自由診療クリニックの始め方とは?必要な手続きや失敗するケースを解説


目次
「自由診療のクリニックを始めたいけど、どこから手をつけて良いかわからない」そんな悩みを抱えていませんか。クリニックの開業は、時間や手間がかかる上、適切な手順を踏まないとトラブルになる可能性もあります。
手順や失敗しないためのポイントを抑えると、スムーズな開業が可能です。本記事では、自由診療クリニックの始め方や必要な手続き、失敗するケースを解説します。これから開業を検討している方はご覧ください。
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自由診療クリニックとは
自由診療クリニックとは、公的医療保険が適用されない診療(自由診療)を提供する医療機関です。例えば、美容整形、審美歯科、遺伝子検査、アンチエイジング治療などの診療科があります。厚生労働省が承認していない治療や薬を使用する診療を行えるのが特徴です。
診療費用は医療機関が自由に設定可能で、患者が全額を負担する仕組みです(10割負担)。保険診療ではカバーできない個別のニーズに応じた治療が可能なため、幅広い医療を提供できます。
ただし、日本では原則として保険診療と自由診療を併用する「混合診療」は認められていないため注意しましょう。
自由診療を始めるメリット
自由診療を始めるメリットは、主に2つ挙げられます。
- 高額な収益が期待できる
- 最先端の医療を提供できる
詳しく解説します。
高額な収益が期待できる
自由診療は診療報酬点数が適用されないため、診療や治療の料金を医療機関が独自に設定できます。そのため、高額な収益を得るのも可能です。ただし、保険診療と異なり、患者は全額負担のため、リピートする患者がいないと安定した利益は得られません。
自由診療を始めるには、医療機器や設備の購入、スタッフの研修、広告費用などの初期投資が必要です。ですが、医院承継では、既存の設備やスタッフを引き継ぐことができるため、自由診療を導入する際の初期費用の負担を軽減できるメリットがあります。
最先端の医療を提供できる
自由診療では、保険適用外の最新技術や治療方法を導入できるのがメリットです。例えば、海外で承認されているが国内では未承認の治療法や薬剤を提供できます。そのため、患者の多様なニーズに応えられ、他院との差別化にもつながります。
ただし、自由診療で提供する治療が厚生労働省未承認の場合、トラブルが発生した際にクリニックが全責任を負う必要があります。そのため、患者に治療内容を丁寧に説明、インフォームドコンセントを徹底するなど、リスク管理を行うことが重要です。
自由診療クリニックを始める際の手順
自由診療クリニックを始める際は、6つの手順を実施します。
1.クリニックの方針を決定
2.開業予定地の選定
3.事業計画を作成
4.資金調達
5.各種手続き
6.医療機器の選定
それぞれ解説します。
1.クリニックの方針を決定
自由診療クリニックを開業する時、最初に行うべきなのは、クリニックの方針を明確に決定することです。「どのような患者に、どのような医療を提供するか」をはっきりさせると、経営の方向性が定まります。その際は、ターゲット層のニーズ、競合との差別化ポイントを明確にしておきましょう。
医院承継の場合、自由診療は診療内容や経営方針がクリニックごとに異なるため、承継先とのマッチングが重要です。方針を180度転換すると患者が離れてしまうため、承継後も現院長の診療方針やサービス内容を一定期間維持するのがポイントです。
また、保険診療と自由診療の併用(混合診療)は原則禁止のため注意しましょう。同じクリニックで保険診療と自由診療を実施する場合は、明確に診療内容を区別します。
2.開業予定地の選定
開業予定地の選定は、クリニックの成功を左右する重要な要素です。提供する診療内容に応じて、ターゲット層が多い地域を選びます。また、競合が少ないエリアを選ぶことで、集患の可能性が高まります。都市部と郊外を比較したときの特徴は以下の通りです。
特徴 | |
都市部 | 利便性が良く、人口が多いのが特徴です。一方、家賃などの運営コストが高い傾向になっています。通勤、通学後の若年層をターゲットにする場合におすすめです。 |
郊外 | 競合が少なく、家賃などの運営コストが低いです。一方、人材確保が難しく、交通の利便性が悪い傾向にあります。タクシーやバスをメインで利用する高齢者をターゲットにする場合におすすめです。 |
どちらにも良し悪しがあるため、どのターゲット層に対してサービスを提供したいか考慮して開業予定地を選びましょう。医院承継であれば、承継元候補の医院の情報からターゲット層や診療方針の方向性などが決めやすいです。
3.事業計画を作成
事業計画では、資金計画、収支計画、経営戦略の3つをしっかり決めておくのが大切です。具体的な内容は、表で解説します。
内容 | |
資金計画 | 物件や医療機器などの初期投資、経営が安定するまでの資金計画です。開業後の数か月間は収益が安定しない可能性があるため、運転資金を十分に確保しておくことが重要です。 |
収支計画 | 1日あたりの来院患者数、自由診療メニューの単価、診療日数をもとに収益を試算します。初年度は患者数が少ないことを考慮し、現実的な予測を立てましょう。医療材料費、人件費、家賃、広告費なども含めて詳細に計算します。 |
経営戦略 | 特定の診療科や患者層に特化し、高い専門性をアピールします。例えば、美容クリニックであれば最新の医療機器を導入し、他院との差別化を図ります。 |
承継後の自由診療の価格設定は悩ましいところですが、競合医院の価格帯や地域住民の経済力を考慮しつつ設定しましょう。
4.資金調達
自己資金や融資を用いた資金調達の計画を立てます。自己資金のみでは資金は不足するため、融資も活用する前提で計画しましょう。自己資金があれば借入金の利息負担を軽減可能です。
内容 | |
日本政策金融公庫の融資 | 融資額は最大7,200万円(運転資金は4,800万円)程度です。設備資金は20年以内、運転資金は10年以内に返済します。 |
独立行政法人福祉医療機構の融資 | 建築資金、機器購入資金、運転資金、土地取得資金に利用可能です。低金利で30年以内と長期返済が可能です。 |
民間金融機関からの融資 | 開業医向けのローンが用意されている場合があります。例えば、三井住友銀行では、借入額最大5,000万円、借入期間最長10年、保証人不要のローンがあります。 |
補助金・助成金の活用 | 創業補助金:限度額は200万円事業承継・引き継ぎ補助金 後継者承継支援型:上限225万円(補助率1/2) 上限300万円(補助率2/3) 事業再編・事業統合支援型:上限450万円(補助率1/2) 上限600万円(補助率2/3) |
医療機器リース | 高額な医療機器をリースで導入し、初期投資を抑制できます。設備の陳腐化リスクも軽減可能です。高額医療機器を少額で整備できるが、中途解約ができないため注意しましょう。 |
5.各種手続き
クリニックの開業には、いくつか書類の提出が必要です。開業後すぐに提出しなければいけない書類もあるため注意しましょう。内容を下記で説明します。
内容 | |
診療所開設届 | 開業から10日以内に保健所に提出します。 |
保険医療機関指定申請 | 保険診療を併用する場合は、提出が必要です。この申請がないと保険診療はできません。診療所開設届が受理された後に申請可能です。締切日は厚生局に確認が必要です。 |
労働基準関連の書類 | 労災保険指定医療機関指定申請書は、都道府県労働局に提出し、認定を貰います。提出期限は、保険関係が成立した日の翌日から10日以内です。 労働保険の保険関係成立届は、労働保険に加入する際に最初に労働基準監督署に提出します。労働者を雇用した日から10日以内に提出します。 |
保険関連の書類 | 厚生年金保険や健康保険の手続きを日本年金機構や全国健康保険協会で行います。従業員が5名以上の場合に必要です。従業員の雇用から5日以内に提出します。 |
個人事業関連の書類 | 開業届出書や青色申告承認申請書を提出します。開業届は開業日から1ヵ月以内に提出、青色申告承認申請書は開業から2カ月以内に提出します。 |
医院承継では、取引先との契約更新(リース契約、広告代理店など)、従業員の雇用契約を新たに締結、患者・地域への周知なども必要です。
6.医療機器の選定
医療機器の選定は、クリニックの診療内容に直結するため重要です。競合が導入している機器の調査や必要な機器の洗い出しを行います。その際は、機器の性能や運用コストも含めて検討しましょう。
例えば、美容クリニックであればレーザー機器、皮膚科であればピーリング機器など、診療科目に適した機器を選定します。医療機器は、信頼できる業者、アフターサポートやメンテナンス体制が整っている業者から購入するのがポイントです。
医院承継では、既存の医療機器や内装設備をそのまま利用できるため、新規開業に比べて初期費用を抑えられます。既存の機器を利用する場合は、機器の状態やメンテナンス履歴を確認しておきましょう。古い機器の場合、修理や交換が必要になる可能性があります
7.スタッフを採用
最後に医師、看護師、受付スタッフなど、必要な人材を採用します。採用は明確な基準を設けて、自院の理念や診療科に沿ったスタッフを採用するのが重要です。自由診療クリニックは、保険診療と異なり、患者が全額自己負担で治療を受けるため、サービスの質や患者対応も重要になります。
採用を成功させるために、職場環境の整備、モチベーションにつながる制度を導入し、接遇スキルの高いスタッフを選ぶのが大切です。医院承継では、熟練したスタッフや既存の運営システムを引き継ぐと、運営の効率化が図れます。
採用したら、ハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があるため、忘れずに行いましょう。
関連記事:クリニック開業希望者必見!コンサルタントの選び方と注意点
自由診療クリニックに必要な資金
自由診療クリニックで必要な資金は以下の2種類です。
- 設備資金
- 運転資金
具体的な内容を解説していきます。
設備資金
設備資金には、土地、建物、内装工事費、医療機器などの費用が含まれます。クリニックの規模にもよりますが、およそ数千万円から1億円に上る傾向です。特に美容整形外科や美容外科では高額な機器が必要になる場合が多いです。
医院承継では、既存の設備を引き継ぐため、新規開業より初期費用が抑えられます。医療機器の劣化具合、耐用年数を確認し、引き続き使用可能な機器はメンテナンスして利用しましょう。
運転資金
運転資金は、開業後の収益が安定するまでの人件費や光熱費、薬剤費などを賄うための資金です。個人の診療所では、運転資金のうち、医業・介護費用で年間5,900万円ほどの出費があるため、計画的な運用が大切です。そのため、承継後の運営を安定させるには、数か月分の運転資金を確保しておく必要があります。
承継元クリニックの経営状況や財務データを詳細に確認し、運転資金の必要額を正確に見積もっておくのも重要です。その際は、賃貸契約やリース契約の条件を事前に確認し、承継後のトラブルを防ぎましょう。
自由診療クリニックが失敗するケース
自由診療クリニックで失敗しやすいケースは以下の3つがあります。
- 設備を過剰に導入してコストがかさんでいる
- 治療費が高くリピートが少ない
- ターゲット層と立地のミスマッチ
詳しく解説します。
設備を過剰に導入してコストがかさんでいる
自由診療クリニックの経営で、設備の過剰導入は失敗する要因の一つです。初期投資や維持費が経営を圧迫し、収益性を損なう可能性があります。
自由診療では、最新の医療機器を導入することで高品質な治療を提供し、他院との差別化を図ることが可能です。しかし、必要以上に高スペックな機器や、診療内容に見合わない機器を導入すると、維持費や修理費が経営を圧迫します。
また、患者のニーズとマッチしていない機器はあまり利用されず、利益になりません。そのため、患者層やニーズを分析して機器を選定しましょう。
高額な機器を購入する代わりに、リースや中古機器を活用することで初期費用を抑えるのも一つの手段です。リース契約終了後に機器が手元に残らず、長期的には購入よりコストが高くなるため注意しましょう。
治療費が高くリピートが少ない
自由診療では、クリニックが治療費を自由に設定できますが、相場よりも高額な料金を設定すると、患者が利用をためらう可能性があります。価格に見合った価値を感じれないとリピートしてくれる人は少ないです。結果的に、出費ばかり増えて失敗しやすくなります。
失敗を防ぐために、競合調査を行い地域やターゲット層に合った適正価格を設定しましょう。また、患者対応の質やアフターケアを充実させて付加価値を高めるのも大切です。再来院時の割引や特典を提供すると、患者のリピート意欲を高められるでしょう。
ターゲット層と立地のミスマッチ
自由診療クリニックの成功には、ターゲット層と立地の適切なマッチングが不可欠です。ズレていると集患が難しくなります。
例えば、都市部で働く人をターゲットにしているのに、患者が通院しづらい場所に開業すると、来院率は低下します。また、高額な美容施術を提供するクリニックが低所得者層の多い地域に開業した場合、集患が難しくなるでしょう。
医療承継の場合、前院長の診療方針や患者層を無視して新しいサービスを導入すると、既存患者が離れる可能性があります。承継元の医院がどのような患者層を抱えているかを調査しておくのが大切です。
よくある質問
自由診療に関してよくある質問は以下の通りです。
- 自由診療と保険診療は併用可能?
- 自由診療の利益率はどれぐらい?
それぞれ答えていきます。
自由診療と保険診療は併用可能?
同一の診療行為で併用するのは不可能ですが、別々のメニューとして行う場合は可能です。
保険診療と自由診療を同一の診療行為で行うのは混合診療と言われ、禁止されています。混合診療を認めると、所得による医療格差が生じる可能性があり、国民皆保険制度の理念である「平等な医療の提供」に反するためです。
自由診療の利益率はどれぐらい?
自由診療の利益率は、保険診療と比較して一般的に高い傾向があります。具体的な利益率はクリニックの規模や診療内容、運営コストなどによって異なりますが、歯科医院の例では、保険診療で25%、自由診療で45%ほどの利益率です。
自由診療の始め方を理解し成功させましょう
自由診療クリニックの開業は、保険診療にない高収益を期待できる反面、適切な計画や準備が必要です。特に、美容整形やアンチエイジング治療などの分野では、最新技術を活用し他院との差別化を図ることで、成功する可能性が高まります。
医院承継を活用すれば、既存の患者基盤や設備、スタッフを引き継ぎ、初期コストを抑えながらスムーズな開業が可能です。
当社では、自由診療(美容)クリニックのM&A実績を多数有しており、売却案件や買収案件も記載しております。自由診療クリニックの開業を検討している方は、ぜひお問い合わせください。経験豊富なM&Aコンサルタントが、開業成功のサポートをいたします。
この記事の監修者

田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。プレジデント社より著書『”STORY”で学ぶ、М&A「医業承継」』を上梓。