開業医は儲からない?診療科目別の平均年収ランキングや儲けるポイントを紹介
目次
クリニック開業に関する情報を調べた際に「開業医は儲からない」「開業医はやめとけ」という言葉に不安を感じたことはあるでしょうか。
本記事では開業医が儲からない、やめとけと言われる理由を解説するとともに、診療科目別の具体的な収益ランキングをまとめました。
また、クリニック開業でよくある失敗例と対策方法、年収5,000万円以上を実現するためのポイントも紹介しています。成功するためのポイントが知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
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開業医は儲からない・やめとけと言われる理由
中央社会保険医療協議会が行った調査によると、令和4年度における一般診療所全体の損益差額は2,046万円という結果が出ています。
また「職種別常勤職員1人平均給料年額等」に記載されている医師の平均給与は医療法人が約1,449万円、その他が約1,340万円という結果です。
※データ出典元:中央社会保険医療協議会|第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告
開業医と勤務医では、約600万円以上の収入の差が出ているにもかかわらず「開業医は儲からない」「開業医はやめとけ」と言われるのは、おもに以下のような理由が挙げられます。
- 材料費の高騰で利益が減っているため
- 高額所得になるほど税金が増えるため
- 激務やリスクに対して収入が見合っていないと感じるため
それぞれ詳しく解説します。
材料費の高騰で利益が減っているため
開業医が儲からないと言われる理由のひとつに、材料費の高騰があります。
たとえば手術室で使用する医療材料が、海外の物価高騰によって公的価格(償還価格)以上の価格で仕入れざるをえないケースも増加しています。
ドレーン用の廃液バッグなど特定保健医療材料では、仕入れ価格が保険償還価格を上回っているのです。手術用ガウンなど、感染対策に必要不可欠な医療材料も価格が高騰している状態です。
物価高騰で海外のほうが高く売れることから、一部の医療機器や医療材料は海外市場に流れてしまい、日本で入手困難になっているケースも発生しています。
開業医が儲からないと言われるのは、診療科によっては以前よりも利益を出しにくくなった背景があります。
高額所得になるほど税金が増えるため
開業医はやめとけと言われる大きな理由に、高額所得になるほど税金の割合も高くなる点が挙げられます。累進課税制度により、最高で45%もの税率が適用されるのです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁|所得税の税率
上記の表を参照すると、年収5,000万円を稼いだ場合には約1,770万円もの所得税が発生します。
計算式:50,000,000円 × 0.45 – 4,769,000円 = 17,704,000円
他にも、課税所得に対して10%の住民税も発生します。
計算式:4,769,000円 × 0.10 = 476,900円
合算すると約1,818万円もの税金を支払う計算です。
事業税を計算に入れていない状態で、実質的な手取り額は約3,182万円です。
このような税負担の重さも「開業医はやめとけ」と言われる要因の一つとなっています。
激務やリスクに対して収入が見合っていないと感じるため
実際に開業医になってみると収入を得るために背負う責任やリスク、労働時間が想像以上に大きかったため「開業医はやめとけ」とアドバイスする人も多いです。
開業医になると、経営者としてスタッフの給与や設備投資、医療機器のメンテナンスなど、多額の固定費を毎月確実に支払わなければなりません。
また、診療ミスやスタッフの対応から発生したトラブルなどの賠償責任も、開業医が負うことになります。
労働時間に関しても日中の診療に加えて、診療科目によっては夜間の緊急対応や休日診療などがあり、非常に激務です。
開業医は毎日の激務や経営のリスクを考えると、得られた収入に対して必ずしも満足を得られるとは限りません。特に勤務医時代と比較すると、収入は増えても自由な時間は大幅に減少することから「見合っていない」と感じやすくなります。
開業医の廃業率は全体の約0.39%
2023年度には医療機関の休廃業・解散件数は709件(※)と、過去最多を記録しています。
※データ出典元:株式会社帝国データバンク|医療機関の「休廃業・解散」動向調査 (2023 年度)
709件と聞くと非常に多く感じられるかもしれませんが、廃業率で見ると1%にも満たない数字です。
医療機関の概要 | 施設数 | 休廃業・解散件数 | 廃業率 |
病院 | 8,156 | 19件 | 0.23% |
一般診療所 | 105,182 | 580件 | 0.55% |
歯科診療所 | 67,755 | 110件 | 0.16% |
医療機関全体 | 181,093 | 709件 | 0.39% |
データ出典元:厚生労働省|医療施設調査
一方で一般企業の場合、2023年度の廃業率は約4%(※)という調査結果が出ています。
データ出典元:株式会社帝国データバンク|全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)
一般企業に比べると、医療機関の廃業率は極めて低い水準と言えるでしょう。
「開業医は儲からない・やめとけ」という声がある一方で、実際に廃業となった開業医は少ないことがわかります。
一般診療所の廃業率が高い理由は後継者不足
医療機関の中で、一般診療所の休廃業件数は580件、廃業率0.55%と高い水準です。
廃業率が高い要因は、主に経営難ではなく後継者不足によるものです。開業医の平均年齢は60歳を超えており、なかには70代で現役の方もいらっしゃいます。
一般的には引退を検討する年齢にもかかわらず、働き続けられる方が多いのは次のような背景があります。
- 後継者候補となる子どもや親族がいない
- 候補となる子どもや親族はいるが本人に承継の意向がない
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このような背景から後継者が見つからず、そのまま廃業する病院やクリニックが非常に多いのです。
最近では、身内ではなく第三者に承継する医業承継のニーズが非常に高くなっています。
長年に渡って築き上げてきた経営状態をそのまま引き継ぐため、開業医にとってもリスクが少なく非常にメリットの多い方法です。
【令和5年版】開業医の診療科目別年収ランキング
ここでは社会保険による診療を行っている一般診療所の、診療科目別の年収をランキング形式で紹介します。
ランキング年収データは、中央社会保険医療協議会が発表している「第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」に記載されている損益差額から出典しました。
給与や医薬品費、材料費などを差し引いた具体的な収益の数字であるため、開業する際の参考になります。
診療科目別の年収ランキングは、以下のとおりです。
- 小児科:3,310万円
- 内科:2,423万円
- 外科:2,408万円
- 眼科:2,323万円
- 耳鼻咽喉科:1,913万円
- 産婦人科:1,678万円
- 皮膚科:1,528万円
- 精神科:1,476万円
- 整形外科:1,386万円
それぞれ開業する際のポイントとともに、詳しく紹介します。
1位.小児科:3,310万円
小児科は約3,310万円と、令和5年度の調査においてはもっとも高収益な診療科目です。
前年度(令和4年度)は約2,000万円となっており、約1,000万円も上がっています。
しかし、少子化が進んでいるため、安定した小児科の経営を行うには立地選定が重要です。特に若い世帯の多い新興住宅地、保育園・幼稚園が近い地域での開業が集患のポイントと言えます。
また、子育て世代はSNSでの口コミも広がりやすいため、丁寧な診療はもちろんのこと、予防接種の予約システムやキッズスペースの設置など、保護者に配慮したサービスの提供が評判を高める重要な要素です。
2位.内科:2,423万円
内科は約2,423万円と、安定した収益を見込める診療科目です。
幅広い年齢層の患者に対応できることから、診療圏も広く設定できる特徴があります。
ただし、多くの競合も存在するため差別化も重要です。デジタル予約システムの導入や電子処方箋のシステムを活用した待ち時間の短縮など、患者の利便性を考慮したサービス展開を考える必要もあるでしょう。
内科で安定した収益性を得るためには、アピールポイントの設計が欠かせません。
3位.外科:2,408万円
外科の年間収益は、約2,408万円です。
手術や処置が発生することから、他の診療科目に比べて診療報酬が高額になり、収益も上がる傾向があります。
ただし、開業時には手術室の設置や高額な医療機器の導入などが必要になるため、大きな初期投資が必要です。
地域の病院と連携体制を構築して、重症患者の紹介や術後管理の連携を行うことで、安定した患者紹介を受けられるでしょう。また、救急対応や休日診療の体制を整えることで、さらなる収益アップも期待できます。
4位.眼科:2,323万円
眼科の年間収益は、約2,323万円です。
スマートフォンやパソコンの普及で近視や眼精疲労の患者が増加傾向にあり、コンタクトレンズの処方など定期的な通院も期待できます。また、高齢化に伴い白内障や緑内障などの手術需要も高まっています。
ただし、高額な検査機器や手術設備などの初期投資が必要となるため、駅前や商業施設の中など、集患を意識した立地選定も重要なポイントです。
5位.耳鼻咽喉科:1,913万円
耳鼻咽喉科の年間収益は、約1,913万円です。
花粉症や副鼻腔炎などの季節性の疾患、小児の中耳炎、高齢者の難聴など幅広い年齢層の患者に対応できる点が、安定した収益性につながっています。また、1回の診察時間も比較的短く、多くの患者を診察できるため効率的な運営も可能です。
ただし、内視鏡やレントゲンなどの医療機器への投資は必要となります。子どもの患者も多いため、キッズスペースの設置など、家族連れに配慮した院内づくりも重要です。
6位.産婦人科:1,678万円
産婦人科の年間収益は約1,678万円です。
分娩や婦人科検診、不妊治療など専門性があり需要の高い医療サービスと言えます。
ただし、分娩施設の設置や高度な医療機器の導入など、開業時の初期投資はほかの診療科目と比べて非常に高額になります。また、24時間体制での対応が必要となるため、医師の確保やスタッフのシフト管理も重要です。
地域のニーズに合わせてマタニティヨガや母親学級の開催、美容医療の導入など、付加価値の高いサービスも提供することで、収益アップが期待できる分野です。
7位.皮膚科:1,528万円
皮膚科の年間収益は、約1,528万円です。
アトピーやアレルギー、にきびなど日常的な皮膚トラブルの患者が多く、比較的短時間での診察が可能なため効率的な運営ができます。
院長一人で対応できる業務が多いため、ほかに比べると人件費も抑えやすくなっています。また、自由診療の美容皮膚科を併設することで、さらなる収益アップも期待できるでしょう。
8位.精神科:1,476万円
精神科の年間収益は約1,476万円です。
現代社会のストレス増加で、うつ病や不安障害などの患者が増えており、需要は今後も高まると予想されます。他の科目に比べると高額な医療機器も必要なく、診察室やカウンセリングルームなど最低限の設備で開業できるため、初期投資を抑えられる点がメリットです。
ただし1人の患者に対する診察時間は、比較的長い傾向にあります。
9位.整形外科:1,386万円
整形外科の年間収益は、約1,386万円です。
高齢化社会の進展により、関節痛やリハビリテーションのニーズが高まっているほか、スポーツ障害や外傷など幅広い年齢層の患者に対応できます。
ただし、レントゲン設備やリハビリ機器など、開業時には相応の初期投資も必要です。また、理学療法士やリハビリスタッフなど、専門知識を持ったスタッフの確保や育成も重要です。
デイケアの併設やかかりつけ医との連携などで、安定した患者の確保につながるでしょう。
儲からない開業医の失敗例と対策方法
クリニックの開業にはマーケティングや経営、スタッフ教育などさまざまな知識が必要です。
医療に関する技術が優れている医師の方でも、しっかりとした経営戦略ができていないまま開業して儲からずに失敗してしまうケースがあります。
- 集患の施策をしていなかった
- 開業した地域の調査が甘かった
- スタッフ教育を徹底できていなかった
- 開業の際に資金管理ができていなかった
それぞれ対策方法とともに解説します。
集患の施策をしていなかった
開業する際に、具体的に集患の戦略を立てないまま運営を始めてしまう開業医の方も多くいらっしゃいます。
たとえクリニックのコンセプトや開業までのスケジュールをしっかりしていても、近隣住民に認知されていなければ患者は集まりません。
そのため、開業前からホームページやSNSなどでの情報発信も大切です。高齢の方がターゲットになる診療科目や地域の場合は、デジタルな情報発信ではなくポストにチラシを投函するほうが効果的なこともあるでしょう。
開業した地域の調査が甘かった
あらかじめ開業予定の地域を調べていたにもかかわらず、開業後に「この場所は失敗したかもしれない」と後悔するケースもあります。
たとえば、人通りの多い駅前に出店したものの、競合が多く患者の獲得に苦戦したり、開業した住宅地エリアが高齢化で人口減少が進んでいたりするケースです。
クリニックの成功は、開業する場所で決まると言っても過言ではありません。その地域の患者層や競合状況、交通アクセス、地域開発の将来計画なども含めた視点で開業エリアの検討が重要です。
スタッフ教育を徹底できていなかった
クリニックの経営において、スタッフの質は患者満足度に直結する重要な要素です。
しかし実際には開業に間に合わせるためにスタッフの確保だけを重視し、教育を疎かにしてしまった結果、失敗するケースが多く見られます。
受付スタッフの対応が不適切で患者からクレームが出たり、スタッフ間の連携がうまくできずに業務効率が低下したりするなどです。
これらを防ぐには、開業前からの計画的な研修と院長の理念や経営方針の共有が重要です。また、接遇マナーがしっかりと身につくように、マニュアル化も欠かせません。
▶関連記事:医療の接遇マナー5原則とは?言葉遣いのポイントやマニュアル作成方法を解説
開業の際に資金管理ができていなかった
クリニックの開業でもっとも致命的な失敗が、資金管理ができていなかったケースです。
たとえば内装や医療機器に予算をかけすぎて運転資金が不足し、人件費や仕入れの支払いで頭を悩まされるケースです。
また、保険診療の場合は診療してから入金されるまで、最大2か月のタイムラグが生じます。この期間の運転資金が不足し、資金繰りが悪化するケースも多い傾向にあります。
▶関連記事:クリニックの開業資金はいくら必要?診療科目別でわかる費用や調達方法を紹介
開業医で年収5,000万円を目指すためのポイント
開業医を目指す際に「年収5,000万」が目標の1つに入ることは多いでしょう。
本記事で紹介した診療科目別の年収を平均すると約2,049万円となり、約2.5倍の収益を出せば5,000万円に到達が可能です。
そこで収益性を上げて年収5,000万円を目指すための、重要なポイントを2つ紹介します。
自由診療をメインとする診療科目で開業する
保険診療に比べると自由診療のほうが診療報酬を高く設定できるため、収益性も高くなります。
保険診療では十分に対応できない「より美しくなりたい」「若々しく見られたい」といった患者の切実な悩みに対して、きめ細かな対応ができることも大きな特徴です。
特に美容皮膚科や美容外科、自由診療の歯科などは患者のニーズも高く、年収5,000万円以上を実現しているクリニックも珍しくありません。
ただし自由診療の価格は患者も敏感なため、適切な価格設定と独自の診療の強みを打ち出すことも重要です。
自由診療を導入して高収益を目指す場合は、よりいっそう診療の質と患者満足度の向上に取り組む必要があります。
すでに患者がついている医院で承継開業をする
すでに実績のある医院を引き継ぐ「承継開業」は、年収5,000万円を目指す上で非常に有効な選択肢と言えます。
最大のメリットは、開業後の患者を一定数確保できていることです。
通常の新規開業では、認知度の向上や集患に時間も費用もかかりますが、承継開業なら前院長の信頼関係や診療圏での評判を引き継ぐことができます。
新しく患者を集めるよりも、すでに経営が軌道に乗っている医院を承継するほうが、早期の収益化が期待できます。
ただし、承継開業だからといって必ずしも成功できるわけではありません。
地域の競合性や患者層のニーズはもちろんのこと、入念なデューデリジェンス(資産査定)など専門的なマーケティング知識が必要です。
承継開業を検討する際は、医院継承を専門としたM&Aの会社に相談がおすすめです。
儲からない開業医にならないためにも専門家に相談しながらの開業がおすすめ
クリニック開業において「儲からない・やめとけ」と言われる主な理由は、材料費の高騰による利益率の低下や税負担、そして激務やリスクに対する収入のアンバランスさによるものです。
実際の廃業率は医療機関全体の0.39%と、一般企業の約4%と比べても極めて低い水準にあることからもわかるように、適切な準備と戦略を行えば、十分に経営を成功させられます。
特に新規開業で失敗するケースの多くは、集患の施策を行っていなかったり立地選定の失敗だったり、資金管理の甘さなど経営面での準備不足が原因です。
これらのリスクを最小限に抑えるなら、すでに安定した集患ができている医院を承継する方法がおすすめです。
医院継承のプロフェッショナルである「エムステージマネジメントソリューションズ」では、20年以上の実績と1.7万件以上の医療機関とのネットワークを活かし、あなたの理想とするクリニック開業に向けた無料相談を承っています。
この記事の監修者
田中 宏典 <専門領域:医療経営>
株式会社エムステージマネジメントソリューションズ代表取締役。医療経営士1級。医業承継士。医療機器メーカー、楽天を経て株式会社エムステージ入社。医師紹介事業部の事業部長を経て現職。これまで、病院2件、診療所30件、介護施設2件の事業承継M&Aをサポートしてきた。エムステージグループ内のM&A戦略も推進している。