開業医は何歳が多い?最適な年齢や開業後のリアルな悩みも解説


目次
医師として「いずれは自分のクリニックを開業したい」と考える中で「何歳くらいで開業するのが一般的なんだろう?」「自分にはまだ早いのか?それとも遅いのか?」といった疑問や不安を抱かれる先生は多くいらっしゃいます。
そこで本記事では、開業医の年齢に関する統計データや年齢ごとの開業の傾向、そして開業後に多くの医師が直面するリアルな悩みについて、わかりやすく解説していきます。
最適な開業タイミングを見極めるためのヒントや、スムーズな開業準備のために知っておきたいポイントもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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【2024年度】開業は何歳が多い?起業年齢の統計調査
「2024年度新規開業実態調査」によると、開業時の年齢でもっとも多いのは40歳代で、全体の37.4%を占めていることがわかります。
出典:日本政策金融公庫 総合研究所|2024年度新規開業実態調査
上記の調査は全業種を対象としたものですが、医師の開業においても、40歳代は勤務医としての経験や知識、そして体力も充実している時期と考えられるため、一つの目安にはなるでしょう。
近年は20歳代の起業がメディアでピックアップされることも多いですが「若い世代の開業が多くなっている」というイメージをもたれるかもしれません。
しかし実際の統計データを見ると20代の開業はまだまだ少数で、ある程度実績や経験が積み上がってくる30歳〜40歳代で開業されている方がほとんどです。
もちろん、これはあくまで統計上のデータなので、個々の状況によって最適なタイミングは異なります。
開業は年齢だけではなく、ご自身のキャリアプランやライフステージに合わせて、じっくりと検討することが大切です。
医療や福祉業界の開業は2番目に多い
同じく日本政策金融公庫の調査によると、開業する業種として一番多いのは「サービス業」の(29.2%)で、次いで多いのが「医療・福祉」で15.7%です。
【開業の業種TOP5】
業種別順位 | 業種 | 割合 |
---|---|---|
1位 | サービス業 | 29.2% |
2位 | 医療・福祉 | 15.7% |
3位 | 飲食店・宿泊業 | 14.5% |
4位 | 小売業 | 10.8% |
5位 | 建設業 | 8.8% |
一般的には飲食店や小売業のほうが、開業の割合が多い印象にあると思いますので、意外な結果とも言えるでしょう。
医療や福祉の開業が多い背景には、医院継承(M&A)の需要が高まっていることも影響していると考えられます。
近年は医療機関全体で医師の高齢化がすすみ、承継先不在によって廃院を選ばざるを得ない医療機関も多くあります。
そこで医院継承(M&A)の需要も高まってきているのです。
医院継承(M&A)は新規開業時のリスクや不安点、開業費用を低減できるので「開業したい」という思いを実現しやすく、実際に開業の割合も多くなっていることが考えられます。
開業医になれる最短の年齢は26歳
必要な免許などを取得し、もっとも最短で開業できる年齢は26歳です。
医学部に現役合格した場合には18歳で入学し、6年間の課程を経たあと最短で24歳で医師免許を取得できます。
医師免許があれば医療行為自体は可能になりますが、そのあと最低2年間は臨床研修(研修医としての実務経験)が義務付けられています。
“診療に従事しようとする医師は、二年以上、都道府県知事の指定する病院又は外国の病院で厚生労働大臣の指定するものにおいて、臨床研修を受けなければならない。”
つまり、スムーズに医師免許の取得や実務経験が進んだ場合、最短で26歳には開業医としてのキャリアをスタートできる計算になります。
ただしあくまで理論上の最短年齢であって、実際には専門医資格の取得やさらなる経験を積むために、もう少し時間をかけるのが一般的です。
年齢別のクリニック開業に関する傾向やハードル
医師がクリニックを開業する年齢はさまざまですが、年代によって異なる特徴や課題があります。
ここでは30代・40代・50代それぞれの年代別に、開業する際の強みやハードルになりやすいポイントを解説します。
30代の開業
医療業界において30代での開業は「若い開業」と言えます。
30代で開業される先生は、もともと勤務医として働くことよりも、自身のクリニックを持つことに強い憧れや興味を持っていたケースが多いです。
金融機関からの融資審査は、若さゆえの将来性などが評価されて、比較的通りやすい傾向にあります。
一方で、キャリアや実績が浅いことから、患者からの信頼を得るのに時間がかかったり、条件の良い医院継承(M&A)では、経験豊富な他の医師が優先されたりすることもあります。
40代の開業
医療業界において40代は、開業の「適齢期」とも言われています。
勤務医として十分な経験と実績を積み、専門分野における知識や技術も高いレベルに達していることが多いためです。
体力や気力も充実しており、新しい挑戦への意欲も高い時期と言えるでしょう。
この年代で開業を決意する先生は、勤務医として働く中で「もっと自分の理想とする医療を提供したい」「地域医療に貢献したい」といった思いが強くなったことが動機となっていることも多いです。
これまでのキャリアで築いた信頼や人脈も活かしやすく、比較的スムーズに開業準備を進められる可能性が高い年代です。
50代の開業
40代が適齢期と言われると「50代はもう遅いのではないか」と思われるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。
培ってきた豊富な経験と知識、そして人脈は、クリニック経営において大きな強みとなるためです。
特に長年地域医療に携わってきた先生であれば、患者からの厚い信頼を基盤に、安定したスタートを切ることも可能でしょう。
ただし、開業後の現役でいられる期間はどうしても短くなってしまいます。
また、60代になると体力的な面や健康面から引退を視野に入れる医師が増えるのも事実です。
金融機関によっては、融資の審査が厳しくなる可能性も考えられます。
クリニック開業の動機は「理想の医療を追求」が1位
医師がクリニック開業を決意する背景として、もっとも多い動機は「自分の理想とする医療を追求したい」という思いです。
開業の動機 | 割合 |
---|---|
理想の医療の追求 | 42.4% |
将来に限界を感じた | 35.1% |
経営も含めたやり甲斐 | 26.3% |
精神的ストレスに疲弊 | 21.0% |
過剰労働に疲弊 | 18.6% |
家族の事情 | 17.7% |
労働条件が魅力的 | 9.7% |
親族から要請 | 9.4% |
収入が魅力的 | 8.4% |
出典:日本医師会|開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査
勤務医の場合、病院の方針や組織のルールの中で、必ずしも自分の考える最善の医療を提供できるとは限りません。
診療方針や治療方法、患者との関わり方などをより自由に、自分の理想に近い形で実現するため「開業医」を目指される医師が多いということが、この調査結果でわかります。
勤務医と開業医の平均年収
厚生労働省が公開している「第24回医療経済実態調査(令和5年実施)」によると、医療法人に勤務している医師の平均給与年額(賞与含む)は約1,498万円です。
一方で、個人開設の一般診療所(入院診療なし)における損益差額の平均値は、約2,742万円です。
この損益差額がクリニックの利益であり、ここから開業医自身の報酬や借入金の返済などに充てられます。
より詳しい診療科目別の年収ランキングや、開業医として収入を安定させるためのポイントについては、以下の関連記事で解説しています。
関連記事:開業医は儲からない?診療科目別の平均年収ランキングや儲けるポイントを紹介
クリニックの開業方法と必要な初期費用
クリニックの開業には、大きく分けて「新規開業」と「医院継承(M&A)」の2つの方法があります。
新規開業の初期費用は、診療科目によっても大きく異なりますが数千万〜1億円、場合によってはそれ以上かかることもあります。
医院継承(M&A)の場合、上記の新規開業に比べると初期費用を約3分の2程度まで抑えることが可能です。
クリニックを新規開業する場合の、主な開業手順は下記のとおりです。
開業までの手順 | ポイント |
---|---|
1. 開業エリアの選定 | 診療圏調査を行いながら、地域のニーズや将来性をしっかりと考慮した上で開業エリアを選定。 |
2. 物件探しやクリニックの設計 | 賃貸もしくは購入などによっても初期費用が大きく異なる。設計では特に患者と医療スタッフの導線や手洗い場の設置箇所を考慮する必要がある。 |
3. 各種申請 | 自治体の診療所開設許可や保険医療機関指定申請など数多くの届出や手続きが必要。手続きには時間を要するため、余裕を持った申請も重要。 |
4. スタッフの雇用 | 優秀なスタッフを雇用するためにも、働きやすい労働環境はもちろんのこと、特に労働時間に関する雇用契約の整備が重要。 |
医師自身が上記のような開業準備を診療しながら行うのは、ほぼ不可能と言っても過言ではありません。
新規開業と医院継承(M&A)どちらの開業方法を選ぶとしても、まずは医療業界の知識に長けている専門家に相談することを強くおすすめします。
医院継承(M&A)で開業をする医師も増加している
近年は既存のクリニックを引き継ぐ「医院継承(M&A)」によって、開業される医師も増えています。
開業医の高齢化や後継者不足により、閉院を選択せざるを得ないクリニックが増加している背景もあり、買い手市場とも言える状況です。
買い手となる医師にとっても初期費用を大幅に抑えられ、開業時に一番悩まされる「資金繰り」のリスクが低減されたり、開業当初から患者の来院を一定数見込めたりする点が大きな魅力です。
知人や親族間で医院継承を行う場合でも、専門家に承継手続きの依頼をすることをおすすめします。
書類の不備や手続きが難解なのはもちろんのこと、たとえば医療機器などの承継手続きができておらず、承継後にトラブルに発展するケースもよくあるためです。
関連記事:継承開業(承継開業)とは?新規開業との違いやメリット・デメリットを解説
開業時に多くの経営者が悩まされるポイント
日本政策金融公庫の調査によると、開業後に経営者が直面した苦労として下記3つが挙げられています。
- 資金繰り・資金調達
- 顧客や販路の獲得
- 財務や税務に関する知識
出典:日本政策金融公庫 総合研究所|「2024年度新規開業実態調査」
「新規開業をした事業者」を対象に行われた調査ですが、クリニックの経営においても同様の悩みを抱える医師は多くいらっしゃいます。
それぞれ、悩まされるポイントを詳しく解説していきましょう。
1位 資金繰り・資金調達
クリニックの開業においても、資金繰りや資金調達は一番苦労するポイントです。
特に事業計画書は、開業資金の融資を受ける際に非常に重要となる要素です。
融資担当者に「これなら融資しても問題なさそうだ」と判断してもらえるように、根拠ある現実的な売上数値はもちろんのこと、将来性やビジョンが明確にわかる事業計画書を作成する必要があります。
無事開業したあとも、特に新規開業の場合は想定よりも患者の来院が少ないケースも多いものです。
数か月間収入の見込みが下回っている一方で、家賃や人件費などの固定費は確実に発生します。
このような事態に備えて、半年程度の運転資金を確保しておくことも重要な対策です。
2位 顧客や販路の獲得
開業当初の最大の課題とも言えるのが「集患」です。
どれだけ優れた医療を提供できても、患者が来院しなければ経営は成り立ちません。
特に新規開業の場合、地域での認知度がゼロからのスタートとなるため、クリニックの存在を知ってもらうための工夫が必要です。
そのためにも、まずはホームページを開設したりGoogleビジネスプロフィールの登録をしたりと、インターネットやGoogleマップで自院が表示される対策は必須です。
最近ではTikTokやSNSなどを活用して、集患に成功しているクリニックも多くなっています。
診療科目によってはSNSよりも、近隣地域向けにチラシをポスティングしたほうが効果の出る場合もあるでしょう。
集患はさまざまな方法があるため、自医にとって最適な対策を選ぶ必要があります。
関連記事:クリニックの集患力アップ!効果的な対策17選
3位 財務や税務に関する知識
確定申告や税金の計算、従業員の給与計算や社会保険関係の手続き、医療法や労働法に関するコンプライアンスなど、クリニックの経営においてもさまざまな法律に関する専門知識が必要です。
特に医療業界は法定労働時間の大幅な超過が問題視されており、働き方改革によって適切な労働時間の管理や医療従事者との雇用契約の締結も必須となっています。
このような最新の法律に対応するためには、税理士や社会保険労務士、弁護士などの専門家によるサポートを受けることも欠かせません。
また、経営者として最低限の知識を身につけるためにも、医師向けの経営セミナーや書籍なども活用すると良いでしょう。
勤務医と開業医で負担になっている業務の違い
勤務医と開業医では、日々の業務で負担に感じる点も異なるのが特徴です。
勤務医時代は「当直勤務」や「長時間の時間的拘束」を負担に感じていたと回答している医師が多いです。
一方で開業後は「レセプトの作成やチェック」といった事務作業や「自身の医療レベルを維持・向上させるための勉強」が大きな負担になっていると感じる医師が増えます。
勤務医時代に負担だった業務 | 開業してから負担になっている業務 |
---|---|
当直(44.5%) | レセプトの作成・チェック(52.2%) |
時間的拘束(37.7%) | 自身の医療水準維持(49.5%) |
診療に関する会議等(17.2%) | レセプト以外の書類作成(38.3%) |
自身の医療水準維持(16.5%) | 時間的拘束(28.5%) |
レセプト以外の書類作成(15.7%) | 医療機関との連携(23.4%) |
出典:日本医師会|開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査
また、一般的には勤務医よりも開業医のほうが「事業の時間とプライベートな時間」の境目が無くなりがちですが、意外にも開業後は「時間的な拘束」の負担は減っていることが伺えます。
これは、ほかに医師を雇っていて、自身の診療時間などを調整しやすくなっていることが考えられるでしょう。
何歳からでも開業できるようにやっておくべきこと
クリニックの開業で成功するかどうかは「開業前の準備や知識」で決まると言っても過言ではありません。
いつでも開業できるように、これから紹介する開業前の重要なポイントを把握して、失敗しないための準備をしておきましょう。
自己資金を貯めておく
クリニック開業時には「自己資金を持っているかどうか」も、理想となる開業を実現する際の大きな要素となります。
自己資金ゼロで開業している実例はあるものの、融資の審査が厳しくなったり、希望通りの金額を借りられなかったりする可能性はあります。
その結果、開業後の運用資金が不足し、資金繰りに苦しくなる開業医も多いのです。
少しでも自己資金を用意しておくことで、金融機関からの信頼を得やすくなり、より有利な条件で融資を受けられる可能性が高まります。
また、開業後の精神的な余裕にもつながります。
開業を考えているのであれば、早い段階から貯蓄をしておきましょう。
開業に必要な手続きや期間を把握しておく
クリニックの開業には、さまざまな手続きが必要です。
たとえば保健所への診療所開設許可申請、厚生局への保険医療機関指定申請など、煩雑な書類作成や申請作業が伴います。
これらの手続きには、それぞれ数週間〜数か月という時間がかかるため、開業したい時期から逆算してスケジュールを立てなければなりません。
専門家などに相談しながら、余裕を持ったスケジュールを組むようにしましょう。
関連記事:クリニックの開業スケジュールと必要な準備を徹底解説
マーケティングの知識を身に着けておく
開業後に多くの医師が悩む「集患」のために、開業前からマーケティングの知識を身につけておくことが重要です。
【主なマーケティング戦略】
- クリニックのホームページ作成
- 地域住民へのチラシ投函
- 看板などの街頭広告
- SNSの活用
- オンライン広告の活用
自院のターゲット層や地域特性に合わせて、どのような方法が効果的かを考え、開業前から準備を進めておくことで、開業後のスムーズなスタートにつながります。
専門家へ相談やサポートを受ける
クリニックの開業準備は、医療に関することだけでなく経営や法律、税務、労務など、多岐にわたる専門知識と経験が必要です。
特に開業エリアの選定は、その後のクリニックの経営状況に大きく影響してきます。
競合との患者の取り合いや、地域の需要に合っていない開業エリアによる開業をして失敗しないためにも、専門家に分析してもらいアドバイスやサポートを受けるようにしましょう。
関連記事:診療所の開業相談できる機関まとめ!後悔や失敗しないコツも紹介
理想のクリニック開業には早めの年齢から準備が重要
クリニック開業の適齢期は一般的に40代とされていますが、年齢よりも事前の準備のほうが重要です。
早い段階から少しずつでも自己資金を貯蓄し、地域ニーズの分析や効果的な集患方法(マーケティング戦略)を理解しておくことで、ご自身が理想としているクリニックの開業が実現します。
特に昨今は、初期費用を抑えながら既存の患者基盤も活かせる、医院継承(M&A)による開業も増加しています。
理想の医療を追求するためにも、リスクヘッジや理想を考慮しながら、新規開業と医院継承(M&A)の最適な開業方法を選びましょう。
クリニック開業に関するお悩みや「開業後の不安」などがありましたら、医療経営士の資格をもったアドバイザーが在籍しているエムステージマネジメントソリューションズへとお気軽にご相談ください。
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この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。プレジデント社より著書『”STORY”で学ぶ、М&A「医業承継」』を上梓。