クリニックでキャッシュレス決済を導入するメリットとは?サービスを選ぶポイントも解説


目次
クリニックを開業する際は、業務効率化や患者満足度向上につながるキャッシュレス決済の導入がおすすめです。医療機関での普及率は高くないものの、感染症防止の観点から広がりつつあります。
キャッシュレス決済は、患者の利便性を向上させるだけでなく、売上の管理や現金の紛失リスクを減らす効果があります。また、最新の経営環境を整えることで、後継者への引き継ぎがスムーズになり、クリニックの価値向上にもつながります。
本記事では、クリニックでキャッシュレス決済を導入するメリット、サービスを選ぶ際のポイントを解説します。
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クリニックのキャッシュレス決済の現状
クレジットカード決済は医療機関でも広く導入されていますが、QRコード、電子マネー決済の普及率は低くなっています。キャッシュレス決済の現状は以下の通りです。
普及率 | |
クレジットカード | 57.4%(全業種平均:55%) |
QRコード決済 | 3.7%(全業種平均:55%) |
電子マネー | 4.7%(全業種平均:25%) |
出典:医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査p45|厚生労働省
経済産業省は、2025年までにキャッシュレス決済比率を40%に引き上げる目標を掲げています。そのため、医療機関でもキャッシュレス化が進んでいくと予想され、早期から導入するのが望ましいです。ただし、医院承継においてキャッシュレス決済を導入する際には、患者層に応じた決済手段の選択が大切です。
キャッシュレス決済の普及率が低い理由
キャッシュレス決済の普及率が低い理由は、以下の3つです。
- 手数料が高い
- 入金サイクルが遅い
- 患者からの要望がない
詳しく解説します。
手数料が高い
キャッシュレス決済を導入する際、一般的に決済金額に対して2〜3%の手数料が発生します。保険診療の場合は、医療費の自己負担額に対する手数料のため、実質0.9%程度です。
しかし、少額決済が多い医療機関にとっては、キャッシュレス決済手数料が累積し、経営を圧迫する要因となる可能性がありますが、一部のサービスでは、医療機関向けの特別プランを展開しているため、手数料を通常より低く抑えられます。
入金サイクルが遅い
一般的に、キャッシュレス決済の入金サイクルは月1〜2回程度であり、現金払いに比べて資金繰りが遅れる傾向があります。例えば、患者さんが診療費をキャッシュレスで支払った場合、クリニックがその金額を受け取るまでに1週間から1か月ほどの時間がかかる場合があります。
入金サイクルが遅れると、クリニックの日々の運転資金が不足し、スタッフの給与支払いや医療機器のリース代、新たな設備投資のタイミングに影響が出るリスクがあります。
一部のキャッシュレス決済サービスでは、入金サイクルを短縮するオプションがありますが、追加の手数料が発生するのが一般的です。そのため、キャッシュレス決済を導入する際には、手数料や入金サイクル、運転資金への影響を慎重に検討する必要があります。
患者からの要望がない
クリニックの患者層は高齢者が多いためキャッシュレス決済のニーズ自体が低い傾向です。高齢者はクレジットカードやQRコード決済の利用経験が少なく、現金払いが「安心で簡単」と感じる人が多いのが現状です。
一方で、若年層ではキャッシュレス決済の需要が高いため、ターゲットに合わせて導入を検討します。また、医療機関では、診療内容や待ち時間に関する要望が多く、決済方法に関する意見が表面化しにくい傾向があります。そのため、決済方法に関して要望がないと認識しやすいです。
上記の内容から、地域や診療科の患者層に応じてキャッシュレス決済の導入を検討するのが大切です。見えないニーズを把握するためにも患者アンケートを実施するなど、実際の声を反映させる仕組みを整えましょう。
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キャッシュレス決済サービスの種類
キャッシュレス決済サービスは、以下の4種類があります。
- クレジットカード
- デビットカード
- QRコード
- 電子マネー
詳しく解説します。
クレジットカード
クレジットカード決済は、クリニックのキャッシュレス決済の中で特に普及している決済方法です。患者にとってはポイント還元や特典のメリットがあり、クリニックにとっては支払いがスムーズで会計時間を短縮できるメリットがあります。
また、クレジットカード決済の導入はクリニックに対する特典もあり、東京医師歯科医師協同組合が提供するキャッシュレス決済サービスは、初期費用が無料で、手数料が安いです。決済端末は1台無償、ランニングコスト(ロール紙、振込手数料)が無償などの特典がついています。
他には、医療機関向けのキャッシュレス決済サービス(例:日本医師会員向けサービス)を利用すると、決済端末が無償、ロール紙無償などの特典が得られます。
デビットカード
デビットカードは、銀行口座と紐付けられたカードで、支払い時に即座に口座から引き落とされる仕組みです。
クレジットカードに比べて利用者数は少ないものの、即時決済の利便性から現金を持ち歩きたくない患者、クレジットカードを持っていない患者に需要があります。即時払いであるため、使いすぎる心配がありません。
また、クリニック側としては、即時決済のため、未収金のリスクが低くなります。クレジットカードと同じ端末で対応可能な場合が多く、導入コストを抑えられるのも特徴です。具体的なサービスとして、三井住友カードが提供する「stera pack for クリニック」は医療機関向けのキャッシュレス決済サービスで、デビットカードにも対応しています。
QRコード
QRコード決済は、スマートフォンを利用して支払いを行うキャッシュレス決済の一種で、クリニックでも導入が進みつつあります。スマートフォンにインストールされた専用アプリを使用し、QRコードを読み取ることで支払いを完了する仕組みです。QRコード決済は、店舗提示型と患者提示型の方法があります。
特徴 | |
店舗提示型 | クリニックが提示するQRコードを患者がスマートフォンで読み取る方式 |
患者提示型 | 患者がスマートフォンに表示したQRコードをクリニック側が専用端末で読み取る方式 |
クリニックでは、店舗提示型のQRコード決済が良く用いられます。導入コストが低く、感染症対策としても有効です。QRコードは、予約や受付などのシステムにも活用できるため、決済以外の業務効率化も可能です。
電子マネー
電子マネー決済は、カードやスマートフォンに事前にチャージした金額を利用して支払いを行う方法です。プリペイド型が主流で、現金を持ち歩かなくても支払いが可能なため、患者にとって利便性が高い決済手段です。電子マネーは主に3種類に分けられます。
特徴 | |
交通系ICカード | 公共交通機関で利用される電子マネーです。例)Suica、PASMO、ICOCA、Kitaca、TOICA |
流通系電子マネー | スーパーやコンビニで利用される電子マネーです。例)nanaco、WAON、楽天Edy |
クレジットカード系電子マネー | クレジットカードと紐付けて利用する後払い型の電子マネーで、チャージは不要です。例)iD、QUICPay |
スマホがあれば簡単に支払えるため、利便性が高いです。公共交通機関を利用後、そのまま駅近くのクリニックを受診して決済するなどが財布がなくてもできるため便利です。医療機関向けの特別プランを提供するサービスを選ぶことで、コストを抑えられる可能性があります。
キャッシュレス決済を導入するメリット
キャッシュレス決済を導入するメリットとして、以下の4つがあります。
- 会計時の待ち時間短縮
- 業務の負担軽減
- 感染対策にもなる
- オンライン診療に対応しやすい
以下で詳しく解説します。
会計時の待ち時間短縮
キャッシュレス決済を導入すると、現金の受け渡しや釣り銭の計算が不要になるため、会計にかかる時間を短縮できます。待ち時間の長さは患者の不満にもつながるため、短縮すると不満解消につながります。
例えば、電子マネーやQRコード決済では、患者がクレジットカードやスマートフォンを専用端末にかざすだけで支払いが完了するため、従来の現金取引と比べて数十秒単位での時間短縮が可能です。
上記の通り、患者にとってはスムーズな支払いが可能になり、医療機関側にとっては業務効率の改善が図れるため、双方にメリットがあります。
業務の負担軽減
現金決済では、釣り銭の準備やレジ締め作業、現金の入出金管理が必要です。キャッシュレス決済を導入すると、会計業務が減り、スタッフの負担を軽減できます。また、現金の受け渡しに伴う計算ミスや釣り銭の渡し間違いがなくなるため、業務の正確性が向上します。
キャッシュレス決済では、売上データが自動的に記録されるため、手動での記帳作業が不要です。その結果、経理業務の効率化にもつながります。
感染対策にもなる
キャッシュレス決済の導入は、感染症対策の観点からも有効です。現金決済では、紙幣や硬貨を介して患者とスタッフが接触する機会が発生します。その結果、細菌やウイルスが付着するリスクが高まる傾向です。
一方、キャッシュレス決済は現金の受け渡しが不要なため、院内での接触機会を減らし、感染症リスクを軽減します。感染対策が重視されてきている中で、非接触型の支払いができると患者は安心して利用できるでしょう。
オンライン診療に対応しやすい
オンライン診療では、患者が自宅や職場などの場所から診療を受けるため、対面で会計を行うのが難しいケースがほとんどです。キャッシュレス決済を採用すると、患者は診療後にスマートフォンやパソコンを使用して迅速に支払いを済ませられます。
会計業務の効率化は、スタッフが手動で請求や入金確認を行う手間を省くのに効果的です。また、銀行振込や後払い方式と異なり、診療後すぐに決済が完了するため、未払いの発生を抑制します。
上記の通り、キャッシュレス決済は、患者満足度の向上だけでなく、医療機関の運営効率化にも影響する有効な手段といえます。
キャッシュレス決済サービス選びのポイント
キャッシュレス決済サービスを選ぶ際は、以下の2点を意識しましょう。
- 初期費用や運用コストを基準に選ぶ
- サービスの種類を基準に選ぶ
それぞれ詳しく解説します。
初期費用や運用コストを基準に選ぶ
キャッシュレス決済サービスを導入する際、初期費用や運用コストは大切な選定基準です。初期費用や運用コストはサービスにより異なるため、重視したいポイントに合わせて選びましょう。以下で各サービスを比較して紹介します。
日本医師会向けキャッシュレスサービス | stera pack forクリニック | タイムズペイ | EPARKペイメントサービス | |
決済端末の購入費用 | 無料(1代まで) | レンタル(月額料金に含まれる) | 無料 | 無料 |
設置費用 | 無料 | 無料 | 無料 | 無料 |
入金サイクル | 1回or2回 | 2回or6回 | 不明 | 月1回or2回 |
月額料金 | 無料 | 3,300円 | 無料 | 無料 |
決済手数料 | 1.45% | 1.50%~ | 1.50%~ | 1.0%台~(個別に見積り) |
振込手数料 | 220円 | 無料(三井住友銀行口座の場合) | 無料 | 500円(税抜) |
初期費用では、決済端末の購入費用と設置費用がかかります。決済端末の購入費用は、機能により幅広く5,000円〜10万円程度までさまざまです。しかし、多くのサービスで1台目無料や設置費用無料などの特典を用意しています。
サービスの種類を基準に選ぶ
キャッシュレス決済サービスは、決済機能のみの決済特化型サービスやその他の機能が含まれる周辺業務効率化型サービスなどの種類があります。それぞれの機能やメリット・デメリットを表で解説します。
決済特化型サービス | 周辺業務効率化型サービス | |
特徴 | 会計業務に特化 | 予約、問診、会計、カルテ管理など広範囲 |
メリット | ・導入コストが低い(初期費用無料や低額のものが多い) ・小規模店舗や個人事業主に適している ・決済スピードが速く、使いやすい | ・業務全体の効率化が可能 ・中規模以上のクリニックや、複数クリニックを運営している場合に適している ・キャッシュフローの改善や経理業務の負担軽減が期待できる |
デメリット | ・決済手数料が発生し、売上が増えるほどコストが増加する可能性 ・不正利用や情報漏洩のリスクがあるため、セキュリティ対策が必要 | ・包括的なシステムの導入には高額な初期費用が必要 ・システムの操作に慣れるまで時間がかかる場合がある |
主なサービス | ・タイムズペイ for 医療業種 ・日本医師会向けキャッシュレスサービス ・stera pack forクリニック | ・CLINICSメディカル革命 byGMO ・デジスマ診療 |
決済サービスのみを求める場合は決済特化型サービスが適しています。一方、会計や予約、カルテ管理などをすべて効率化したい場合は、周辺業務効率化がおすすめです。
キャッシュレス決済を導入して業務効率化を図りましょう
キャッシュレス決済の導入は、クリニックの業務効率化と患者満足度向上に大きく関与します。コロナ禍を背景に需要が拡大しており、多くのクリニックがクレジットカードやQRコード決済の導入を検討しています。
現金管理の手間が省け、スタッフの負担軽減や受付業務の簡略化が可能です。また、非接触型決済は感染症対策にも寄与し、患者からの信頼を高めるのにつながります。導入時は初期費用や運用コスト、患者層に適した決済手段を考慮しましょう。
業務効率化を図ると、スムーズな運営体制を構築でき、オンライン診療などの新しい診療形態にも柔軟に対応できるようになります。上記のような導入のメリットを十分に検討し、効果的な運用体制を整えることが重要です。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。プレジデント社より著書『”STORY”で学ぶ、М&A「医業承継」』を上梓。