デジタルヘルスケアとは?今後の市場規模や導入メリットを解説
目次
医療技術の進歩にともない「デジタルヘルスケア」という言葉を耳にする機会が増えました。しかし、具体的にどのようなサービスを指すのか、医療DXとは何が違うのか、正確にはわからない先生も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、デジタルヘルスケアの定義から市場規模、導入メリット、課題まで詳しく解説します。特にクリニックの承継(M&A)においても、今後はデジタルヘルスケアの導入の有無も重要な要素となりうるため、将来を見据えたクリニック経営の参考にしていただければ幸いです。
デジタルヘルスケアとは
デジタルヘルスケアとは、デジタル技術を活用して人々の健康増進や医療の質を向上させる製品やサービスの総称です。従来の医療は、患者が医療機関を訪れて対面で診察を受けるという形が中心でした。
しかしデジタルヘルスケアを活用することで、スマートフォンやタブレット、ウェアラブル端末などを通じて、場所や時間を問わず患者の健康状態のモニタリングや医療サービスの提供が可能になります。
医療DXとの違い
デジタルヘルスケアと似た言葉に「医療DX」がありますが、両者には明確な違いがあります。
医療DXは、デジタル技術を活用して医療現場の業務フローや組織文化そのものを変革することを指します。つまり単にデジタルツールを導入するだけでなく、それによって医療機関の在り方自体を根本から見直すという、より広範な概念です。
一方でデジタルヘルスケアは、その医療DXを実現するための具体的な手段の一つといえます。オンライン診療やウェアラブルデバイスといった個別の技術・サービスを指す言葉として使われることが多いです。
たとえば「医療DX推進のために、デジタルヘルスケアサービスを導入する」という使い方が適切です。
関連記事:医療法人における医療DX導入の完全ガイド!導入事例や注意点も徹底解説
デジタルヘルスケアの製品やサービスは2種類に分類される

デジタルヘルスケアの製品やサービスは、大きく「民生品」と「医療機器」の2つに分類されます。この区別は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)における規制にも関係します。
民生品
民生品とは「医療行為を目的としない製品」のことです。利用者が自身で日常的な健康管理や予防のために使用するもので、薬機法の規制対象外となります。
民生品の代表的な例としては、以下のようなものがあります。
- 一般的なスマートウォッチや活動量計
- 歩数計
- 睡眠記録アプリ
- 食事管理アプリ
- 体重計(医療用でないもの)
これらの製品は、あくまで健康維持や生活改善を支援するツールであり、診断や治療を目的としていません。そのため、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)の承認は不要で、比較的自由に開発・販売が可能です。
ただし民生品であっても「これを使えば病気が治る」といった医療効果を謳うと、薬機法違反となるので注意しなければなりません。あくまで健康管理の補助的なツールという位置づけです。
医療機器
医療機器とは、診断や治療などの「医療行為を目的とする製品」のことです。これらは厚生労働省が所管するPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)や、指定の認証機関から薬事承認を取得している必要があります。
医療機器に分類されるデジタルヘルスケア製品には、以下のようなものがあります。
- 医療用ウェアラブルデバイス(心電図測定機能付きなど)
- AI画像診断支援システム
- 遠隔モニタリング機器
- プログラム医療機器(治療用アプリなど)
これらは診断や治療、疾患の管理を目的としているため、その安全性と有効性が科学的に証明される必要があります。そのため、臨床試験を含む厳格な審査を経て承認を得なければなりません。
医療機関で使用する場合は、基本的に「医療機器として承認を受けた製品」を選ぶことが重要です。
デジタルヘルスケアが注目されている理由
デジタルヘルスケアが近年急速に注目を集めている背景には、医療業界を取り巻く環境の大きな変化があります。ここでは主な5つの理由について解説します。
医師の働き方改革による業務効率化の必要性
2024年4月から医師の働き方改革が本格的に施行され、時間外労働に上限規制が設けられました。これによって医療機関は限られた人員と時間の中で、これまでと同等以上の医療サービスを提供しなければなりません。
デジタルヘルスケアの導入は、この課題を解決する有効な手段となります。たとえばWeb問診システムを導入すれば問診票の記入や入力作業が効率化され、AI診断支援システムを活用すれば画像読影の時間が短縮されます。
デジタル技術を活用した業務効率化は、医師の働き方改革を実現するためにも重要な要素です。
関連記事:2024年4月から改正医療法が施行!医師の働き方改革にどう対応する?
高齢化社会における医療ニーズの増大

データ出典:内閣府「令和7年版高齢社会白書」
日本はどんどん超高齢社会へと向かっています。内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、令和6年(2025年)には65歳以上の高齢者が総人口の29.3%に達しており、2070年には2.6人に1人が65歳以上、約4人に1人が75歳以上になると予想されており、医療需要も今後さらに増加していくことは確実です。
一方で医師や看護師といった医療従事者は不足しており、デジタルヘルスケアは、この需要と供給のギャップを埋める重要な役割を果たします。
オンライン診療や遠隔モニタリングを活用すれば、限られた医療リソースでより多くの患者に医療サービスを提供できます。特に通院が困難な高齢患者や、地理的に医療機関から離れた地域に住む患者にとって、大きなメリットとなるでしょう。
コロナ禍での非接触診療の需要拡大
新型コロナウイルス感染症の流行は、医療の在り方を大きく変えるきっかけとなりました。感染リスクを避けながら医療サービスを提供する必要性から、オンライン診療が急速に普及したわけです。
2020年には特例措置で初診からオンライン診療が認められ、多くの医療機関がオンライン診療を導入しました。コロナ禍はデジタルヘルスケアの有効性を広く認知させる契機となり、現在まで普及を加速させた要因となりました。
医療DX推進の国策
政府は医療DXを国家戦略として推進しており「医療DX令和ビジョン2030」を掲げてさまざまな施策を打ち出しています。
- 全国医療情報プラットフォームの構築
- 電子カルテ情報の標準化
- 診療報酬改定でのオンライン診療の評価拡大
- マイナンバーカードと健康保険証の一体化
参考:厚生労働省「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム
これらの施策により、デジタルヘルスケアを取り巻く環境は急速に整備されつつあります。また、IT導入補助金など医療機関がデジタルツールを導入しやすくするための財政支援も行われています。
関連記事:IT導入補助金とは?医療機関向けに活用術をわかりやすく解説!
患者側のデジタルリテラシーの向上
スマートフォンやタブレットの普及により、患者側のデジタルリテラシーも大きく向上しています。もはや現代社会においてオンラインバンキングやネットショッピング、LINEで予約をするといったデジタルサービスを利用することは当たり前です。
特に若い世代では、むしろオンライン診療や予約システムなどのデジタルサービスがあることを、医療機関選びの基準にするケースも増えています。
デジタルヘルスケア市場は今後も拡大
デジタルヘルスケアの市場は、今後も長期的な拡大が見込まれています。
経済産業省の推計によると、公的保険外のヘルスケア・介護に係る国内市場規模は、2020年の約25兆円から、2050年には約77兆円へと約3倍に拡大すると予測されています。

データ出典:新しい健康社会の実現|経済産業省
世界市場を見ると、さらに成長のポテンシャルは大きくなります。Grand View Research社の調査によると、世界のデジタルヘルス市場は2030年までに9,460億米ドル(約140兆円)に達し、2025年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)22.2%で成長すると予測されています。
出典:Digital Health Market Size & Share | Industry Report, 2030|Grand View Re
これらの数字が示すように、デジタルヘルスケアは今後も確実に成長していく分野です。医療機関にとっては、この成長市場に早期に参入することで、競争優位性を確保できる可能性があります。
デジタルヘルスケアの主な種類と活用事例
デジタルヘルスケアには多種多様なサービスがあります。ここでは医療機関で実際に活用されている代表的なサービスについて紹介します。
オンライン診療・遠隔医療
オンライン診療とはスマートフォンやパソコンを使って、ビデオ通話で診察を行う診療方法で、デジタルヘルスケアの中でも普及が進んでいるサービスです。
【主な活用事例】
- 軽症患者の初期診療
- 心療内科・精神科での診察
- 離島や過疎地域での診療
- 在宅医療との組み合わせ
オンライン診療の最大のメリットは、患者の通院負担を軽減できることです。特に高齢者や障がいのある方、遠方に住む患者にとっては大きな利便性があります。
関連記事:オンライン診療ガイドラインの要点をわかりやすく解説
ウェアラブルデバイス・遠隔モニタリング
ウェアラブルデバイスとは、患者が日常生活の中で装着し、継続的に健康データを収集できるデバイスです。スマートウォッチの中でも「Apple Watch」は医療機器としても認められています。
出典:日本経済新聞
【主な活用事例】
- 心拍数、血圧、血糖値の継続的なモニタリング
- 睡眠の質の評価
- 活動量の測定と運動指導
- 不整脈の早期発見
- 慢性疾患患者の在宅管理
たとえば心疾患の患者にウェアラブルデバイスを装着してもらい、異常が検出された際に自動的に医療機関に通知が届くシステムがあります。これによって、重篤な状態になる前に早期の対応が可能です。
ウェアラブルデバイスを用いて遠隔モニタリングを活用すれば、定期的な通院を減らしながらも、むしろこれまで以上に患者の状態を詳細に把握できるようになります。
AI診断支援システム
AI(人工知能)を活用した診断支援システムは、医師の診断精度向上や業務効率化に大きく貢献しています。
【主な活用事例】
- 胸部X線画像での肺がん・肺炎の検出
- CT・MRI画像の解析
- 病理画像診断の支援
- 主に見落とし率や判断時間の改善に効果的
AI診断支援システムの強みは、大量の画像データを学習することで、人間の目では見落としがちな微細な異常も検出できる点です。ただしAI はあくまで「支援」ツールですので、最終的には医師による診察や判断が重要です。
PHR(Personal Health Record)
PHR(Personal Health Record)とは、個人の健康・医療・介護に関する情報を一元的に保存・管理する仕組みのことです。
【主な活用事例】
- マイナポータルでの健康情報の閲覧
- 民間のヘルスケアアプリ(Apple HealthやGoogle Fitなど)
- 電子お薬手帳
- 母子健康手帳アプリ
PHRの最大のメリットは、患者自身が自分の健康状態を継続的に把握し、健康管理への意識が高まることです。また複数の医療機関を受診している場合でも、過去の検査結果や処方薬の情報を一元的に確認できるため、重複検査や薬の飲み合わせの問題を防げます。
その他のデジタルヘルスケアサービス
上記以外にも、医療機関で活用できるデジタルヘルスケアサービスは多数あります。
【チャットボット】
患者からの簡単な問い合わせに24時間自動で対応するシステムです。診療時間や予約方法、よくある質問への回答などを自動化することで、受付スタッフの負担を軽減できます。
【Web問診システム】
来院前にオンラインで問診票を記入してもらうシステムです。受付時の記入作業が不要になり、待ち時間の短縮につながります。
【オンライン予約管理】
24時間いつでもオンラインで予約できるシステムです。患者の利便性が向上するだけでなく、予約状況の可視化により、診療の効率化にもつながります。
これらのサービスは比較的導入しやすく費用対効果も高いため、まずはこうしたシステムから導入を検討するのもよいでしょう。
医療機関がデジタルヘルスケアを導入するメリット
医療機関がデジタルヘルスケアを導入することで得られるメリットは多岐にわたります。ここでは主な4つのメリットについて解説します。
業務効率化によるコスト削減
予約や問診、決済などの業務をデジタル化することで、受付業務の自動化やカルテ記載時間の短縮が可能になります。また、レセプト業務の効率化も期待でき、スタッフの残業時間削減や人件費などのコスト削減につながります。
患者満足度が向上
デジタルヘルスケアの導入は、患者満足度の向上にも大きく貢献します。
【患者にとってのメリット】
- Web予約システムで24時間いつでも予約が可能
- Web問診で待合室での待ち時間が短縮
- オンライン診療で通院の負担が軽減
- 診察の待ち時間が事前に確認できる
患者満足度の向上はリピート率の向上や口コミによる新規患者の獲得にもつながります。デジタルヘルスケアへの対応が、患者から「選ばれるクリニック」の条件になりつつあるといえるでしょう。
診療品質の向上
ウェアラブルデバイスなどで収集した継続的なデータを診療に活用することで、より正確な判断が可能になります。過去のデータとの比較も容易になり、医療ミスの防止や治療効果の最大化に役立ちます。
新たな患者層の獲得
たとえばオンライン診療を導入することで地理的な制約がなくなります。都市部のクリニックが地方の患者も診察できるようになったり、専門性の高い診療科が全国から患者を集められるようになったりします。
これまでアプローチできなかった新たな患者層の獲得が期待できるのは、クリニック経営における大きな魅力といえるでしょう。
デジタルヘルスケア導入時の課題や注意点
デジタルヘルスケアは適切に導入すれば大きなメリットをもたらしますが、準備不足のまま導入を進めると、高額な初期投資が無駄になるだけでなく、スタッフの反発や患者離れを招くリスクもあります。
デジタルヘルスケアを導入する前に、これから解説する4つの課題や注意点を把握しておきましょう。
システム導入費用と費用対効果
デジタルヘルスケアの導入には、一定の初期費用が必要です。
【主な費用項目】
- システム導入費用(ハードウェア、ソフトウェア)
- 月額利用料(クラウドサービスの場合)
- スタッフの研修費用
- システム保守・メンテナンス費用
たとえばオンライン診療システムの場合、初期費用として数十万円、月額利用料として数万円程度かかるものもあります。
大きな投資になるため、費用対効果の検討も重要です。業務効率化によるコスト削減効果、新規患者獲得による収益増加、スタッフの負担軽減などを総合的に評価し、投資回収期間を試算しましょう。
また、これらの費用に対しては国の補助金を活用できる場合があります。IT導入補助金やデジタル化促進補助金など、医療機関が利用できる支援制度がありますので、導入前に確認しておきましょう。
関連記事:IT導入補助金とは?医療機関向けに活用術をわかりやすく解説!
情報セキュリティとプライバシーの保護
医療機関では患者の診療情報という極めてセンシティブなデータを扱うため、デジタル化によってサイバー攻撃や不正アクセスのリスクも高まります。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠したシステム構築が必須であり、データの暗号化やアクセス権限管理、スタッフへの情報セキュリティ教育が欠かせません。
情報の漏えいが発生してしまうと、医療機関の信頼は一瞬で失われます。システム導入時は、セキュリティ対策の構築が欠かせません。
スタッフの教育(ITリテラシー向上)
どんなに優れたデジタルヘルスケアのシステムを導入しても、現場スタッフ全員が使いこなせなければ意味がありません。特に注意すべきは、スタッフ間でITスキルに大きな差がある場合です。
若いスタッフはすぐに使いこなせても、ベテランスタッフは苦労しているケースも多いです。そのためシステム導入時は十分な研修期間を設けて、スタッフ全員が一定レベルで使えるように研修したり、わかりやすい操作マニュアルを用意したりとサポート体制も整えましょう。
高齢患者への配慮
デジタルヘルスケア導入時の最大の課題の一つが、高齢患者への対応です。デジタルデバイスの操作が苦手な高齢患者も多く、オンライン診療やWeb予約システムを使いこなせないケースも多いです。そのため患者が利用するシステムの導入では、老若男女問わず誰でも簡単に利用できる操作性も考慮する必要があります。
重要なのはデジタルサービスを強制せず、従来通りの対面診療や電話予約も継続して提供することです。ただし高齢患者でもスマートフォンを使いこなしている方は増えているため、一概に「高齢者はデジタルが苦手」と決めつけず、個々の患者の状況に応じて柔軟に対応しましょう。
まとめ:「選ばれるクリニック」になるにはデジタルヘルスケアの対応も重要
デジタルヘルスケアの活用は単なる業務効率化にとどまらず、患者満足度や診療品質の向上に大きく寄与します。特に「人生100年時代」といわれており、社会全体が治療から予防医療へとシフトする中で、デジタル技術への対応は「選ばれるクリニック」であり続けるための必須条件といっても過言ではありません。
また将来の医院継承(M&A)においても、デジタルヘルスケアの導入がクリニックの評価(バリュエーション)に好影響を与える可能性があります。
またクリニックの開業をする場合でも、すでにデジタル化が進んでいる医療機関を承継すれば開業直後から安定した経営が期待できます。
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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。
医療経営士1級。医業承継士。
静岡県出身。幼少期をカリフォルニア州で過ごす。大学卒業後、医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。
これまで、病院・診療所・介護施設等、累計50件以上の事業承継M&Aを支援。また、自社エムステージグループにおけるM&A戦略の推進にも従事している。
2025年3月にはプレジデント社より著書『“STORY”で学ぶ、M&A「医業承継」』を出版。医院承継の実務と現場知見をもとに、医療従事者・金融機関・支援機関等を対象とした講演・寄稿を多数行うとともに、ラジオ番組や各種メディアへの出演を通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。
医療機関の持続可能な経営と円滑な承継を支援する専門家として、幅広く活動している。
より詳しい実績は、メディア掲載・講演実績ページをご覧ください。
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