政対応の取り組み方が問題となりました。まず、個人経営クリニックのM&Aでは、開設届自体の譲渡はできないため、売り手が一旦クリニックを廃院とし、買い手が同じ場所で新たに開設届を提出して開院するという手順を取る必要があります。無床クリニックであれば、それだけで問題ありません。

しかし、有床クリニックの場合、基準病床数制度における病床の開設許可が別途必要になります。

地域にもよりますが、新規開設クリニックには病床の開設許可は下りにくい傾向があります。

有床クリニックのM&Aでは、ベッドがある施設を譲り受けることが前提であり、譲り受け後に病床の開設許可が下りないリスクがあるのでは、買い手の納得は得られません。もしベッドの許可が下りずに分娩ができない産婦人科になってしまうと、地域に安心してお産ができる医療機関を残したいという前提が崩れてしまいます。

X社は医療機関M&Aの経験が少なく、こういった場合のM&A実施ノウハウがありませんでした。そこで、医業M&Aの経験が豊富でさまざまなノウハウも持つ私たちに、M&Aの実施方法の構築や実施サポートのご相談をいただくこととなったのです。

一般社団法人設立のスキームを提案

行政による病床の開設許可は、その時点における地域の既存病床の状況や医療需要によって判断が分かれます。X社とVP先生からご相談を受けた私たちは、提携ネットワークの中から、VPクリニックのエリアでの医療機関の開設届け出経験が豊富な行政書士とチームを組んで、県の担当者とコンタクトを取りました。

すると、やはり個人の事業譲渡では、新規開設後の病床許可は難しいという感触を得ました。

そこで次に構想したのが、VP先生に法人を設立してもらうスキームです。とはいえ医療法人を新設するとなると、また行政からの認可の問題が生じます。人員面や資金面でもクリニックM&A実施のためだけに医療法人を設立することはハードルが高いので、今回は一般社団法人を設立することとしました。

ご存じない方も多いかもしれませんが、医療法上、医療機関を経営ができる法人は医療法人に限定されているわけではありません。一般社団法人でも経営は可能です。ただし、医療法で求められている非営利性が担保されるよう、定款等の記載を慎重に配慮する必要があります。 もちろん医療法人を設立してもよいのですが、今回はM&Aスキームと照らして、手間や費用の面から見てハードルが低い一般社団法人のほうがマッチすると判断しました。

譲渡対価の授受についても一工夫する

もう1つの論点となったのが、譲渡対価の授受方法です。

一般社団法人を設立し、売り手のVP院長が所有するクリニックの什器や医療機器、医薬品などの資産を法人に現物出資した後に譲渡するというスキームであることから、一般的な医療法人の譲渡とも、個人事業の事業譲渡とも異なり、課税上の扱いが複雑になることが想定されました。

具体的には、法人の資産価値と譲渡対価との差額について贈与税が課税されるリスクを税理士から指摘されました。

他方で、クリニックの土地・建物はVP院長の所有でしたので、もともとLO先生に賃貸する予定で考えていました。

そこで、法人自体の譲渡対価という形ではなく、不動産の賃貸契約に関わる支払いに、いわば上乗せする形で譲渡対価を支払うスキームを設定しました。 それにより、課税上の指摘を受けるリスクは完全になくなりました。さらに、売り手、買い手双方ともに税務上のメリットも生じることとなりました。

本事例のポイント

最後に、本事例のポイントをまとめておきます。

①医業承継専門M&A仲介会社としてノウハウを発揮できたこと

個人経営の有床クリニックを第三者承継する場合、病床の開設許可という論点が絡むため、行政対応において繊細な配慮が必要になります。

その地域の医療需給や病床の状況によって行政の考え方は異なり、同じ地域でも時代によって変わる面もあるため、「これをすれば大丈夫」という定型的なスキームが想定できません。行政の担当者の考え方など予見が難しい部分も多いため、細やかに状況を確認しながら、臨機応変な対応をすることが求められます。

いくつもの可能性を想定して、それぞれに対応できる多くの選択肢を用意するためには、サポート経験数がものをいいます。多くの医業承継をサポートにより蓄積してきた私たちのノウハウを発揮できたことが、成功ポイントでした。

②多くのステークホルダーを巻き込んだことでベストなM&Aが実現できたこと

本件は、売り手と買い手、M&A仲介会社X社のほかにも、行政対応の論点については地域の実情に詳しい行政書士、税務上の論点はM&A実務に強い税理士、そして不動産賃貸を絡めた対価の支払い方法は地元の不動産業者など、多くの士業者、専門家が関与しました。

私たちがハブとなって、必要に応じて専門家の助言・協力を得ながら、ひとつのチームとして動けたことも大きなポイントでした。

③有床診療所の譲渡・譲り受けニーズは少なくない

クリニック(診療所)全体のうち、19床以下のベッドを持つ有床診療所の割合は、10%未満です。そのため医業承継M&A全体で見ても、有床診療所の割合は多くありません。しかし、数少ない有床診療所だからこそ、そのままの形で残したいという売り手、また、譲り受けたいという買い手のニーズは、必ず一定数存在します。

医業承継専門のM&A仲介会社である私たちは、有床診療所の譲渡あるいは譲り受けのニーズにも、マッチングからスキームの構築まで、迅速かつ適切な対応が可能です。

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